電気使いは今日もノリで生きる

歩海

プロローグ後編

 気づいたら僕らは森の中にいた。見渡す限りの大自然のなかだ。


「いや、なんで?」
「今それをつっこんでも始まらないぞ紅・・・」
「だってそうだろ。急に強い光に導かれてからだがふわっとする感触に包まれて・・・これって転移だろ。それなら普通はどこかの大広間とかお城とかに呼ばれるでしょ。でもなんで?なんで何もない森の中なんだよ」


 ・・・つかれた。勢い任せでわめき散らしたけれども、ここは炎天下真っ只中だ。余計な体力を消耗するのは良くない。


 そもそもなんで僕たちがこうして森に置き去りにされているのか時は少し前に遡る。楠のやつが日暮さんと一緒に下校することになった次の日のこと・・・






「・・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「・・おい、お前ら」


 角先がなんか言っているが今はそれどころではない。何故ならば・・・何故ならば、昨日楠と日暮さんは一緒に下校した。普段は大人しい感じの楠だってその本質は健全なる野蛮な男子高校生にちがいない。そして二人きというシチュエーション。これで日暮さんに襲いかかるという選択肢をとらない楠であろうか?いや、ない。


「いろいろとひどくない?楠はそんなやつじゃなくね?それに、なんとなく一方的ではなくて合意のm」
「それ以上は口にするな。角先」
「そうだ、そこから先は危険だ。俺たちの希望を折らないでくれ」
「いや、希望って・・・諦めろよ」
「「「うわーーーー」」」


 途中から会話に加わってきた山本やまもと川兎村かわとむらと一緒に仲良く叫ぶ。こいつらは僕と違ってれっきとした日暮ファンクラブに入っている。つまりは僕よりも気持ち悪い「いや、お前も似たようなものだからな」


「諦めろって、ひどいぞ角先。僕らだって可能性が」
「あったら俺だってそんなこと言わねえよ。ほら、見てみろよ。あの日暮さんの顔を」


 角先に言われて楠たちの方を見る。そこでは、そこで見ることのできた光景は・・・


 笑顔で楠と仲良く話をしている日暮さんの姿だった。


「「「うわーーーーーーーー」」」


 またしても仲良く叫ぶ三人衆()。さすがに昨日の今日でこれは展開が早すぎないか。さすがに恋愛ものの小説でもない限りこんなに早く展開が進むなんてありえない。


「いや、お前ら小学生かよ。さっきから叫んで」
「うるさい。これが叫ばずに居られるかっての」
「・・・展開はいつも急だろ。予備動作なんてないんだから。それにな、あいつら多分両思いだぞ」


 な、なんだってー(棒読み)。いや、棒読みしてる場合じゃない。なにそれ聞いてない。いつの間にそんなことになっていたのか。


「多分気づいてないのお前らくらいだぞ」


 残酷な真実すぎる。なんて残酷なことを告げて来るんだ。二人が両思いだったんだって・・・なにも気が付かなかった。


「お前もう少し周りの人とかを気にかけた方がいいぞ・・・まああれは気がつかなくてもいいけどさ」


 そういって指差した先には・・・?クラスの女子たち?あ、確かに集まって話してる。なにを話してるんだろう。


「やっとことりちゃん楠くんと一歩前進できたね」
「うん、よかったよね。ことりちゃん」


 なんだ?特に変なところはなさそうなんだけど・・・普通にクラスメイトの恋路を祝っているだけのように聞こえるが・・・これのどこがへんなんだろう。もしかして今時のJKって他人の恋路を素直に祝福することができずにただただ妬んでいるだけなのか?


「・・・さすがにそれは口に出さないほうがいいと思うぞ」
「うん、これは我ながら思うよ」


 これではないとしたら・・・一体なんなんだろう。あ、みんなヒソヒソしだした。これではなにを話しているのか聞くことができないぞ。


「あれは男子が聞いちゃいけない類のものだよ」
「上原」


 急に出てくるなよ。びっくりするだろ。あ、今更か。


「どうせあれはことりが楠とくっついたことでライバルが減ったとかそんな感じだから」
「ライバルって誰の?」


 そんなことを訪ねる僕に上原はかなり冷めたような目を向けてきた。あの、僕にそんな趣味はないのでやめてもらえませんか。


「一ノ瀬たちに決まってるじゃん。うちのクラスのイケメンども」


 あ、ですよねー。というかライバルが減ったって、今更だけれどもうちのクラスの女子たち腹黒すぎないか。もっと純粋に祝ってやれよ。


「まあ現実なんてこんなもんさ」
「お前もそんなこと言うのかよ」


 あの名言が口から出そうになったじゃないか。使い方はきっと違うけれども。だって今回は別に裏切られたわけではないし。たまたま角先と上原が同じようなことを口にしただけだし。


「なんかねー。三在さんざいのやつはすでに好きなやつがいるらしくてほとんど諦めのような空気になっているんだけど、他の二人、一ノ瀬と二宮は特にそんなことを聞かないし、まだみんなチャンスがあるんじゃないかって思ってるみたいさ」
「なるほどね」


 今新しく名前の挙がった三在さんざい 藤四郎とうしろうはこれまたクラスのイケメンの一人だ。一体一つのクラスに何人イケメンがいるんだよって話だけど多分三人。一ノ瀬、二宮、三在。綺麗に一二三から始まってる。多分といったのはうちのクラスメガネかけてるやつそれなりにいるんだよな。楠とか、金岸かねぎしとか。はあ、自分で言っといてなんだが、楠絶対イケメンじゃん。メガネ外したら化けるタイプだよ。なんでそんなことわかるのかって?いや、だっていじめのテンプレにあいながらも美少女が仲良くしてくれるってこれなんてラノベだよって話じゃん。そうなったら実は主人公はイケメンでしたー。てよくある話じゃん。


「現実逃避はだめだよ。みーくん」
「みーくんゆうな」


 なんて名前で呼んできやがる。さすがは幼馴染。恐ろしい。だからお前は僕に気があるんじゃないかって話が出てくるんだよ。僕の心の傷をえぐりにくるな。


「ほんと仲いいよなお前ら」
「まあ幼馴染だしね」
「それで付き合ってないのか?」
「いや、振った」
「「振った」」


 あ、あのファンクラブどもには話してなかったか。というか角先、いい加減このネタで僕をいじるのをやめてくれ。上原もわかってて乗るんじゃない。


「おい、紅、どういうことだよ振られたって」
「ああ、もう面倒くさい」


 なんでみんなこの話をすると食いついてくるんだよ。幼馴染だからって付き合うとか惹かれ合ってるとかそんなことあるの漫画だけだぞ。


「まあまあ、みーくんをいじるのはこれくらいにして・・・」
「おい、どうした?」


(おそらく)事態を収束させようとしたであろう上原が急に口を止めたので疑問に思う。だがそれ・・は突然現れた。


「え?」「なにこれ?」「あれ?」「なんかのドッキリ?」「え、うわ眩しい」「急に輝きだした?」「これもしかして魔法陣?」「いや、ラノベとかでおなじみの転移陣じゃね」「じゃあこれから転移するの?」「知らないよ。よく見えないんだもん」「きゃーーーー」「わーーーー」「あーもううるさい」「みんな落ち着け」「そうだ一旦状況を整理しよう」「そんなことを言ってられないでしょう」「待ってなにこれ」「うわぁ気持ち悪い」「吐きそう」「まってここで吐かないでくれ」「でも気持ち悪いよぉ」


 教室中に広がる魔法陣。そこからあふれんばかりに光が輝きだす。そのあとこう、フワッとするような浮遊感に包まれる。


 ああ、角先も言っていたっけ。展開はいつも急だって。日常生活が崩れるときはいつも急だって。


 ーーーそうして話は文頭に戻る。

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