《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-10話「ドラゴンゾンビ」
ケネスはヴィルザハード城についた。以前、学生時代に来たときと同様に、城の周囲は雨が降っていた。時の止められたこの城は、もしやずっと雨が降っているのではないか……と疑うほどだ。
雪こそ降ってはいないものの、空気は凍てついている。こんな寒気のなかを走り抜けてきたのだから、全身が氷になったかのようだった。
「ようやく着いたか」
とヴィルザがまたがっていた馬の尻から離れた。またがっていたとはいっても、本人は浮くことが出来るのだから、チョコンと馬に座っていた程度であったが。
ケネスはボーッとヴィルザの横顔を見つめた。こうしてヴィルザの顔をマジマジと見つめるのも久しぶりのことだ。6年前。一度だけヴィルザを抱いた。肌を重ねて、存在を交わらせた。そのときの鮮烈な記憶がよみがえったせいか、ヴィルザの横顔が異様にうつくしく見えたのだった。これが、愛か、と思った。心臓が壊れるような衝撃もなければ、稲妻に打たれたような響きもない。ジワッと心のなかに広がる。思っていたよりも、ずいぶんと静かな情欲だった。
ヴィルザが顔を城に向けたまま、ギロリと目だけケネスを向いた。
「なんじゃ。久しぶりの再会で、私に見惚れたか?」
「ああ。オレはお前に惚れてるからな」
「よくそんな恥ずかしいことを、堂々と言いよる」
結婚指輪まで買ったのだ。
渡す機会を失ったまま、空白の6年を過ごしてしまった。指輪はポケットの中に居ついている。
「で、ここに来て、どうすれば良いんだ?」
「頼もしい味方がおるはずじゃ」
「は?」
「それ、お出迎えをしてくれるようじゃぞ」
ヴィルザが、ヴィルザハード城の正門のほうをアゴでしゃくった。すると城の中からドラゴンゾンビが猛然と駆けてきた。
「お、おいおい、ヤバいんじゃないのか」
思わず一歩後ずさり。
今のケネスは魔法を使えない。ドラゴンゾンビなんて相手にしていられない。
「あわてることはない。あやつは、コゾウのことを主人だと思うておる」
ヴィルザの言葉通り、ドラゴンゾンビはケネスの前でかしずいた。骨の頭をギコギコと鳴らしている。吟遊詩人の――ユリの使う弦楽器の音色に似てる。こんな雨の日には、とってもお似合いだ。
「あっ」
と、ケネスは声をあげた。
学生時代のことがトウトツにフッと出てきた。ドラゴンゾンビに襲われそうになったことがあった。そのとき、ドラゴンゾンビは不思議とケネスを襲うことはなく、怯えるようにして身を引いたのだ。
「あの時の――」
思い出に触れるようにしてドラゴンゾンビの鼻の先っちょをなぞった。雨に打たれて、冷たくなっていた。骨だからな。アンデッドだからな。冷たくて当たり前だ。
「思い出したか。ここのアンデッドは私が生んだのだ」
「ヴィルザの気配を感じ取ってるってことか」
「そうではない」
と、ヴィルザがかぶりを振る。紅の髪が揺れるさまを見るのも、久しぶりだ。
「じゃあ、どうしてこいつはオレに従順なんだ?」
ケネスの指先がドラゴンゾンビの鼻の頭をナで続ける。ドラゴンゾンビはされるがままになっている。
「私の残滓を感じておるんじゃろう」
「残滓っていうと……これか!」
ケネスは己の右手を《可視化》で見つめた。かつてヴィルザにカラダを奪われそうになったとき、ケネスの右手に魔力の一部を残して消えた。記憶をなくしていても、この魔力は消えていなかったらしい。
「唯一無二の私の魔力じゃからな。ここのアンデッドどもは、コゾウの言うことを聞いてくれるじゃろう」
「アンデッドに、この腕輪を外させるのか?」
「そうではない。アンデッドどもとともに、3国会議に突撃をかける。バートリーを襲い、その腕輪のカギを強奪せよ」
「襲うのか」
「ついでに、《神の遺物》が3点。会議の場にそろっておるはずじゃ。すべて破壊すれば。私の封印解除は、もう目の前じゃ」
「アンデッドを率いて襲うってのは、やってることが、まるで人間の敵だな」
「臆したか?」
くくっ、とケネスは暗く笑う。
「いまさら、ビビったりはしないって。ヴィルザとどう付き合うかは、ずっと考え続けてきたころなんだから。死人は生き返らせてくれるんだろ?」
「うむ」
それに、3つの《神の遺物》を破壊することに成功したとしても、まだ1つの猶予があるのだ。ホントウにヴィルザを復活させても良いのか考える時間が、ないわけではない。
「行くぞ」
ケネスはドラゴンゾンビにまたがった。ドラゴンゾンビは弦楽器のような音を鳴らしながら、空に羽ばたく。続いてガーゴイルたちが地面から跳び出してきた。幽霊たちが浮遊してそれに続く。まるで王の帰還を待ち望んでいたかのような、死者たちの饗宴だった。
雪こそ降ってはいないものの、空気は凍てついている。こんな寒気のなかを走り抜けてきたのだから、全身が氷になったかのようだった。
「ようやく着いたか」
とヴィルザがまたがっていた馬の尻から離れた。またがっていたとはいっても、本人は浮くことが出来るのだから、チョコンと馬に座っていた程度であったが。
ケネスはボーッとヴィルザの横顔を見つめた。こうしてヴィルザの顔をマジマジと見つめるのも久しぶりのことだ。6年前。一度だけヴィルザを抱いた。肌を重ねて、存在を交わらせた。そのときの鮮烈な記憶がよみがえったせいか、ヴィルザの横顔が異様にうつくしく見えたのだった。これが、愛か、と思った。心臓が壊れるような衝撃もなければ、稲妻に打たれたような響きもない。ジワッと心のなかに広がる。思っていたよりも、ずいぶんと静かな情欲だった。
ヴィルザが顔を城に向けたまま、ギロリと目だけケネスを向いた。
「なんじゃ。久しぶりの再会で、私に見惚れたか?」
「ああ。オレはお前に惚れてるからな」
「よくそんな恥ずかしいことを、堂々と言いよる」
結婚指輪まで買ったのだ。
渡す機会を失ったまま、空白の6年を過ごしてしまった。指輪はポケットの中に居ついている。
「で、ここに来て、どうすれば良いんだ?」
「頼もしい味方がおるはずじゃ」
「は?」
「それ、お出迎えをしてくれるようじゃぞ」
ヴィルザが、ヴィルザハード城の正門のほうをアゴでしゃくった。すると城の中からドラゴンゾンビが猛然と駆けてきた。
「お、おいおい、ヤバいんじゃないのか」
思わず一歩後ずさり。
今のケネスは魔法を使えない。ドラゴンゾンビなんて相手にしていられない。
「あわてることはない。あやつは、コゾウのことを主人だと思うておる」
ヴィルザの言葉通り、ドラゴンゾンビはケネスの前でかしずいた。骨の頭をギコギコと鳴らしている。吟遊詩人の――ユリの使う弦楽器の音色に似てる。こんな雨の日には、とってもお似合いだ。
「あっ」
と、ケネスは声をあげた。
学生時代のことがトウトツにフッと出てきた。ドラゴンゾンビに襲われそうになったことがあった。そのとき、ドラゴンゾンビは不思議とケネスを襲うことはなく、怯えるようにして身を引いたのだ。
「あの時の――」
思い出に触れるようにしてドラゴンゾンビの鼻の先っちょをなぞった。雨に打たれて、冷たくなっていた。骨だからな。アンデッドだからな。冷たくて当たり前だ。
「思い出したか。ここのアンデッドは私が生んだのだ」
「ヴィルザの気配を感じ取ってるってことか」
「そうではない」
と、ヴィルザがかぶりを振る。紅の髪が揺れるさまを見るのも、久しぶりだ。
「じゃあ、どうしてこいつはオレに従順なんだ?」
ケネスの指先がドラゴンゾンビの鼻の頭をナで続ける。ドラゴンゾンビはされるがままになっている。
「私の残滓を感じておるんじゃろう」
「残滓っていうと……これか!」
ケネスは己の右手を《可視化》で見つめた。かつてヴィルザにカラダを奪われそうになったとき、ケネスの右手に魔力の一部を残して消えた。記憶をなくしていても、この魔力は消えていなかったらしい。
「唯一無二の私の魔力じゃからな。ここのアンデッドどもは、コゾウの言うことを聞いてくれるじゃろう」
「アンデッドに、この腕輪を外させるのか?」
「そうではない。アンデッドどもとともに、3国会議に突撃をかける。バートリーを襲い、その腕輪のカギを強奪せよ」
「襲うのか」
「ついでに、《神の遺物》が3点。会議の場にそろっておるはずじゃ。すべて破壊すれば。私の封印解除は、もう目の前じゃ」
「アンデッドを率いて襲うってのは、やってることが、まるで人間の敵だな」
「臆したか?」
くくっ、とケネスは暗く笑う。
「いまさら、ビビったりはしないって。ヴィルザとどう付き合うかは、ずっと考え続けてきたころなんだから。死人は生き返らせてくれるんだろ?」
「うむ」
それに、3つの《神の遺物》を破壊することに成功したとしても、まだ1つの猶予があるのだ。ホントウにヴィルザを復活させても良いのか考える時間が、ないわけではない。
「行くぞ」
ケネスはドラゴンゾンビにまたがった。ドラゴンゾンビは弦楽器のような音を鳴らしながら、空に羽ばたく。続いてガーゴイルたちが地面から跳び出してきた。幽霊たちが浮遊してそれに続く。まるで王の帰還を待ち望んでいたかのような、死者たちの饗宴だった。
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