落ちこぼれの少年が世界を救うまで

歩海

学園からの手紙



「ど、どうして」


 ナルシス学園。俺でも知っている高等学校だ。いや、世界で一番有名だと言ってもいい。なぜならばここは選ばれた人しか入学を許されていないエリート中のエリートたちが集う高校だからだ。あまりの驚きで固まってしまっている俺におばさんは優しく話してくれた。


「……理由の心当たりはあるけれど、今はいいよ。それよりも入らないのかい?」
「え?」
「お兄様! どうして入られないのですか」
「さ、サクラ」


 おばさんに聞き返そうとした時に孤児院の扉が開いて、そこから一人の美少女が飛び出してきた。彼女の名前はサクラ・ロンド。俺と同じくこの孤児院に預けられた少女だ。お兄様と呼ばれているのは俺の方が一歳年上だから。もちろん言うまでもないことだが、血のつながりはない。そしてサクラは孤児院から飛び出してくるとそのままの勢いで俺に抱きついてくる。


「お兄様! 私聞きましたよ。あのナルシス学園に理事長推薦されるだなんて」
「え? えっと……」


 理事長推薦? なんだそれ。俺聞いていないんだけど。そう思って手紙をよくよく見てみれば、封が開いていた。


「ちょ、まさかサクラ、この手紙先に読んだのか?」
「すまないねえ。エルに送られてくるとは思えなかったからつい開いてしまった。だがまあ紛れもなく本物だよ」
「そ、そう」


 まあおばさんの気持ちもわからなくもない。なぜなら俺はどう考えてもエリートとは程遠い存在だからな。優秀な精霊銃を従えているわけでもなく、また複数従えているわけでもなく、ましてや誰とも契約を行うことができないでいる。そんな俺に推薦の手紙がくるなんてありえないだろう。


「さあ、お兄様のためのパーティの準備ができていますよ。いきましょう」
「え? あ、ああ」


 俺はサクラに引っ張られる形で孤児院の中に入っていく。そこではみんな口々に俺のことを祝ってくれた。みんなまるで自分がもらったかのように喜んでくれた。


「ナルシス学園に推薦だろ! すげえなエル!」
「おめでとう、エル!」
「エルは私たちの希望だよ!」


 嬉しかった。この時は驚きよりもただただ嬉しさだけが僕の中を占めていた。これからの未来、かなり厳しいことが確定していても今だけはそれを忘れて、ただみんなの喜びの声を聞いていた。


「ふう」


 結局僕が落ち着くことができたのはパーティが終わった後、しばらく経ってからだった。自分の部屋に戻ってから俺はやっと手紙を読むことができた。


「いったい何が書かれているんだろう」


 俺は手紙の内容に目を通した。そこに書かれていた内容は俺の予想をはるかに超えていた。


『初めまして、エル・セレクシアくん。まずは中学卒業おめでとう。さて、君はもう高校をどこにいくのか決まっているのかな? 君さえよかったら私が理事長を務めているナルシス学園に来ないか? もちろん来るか来ないかは自由だが……私としては君が我が学園に来る事を望んでいる。君が入学を望むのなら同封してある入学手続きの書類を私に送ってほしい。それからのことは君の連絡が着次第、送ることにするよ ナルシス学園理事長 ミスリル・ロストウェン』


「ま、まじかよ」


 それはサクラたちが言っていたように俺への推薦状だった。今まで少しだけ半信半疑だったが、さすがにここまでされてしまっては疑いようがない。俺は間違いないく、学園への推薦状をもらったんだ。


「う、嘘だろ。でもどうし……て?」


 嬉しい。もちろん嬉しいが、なぜ俺に送られてきたのか疑問に思った。だから手紙を読み返していたら一つだけ気になる言葉が書かれていた。最初は氣が動転してしまっていて気がつかなったけど、俺が知らなかったことが書かれている。


「エル・セレクシア?」


 これは、俺の名前なのだろうか。今まで知らなかった事実に驚きが隠せない。ただ、まだ疑問は残る。なぜ、理事長は俺の本名を……これが俺の本名だとするなら、だが、俺の本名を知っていたのだろうか。


「それがあんたの本当の名前だよ。エル」
「ひっ、っておばさんか」


 後ろから声が聞こえたので情けない悲鳴を上げてしまったが、振り返ってみてみればおばさんだった。なんだよ驚かせないでくれよ。


「あんたの本当の名前さ。エル・セレクシア」
「そ、そうなんだ……ん? セレクシア?」


 最初に呟いた時から何かが引っかかっていた。聞いたことがある名前だからだ。俺の記憶が間違っていなかったらこの名前は確か……


「リンド・セレクシアにサテラ・セレクシア」
「ああ、さすがのあんたでも知っていたかい。そうだよ。それがあんたの両親さ」
「ば、馬鹿な!」


 今までずっと信じられないことが続いていたけれどさすがにそれは嘘だとわかるぞ。俺がさきほどにあげた二人の名前。それは俺ですら知っているこの世でもっとも偉大なる契約使いの二人だ。高位の存在と契約を交わし、存命時には素晴らしい発見をいくつも見つけた天才たち。二人の武勇伝を挙げるとするならば学生時代にドラゴンの群れに挑んで勝利したとか大勢の精霊を従えて天候を操ったとか。巨大な災害から学園を守り切ったとか。そんなものあげればきりがない。そんな偉大な人たちの子供が俺? そんなのありえないって。


「いいや、違わないさ。これを見な」
「ん?」


 おばさんは俺に一つのペンダントを投げてよこした。開けて中を確認してみればそこに写っていたのは三人家族の写真。そのうち二人はわかる。よく写真とかを見かけるからだ。さきほどまでにあがっていた二人。そしてその二人に挟まれるようにして立っているのは……


「これが、俺?」
「後ろをみて見なよ」


 言われたようにひっくり返してみると、そこには


『リンドとサテラから、エルに』


 と、書かれていた。確かに僕の名前もエルだけれど、これだけで判断してもいいものなのだろうか。


「これが私の手にあるのがその証拠さ。確かにそれはあんたが8年前にここに預けられていた時に持っていたものさ」
「じゃ、じゃあ、本当に……?」


 本当に俺があの人たちの息子だというのだろうか。あ、いや、ちょっと待って。この写真と俺とでは決定的に違うことがある。


「俺の目は赤色だ。このエルって子供はどう見ても青色だろ」
「確かにそれだけが引っかかっていたんだよね物質的な証拠からあんたがこのエルって子供に間違いはないのだろうけど見た目が違うからね。それに髪の色も」


 そう、俺の目は真っ赤な赤色だ。この世界ではそうとう珍しい色みたいだ。さらに言えば俺の髪の毛は黒髪でこれまた珍しいが赤目程ではない。そして赤目黒髪というのは聞いたことがない組み合わせだ。さらにこのエルは髪の毛が金髪でどうみても俺と同一人物であるとは思えない……まあ髪の毛程度ならば染めることができるからなんとも言えないけどね。それを言っちゃえば目の色も変装できるとか言い出してきりがないけどね。


「おばさん、俺が預けられて時にたまたま持っていたんだろ? たまたまその本物のエルって子供と俺が一緒にいて、ペンダントを間違えたんだよ。きっと」
「そうかねぇ」
「そうだよ。じゃなきゃありえないでしょ? あんな偉大な二人から俺みたいな落ちこぼれが生まれる……なんて」
「どうしたんだい?」


 突然歯切れが悪くなった俺を心配する様子のおばさん。だが、俺は今、恐ろしい真実にきがついてしまった。理事長は俺がエル・セレクシアだと思って推薦状を出してくれている。でも、実際は単なる人違いだった……俺はいったい、どうすればいいのだろうか。

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