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落ちこぼれの少年が世界を救うまで

歩海

行くことがなかった卒業式



「はぁ……」


 俺は目の前の現実にただただため息をつくしかない。俺が今手に持っているのは高等学校の合格通知書。そこにはデカデカと不合格の文字が書かれている。期待しちゃいなかったが、もしかしたら、と淡い期待を抱いていただけにこの結果はショック以外何者でもない。


「おーい。落ちこぼれ、どうしたんだよ。そんな顔をしてさ」
「うるせえよ」


 後ろから聞こえて来る声を俺は意図的に無視する。どうせすぐに伝わるに決まっているからだ。俺のことを知らないやつはこの学校にいないのじゃないかと思うくらい俺のことは有名だからだ。この歳になってもなお契約獣の一体とも契約を行うことができていない落ちこぼれとして、だ。


「はぁ。おばさんになんて言えばいいんだよ」


 二度目のため息をつく。頭の中に思い描いたのは同じ孤児院で生活をしている仲間たちのことだ。誰もが俺が合格するものだと信じて疑っていなかった。みんなのその期待を裏切ってしまったのが心苦しい。だから俺はこうして学校の廊下を歩いている。


「おーい、何しているんだ? 三年生は合否を先生に伝えないといけないのですよ」
「わかりました」
「誰かと思ったらロンド・・・くんじゃないですか。まあ結果はわかっていますがきちんと伝えてください」
「はい……」


 結果はわかっているってそれってつまり俺が不合格だと思っているということだろ? その蔑んだ目をみたらわかるんだよ。まったく誰も彼も俺が契約できないからといって馬鹿にしてきやがる。俺だって好きで契約できないんじゃないんだよ。


 この世界では人間は契約獣……まあこれは勝手に人間が呼んでいるだけらしいが、この世界の生き物、いや、精霊などなんでもいいが「なにか」を召喚して自分と契約することができる。そして国の大戦では人間同士だけではなくその契約獣を用いて戦いが進められていく。契約することで人間は主に巨大な戦力がそして副次的に身体的能力の向上が手に入る。契約をするためには召喚の儀式を行うことが多いのだが自然と契約を行うこともある。だが、俺はその儀式において一度も何も召喚を行うことができないでいる。つまりこの世界において珍しい契約獣のいない人間なのだ。孤児院のおばさんに聞いてもどうしてなのか教えてもらえなかった。


「もう気にしても仕方がないか」


 俺は覚悟を決めて自分の属する教室の扉をあける。そこにはみんなそれぞれ紙を持っている。それが何かは彼らの表情を見てみればわかる。合格が書かれた通知書なのだろう。みんな嬉しそうに語っているから間違いない。まあ基本的にどの学校も生徒を拒むことはしないだろう……余程のことがない限り。


「お? 落ちこぼれくんが帰ってきたぞ〜どうなんだよ」
「もちろん合格だよな? 俺たちはみ〜んな合格してたぞ。あとはお前だけだ」


 教室を開けた瞬間に目ざとく俺に気がついたやつがそんな声をあげる。本当にふざけている奴らだ。俺が不合格だったことぐらい分かっているはずなのに。いや、ちょっと違うな。俺が合格していると思っていないくせに。


「ほらほら! みんな落ち着けって。それじゃあこお落ちこぼれくんも言いにくいだろ? いくら最底辺の高校を受けて合格が確実だからといっても恥ずかしいだろ」
「……」


 こいつら……あったまくる。どこまで俺を愚弄するつもりなんだよ。いや、わかっているよ。俺が契約できないから馬鹿にされることぐらい、わかっている。それから最底辺とか言いやがって。他にも同じところを受けているやつも……いなかったわ。うん、だからそんなこと言えたんだな。でも、あの受験会場で仲良くなったやつもいたし、そいつらのことを思えば今の発言は許容できない。


「あ? どうしたんだよ」
「うるせえよ」
「やる気か? ちょうど体を動かしたいと思っていたんだ。お前の相手をしてやるよ」
「もちろん契約獣はありだぜ? それが当たり前なんだから」


 つい、睨んでしまったらそんな風に返される。まったく、自分が優位にいるからこその対応だよな。俺は絶対にあんな風にはならないぞ。……なれない気もするけどそれはそれ、だな。


「はいはい、ロンドくん、実際のところはどうですか?」
「落ちてましたよ」
「え?」
「落ちてました!」


 先生がみんなを諭すように俺に言うように進めた。まあこれが自然なところなのでおかしくはない。ただ、俺がみんなからいじめられているだけという話だ。そしてクラスの奴らもわかっているのか俺のことをにやけた顔で見てきやがる。だから俺はヤケクソで叫んだ。クラスにいるやつら全員に聞こえるように俺は自分の不合格を叫んだ。


「……」


 しかし、クラスの奴らは誰一人声をあげなかった。どういうことだ? もしかして本当に俺が合格したと思っていて衝撃から声が出なくなってしまったのか? 俺はその淡い期待を持ったがーー


「あははははは、まじかよ」
「最底辺のところにも合格できないとか笑うしかねー」
「……」


 しかしそんな淡い期待は全くもって裏切られてしまった。そうだよな。こいつらがそんなことをするわけないよな。単に本当に不合格だったからちょっとだけ唖然としてしまっただけなんだな。そして俺は今みんなからの爆笑の渦に巻き込まれている。くそっ、情けない限りだよ。


「いやぁ、やっぱり契約獣が一体もいないからそんなことになっているのかな?」
「でもさ、なんでこいつ一体も契約できないんだよ」


 みんなから飛んでくるいつもの嘲笑。もう慣れた、慣れたけれど……今日この日だけは心にかなりダメージを負ってしまう。その理由は簡単だ。思わずヒートアップしてしまった俺たちを沈めるように先生がとりなす。


「まあまあ落ち着いてください。ロンドくん。これからみんな卒業式ですが、あなたは参列しますか? 一応て規定であなたは卒業できるのですが、参加となると」
「いえ、もう帰ります」
「そうですか」


 もうみんなの顔は見たくない。俺は素早く自分の荷物を持つと、そのまま学校を出た。今日が卒業式だから……それだからみんなの言葉が重くのしかかる。卒業式の日に合格発表とか鬼かと思うけど基本的に落ちないのが当たり前なのだからそれも当然なのだろう。そして、卒業証書を受け取ることはできなかったけれど、もういいや。先生も言っていたけど卒業自体はできているのだから帰ったとしても構わない。そんな思いで孤児院へと帰っていく。


「うっ、くっ」


 孤児院への帰り道、俺はただただ泣くことしかできなかった。悔しくて、情けなくて。でも何よりも辛いのはどんな顔して俺は孤児院の仲間たちに会えばいいのだろうか。そんなことを考えていたらいつの間にか俺は孤児院の前まで戻ってきてしまっていた。


 俺は両親を知らない。小さい頃になくなっていたと聞かされている。そして親がいない俺はこのスリライ・ロッドが経営している孤児院で育てられた。だから俺の名前はエル・ロッド。ここでは普通の話だ。親がいなくて名前がわからないからロッドという名前をいただく。


「おや、エルおかえり」
「おばさん……」
「わかってるよ。だが、その前にお前に手紙がきているんだ」
「俺に?」


 孤児院に帰ってきたらスリライ・ロッド、つまりはおばさんご本人に出会ってしまった。だがおばさんは俺の悲しそうな表情を気にすることがなく、俺に手紙がきていることを教えてくれた。


「誰から?」
「開けてみればわかるよ」
「そ、そうかな」


 俺はおばさんから手紙を受け取る。それは確かに俺に当てられた手紙だった。いったい誰からだろう。たまに本当の両親から手紙が送られてくることがある、と聞いている。だがそれはない。おばさんが俺の両親は死んでいると言っているからだ。嘘をつく必要がまったくないのでそれが本当だと思っていいだろう。だから、本当に俺に送ってくるやつの心当たりがない。あ、いやもしかしたらおばさんが俺に内緒でどこかの仕事に応募してくれていたとか? それならまあ、なくもないか。


「いったいどこ……が」


 俺は手紙を裏返すと、そこに書かれた名前に驚いてしまった。そこにはただ俺でも知っっている名前が書かれていた。ナルシス学園、と。

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