《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-8話「脱走」
隙を見つけて、ガルシアに連絡をとった。ガルシアからの連絡はなく、ホントウにこれで通じているのか不安だった。だが、その日の夜にガルシアはホントウに帝都内で騒ぎを起こした。
騒ぎにまぎれて、縄を準備して、ケネスは厠塔から外郭の上におりたった。外郭からは石段が伸びている。その石段を下り、帝都内に潜りこむことに成功した。あと都市を囲んでいる城壁さえ抜ければ、いちおう脱出することは出来る。監視の目がないので、ようやくヴィルザと話をすることが出来た。
「待たせたな。ヴィルザ」
「ホントウじゃ。このまま思い出さんかったら、どうしようかと思ったわ。無効化のポーションなんかで、やられおってからに」
「今は、見えるな」
ケネスはヴィルザの頬に手をあてがった。その頬にはシッカリとたおやかな肉の感触があった。なつかしい感触にケネスの琴線が震えた。
「コゾウが、私のことを忘れておっただけじゃ。コゾウの目は、無効化のポーションなどで抑えのきくものではないな」
「それってどういう?」
「まぁ良い。無事に監視の目から逃げ出したんじゃ。このままヴィルザハード城まで、駆け抜けろ」
「ンなこと言われても、オレは魔法を使えないんだぜ」
腕を見せつける。
腕輪がはめられている。
「わかっておる。私に考えがある。心配は要らん」
人に見つからないように裏路地を歩いていると、ガルシアが駆けつけてきた。馬に乗っている。馬から跳び下りると、ガルシアはケネスのことを抱きしめてきた。大きな乳房に包まれることになった。
「ガ、ガルシアさんッ……。く、苦しい」
「おっと。すまんな。記憶を取り戻したことがうれしくってな」
と、ガルシアが身を離した。
「すみません。脱走の手助けをしてもらって」
「構わん。私はずっと君の、真のチカラが見たくてウズウズしているのだ。それさえ見ることが出来れば、心残りはない。君のチカラは、魔神ヴィルザハードと関係しているのだろう。いや。君には見えているのかな? 魔神ヴィルザハードが」
この人は、気づいているのだ。
ネックレスによって、今までのケネスがヴィルザに話しかけている声が筒抜けだったなら、気づいていても不思議ではない。
「はい。オレには見ています」
と、正直に答えることにした。
「そして君は、ヴィルザハードの封印を解こうとしている」
「……はい」
魔神ヴィルザハードを復活させるなんて正気の沙汰じゃない。そう怒られるかと思った。けれど、ガルシア・スプラウドという人は、そんな凡庸な思想の持ち主ではなかった。
「スバラシイ!」
と、ガルシアはその青く澄んだ瞳を、燦然と輝く星のようにした。
「は?」
「魔神ヴィルザハードの復活か。私は見てみたい。魔神のチカラというものを。君がヴィルザハード復活を目論んでいるというのなら、私もそれに協力しようではないか」
ガルシアの考えに呆れた。
ヴィルザを復活させようと、ケネスの決心がつくまで、長い時間がかかった。ガルシアはそれを一瞬で導き出してしまったのだ。
「いいんですか? 魔神ヴィルザハードですよ。危険かもしれないんですよ」
「危険だからといって、私が尻込みすると思うかね」
そう言えば、以前にバートリーが言っていた。ガルシアという人は、たとえ世界が危険にさらわれようとも、チカラを求める人だ――と。まさしくその通りだった。
「ケネス!」
裏路地の先から、声がかかった。暗がりのなか、炎を灯して立っていたのはロレンスと帝国騎士たちだった。どうやら、追いかけて来たらしい。
「ロレンスか……」
ケネスは魔法陣を発して構えようとしたけれど、腕輪のせいで魔法陣が発生しなかった。ロレンスが手をさしだしてくる。
「なにしてるんだ。戻るぞ」
「悪いが、オレには行く場所が出来た」
「……まさか、記憶が戻ったのか?」
「ああ」
と、ケネスはうなずく。
魔法で発生している炎によって、ロレンスの顔が照らされている。その顔が険しく歪んだ。
「バートリーさんから聞いた。お前、魔神ヴィルザハードを復活させようとしているらしいな」
「ああ」
「どうして、そんな危険なことをするんだよ」
「理解してもらおうとは思わないさ」
ケネスとヴィルザの関係は、誰にも理解されることはない。これは罪人と騎士のような、貧民と皇女のような、他人に打ち明けることの出来ない関係なのだ。
秘密だからこそ、毒の味がある。背徳的だからこそ、甘美に満ちている。ヴィルザとの関係は、そんな美しい毒に満ちていた。ケネスはだから、酔いしれてしまったのかもしれない。
「ああ。理解できないね。魔神ヴィルザハードを復活させるなんて。どこに行くつもりなのかは知らないが、城に戻ってもらうぞ」
ロレンスが魔法陣を発した。
「ふむ。我が愚弟の相手は、私が相手になろうか」
ガルシアが、ケネスをかばうように一歩前に出る。
「ガルシアさん……」
「モタモタしていると増援が来るぞ。私の乗ってきた馬がある。それで逃げるが良い。ただし、ちゃんと私に見せてくれよ。復活した魔神の魔法というものを」
「はい」
この場をガルシアにまかせて、ケネスは馬にまたがった。向かう先はヴィルザハード城だ。
騒ぎにまぎれて、縄を準備して、ケネスは厠塔から外郭の上におりたった。外郭からは石段が伸びている。その石段を下り、帝都内に潜りこむことに成功した。あと都市を囲んでいる城壁さえ抜ければ、いちおう脱出することは出来る。監視の目がないので、ようやくヴィルザと話をすることが出来た。
「待たせたな。ヴィルザ」
「ホントウじゃ。このまま思い出さんかったら、どうしようかと思ったわ。無効化のポーションなんかで、やられおってからに」
「今は、見えるな」
ケネスはヴィルザの頬に手をあてがった。その頬にはシッカリとたおやかな肉の感触があった。なつかしい感触にケネスの琴線が震えた。
「コゾウが、私のことを忘れておっただけじゃ。コゾウの目は、無効化のポーションなどで抑えのきくものではないな」
「それってどういう?」
「まぁ良い。無事に監視の目から逃げ出したんじゃ。このままヴィルザハード城まで、駆け抜けろ」
「ンなこと言われても、オレは魔法を使えないんだぜ」
腕を見せつける。
腕輪がはめられている。
「わかっておる。私に考えがある。心配は要らん」
人に見つからないように裏路地を歩いていると、ガルシアが駆けつけてきた。馬に乗っている。馬から跳び下りると、ガルシアはケネスのことを抱きしめてきた。大きな乳房に包まれることになった。
「ガ、ガルシアさんッ……。く、苦しい」
「おっと。すまんな。記憶を取り戻したことがうれしくってな」
と、ガルシアが身を離した。
「すみません。脱走の手助けをしてもらって」
「構わん。私はずっと君の、真のチカラが見たくてウズウズしているのだ。それさえ見ることが出来れば、心残りはない。君のチカラは、魔神ヴィルザハードと関係しているのだろう。いや。君には見えているのかな? 魔神ヴィルザハードが」
この人は、気づいているのだ。
ネックレスによって、今までのケネスがヴィルザに話しかけている声が筒抜けだったなら、気づいていても不思議ではない。
「はい。オレには見ています」
と、正直に答えることにした。
「そして君は、ヴィルザハードの封印を解こうとしている」
「……はい」
魔神ヴィルザハードを復活させるなんて正気の沙汰じゃない。そう怒られるかと思った。けれど、ガルシア・スプラウドという人は、そんな凡庸な思想の持ち主ではなかった。
「スバラシイ!」
と、ガルシアはその青く澄んだ瞳を、燦然と輝く星のようにした。
「は?」
「魔神ヴィルザハードの復活か。私は見てみたい。魔神のチカラというものを。君がヴィルザハード復活を目論んでいるというのなら、私もそれに協力しようではないか」
ガルシアの考えに呆れた。
ヴィルザを復活させようと、ケネスの決心がつくまで、長い時間がかかった。ガルシアはそれを一瞬で導き出してしまったのだ。
「いいんですか? 魔神ヴィルザハードですよ。危険かもしれないんですよ」
「危険だからといって、私が尻込みすると思うかね」
そう言えば、以前にバートリーが言っていた。ガルシアという人は、たとえ世界が危険にさらわれようとも、チカラを求める人だ――と。まさしくその通りだった。
「ケネス!」
裏路地の先から、声がかかった。暗がりのなか、炎を灯して立っていたのはロレンスと帝国騎士たちだった。どうやら、追いかけて来たらしい。
「ロレンスか……」
ケネスは魔法陣を発して構えようとしたけれど、腕輪のせいで魔法陣が発生しなかった。ロレンスが手をさしだしてくる。
「なにしてるんだ。戻るぞ」
「悪いが、オレには行く場所が出来た」
「……まさか、記憶が戻ったのか?」
「ああ」
と、ケネスはうなずく。
魔法で発生している炎によって、ロレンスの顔が照らされている。その顔が険しく歪んだ。
「バートリーさんから聞いた。お前、魔神ヴィルザハードを復活させようとしているらしいな」
「ああ」
「どうして、そんな危険なことをするんだよ」
「理解してもらおうとは思わないさ」
ケネスとヴィルザの関係は、誰にも理解されることはない。これは罪人と騎士のような、貧民と皇女のような、他人に打ち明けることの出来ない関係なのだ。
秘密だからこそ、毒の味がある。背徳的だからこそ、甘美に満ちている。ヴィルザとの関係は、そんな美しい毒に満ちていた。ケネスはだから、酔いしれてしまったのかもしれない。
「ああ。理解できないね。魔神ヴィルザハードを復活させるなんて。どこに行くつもりなのかは知らないが、城に戻ってもらうぞ」
ロレンスが魔法陣を発した。
「ふむ。我が愚弟の相手は、私が相手になろうか」
ガルシアが、ケネスをかばうように一歩前に出る。
「ガルシアさん……」
「モタモタしていると増援が来るぞ。私の乗ってきた馬がある。それで逃げるが良い。ただし、ちゃんと私に見せてくれよ。復活した魔神の魔法というものを」
「はい」
この場をガルシアにまかせて、ケネスは馬にまたがった。向かう先はヴィルザハード城だ。
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