《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-22話「最終決戦 Ⅲ」
第2作戦。白兵戦だ。横陣に展開されていた騎馬隊および歩兵たちが、突進してゆくさいに楔形陣形へと形を変えてゆく。その先頭を駆けるは帝国騎士長であるソーディラス・レオだ。
バートリーは後方に戻って、前衛部隊の支援に回る。
「防御支援魔術部隊は、《鉄の皮膚》を! ケガ人は《蔦の呪縛》でからめとって拾っていってください!」
これもあらかじめ決めていた手順ではある。窪地を前にした平原では、無限に増えてゆく腕と歩兵たちが斬り結んでいた。
倒れていく兵士たちを蔦が絡め取って、後ろに引き戻す。後ろにはマホ教による癒術師たちが控えている。マホ教も魔神討伐のために、全力で支援してくれている。
フーリンもそちらに回した。フーリンをこのタイミングで脱落させたのは痛手だ。バートリーが死んだとき、次に魔術部隊の指揮をとるのがフーリンだと決めていたからだ。
ソーディラス・レオの率いる騎馬隊が無限に増える腕を蹴散らしてゆく。
「帝国騎士長の名にかけて、帝国のため、そして人類のために、我がスキルを披露しよう。煌めけ! 《流星剣》!」
スキルによる剣技。
空から流星のごとく、ロングソードが降り注ぐ。無限のロングソードが、赤黒い腕を突き殺していった。突き殺された腕はその場に溶けてゆき、黒い沼を生んだ。
「さすがですね。レオ騎士長」
と、バートリーは呟いた。
「愚かじゃな。憐れじゃな。私を仕留めようといろいろと工夫を凝らしておるようじゃが、私に勝てるはずがなかろう」
魔神ヴィルザハードが窪地から這い上がってきた。あの巨大な魔神の姿かと思ったが、少女のなりをしていた。
少女になっていれば、威圧感は少ないと思いきや、そうでもない。その尋常ならざる禍々しい魔力を、真っ向から感じる。今までわずかに、その気配を感じてきただけだった。が、こうして封印を解かれて、相対してみると、その魔力に吐き気すら覚える。
レオの放つ《流星剣》が、空から降り注ぐ。剣はヴィルザを貫くかと思った。が、ヴィルザのカラダはまるで鋼鉄のように、そのロングソードの雨を弾いていた。
「魔神の魔法を知るが良い。人間ども」
地が割れる。
ヴィルザハード城の窪地のある場所とは別に、もうひとつ大穴が開いた。その穴からベロンと巨大な舌があらわれた。舌は周囲一帯を舌舐めずりをしてゆく。まわりにいた人たちが、からめとられていった。
「レオ騎士長!」
ソーディラス・レオも舌に絡め取られてゆく。剣で抵抗しようとしていたが、きいている気配はない。
舌にからめとられた人たちは、大地のなかに吸い込まれていった。大地はふたたび口を閉ざして、穴などなかったように平地を装っている。
「はい終わり。簡単なお掃除じゃ」
たった数秒の魔法だ。ちょっと顔についてるゴミを振り払った――とでもいうような淡泊さだった。
しかし、奪われた命は数知れない。レオの率いていた部隊が潰滅していた。帝国最強の戦士たちだ。そして、帝国騎士長であるソーディラス・レオもまた一瞬で消え去った。
ヴィルザハードはまっすぐ、バートリーのもとに歩いてくる。周囲には魔法戦士たちもいたのだが、まるでカナシバリにあったように硬直していた。
バートリーもまた、動けずにいた。あまりに凶悪な魔法に圧倒されたのだ。足が震えて、その場で膝立ちになる。膝立ちになるとちょうど目の前に、ヴィルザハードの顔があった。近くて見てみると、美しい娘だ。人にはない色気がある。ケネスがたぶらかされるのも得心がいく。
「小娘。バートリーとか言ったな。小娘はただでは殺さんぞ。私のケネスを弄んでくれた礼をせんとな。まずはその柔らかそうな皮膚を剥いでやろうか……」
ヴィルザハードの幼女のように無垢なる指が、バートリーの頬をやさしくナでた。
「わ、私は帝国のため、全力であなたを止める!」
急に戦気が吹き上がってきた。
戦わねば。
ここで負ければ、帝国は魔神の手に落ちる。
バートリーの愛した帝国だ。この災厄から守り抜かなければならない。
「水系最上位魔法《氷の牢獄》!」
氷の檻が、ヴィルザハードを閉じ込める。
「ムダだと言っておろうが」
氷の牢獄がドロドロと溶けてゆく。急に空が曇りはじめた。それもただの曇天ではない。黒く濁った雲が渦を巻くように発生していた。その黒い雲の中心から巨大な腕が生えてくる。腕は帝国軍のことをハエ叩きのように叩き潰していった。
地獄だ。
まるで抵抗する術がない。
人は、ただ逃げ惑うしか出来ない。
悲鳴だけが、響いている。
「さて小娘。一緒に城へ行こう。そしてタップリと泣き叫んでくれ。さてどう調理してやろうか。人は壊れると、やがて壁に頭を叩きつけて自殺してしまうんじゃがな。そうなるまで弄んでやろう。私を満足させてくれよ」
「ひっ」
圧倒的な魔法を前に、今度こそバートリーの戦意は消失していた。ただあるのは、恐怖のみ。
「さあ。行こうか」
魔神の――あのふしくれだった巨木のような腕が生えてくる。その腕が、バートリーにつかみかかってきた。
(もう、ダメだ)
諦めていたときだ。
その魔神の腕を遮るようにして、炎のドラゴンが現れた。よく見るとドラゴンの形状を模した炎だった。目が痛くなるほどの鮮やかな炎……。
「どうも。バートリーさんのことを助けるのは、これで3度目ですね」
黒い外套を身にまとい、頭にはトンガリ帽子をかぶっている。口には煙草をくわえて、左手には銀色の指輪がはめられていた。
「ケネス・カートルド……」
「総指揮をとってるのは、誰です? バートリーさんですか?」
ケネスがそう尋ねてきた。
手を差し出されたので、その手を借りて立ち上がった。
「いえ。私は魔術師部隊の指揮をとっています。総指揮は、帝都の将軍で」
「なら全軍撤退するように伝えてください。あとはオレがどうにかするんで」
「どうにかするって、どうやって?」
「ヴィルザと刺し違えてでも、これを止めるのがオレの役目なんで。それに、このままだと犠牲が出るばかりですよ」
たしかにその通りだ。
もはや戦争ではない。虐殺だ。黒雲から生えている腕で、人間たちが叩き潰されている。緑の平原に真っ赤な花を咲かせているだけだ。
「わかりました。撤退するよう伝えます」
ケネスに、どうにか出来るのだろうか? わからない。でも、考える余裕はなかった。ただ、この場から逃げたいという思いしかなかった。バートリーは将軍に全軍撤退するように《通話》で伝えた。将軍は魔法を使えない。なので魔術師の伝令役を通すことになる。将軍からも全軍撤退に同意を示してきた。
「これ、乗って行ってください」
ケネスが馬を貸してくれた。
「あとは、任せます」
「ええ。任されます」
バートリーは馬にまたがってその場から一目散に逃げ出した。振り返る。ケネスとヴィルザハードの対峙が見てとれた。
バートリーは後方に戻って、前衛部隊の支援に回る。
「防御支援魔術部隊は、《鉄の皮膚》を! ケガ人は《蔦の呪縛》でからめとって拾っていってください!」
これもあらかじめ決めていた手順ではある。窪地を前にした平原では、無限に増えてゆく腕と歩兵たちが斬り結んでいた。
倒れていく兵士たちを蔦が絡め取って、後ろに引き戻す。後ろにはマホ教による癒術師たちが控えている。マホ教も魔神討伐のために、全力で支援してくれている。
フーリンもそちらに回した。フーリンをこのタイミングで脱落させたのは痛手だ。バートリーが死んだとき、次に魔術部隊の指揮をとるのがフーリンだと決めていたからだ。
ソーディラス・レオの率いる騎馬隊が無限に増える腕を蹴散らしてゆく。
「帝国騎士長の名にかけて、帝国のため、そして人類のために、我がスキルを披露しよう。煌めけ! 《流星剣》!」
スキルによる剣技。
空から流星のごとく、ロングソードが降り注ぐ。無限のロングソードが、赤黒い腕を突き殺していった。突き殺された腕はその場に溶けてゆき、黒い沼を生んだ。
「さすがですね。レオ騎士長」
と、バートリーは呟いた。
「愚かじゃな。憐れじゃな。私を仕留めようといろいろと工夫を凝らしておるようじゃが、私に勝てるはずがなかろう」
魔神ヴィルザハードが窪地から這い上がってきた。あの巨大な魔神の姿かと思ったが、少女のなりをしていた。
少女になっていれば、威圧感は少ないと思いきや、そうでもない。その尋常ならざる禍々しい魔力を、真っ向から感じる。今までわずかに、その気配を感じてきただけだった。が、こうして封印を解かれて、相対してみると、その魔力に吐き気すら覚える。
レオの放つ《流星剣》が、空から降り注ぐ。剣はヴィルザを貫くかと思った。が、ヴィルザのカラダはまるで鋼鉄のように、そのロングソードの雨を弾いていた。
「魔神の魔法を知るが良い。人間ども」
地が割れる。
ヴィルザハード城の窪地のある場所とは別に、もうひとつ大穴が開いた。その穴からベロンと巨大な舌があらわれた。舌は周囲一帯を舌舐めずりをしてゆく。まわりにいた人たちが、からめとられていった。
「レオ騎士長!」
ソーディラス・レオも舌に絡め取られてゆく。剣で抵抗しようとしていたが、きいている気配はない。
舌にからめとられた人たちは、大地のなかに吸い込まれていった。大地はふたたび口を閉ざして、穴などなかったように平地を装っている。
「はい終わり。簡単なお掃除じゃ」
たった数秒の魔法だ。ちょっと顔についてるゴミを振り払った――とでもいうような淡泊さだった。
しかし、奪われた命は数知れない。レオの率いていた部隊が潰滅していた。帝国最強の戦士たちだ。そして、帝国騎士長であるソーディラス・レオもまた一瞬で消え去った。
ヴィルザハードはまっすぐ、バートリーのもとに歩いてくる。周囲には魔法戦士たちもいたのだが、まるでカナシバリにあったように硬直していた。
バートリーもまた、動けずにいた。あまりに凶悪な魔法に圧倒されたのだ。足が震えて、その場で膝立ちになる。膝立ちになるとちょうど目の前に、ヴィルザハードの顔があった。近くて見てみると、美しい娘だ。人にはない色気がある。ケネスがたぶらかされるのも得心がいく。
「小娘。バートリーとか言ったな。小娘はただでは殺さんぞ。私のケネスを弄んでくれた礼をせんとな。まずはその柔らかそうな皮膚を剥いでやろうか……」
ヴィルザハードの幼女のように無垢なる指が、バートリーの頬をやさしくナでた。
「わ、私は帝国のため、全力であなたを止める!」
急に戦気が吹き上がってきた。
戦わねば。
ここで負ければ、帝国は魔神の手に落ちる。
バートリーの愛した帝国だ。この災厄から守り抜かなければならない。
「水系最上位魔法《氷の牢獄》!」
氷の檻が、ヴィルザハードを閉じ込める。
「ムダだと言っておろうが」
氷の牢獄がドロドロと溶けてゆく。急に空が曇りはじめた。それもただの曇天ではない。黒く濁った雲が渦を巻くように発生していた。その黒い雲の中心から巨大な腕が生えてくる。腕は帝国軍のことをハエ叩きのように叩き潰していった。
地獄だ。
まるで抵抗する術がない。
人は、ただ逃げ惑うしか出来ない。
悲鳴だけが、響いている。
「さて小娘。一緒に城へ行こう。そしてタップリと泣き叫んでくれ。さてどう調理してやろうか。人は壊れると、やがて壁に頭を叩きつけて自殺してしまうんじゃがな。そうなるまで弄んでやろう。私を満足させてくれよ」
「ひっ」
圧倒的な魔法を前に、今度こそバートリーの戦意は消失していた。ただあるのは、恐怖のみ。
「さあ。行こうか」
魔神の――あのふしくれだった巨木のような腕が生えてくる。その腕が、バートリーにつかみかかってきた。
(もう、ダメだ)
諦めていたときだ。
その魔神の腕を遮るようにして、炎のドラゴンが現れた。よく見るとドラゴンの形状を模した炎だった。目が痛くなるほどの鮮やかな炎……。
「どうも。バートリーさんのことを助けるのは、これで3度目ですね」
黒い外套を身にまとい、頭にはトンガリ帽子をかぶっている。口には煙草をくわえて、左手には銀色の指輪がはめられていた。
「ケネス・カートルド……」
「総指揮をとってるのは、誰です? バートリーさんですか?」
ケネスがそう尋ねてきた。
手を差し出されたので、その手を借りて立ち上がった。
「いえ。私は魔術師部隊の指揮をとっています。総指揮は、帝都の将軍で」
「なら全軍撤退するように伝えてください。あとはオレがどうにかするんで」
「どうにかするって、どうやって?」
「ヴィルザと刺し違えてでも、これを止めるのがオレの役目なんで。それに、このままだと犠牲が出るばかりですよ」
たしかにその通りだ。
もはや戦争ではない。虐殺だ。黒雲から生えている腕で、人間たちが叩き潰されている。緑の平原に真っ赤な花を咲かせているだけだ。
「わかりました。撤退するよう伝えます」
ケネスに、どうにか出来るのだろうか? わからない。でも、考える余裕はなかった。ただ、この場から逃げたいという思いしかなかった。バートリーは将軍に全軍撤退するように《通話》で伝えた。将軍は魔法を使えない。なので魔術師の伝令役を通すことになる。将軍からも全軍撤退に同意を示してきた。
「これ、乗って行ってください」
ケネスが馬を貸してくれた。
「あとは、任せます」
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