落ちこぼれの少年が世界を救うまで

歩海

自己紹介はお早めに


「Eクラス、か」

 俺は今、掲示板の前に立っている。そこにはクラス分けの結果が載っていた。どうやら僕はEクラスに入れられたみたいだ。そういえばここのクラス分けの噂って本当なのだろうか。辺りの声を聴いてみる。

「やった! 私Bクラスだ」
「えー私Cクラスだったよー」

 これは……間違いないな、みんなの反応からして。ここ、ナルシス学園にはA、B、C、D、Eの全部で5つのクラスがあり、入試の成績によって上からAの方から決まっていくらしい。別に明言されているわけじゃないけれど、噂として、そうなっているらしい。そして、Eクラスになるということは、落ちこぼれであるということを意味するとか。

「ま、俺はもともと落ちこぼれだし別にいいけどよ」

 そんなことを思いながら俺は指定された教室に向かう。さて、どんな人たちがいるのだろうか。とりあえず馬鹿にしてくるような奴がいなければそれでいいや。

「あ、ここか」

 そして教室へとたどり着く。今日はクラスの顔合わせみたいなものなので特に持ち物とかは聞かされていない。そういえば、ライトもクレアさんもどちらもAクラスだったな。あいつらは優秀だからね。

 教室について適当な席について俺は他の学生や先生が来るのを待った。こういうときに遅刻なんてしてしまったら絶対に目立ってしまう。それだけはなんとしても避けたいと思ってしまったから。だからこうして当たり障りないタイミングできている。まあ、結局寝ているのでなんとも言えないのだけど。

「あの、隣いいですか?」
「ん? ああ、いいぜ」

 そんなときに俺に声をかけてくる奴がいた。まあ聞いてきた内容も特におかしな内容じゃないし、普通に承諾した。てかわざわざ俺に声をかけてきたのかよ。律儀な奴だなと思いながら顔を上げたらそこにいたのは、

「あ、初めまして。私はリン・シェミニ。よろしくね」
「ああ、エルだ」

 そこにいたのはクレアと同じくらい人目を人目を引く美少女だった。長い金髪に青色の目というライトと同じ色合いの持ち主だ。

「エルくんね。よろしく」
「あ、ああ」

 笑顔でそう言われたので俺はただただうなづくことしかできなかった。いや、誰だってこんな美少女に言われたらこんな風にどもってしまうだろう。俺は悪くない。

「そして、俺はサクヤだ。よろしくな」
「ん?」
「よろしくお願いします」

 どうやらいつの間にか後ろの席に人が座っていたらしい。気がつかないくらい眠っていたということなのだろうな。そしてサクヤはリンさんに馴れ馴れしく話しかけている。

「なあ、このクラスって落ちこぼれが集められたって聞いたんだけど実際どうなんだろうな」
「どうでしょうね。私は私よ」
「ははっ、それからエルだっけ? お前はどうなんだよ」
「いや、悪いが知らない」

 この手の話題はあんまり語りたくはないのだけどな。そう思っていたら教室の扉が開いて、このクラスの担任であろう先生が入ってきた。

「おーっす。お前らちゃんと席ついているか? 席ついているな。おっけー」
「……」

 初っ端からここまでのハイテンションで言われると、どんな風に反応したらいいのか全くわからないな。サクヤの方を向いてみたらこいつも同じように唖然としている。いや、こいつだけじゃない。このクラスにいるほとんどの奴があっけにとられている。

「なんだ? お前ら元気ないなぁ。もう少し反応してくれよ」
「先生のテンションが高すぎるだけです」
「そうか? お前ら新入生だからテンション上がってるんじゃないのか? まあ変な空気にしてしまったのなら悪いな。俺の考え足らずだった。すまん」
「は、はぁ」

 なんだこいつ。というかあの理事長しかりここの先生ってもしかしておかしい人しかいないのだろか。いや、そもそも理事長と同じで天使の可能性も……いや、さすがにそれはないな。

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名前はマツガ・タルギス。よろしく」
「えっ」

 このマツガという男が自己紹介をした瞬間、クラスが一斉にざわめき始めた。俺もその名前には聞き覚えがある。貴族でもなんでもない普通の一般市民でありながら、貴族の証でもある皇道12宮の力をもつ契約獣と契約を交わしている。当初はどこかの貴族の落胤であると噂されていたが、それは事実と異なることが証明された。

「どうやら俺のことはみんな知っているみたいだな。さて、俺の目標はそうだな、クラス対抗戦にてお前たちを一番にするってことだ」
「!」
「どうやらこの学園では入学時の成績でクラスを分けているだなんて噂があるみたいなんだがそれは理事長先生しか知らねえ。だが、それでお前らが妙に自信をなくしてしまっているのが気に食わない。だから俺はお前らを一番にする!」

 マツガ先生はそう言い切った。その言葉を言い切ったときにはクラスは逆に静まり返っていた。どちらかといえばこいつ何言っているんだ? 的な空気だ。

「さて、次はお前らの自己紹介をしてもらいたい。自分の名前と……それから目標があれば言ってくれ。別に今年じゃなくてもいい。この学園に入学した目標でも構わない」

 まあ、そこからの流れとしては当然だよな。そしてクラスメイトによる自己紹介タイムが始まった。特に出席番号順にいうわけでもなく、席順でいうことになった。俺はみんなの話を聞いていた。ここにくるやつらがどんな目標を持っているのか知りたかったからだ。

「サイ・マスグルです。目標は契約獣の力をもっと引き出せるようにしたいです」
「ミナ・サミです。目標は楽しい学園生活を送ることです」

 だが、聞いていても特に変わったことを言っているようなやつはいなかった。まあ、これが普通のことなのかもしれないがな。そんな風に思っていたら、次はリンさんだった。

「リン・シェミニです。私の目標は姉を超えることです」
「ん? シェミニってことはお前の姉って」
「はい、この学園の生徒会書記、ユキ・シェミニです」
「そうか、高い目標だが、頑張れよ」

 へえ、そうなのか。結構大変な目標だな。姉を超える、か。俺はまあ兄とか姉とか呼べるようなやつはいないからどんな風に思うのかわからないな。そしてついに、俺の番がやってきた。

「エル……ロンドです。目標は、たとえ契約獣がいなくとも胸を張って生きることができる世の中にすることです」
「……」

 そして俺は席に着いた。しかし、あたりの様子がまたおかしなことになっていることに気がついた。なんだかものすごく不思議そうな視線。

「おお! すごいじゃないか。立派な目標だな……もしかしてお前契約獣がいないのか?」
「いるといえばいますし、いないといえばいないとなります」
「どういうことだ?」
「これが、俺の契約獣です」

 マツガ先生に言われるがまま、俺は持ってきていた刀を見せつけた。先生は一瞬不思議そうに刀を見ていたが、すぐに納得の表情をした。

「ああ、そういえばお前が理事長推薦で入学してきたやつか。そういえば理事長先生が言っていたな。契約獣のいない珍しい生徒だと」
「そうなります」

 そして俺は自己紹介を終えた、ただ、きになるのは自己紹介を終えたときの周りの空気だ。まさか……いや、まさかな。

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