落ちこぼれの少年が世界を救うまで

歩海

ルームメイト


「君もこの部屋の人? 僕はライト・テルシー。よろしくね」
「あ、ああ。よろしく」

 君もっていうことはこいつもこの部屋の人間で間違いないみたいだな。てかこんなイケメンと同室とかまじかよ。おまけにさっきの発言からわかる。間違いなく性格もイケメンだ。こんな奴が彼女とかできないわけがない。つまり、こいつが女を連れ込んだ時俺はどこに逃げればいいんだよ……。あ、普通に理事長に話をしたら一晩くらい泊めてくれそう。

「うん、それでいいや」
「どうかしたのかい?」
「いや……ああ。俺の名前はエル。エル・ロンドだよろしく」
「エルね。よろしく。あ、僕は気軽にライトって呼んでよ」
「わかった。ライトね」

 とにかく、こいつがいい奴そうで助かった。でもテルシーってどこかで聞いたことがある名前なんだよな。でも有名な人物の名前じゃないし……そんなことを思っていたらライトの方から話しかけてきた。

「そういえばさ、ロンドってことはもしかしてエル孤児院で育った?」
「ん? ああ。あ、そっかテルシーってことはお前も」
「そう。奇遇だね」
「だな」

 俺と同じ学年……だよな?

「ライトも新入生?」
「そうだよー。エルも?」
「ああ」

 よかった。これでもし先輩だったりしたら1日で二回も先輩におかしな口を利いてしまったことになる。それはさすがに悪目立ちしてしまうだろう。サリム先輩は流してくれたけど普通は目立ってしまうからな。

「いやー。いよいよ明日だね。僕たちの新しい学校生活が始まるんだ! わくわくするよ」
「ああ、そうだな」
「あれ? エルは高揚感とかないの?」
「あんまりないな」

 そりゃ俺だって楽しみたいけど。どちらかといえば不安しかない。っと。いつまでも刀を持っているわけにはいかないな。俺は自分のベッドに刀を立てかける。……盗られないように外出する時は常に持つことを意識しよう。

「そうかな〜。受験で大変だったけど、こうして無事に入ることができたんだしもっと嬉しそうにしなよ」
「そ、そうだな」

 そっか。こいつはちゃんと一般入試を通ってここに通う権利を得たんだな。俺みたいによくわからない契約によって推薦をもらったわけでもなく。

「エルはさ、生徒会とか目指す?」
「生徒会? 勧誘を受けたけど、入れるかな」
「え? もう勧誘受けたの?」
「あーこれ言っちゃいけないやつだったか?」

 特に口止めを受けたわけじゃないし、別にいいのかな。そんなことを思っていたらライトの様子がおかしいことに気づく。俺の方をじっと見つめている。

「すごいね。入学前からマークされるって……ねえねえ、契約獣を見せてよ」
「え?」
「別にいいだろ? どうせすぐにわかるんだし……僕のも教えるからさ『召喚・シルフリード』」
「は?」

 ライトが召喚の言葉を唱えると、ライトの体の前に魔法陣が現れて……そして、そこから少女が現れた。こいつのさっきの言葉といい、少女の緑色の髪の毛と目、それから背中に生えた小さな羽といい、まさか本物! 本物の精霊・シルフリードかよ。

「おまっ、こんなところでなんてもの召喚してるだよ」
「え?」
『平気よ。力を抑えているし』
「そ、そうですか」

 少女はことも無げに言っているが、俺は冷や汗が止まらなかった。てか、こいつどんだけだよ。精霊シルフリード。風を司る精霊の中でも最高峰の存在。彼女がそこにいるだけで全ての風を支配することができる。精霊というかなりレアな存在の中でも最高クラスの存在と契約しているとか……こんなのが普通にいるとかさすがはナルシス学園だよ。ついでに言えば言葉を話すことができるだけで相当やばい。

「で? エルは?」
「ん?」
「エルの契約獣だよ。僕も見せたし、いいだろ?」
「あーいない」
「は?」
「いないんだよ」

 笑顔で聞いてくるけど、非常に申し訳ない話だけど、俺には契約獣なんていない。てかこの説明も何度目だろうか。ライトは俺の言葉が信じられないというふうに驚いている。

「嘘だろ? なら、どうしてここにいるんだよ」
「……理事長推薦できた」
「は?」
『ライト、この少年の言っていることは正しいけど嘘ね』
「あの、嘘ってどういう……?」

 俺の言葉にライトがかなり機嫌が悪くなった感じがしたとき、シルフリードは突然そんなことを言い出した。てか嘘って……本当のことだろうが。

『あそこにある刀。あれがあなたの契約獣でしょう? まあ「獣」なんて言葉で言い表すなんて不敬にもほどがあるけど』
「……!」

 その言い方は、そんな言い方ができるということは、シルフリードは間違いないくあの刀の正体に気がついている。でも、ライトにはさっぱりだったようで。

「刀が契約獣? そんなの聞いたことないのだけど」
「その精霊が言っていることは間違ってないよ。俺が契約したのはこいつだ」
「……」

 俺は立ち上がって刀を取って、そしてライトに見せる。しかし、ライトの顔色はまだ優れない。何か気になることでもあるのかな。

「なら、僕と勝負して欲しいんだけど」
「は?」

 こいつ、なんてことを言い始めるんだよ。なんで俺が勝負しないといけないんだ。てかそんなことしなくても誰に聞いたとしてもお前の方が優れているって言ってくれると思うのだけど。

「推薦でここにきてて……でも契約獣はいない。そんなのが認められていいのか」
「そ、それを言われたら……ごめん」

 さすがに謝ります。紛れもなく正論なので。

『この子……って言い難いわね。エルでいい? あなたもフランクでいいし。シルフィって呼んでよ』
「あの、さすがに精霊に対して」
『あんたが契約しているのを思えば構わないわよ』
「あ、はい」
『と、ごめん、ライト。エルが契約獣がいないのも自然なことなのよ。だから諦めるしかないわ』
「どういうことだ?」

 シルフリードがとりなしてくれているがライトはまだ納得できていないみたいだ。逆の立場なら同じようなことを言いそうだからこれ以上責められない。

「はぁ、わかったよ。ようは俺の実力が知りたいってことだろ」
「話が早いな」
『ちょっ、その刀で私を斬らないでよね』
「なんで恐れてるんだ?」
「わかってるよ。斬るとしたらこっちの方を使うって」

 俺は理事長からもらった刀をシルフリードに見せる。シルフリードが恐れているのは刀の特性だろうな。間違って殺してしまったら本当に殺してしまうことになるからね。あれ? でも斬らなければ使ってもいいよな?

「でも、どこで戦うんだ?」
『そうねぇ……ま、どこでもいいんじゃない? 私がなんとかごまかしてあげるし』
「いや、理事長に聞いてみるよ……付いてきて」
「ああ、わかった」

 俺はそのまま部屋から出てしたの管理人のところに向かう。ライトも後ろから付いてきてくれる。そしてなぜかシルフリードも一緒だ。あの、消さないのか?

『あーこれ、姿隠してるわよ? 声も聞こえないし。エルは普通に見えてるだろうけど』
「え? なんで」
『それだけエルが異常ということよ……』

 なら安心だ。でもそれなら最初にどうして姿を見ることができなかったのかって疑問は出てくるけど、そしてそれを思っているのがバレたのかシルフリードは俺に教えてくれた。

『最初のは召喚されていなかったからね。基本的に契約獣はこの世界とは異なる空間にいる。私みたいな精霊は特例としてこの世界に留まることが可能なだけよ』
「疲れるから戻していい?」
『だーめ。これも契約の一つでしょ? 昨日の歓迎会で疲れているから一時的に消えてただけなんだから』

 契約獣を契約するときに何かしらの条件を与えられることがある。特に相手が精霊だったりした場合だ。シルフリードなんて最高クラスならば当然何かしらの条件があったとしてもおかしくない。俺だって、『災厄の獣』と戦い続けるっていう条件があるしな。

「あ、リシナさん」
「ん? エルくんに……君は」
「ライトです」
「そっか。それで私に何かよう?」

 下に降りて管理人のリシナさんに話しかける。彼女はまだ寮の前を掃除していた。あちこち探し回る手間が省けて助かったな。

「あの、俺たち、今から模擬戦をしたいと思っていまして」
「え? もう? あー君ならありえるか。それで私に聞きに来たと。いいわよー。ここの裏にちょっとした場所があるから……ごめん。案内するね」
「あ、はい」

 どうして突然意見を変えたのかわからないけど、俺とライトはリシナさんに付いて行った。リシナさんは寮から少し離れたところにある、空き地に連れて行ってくれた。

「さ、ここで戦いなさい!」
「わかりましたけど……リシナさんもみるのですか?」
「だって……見たいからね!」
「は、はぁ」
「それじゃあ……いくよ! エル!」
「ああ、わかった」

 俺も『死に巡る命の輪サクリクルト』を構える。間違ってもシルフリードを斬らないように気をつけよう。

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