《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-16話「久闊を叙する」
時間はすぐに過ぎ去っていった。夜が来て、朝になった。夜空が白みはじめた刻、外から怒号がひしめきはじめた。魔神ヴィルザハードを復活させたことにたいする、民の怒りだった。
(ヴィルザはそんなに悪いヤツじゃないと思ったんだ)
でも、そんな言い訳は、誰にも通用しない。
ヴィルザとともに時間を紡いできたのは、ケネスただ1人だけなのだから。
斬首……首つり……あるいは火あぶり……。なんだろうか、と思った。火あぶりは苦しそうだから、やめて欲しい。出来れば楽に殺してもらいたい。
コツコツコツ……。
石畳の床を叩く足音が近づいてくる。ケネスの牢の前で、ヘルムを深くかぶった人物が立ち止った。
「出ろ。処刑の時間だ」
「はい」
抵抗しようとも思わなかった。抵抗する術もない。魔法が使えない今、どうあがいても逃げられそうにはなかったし、逃げる気力もなかった。ここで、オレの物語は終わりなんだなぁ、と思った。最後にもう一度だけ、ヴィルザと話をしたかった。一緒にハンバーガーを食べながら、他愛もない話をしたかった。
それに――。
(結局、結婚指輪も渡し損ねたし)
前を歩く騎士について行く。歩いているという感覚がなくて、自分の足音が他人のものに聞こえた。肉体が空っぽになっているせいだと思った。牢獄の裏口から外に出た。練兵場の裏を回るようにして、外郭を出た。都市の中に入る。城の公開処刑を見物しに行っているのか、都市のなかの人気はすくない。ガルシアが暴れたあとなのか、いくつか倒壊している建物がある。
「どこに行くつもりだ? 処刑はこっちじゃないだろう」
ケネスの腕輪を引いている騎士の様子がオカシイことに、ようやく気付いた。
「あなたには、まだ死なれると困る」
騎士は振り向いてそう言った。ヘルムの奥でくぐもった声が聞こえた。
「オレを助けるつもりか?」
「ええ」
「オレは魔神ヴィルザハードを復活させた張本人だぜ。それを知って逃がすつもりか?」
「まだ気づかないんだね」
「は?」
「久しぶりだね」
騎士はそう言うと、ヘルムを脱いだ。顔を覆ったヘルムが脱げると、緑の髪が開花のように広がった。大きな額。そして緑の目が、優婉に輝いていた。桜色の唇が愉快そうに微笑んでいる。
「お、お前、まさか……」
ケネスは驚愕に腰を抜かすどころだった。
「ボクがこういう潜入を得意としてるのは知ってるでしょ。ボクのスキルはヘイト逸らし。敵意を買いにくいんだ」
ヨナ・フーリガン。
かつてのケネスの友人だ。
「行こうか」
ヨナはそう言うと、ケネスの魔法封じの腕輪を外した。都市にはあらかじめ馬が用意されていた。ヨナはそれにまたがる。ケネスは後ろに乗った。馬の脾腹をヨナが軽く蹴った。馬が走りはじめた。都市の城門棟を走り抜けて行く。
しばし、走った。
帝国からの追っ手はなかった。
ヨナは馬にまたがり、緑の長く伸びた髪をなびかせている。ケネスは、ヨナの腰につかまっていた。
「オレを助けるとは、どういうことだ? それに、どうしてヨナが」
「ケネス・カートルドを殺してはならないというのは、帝国第一皇女さまの指示だよ」
「第一皇女さまが、どうして?」
学生時代のときに、一度だけ会ったことがある。
それぐらいしか、覚えていない。
「帝国の政権が第一皇子に奪われて、第一皇女さまは帝国から王国へと亡命したんだよ。その第一皇女さまを王国のとある貴族が、匿っている。ボクは、そこから遣わされて来たんだよ」
「わざわざ、オレを助けに来たわけか」
「友人だからね」
ヨナは前を向いたままそう言った。その胸元に目をやると、学生時代のときより、ずいぶんと大きくなっている。髪も伸びた。当時は男装していたから、余計に今が女性らしく見えるのかもしれない。
「それに、ケネスしかいないだろうからね」
「何が?」
「魔神ヴィルザハードを止められる人がだよ。君とヴィルザハードの関係は、すこしガルシアさんから聞いてるよ」
「ガルシアさんのことも知ってるのか?」
「そりゃ、第一皇女さまを帝国から連れ出したのは、ガルシアさんだからね。ガルシアさんも王国の貴族が匿ってる」
ずっとヴィルザが見えていたことを、話した。もう隠す必要もないだろうと思ってのことだった。そして、ヨナにだからこそ、話せるような気がした。
「じゃあ、あれか――。ボクが『マディシャンの杖』を盗み出そうとしたとき、トンデモナイ強さの騎士が現れたのは、ケネスだったのか」
「ああ」
「じゃあ、なおさら、魔神ヴィルザハードを止められるのは、ケネスだけだね」
「オレには止めれない。あいつはオレの右目を平然と握りつぶした」
今も、右目は見えない。
眼帯で隠している。
「いや。ヴィルザハードは、間違いなく君にたいして、情を抱いている」
「どうして、そう言える?」
「証明してあげるよ」
ヨナはそう言うと、馬の足を速めた。
(ヴィルザはそんなに悪いヤツじゃないと思ったんだ)
でも、そんな言い訳は、誰にも通用しない。
ヴィルザとともに時間を紡いできたのは、ケネスただ1人だけなのだから。
斬首……首つり……あるいは火あぶり……。なんだろうか、と思った。火あぶりは苦しそうだから、やめて欲しい。出来れば楽に殺してもらいたい。
コツコツコツ……。
石畳の床を叩く足音が近づいてくる。ケネスの牢の前で、ヘルムを深くかぶった人物が立ち止った。
「出ろ。処刑の時間だ」
「はい」
抵抗しようとも思わなかった。抵抗する術もない。魔法が使えない今、どうあがいても逃げられそうにはなかったし、逃げる気力もなかった。ここで、オレの物語は終わりなんだなぁ、と思った。最後にもう一度だけ、ヴィルザと話をしたかった。一緒にハンバーガーを食べながら、他愛もない話をしたかった。
それに――。
(結局、結婚指輪も渡し損ねたし)
前を歩く騎士について行く。歩いているという感覚がなくて、自分の足音が他人のものに聞こえた。肉体が空っぽになっているせいだと思った。牢獄の裏口から外に出た。練兵場の裏を回るようにして、外郭を出た。都市の中に入る。城の公開処刑を見物しに行っているのか、都市のなかの人気はすくない。ガルシアが暴れたあとなのか、いくつか倒壊している建物がある。
「どこに行くつもりだ? 処刑はこっちじゃないだろう」
ケネスの腕輪を引いている騎士の様子がオカシイことに、ようやく気付いた。
「あなたには、まだ死なれると困る」
騎士は振り向いてそう言った。ヘルムの奥でくぐもった声が聞こえた。
「オレを助けるつもりか?」
「ええ」
「オレは魔神ヴィルザハードを復活させた張本人だぜ。それを知って逃がすつもりか?」
「まだ気づかないんだね」
「は?」
「久しぶりだね」
騎士はそう言うと、ヘルムを脱いだ。顔を覆ったヘルムが脱げると、緑の髪が開花のように広がった。大きな額。そして緑の目が、優婉に輝いていた。桜色の唇が愉快そうに微笑んでいる。
「お、お前、まさか……」
ケネスは驚愕に腰を抜かすどころだった。
「ボクがこういう潜入を得意としてるのは知ってるでしょ。ボクのスキルはヘイト逸らし。敵意を買いにくいんだ」
ヨナ・フーリガン。
かつてのケネスの友人だ。
「行こうか」
ヨナはそう言うと、ケネスの魔法封じの腕輪を外した。都市にはあらかじめ馬が用意されていた。ヨナはそれにまたがる。ケネスは後ろに乗った。馬の脾腹をヨナが軽く蹴った。馬が走りはじめた。都市の城門棟を走り抜けて行く。
しばし、走った。
帝国からの追っ手はなかった。
ヨナは馬にまたがり、緑の長く伸びた髪をなびかせている。ケネスは、ヨナの腰につかまっていた。
「オレを助けるとは、どういうことだ? それに、どうしてヨナが」
「ケネス・カートルドを殺してはならないというのは、帝国第一皇女さまの指示だよ」
「第一皇女さまが、どうして?」
学生時代のときに、一度だけ会ったことがある。
それぐらいしか、覚えていない。
「帝国の政権が第一皇子に奪われて、第一皇女さまは帝国から王国へと亡命したんだよ。その第一皇女さまを王国のとある貴族が、匿っている。ボクは、そこから遣わされて来たんだよ」
「わざわざ、オレを助けに来たわけか」
「友人だからね」
ヨナは前を向いたままそう言った。その胸元に目をやると、学生時代のときより、ずいぶんと大きくなっている。髪も伸びた。当時は男装していたから、余計に今が女性らしく見えるのかもしれない。
「それに、ケネスしかいないだろうからね」
「何が?」
「魔神ヴィルザハードを止められる人がだよ。君とヴィルザハードの関係は、すこしガルシアさんから聞いてるよ」
「ガルシアさんのことも知ってるのか?」
「そりゃ、第一皇女さまを帝国から連れ出したのは、ガルシアさんだからね。ガルシアさんも王国の貴族が匿ってる」
ずっとヴィルザが見えていたことを、話した。もう隠す必要もないだろうと思ってのことだった。そして、ヨナにだからこそ、話せるような気がした。
「じゃあ、あれか――。ボクが『マディシャンの杖』を盗み出そうとしたとき、トンデモナイ強さの騎士が現れたのは、ケネスだったのか」
「ああ」
「じゃあ、なおさら、魔神ヴィルザハードを止められるのは、ケネスだけだね」
「オレには止めれない。あいつはオレの右目を平然と握りつぶした」
今も、右目は見えない。
眼帯で隠している。
「いや。ヴィルザハードは、間違いなく君にたいして、情を抱いている」
「どうして、そう言える?」
「証明してあげるよ」
ヨナはそう言うと、馬の足を速めた。
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