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落ちこぼれの少年が世界を救うまで

歩海

定められた運命



「はぁ……はぁ……」
「よく勝ったな」
「今まで……どこにいたんです?」


 戦いで乱れてしまった息を整えていると、後ろから、理事長の声が聞こえてきた。俺は振り向くと同時に警戒する。まだ、こいつが俺を罠にはめた可能性も否定できないのだから。


「まあ、慌てるな全部話すから……ついでにその傷も治してやる」
「え?」


 その言葉とともに体にあったなんとも言えない疲れとかそういうものが一切なくなった。つまり理事長が治してくれたということだろうか。刀を手にした以降の傷が全部治った。


「ところでお…まえの刀はどこにある?」
「え? 多分狼の下敷きに……」


 刀のことを言われたので狼の方を見てみれば、もうほとんど原型が残っていなかった。光る柱とともに光の粒子となって天に昇って行っている。そして跡にはあの刀が置かれてある。


「やはり、輪廻の輪に返すか……さすがというべきか、優しいというべきか」
「え?」
「君には話しておこうか。その刀の能力について、だ」
「ちょっと待ってください。あの、俺……」


 冷静になって気づかされる。今の自分の行動を。今、俺は……この狼を、殺した? そうだよな。改めて考えてみると、俺の行いは、殺害だ。


「ああ、君は確かにこの狼を殺した……だが、同時に救ったとも言える」
「え?」
「どこから話せばいいのかな……いや、先に君を落ち着ける方が先か……すまないが、協力してくれ」
「ん?」
「ああ、時間・・を止めてもらった。君がどれだけ悩もうとも時が進むことはない。存分に悩みたまえ」
「は、はぁ……」


 いや、時間を止めてもらったって言われてもね。何が何やらわからない。でも、待ってくれているというのは間違いないのでそこだけはありがたいと思う。俺はゆっくりと刀に近づいていき、それを手に取る。そこには狼を切り裂いた時についたはずの血が一切付いていなかった。


「はぁ……うぐっ」


 だが、自分自身についている返り血に気がついた瞬間、俺は込み上げてくる吐き気を抑えることができなかった。始めて、生きている何か・・を、殺した。戦っている時は集中していて考える余地などなかったが、自分のしたことは紛れもない殺害なのだ。


 知識として知っている命を奪う行為。それがどれだけ忌避されている行いなのかは知っている。いや、そりゃ、正確に言うのならば俺たちはいつも動物を殺しながら生きている。何かを殺しながら生き続けている。なのにこうして自分が直接的に手を下した時に思うのなんて傲慢にもほどがある。


「うぅ……はぁ……はぁ」
「少しは落ち着いたかい?」
「なんとか落ち着きました」


 自分の中で大分整理することができた。また戦えと言われたら戦えるか……まあ、それは大丈夫だな。この世界では誰かと戦うのはごく当たり前のことだ。俺だって中学のクラスのやつらとかと戦うことはたくさんあった。模擬戦とか、で。まあだいたい向こうだけ契約獣を出してくるので相手にならなかったけど。ただの人間が敵うはずがない。


「そうか、ああ、もういいぞ」
「誰に言っているのですか?」
「ん? ああ、そうだな。全て話すが……その前に一つ約束してくれ」
「何をですか?」
「これから話す内容は誰にも漏らしてはならない。少なくとも、時期がくるまでは」
「わ、わかりました」


 ものすごい真剣な表情で言ってきたので従わざるを得ない。てか時期がくるまではって話してもいい時期っていつがあるのだろうか。そんなことを思っていると、俺がうなづいたのを見て、理事長は話を続けた。


「ああ、まず、私が話していた相手だが、第二天使だ」
「へ?」


 第二天使? それって伝説上の生き物だよね。この世界には12の天使がいて、常に人間を見守っている。そしてその天使たちを束ねる『神』と呼ばれる存在がいるという。まさか本当に存在していたのかよ。いや、それは本当のことなのか?


「疑っているな。ならこれを見たら少しは納得するのではないか?」
「え?」


 そして理事長の体が輝きだして……その光が収まった時には、理事長には6つの翼が生えていた。さきほどの狼と似たようで……そして全く異なるということがわかる。あの翼は、この世のものとは思えない。それほどまでに美しく、高貴なるのがわかる。翼は虹色に輝いていて、それが光を反射してまた七色に輝いている。


「これ以上の変化はたとえ君だろうとも無事では済まされない。ああ、私は第八天使ミカエルだ……ミスリル・ロストウェンというのは神が私に用意してくれた名前にすぎない」
「そ、そうですか」


 そして理事長は翼を引っ込める。さすがにここまで見せられては、信じるしかない。あの翼は本物だろう。またしても、謎の信頼が俺のなかで生まれる。


「ああ、君は信じるだろうね。その理由も簡単だ」
「どういうことですか?」
「その刀さ」
「これ?」


 俺は持っている自分の刀を見る。これがあるからなんだというのだ。確かに色々とおかしいけれど、そういえば、これは一体なんなのだろうか。


「それは第七天使クロチエルがその身を変えたもの……君は過去に会ったことがあるんじゃないか?」
「あの、男の人」
「そうだ」


 パッと思い当たるのがそれくらいしかないけれど、気が付いたらその名前を口に出していた。さっき瞼を閉じた時に見たような気がした男の人。それがまさか……


「でも」
「間違いないだろう? この刀の能力を感じている君ならば」
「そうですけど……」


 だが、それならば逆に気になる。この刀がどんな能力を持っているのかを。いや、そもそも天使がその姿を変えたって……


ーー契約、だからな


「契約?」
「ああ、そうだ。それも話さなければならないが……まずは刀の能力について説明しよう。その刀の名は『死に巡る命の輪サクリクルト』。斬って殺したものすべてを輪廻の輪に返す能力を持っている」
「輪廻の輪……?」
「ああ、そうだ。だから他言無用をお願いしているんだ。こんな話、人間に知られてはいけないからな」
「俺はいいのですか?」
「契約に含まれている。君にはしてもらわなければならないことがあるからな」
「な、なんですかそれ」


 ここまで聞いていて、さすがに不安になってくる。話してくれる内容が内容だけにその対価はかなり大きなものを求められている気がする。普通にとんでもないことを言われてもおかしくない。


「ああ、君が予想しているように、厳しいものだ。今、この世界には7つの大きな人類滅亡の火種がある」
「え?」


 いや、話が大きすぎるのですけど、人類滅亡とかそんなの俺一人で背負い込めるようなものでもないし。しかし、そんなことは理事長もわかっていたようで、すぐにフォローしてくれた。


「ああ、確かにこの原因をなんとかして欲しいと望んでいるが、君一人に背負わせる気はない。それに私も出来る限り手助けしよう」
「そ、そうですか」
「それで具体的な話だが、その人類滅亡を引き起こそうとしているものたち、それを『災厄の獣』と呼んでいる。その7つの獣を討伐して欲しい」
「その一つが先ほどの狼、なのですか」


 それならどんなに楽だろうか。あれが一つだとするならばすでに一つ目標を達成できていることになるのだから。でも、そんな俺の儚い希望はすぐに打ち砕かれた。


「いや、違う。あれは『喪失の獣』が飼っているペットのうちの一匹だ。全部で4匹いる」
「数が増えた……」
「ははは。まあそれでも今みたいに強いのは事実だが、何も知らない君でも勝つことができたんだ……これから私を始めとする様々なサポートを受けることができればもう少し楽に勝てるだろうよ」
「あの炎とかもそうですか」
「ん? なんのことだ?」
「違うのですか?」


 サポートをしてくれるっていうのならば、てっきり理事長先生が助けてくれたのかと思うみたいだけど……この反応を見るになんだか違うみたいだ。


「ああ、違う。それよりも、君はこの契約を引き受けてくれるか?」
「……」


 改めて聞かれる。差し出される理事長の手。でも、僕の考えはもう決まっている。辛いけど……辛い話だけど、それでも。


「受けます……これが、俺の生まれた意味だから」
「ああ、頼む」


 もう、迷うことはない。俺は差し出された理事長の手を握り返した。これが、俺のこれからの三年間を決定付けた瞬間だった。

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