落ちこぼれの少年が世界を救うまで
入学式でのあれこれ
「続きまして、新入生代表の挨拶です。新入生代表、ライト・テルシー」
「はい!」
「あいつ、首席だったのかよ」
俺は今、入学式の席についている。学校のお偉いさんたちのくだらない話を聞いて、そして次に新入生代表という並びになった。そこで俺たちの代表として前に出たのはまさかのライトだった。毎年、代表に選ばれるのはその年の首席だっていう話だ。つまりあいつが俺たちの中で最も優秀だということになるのだろう。
『まーあいつは学業優秀だからねー。それに私もいるし』
「なんでお前は俺のところにいるんだよ」
『だって暇だしー』
そしてなぜか俺のそばにシルフリードがいる。こいつ曰くライトは色々な奴らに囲まれていてうかつに話しかけることができないらしい。だから俺に話しかけているとか。
「お前黙るとかできないのかよ」
『暇だもん。これでも多少は融通を利かせてるのよ? 今ライトに話しかけてもいいのだけどさすがにダメでしょ?』
だから俺に話しかけてきているらしい。まったくいい迷惑だ。まあ俺も周りを気にすることなく話しているからシルフリードのことを言えないのかもしれないが。
「さっきから何を独り言を言っているのですか?」
「ああ、気に障ったのなら申し訳ない。できるのなら、気にしないで」
「は、はぁ」
『もっといいムードにしなさいよ。この子を口説く感じで』
それができたら苦労しないんだよ。話しかけてきたのは隣に座っていた女の子だった。銀髪赤目の女の子。優しそうな顔をしている。ちょっと暗いのでよく見えないけれど多分可愛い子だということは間違いない。街にいたら絶対に人目をひくぐらいの美人だ。そんな人が俺に話しかけてくれた。多分ブツブツ言っていることに心配してくれたのだろう。
「あー少し声量を抑えるから気にしないで」
「大丈夫ですか? もしかしてなにかに取り憑かれているとか」
「ははは」
『取り憑いてないわよ』
確かに小さなこの精霊がずっとここにいるのだけどそれは言わない方がいいだろうな。それに心配してくれたところ悪いけど、彼女にはシルフリードの姿は見えないだろうし。
「わかりました。気にしないようにしますね」
「なんかごめんね」
「以上、新入生代表、ライト・テルシー」
あ、ちょうど終わったみたいだ。結局ほとんどあいつの言葉を聞くことができなかったな。まあ、後であいつに聞けばいい話だろうな。そして次にまた別の人が壇上に上がった。
「続きまして、生徒会長の言葉」
「ん?」
どうやら登っている人は生徒会長みたいだ。ライトにも引けを取らない美貌の持ち主だ。あれだけのイケメンっぷりとそれから生徒会長という権力を持っているのだから当然モテるだろうな。俺はそこまで異性にモテたいとは思わないが……まあ誰かと話すことができるのはいいことだよな。
『何考えてるのよ……てかあいつー』
「知り合いか?」
「皆様はじめまして。生徒会、会長のハルトです」
「?」
シルフリードに聞こうとしたけど話し始めたから一旦聞くのを止めた、しかし、ハルト先輩は自己紹介だけして、すぐに口を閉ざしてしまった。何事だろうかと思うけど、まあ、そこまできにすることはないな。あ、でも生徒会長ってことはサリム先輩と一緒に生徒会をしている人ってことだよな。入るつもりはないけれど、どんな人がいるのかちょっと気になるな。
「えっと……まあ、特にいうことはないな。お前ら、この3年間、悔いのないように過ごしてくれ、以上」
「以上じゃないですよ」
「うわっサリム、お前いたのかよ」
「あ、サリム先輩」
投げやりな説明をし始めてたハルト先輩に対して、素早くサリム先輩が壇上に登っていった。なんとなく対応が手慣れている気がするのできっと、あの人の暴走はこれが初めてじゃないのだろう。
「なに新入生に変なことを吹き込んでいるのですな」
「これでもマシだろう?」
「そうですけど」
え? あれでマシなの? まあ冷静に振り返ってみてもそこまでおかしなことを言っているとは思わなかったけどね。ただ、ちょっと急ぎすぎと言われても仕方がない感じ。でも、今の一幕を見ただけでわかる。
「サリム先輩苦労しているんだなぁ……」
そんなことを思いながら俺は壇上の様子を見ている。そこではサリム先輩とハルト先輩の二人の掛け合いがまだ続いている。
「最初っからサリムが言えばよかっただろう? お前こういうの得意だし」
「形上あなたが会長なのですからきちんとお願いします」
「ねえ、今形上って言わなかった?」
「なんのことでしょうか? それよりも新入生に言うことがあるでしょう」
「ああ、そうだった」
サリム先輩に言われてハルト先輩は何か思い出したようにまたみんなの前にいって言葉を話す。やっぱり生徒会長なんだな。こういう時にきちんと言うことが……
「面白い契約獣を持っている新入生は是非、生徒会に遊びに来てくれ」
「そんなことを言っているんじゃないでしょう!」
「ぐえっ」
そのままハルト先輩はサリム先輩に殴られて意識を失ったのか、壇上でぐったりしている。うわぁ。でもちょっと自業自得の側面があるからなんとも言えないな。
「えー、我が校ではあなたたちが楽しく、また意義のある生活を送れるように私たち生徒会が活動しています。何かありましたらお気軽に相談に来てください。あなたたちがよりよい生活を送れることを祈って生徒会からの言葉とします。ありがとうございました」
最後にそう締め括り、ハルト先輩の首根っこを掴んで引きずりながら、サリム先輩は壇上を降りて行った。なんだかんだしっかりとまとめていたし、すごい人だなぁと思う。見ながらそんな感想を抱いていると、横から興奮冷めやらぬ感じで話しかけられた。
「すごい方たちでしたね」
「え? あーそうだね」
「やっぱり憧れますね。ハルトさんはあんな性格とは思いもしませんでしたけど」
「知ってるの?」
「え? 知らないのですか? ハルトさんって言えば昨年の対抗戦優勝の立役者じゃないですか」
「そ、そうなんだ」
やばい。何も知らないんだけど。去年は確か俺でも行くことができそうな高校を片っぱしから探していた記憶がある。そういえばおばさんとかサクラがなんか話していた気もしないでもない。
対抗戦、それは国中の高校の代表者たちが競い合って一番の高校を決める。夏の風物詩。代表者に選ばれることはそれだけでも栄誉なことであり、対抗戦で活躍すれば大学や様々な機関から目をつけられる。高校の一大イベントの一つ。俺はそれを見るたびにちょっとしたコンプレックスというか敗北感を感じるからほとんど見ていないけど、毎年毎年、話題になっている。
「もーすごいんですよ。炎の精霊を操る様は本当に美しいんですから」
「へ、へー」
『ねえ、あいつ面白い契約獣がいたら来てくれって言っていたし、ライトもエルも行こうよ』
なんで俺も行かないといけないんだよ。てか、そもそもシルフリードが会いたいだけだろう。俺まで巻き込まないでくれよ。
『えーやだ』
「はぁ」
「どうかしたのですか?」
「いや、なんでもないよ」
「エル、ここにいたのか……ってもうナンパしているのか?」
「ちげえよ」
シルフリードとそれから……そういえばまだ名乗っていなかったな。隣に座っていた少女と話していたらどうやら役目が終わったみたいでライトがこちらにやってきた。ナンパしていたっていうか……お前も似たようなものだろうが。俺はライトについてきている女子たちを見ながらライトを睨む。
「えっと、彼がライトくんが待っているって言っていた子?」
「ねえ、私たちともう少し話そうよー。今日は入学式だけなんだし」
「お前……やっぱりモテるんだな」
「ごめんね。みんな。今日はエルと約束があるんだ。埋め合わせは今度するから、ね?」
ライトが優しく微笑むと周りにいた女子たちは黄色い悲鳴をあげて、そして去って行った。どうやら最低限の分別はあるみたいだ。
『ま、ライトの機嫌を損ねたくないのでしょうね』
「相変わらず辛口だね」
「え、えっと」
「ああ、僕はライト・テルシー。よろしくね」
「わ、私はクレア・シルフェスタです。ライトくんすごいですね、首席だなんて」
「いやいや……契約獣の力が大きいよ」
へえ、クレアさんっていうのか。知らなかったよ。やっぱりイケメンだからか聞き方がかなりスマートに聞こえる。すると、クレアさんは俺の方を振りかえって、
「そういえばまだ名前を聞いていませんでしたね」
「う、うん。俺はエル。よろしく」
「エルくんですね」
『フルネームは名乗らないのね』
まあ、ちょっとゴタゴタしているというか、あんまり言いたくないからね。さて、と。さっきライトが言ったみたいに今日はもうやるべきことは何もないし、帰るとするか。
「それじゃあ、クレアさん。俺はもう帰るよ」
「じゃ、またね」
「はい、また明日……同じクラスになれるといいですね」
「……」
「うん」
クレアさんに手を振って、俺とライトは自分たちの部屋に戻る。戻りながら、俺は一つ、心配事が生まれたのでずっと悩んでいた。
「どうしたんだ? エル」
「俺のクラスってどうなるんだ?」
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