《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-3話「テロリスト」
『そこを右』『そこを左』……幻聴は、ケネスに道順を教えた。
複雑な裏路地を潜りこんで行ったさきにフードをかぶった女性が、壁にもたれかかっていた。フードからは、プラチナブロンドの髪がこぼれ落ちていた。そこでフッとケネスの周囲に漂っていたなつかしい雰囲気が消えた。
フードの女性が顔を上げる。
「あ……」
と、ケネスは声をあげた。
絶賛指名手配中のテロリスト。ガルシア・スプラウドがそこにいた。数えればガルシアの年齢は34、5歳あたりのはずだった。けれど、相変わらずの美貌を保っていた。ただ少しだけ、痩せたように見える。ガルシアは追われているはずなのだが、微塵も動揺することなくニッと笑った。
「君か。ケネス」
「お久しぶりです」
と、ケネスもガルシアを捕えてやろうという気概がなくて、滑稽にも会釈をした。
「記憶は、大丈夫か?」
「え?」
「皇帝陛下が崩御されてから、皇位継承争いがはじまった。私は第一皇女側について、今やテロリスト扱いだ。君にも第一皇女側についてもらいたかったよ」
「すみません」
頭が痛くなってくる。たしかケネスは第一皇女側につくことを約束したはずだ。なぜ、第一皇子側――つまりバートリーの側に立っているのか。思い出せない。
「君が謝ることはない。調べはついているのだ」
バートリーが歩み寄ってくる。
美しきテロリストからは不思議と敵意が感じられず、ケネスも身構えることはなかった。
「私の不手際でもあった。むしろ、謝るのは私のほうかもしれない」
「なんのことです?」
「今から6年前。君がハーディアル魔術学院を卒業したとき、君は帝都の闘技大会に出場するはずだった。しかし、君は行方知れずとなったのだ。あの時にはもうバートリーに囚われていたのだ」
「あまり、覚えてなくて……」
「記憶をイジられたのだ。きっとバートリーは君のチカラを怖れたのだろう。しかし、記憶を捻じ曲げてまで、君のことを手元に置いておくとはな」
「なにを、言ってるんです?」
「私はまだ以前の君を忘れられない。またあの、禍々しいチカラを見せてもらわねば困る。私の満足するケネス・カートルドに戻ってもらわねばな」
ガルシアの手の平が、ケネスの頬に触れた。
しかし、そのとき。
「おい、大丈夫か! コラッ」
と、サマルたちが駆けつけてきたので、ガルシアは大きく後ろに跳びずさった。
『単独先行はダメって言ったはずだけど?』
クロノがじっとりと粘着質な目で見つめてきた。もともとクロノは眠たげな目をしているので、睨むような迫力はないが、湿り気を帯びた目には特殊な威圧感があった。
「別に単独先行ってわけじゃないですよ。歩いてたら、偶然出会ったんです」
幻聴に、誘われたのだ。
クロノとサマルが前衛。
ケネスとロレンスが後衛。
それがもともと決めていた陣形だった。クロノとサマルの2人は土系魔法を使う。クロノの至っては、その上位魔法である鉄の系統を好んでよく使う。《鉄面》という二つ名まで持っている。
しかし――。
1人、配置を無視して跳び出した。
ロレンスだ。
「火系基礎魔法《火球》」
火系をあつかう魔術師にとって、もっとも汎用性の高い魔法。ケネスも愛用している。ロレンスは5つの火球をつくって、ガルシアにブツけた。
「水系基礎魔法《水壁》」
ガルシアの前に、水の壁が立ちはだかる。ロレンスの放った火球が、すべてジュッと音をたてて鎮火された。水の壁が消え去ったときに、ガルシアの姿は消えていた。声だけが残る。
「必ず迎えに行く。待っていろ。いつも君の声は、聞いている」
声は裏路地を反響していたけれど、いったい誰に向けられた言葉なのかは明白だった。
複雑な裏路地を潜りこんで行ったさきにフードをかぶった女性が、壁にもたれかかっていた。フードからは、プラチナブロンドの髪がこぼれ落ちていた。そこでフッとケネスの周囲に漂っていたなつかしい雰囲気が消えた。
フードの女性が顔を上げる。
「あ……」
と、ケネスは声をあげた。
絶賛指名手配中のテロリスト。ガルシア・スプラウドがそこにいた。数えればガルシアの年齢は34、5歳あたりのはずだった。けれど、相変わらずの美貌を保っていた。ただ少しだけ、痩せたように見える。ガルシアは追われているはずなのだが、微塵も動揺することなくニッと笑った。
「君か。ケネス」
「お久しぶりです」
と、ケネスもガルシアを捕えてやろうという気概がなくて、滑稽にも会釈をした。
「記憶は、大丈夫か?」
「え?」
「皇帝陛下が崩御されてから、皇位継承争いがはじまった。私は第一皇女側について、今やテロリスト扱いだ。君にも第一皇女側についてもらいたかったよ」
「すみません」
頭が痛くなってくる。たしかケネスは第一皇女側につくことを約束したはずだ。なぜ、第一皇子側――つまりバートリーの側に立っているのか。思い出せない。
「君が謝ることはない。調べはついているのだ」
バートリーが歩み寄ってくる。
美しきテロリストからは不思議と敵意が感じられず、ケネスも身構えることはなかった。
「私の不手際でもあった。むしろ、謝るのは私のほうかもしれない」
「なんのことです?」
「今から6年前。君がハーディアル魔術学院を卒業したとき、君は帝都の闘技大会に出場するはずだった。しかし、君は行方知れずとなったのだ。あの時にはもうバートリーに囚われていたのだ」
「あまり、覚えてなくて……」
「記憶をイジられたのだ。きっとバートリーは君のチカラを怖れたのだろう。しかし、記憶を捻じ曲げてまで、君のことを手元に置いておくとはな」
「なにを、言ってるんです?」
「私はまだ以前の君を忘れられない。またあの、禍々しいチカラを見せてもらわねば困る。私の満足するケネス・カートルドに戻ってもらわねばな」
ガルシアの手の平が、ケネスの頬に触れた。
しかし、そのとき。
「おい、大丈夫か! コラッ」
と、サマルたちが駆けつけてきたので、ガルシアは大きく後ろに跳びずさった。
『単独先行はダメって言ったはずだけど?』
クロノがじっとりと粘着質な目で見つめてきた。もともとクロノは眠たげな目をしているので、睨むような迫力はないが、湿り気を帯びた目には特殊な威圧感があった。
「別に単独先行ってわけじゃないですよ。歩いてたら、偶然出会ったんです」
幻聴に、誘われたのだ。
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それがもともと決めていた陣形だった。クロノとサマルの2人は土系魔法を使う。クロノの至っては、その上位魔法である鉄の系統を好んでよく使う。《鉄面》という二つ名まで持っている。
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1人、配置を無視して跳び出した。
ロレンスだ。
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