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落ちこぼれの少年が世界を救うまで

歩海

度重なる邂逅



「ここでいいんだよな」


 俺は今、ナルシス学園の入り口前に立っている。書類を出したら今日にこの場所に来るようにとの伝達があった。説明会でもするのかと思うが、それでもなんで今日なんだろうな。そんなことを思っている俺に声をかけてくる人がいた。


「やあ、待たせたね。君がエル・セレクシアくんかな?」
「そうですけど……えっと……」
「ああ、すまない。私は君を知っているが君は私を知らなかったな。私はミスリル・ロストウェン。ナルシス学園理事長だ」
「理事長先生?」


 まさかの理事長先生ご本人だった。俺は慌てて少し距離をとると一礼する。そんな俺に対して理事長先生は笑っていた。


「ははは、まあそんなにかしこまる必要はない……私としても遠慮したいところだし」
「え?」
「気にするな。さて、君にはついてきてほしいところがある。いいかな?」
「も、もちろんです」


 俺は理事長先生のあとをついていくことしかできない。ただ、口には出せないが少しだけ本物なのか疑いたいという気持ちはある。なぜならば……


「言うまでもないが私は本物だ……まあ見た目が若いのはそういうもの、だと思ってくれ」
「そ、そうですか」


 心の内を読まれてしまって赤面してしまう。そうなのだ。理事長先生の見た目は本当に若い。いや、俺の偏見が入っているのは認めるが、見た目からして20代前半だろうと思われる。金髪の目と髪の美しい女性、それが見た感じの俺の率直な感想だ。それが高等学校の理事長とか言われても普通は信じられない……信じられないが、


「ん? まだ疑っているのか?」
「いえ、信じます」


 なぜだかわからない。わからないが、その言葉が真実であると直感で感じている。もしかして俺は過去にこの人に会ったことがあるのか? ならこの人が俺の本名かもしれない名前を知っていたとしてもおかしくはない。そして理事長先生はスタスタと歩いていく。ところでどこに向かうのだろうか。学校には一切入らないみたいだけど。


「あの、どこに向かうのですか?」
「ん? ちょっとな……近いぞ」
「え?」


 近いって、何が近いのだろう。ここ、ナルシス学園は王都の近くにある。俺が育った孤児院もそれから中学校も全部同じ王都の中にあるので移動自体は困らなかったが……それでも高等学校であるからか、森に近い。噂ではそこで学生が訓練をしているということもあったな。そして俺と理事長先生は今、その森の方に向かっっている。


「あの、森、ですか」
「ああ、そうだな……ところで、君、契約獣はいるのか?」
「……い、いません」
「だろうな」


 森の中に入ってしばらくしたら、唐突にそんなことを聞かれてしまう。そして、聞かれてしまったことについ反射的に本当のことを答えてしまった。できれば隠しておきたかったけどこうして不意打ち的に聞かれてしまったのならもうどうしようもない。ただ、気になることといえば、


「知っていたのですか?」
「まあ……ちょっとな」


 だろうな、という言葉はもともと確信していてその確認のために質問した時の返答としてある感じだ。まあ理事長先生が最初から思っていたのならおかしくないのだが、少しだけ状況的におかしい。俺に契約獣がいないとわかっているのになぜ、学園への推薦状を送ってきてくれたのだろうか。


「あの、どうして」
「しっ」
「え?」


 意を決してそのことを確認しようとしたら静かにするようにと言われた。理事長先生の方を見てみればかなり険しい顔をして森の奥地の方を睨んでいる。何か、いるのか?


「せ、先生?」
「君を連れてきて正解だったみたいだ」
「え?」
「うん、やっぱり感じる・・・みたいだな」
「な、なんの話なんですか?」
「ほら、君の目の前にいるだろう」
「ーーーーーえ?」


 そして次の瞬間、俺の目の前の木々が全部軒並み吹き飛んだ。いや、正確には折られたと行った方が適切かもしれない。そして、木々を薙ぎ倒しながらそれ・・はゆっくりとこちらに向かってやってきていた。


 目の前に現れたのは一言で言うならば異形だった。いや、異形というか今までに見たことがない生き物だった。生き物と断定していいのかさえわからないのだけど、それは、まるで巨大な狼だった。だが、こんな大きさなのは見たことがない。その口は俺を一飲みできるぐらい大きい。全身が銀色の体毛で覆われていて……いや、少し違う。背中に巨大は羽が生えている。グリフォンとかそんな感じなのだろうか。そして俺の方を睨んできている。


「な、なんですかあれ!? って、先生? 先生?」


 慌てて先生の方を振り返って見てみればそこに理事長先生の姿はなかった。え、あ、ちょっとどういうことですか? あの理事長まさかだけど俺をここに誘い込みやがったのか!? でも、それならどうして!? さっきまで理事長に俺を嵌めようだとかそんな考えは一切感じ取れなかった。ならどうして今俺の隣にいないのだろうか。


「ちょっ、さすがにまずいって」


 森のかなり奥地にまで入り込んでしまっているから王都まで逃げるというのはさすがに現実的ではない。現実的ではない、がそれしか俺が生き残る術はない。契約獣がいればまだ少し話が違ったのかもしれないが、あいにくそんなもの俺は持っていない。


「とりあえず木の陰にってうわっ」


 狼? まあもう狼でいいや。狼の前足に力が入ったような気がしたので近くの木の陰に入ろうとしたら次の瞬間にはもう飛びかかってきた。陰に入り込もうと動いていたのでギリギリで躱すことができたけれど、


「まじかよ」


 隠れようとしていた木はこなごなに砕け散っていた。正確には狼が全て喰らっていた。動いている口からその木の切れ端がこぼれ落ちている。今の攻防で理解できたことはこいつには木を使って避けるとかそういうことは一切できないということだな。


「闘うのなんて絶対に無理」


 思い出せ、こういう時に何ができるのか。今の俺の持ち物は特にない。せいぜいがここから孤児院に帰るために必要なお金ぐらいだ。持ち物は特に何も必要ありませんという言葉通り何も持ってきていないからな。


「ぶ、武器はこれぐらいか」


 全く役に立つとは思えないが、さっき狼が噛み砕いた木の破片で、まだそれなりの大きさを保っているものを手に取る。焼け石に水だとは思うがそれでもあないよりかは絶対にマシだと思う。できることならこれで目を突き刺したいな。


「グルルルルルル」
「どうしろっていうんだよ」


 またしても飛びかかってくる。一瞬のうちに右に避けるが、もし左に避けていたら狼の鉤爪で体を八つ裂きにされてしまっていただろう。事実、狼が飛んだところにあった木々はこなごなに砕かれている。ご丁寧にいくつもの攻撃パターンを教えてもらったみたいだ。


「ってうわっ」


 体を避けることはできたが、背中に生えていた羽までも避ける事はできなかった。羽が俺の左頬を少しだけ切り裂いた。やっぱりというべきか人間の皮膚を容易く切り裂けるぐらい尖っていて硬いみたいだ。


「グルルルル」
「ちょっと引っ掻いたか。てか攻撃範囲広すぎないか?」


 結構本気で避けたと思うんだけどな。それなのに接触してしまうとはきついな。もっと遠くに逃げないといけないわけだけど、さすがに厳しすぎる。でも狼が突っ込んでくれたおかげで少しだけ木々に挟まれてしまった。その隙に俺はその場から逃げ出す。


「なんでこんな目に合っているんだよ」


 そんなことを叫びながら俺は後ろを向いて走っていた時だった。急に右腕に衝撃を感じたと思ったら、気が付いたら俺は地面に転がっていた。


「え?」


 脳が情報を理解できていない。何が起きたのか全く理解できない。ただ吹き飛ばされてしまったのはわかる。辺りを見渡してみれば一面の木々が全て切り刻まれていてちょっとした空き地みたいな感じになっている。


「グルルルル」
「うわああああああ」


 目の前にあの狼が現れたので情けない悲鳴をあげながらも俺は逃げようとした。そのためにまずは立ち上がらなければならないのだけど……立ち上がろうとしたら立ち上がることができずにその場に倒れてしまう。それと同時に先ほどに衝撃がきた右肩に強烈な痛みが走った。


「どうしたんだ……よ」


 何が起きたのかわからずに自分の右腕の方を見た。いや、正確に言うのならば、自分の本来なら・・・・右腕があったところを見た。そこに、俺の右腕は存在しなかった。あるのはただ、服の切れ端のみ。そして、そこから流れ出している血液。ポタリポタリと血の雫が垂れている。


「うわあああああ」


 情けないが、情けないことに、俺は叫ぶことしかできない。そうだ。俺はここで死ぬ。この狼に食い殺されて死んでしまう。そう思った。もう、逃げることができないのだと。嘘だろ。悩みながらも……やっと前に進むことができたっていうのに。そして狼は静かに俺の方に歩いてくる。ああ、ゆっくり俺を食べるのだろうな。そして、俺の腹にその前足を置く。


「うぐっ」


 ゆっくりと狼の口が俺に近づいていく。頭から丸かじりするらしい。死ぬのはわかっているけど……それでも一矢報いたい。俺は左手に持った木の切れ端で、狼の目を思いっきりついた。まさか俺が反撃するとは思ってもいなかったようで狼は苦しげな声を上げる。


「ギャン……グルルル」
「はぁ……はぁ……」
「グルルルルルル、ギャンギャン」


 泣き言を言っている俺に対して狼は怒り狂ったように俺の方に突っ込んでいく。俺はなんとか立ち上がるのが精一杯だった。地面に転がる前の衝撃で俺は足を捻挫してしまったらしいし。もう、走ることすらままならない。


「くそっ……でも、最後まで諦めてたまるか」


 それでも、また地面に飛んで転がることはできる。一瞬だけなら足に力を込めることだってできるはずだ。痛みなんていくらでも我慢してやる。それが、生き残るためならば。


「絶対に諦めたくないんだよ!」


 そう、自分の決意を表明するがごとく、何度もなんども諦めたくないと叫んでいるときに、どこからか声が聞こえてきた。


 ーーならば、最後まで戦い抜くと誓うか?

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