電気使いは今日もノリで生きる

歩海

技を破られるのが早すぎる件について



「「「ぎゃああああああああ」」」


水は電気をよく通す・・・厳密には不純物のないものすごくきれいな水ならば電気を通さないんだけど、ここは森の中、そこを流れる川なんて不純物が溶けている違いない。まあさっき飲んだ時にかなりの金属を感じたからね。だからこそ、僕の『放電thunder』によってみんなは感電する・・・はずだった。


「・・・」


だがしかし、みんなは特にダメージを受けた様子もなく何事もなかったかのようにその場に立っていた。なぜか、なぜ僕の攻撃が効かなかったのか、その答えはすぐに見つかった。


「危ないぞ紅。みんなを感電死させるつもりか。俺が電気を吸収しなかったらかなりヤバかったぞ」


そう、スキル『帯電』を持っていた角先が電撃を全て吸収し、攻撃を無効化したのだ。


「あ、ああ。すまない。ついカッとなってしまって」


そして一旦電気を放出した後、冷静になってみると自分のしたことに愕然としてしまう。僕はなにをしようとしていたのか。もし角先がいなかったら・・・それを考えるとぞっとしてしまう。もう少し慣れていたならば電圧がかなり高いけれども電流はかなり小さいという派手ではあるが、あまりダメージを負わないような電気を発生させることができただろう。だが今は特に慣れていたわけでもなく、ましてや頭に血が上っていた状態でまともな思考ができていなかった。当然、殺傷能力のたかい電撃が放たれていただろう。僕は彼らを殺そうとしたのだ。これから一緒に生活をするというのに自分を殺そうとしてくるやつと一緒に居られるだろうか・・・


「ま、まあお前が一生懸命やってるってのに俺たちが遊んでいたらそりゃ怒るよな。実際なんともなかったんだし、気にすんな」


幸いなことに角先は笑って流してくれた。言葉のとうり、事の発端になってしまった件に対して罪悪感というものがあったのだろう。


だが、他の三人はどうだろうか。米柔と麺山は話せばなんとかなりそうだが山胡桃はどうだろうか。現に今も僕に対して恐怖を抱いた視線を向けてきている。・・・こいつから今日1日だけでかなりの多種多様な視線をもらったな。視線ビンゴとかがあるんならそろそろ一列揃いそうだ。


「それに、もともと俺に向かって電撃を放ってもらう予定だったんだ。順序が逆になってしまったが・・・天衣、お前が切断した木の欠片をひとつ貸してくれないか」
「ん?いいぜ。でもなんに使うんだ?」


角先はもらった木片を地面に置くとそこから少し歩いて距離をとった。なにをするつもりなんだろう。それにもともと僕に電撃を放たせる予定だった?言っている意味がよくわからないな。みんなの疑問を抱いたような視線を受けても角先は余裕の態度をとっていた。そして右手を前にかかげ・・・


「まあ見てな。いくぜ『放出』」


その直後、角先の手から電撃が放たれた。僕が放ったのよりも強い電撃が。それはまるで雷のようで。あまりの光の強さにおもわず目を閉じてしまう。・・・そして光が収まって、同時に響いていた音も収まったときに、目を開くと


木が燃えていた。


「「「「・・・・」」」」
「おい、ちょっとボーとしてないで手伝ってくれよ。火が消えてしまうだろ?」
「あ、ああ」


ハッとする。慌てて天衣が『鎌鼬』によって切断していった木片を拾い、火が消えないように気をつけながら燃えている木片に重ねていく。幸いここは風がそこまで強いわけでもなく、最初に角先が選んでいたのがそれなりに大きな木片だったので火は消える事なく、即席のたきぎが完成した。


「これで火の問題は大丈夫だな。天衣、器の方はどうだ?」
「いやあ、思ったよりもうまくいかなくてな。結構雑になってしまったんだけど、それでも一応数は揃えたぜ」


確かに渡されたものをみれば四角くカットされた木片の中心に螺旋状に穴が開けられている。四角く切る事は少し慣れればできるようになったっぽいが、その中に綺麗にくり抜く事は難しかったようで、風で無理やり削り取ったのだろう。この螺旋状の形がそれを物語っている。


「りょーかい。まあとりあえず大丈夫だろう。水もしっかりと貯める事ができそうだし。よし、これで水をどんどん煮沸して飲み水を確保していくぞ」


僕らは川の水を器ですくい取っていった。これであとはこの水を火にかけていくだけだ。


「「「「「「・・・・」」」」」」


でも僕らはここで二つの問題がある事に気がついた。まずひとつ目なんだが、どこに置くのかという問題だ。たきぎがどうなっているかなんだが、みんな一般的なたきぎをイメージしてほしい。こう、たきぎのイメージ映像でよく使われていそうなあれを。つまりは置く場所がないんだよな。火の中に突っ込んでしまっってもいいけど、それだと煮沸どころか水自体は沸騰しかねない。そして二つ目は器も木のために器自体が燃えるのでは?ということだ。水を入れたビニール袋などは熱しても燃えることがないが(燃えている箇所が水によって常に冷却されるため)木の器はビニール袋と違って大分厚さがある。おそらく水が冷却しようにも離れすぎているから普通に燃えそうなのが容易に想像できる。


目標が達成されようとした直前のこの難問に心が折れそうになる。しかしこれらは簡単に解決してしまった。


「大丈夫よ。ちょっと長めの木片をこの火の周りに刺して、そしてそこそこ大きな木の板を上にかぶせれば、ほら台が出来上がるでしょ?その上に器を置いたらいいわ」


五月雨さんが木々で器を置くための台を作り、


「わ、私の技能の『付加エンチャント』をこの木々にかけていけば木々が強化されるので燃える心配はないと思います」


四万十さんが器と台に『付加』をかけていく、これで解決。


「ちょっと待って。いろいろ聞かないといけないんだけど?みんないつのまにそんなに技能を習得したの?」


してませんでした。ほんといつのまにそんな便利な能力を身につけたというのか。


「説明したいけど・・先に紅。今は誰もいないから川に電撃をぶっ放してくれ。情けない話、俺たちじゃ動き回っている魚を捕まえられそうにないんだ」
「そうだな。角先たちの技能については気になるけどいったん後回しだ。もう直ぐ日も暮れるし明かりのいらないうちに食料を確保しておきたいな。紅頼む」
「・・・それもそうだな」


角先と天衣の言うとおりだしここは大人しく従うか。魚を手に入れた後夕飯を食べながらゆっくり聞くとするか。だから僕は立ち上がり川の方へと歩いていく。一応、みんなが川から離れていることを確認して、


「『放電thunder』」


先ほどよりも強い思いを込めてぶちまける。米柔と麺山が作ってくれていた土壁によって電気は必要以上に広がることなく範囲内だけに行き渡った。そしてそのまま待つこと1分。


「やっぱり紅がいて助かったな。俺たちが苦労してできなかったことがすぐにできてしまったな」


急に強い電気を当てられて麻痺してしまったのだろう魚たちがプカプカ浮いてきた。その数はざっと10匹程度。そしてその浮いた魚たちを天衣が風を起こすことによってこちら側まで運んでくる。こうして初日の夕飯の食料問題は解決した。


ただ、これだけは言っておきたい。ほとんど僕と天衣しか働いてないんだけど?

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