《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8-1話「なくした記憶」
「あなたの名前は?」
石造りの一室。木造のイスとテーブルとベッドが置かれている。テーブルの上には、いくつものダガーが散乱している。ベッドのシーツはわずかに黄ばんでいる。壁面には呪術が施されており、夏場には冷気が、冬場には熱気が放出される。今は熱気が放出されており、室内を暖めていた。部屋のすみには木樽が置かれてあり、大量の縄が詰め込まれている。
「ケネス・カートルドです」
ケネスは薄っすらを生えているアゴヒゲをナでながら答えた。問いかけているのは、バートリーだ。毎朝、ケネスに同じ質問をブツけてくる。
「経歴をお答えください」
「19歳のときハーディアル魔術学院を卒業。帝国軍人に入隊して6年。現在は25歳。バートリーさんのもと、小隊長クロノのもとで魔術部隊やらせてもらってます」
「けっこうです」
「これ、なんか意味あるんですか?」
「いえ。健康管理のようなものですから、お気になさらず」
「でも、この質問されるのオレだけって聞いたんですけど」
「《帝国の劫火》。それだけ期待しているってことです。余計なことは考えなくて大丈夫ですよ」
「そうですか」
ケネスは自分のことが、よくわからない。ときおり記憶が混濁することがある。毎朝バートリーの質問に答えることで、自分の存在を認識することが出来る。もともとFランク冒険者だったケネスは、帝国軍人に憧れて入隊した――らしい。
軍に入るまでには、ハーディアル魔術学院で魔法の鍛錬を積んで、首席で卒業した――らしい。そして《帝国の劫火》と呼ばれて、目覚ましい活躍をした――らしい。
らしい、らしい、らしい……。たしかにその通りなのだが、どうにもハッキリとしないのだ。いや。記憶は鮮明だ。たしかにその通りの人生を歩んできた。ただ、何か、欠けている気がする。大切な何か……。
「良いですよ。クロノ小隊長が、あなたのことを待っています」
「はい。失礼します」
部屋を出ようとすると、バートリーに止められた。
「外套の襟が服のなかに入り込んでいますよ」
バートリーはそう言うと、ケネスの外套を正してくれる。女性の指先が、ケネスのウナジあたりをくすぐって心地良かった。
「失礼します」
と、今度こそ部屋を出た。
トビラを開けると、外の寒気が押し寄せてくる。雪がちらついている。ケネスを身をぶるっと震わせた。
淡雪のかぶさる練兵場を迂回して、主城門を抜けると、クロノ小隊の隊員たちが待っていた。隊長はクロノ・エヴァグ。かつての生徒会長だ。いまでもケネスはクロノのことを生徒会長と呼んでいる。副隊長はサマル・キード。そして、部隊員はケネスとロレンスの2人だった。都合4名の編成となる。
「また今朝も、バートリー長官とイチャイチャしてたのかよ」
と、ロレンスが揶揄してくる。
「イチャイチャしてるわけじゃない。毎朝毎朝同じ質問ばっかり。どこで生まれたとか、名前は何かとか」
「お前のこと心配してくれてるんだろうさ。なにせ目覚ましい活躍だからな。帝国が落ちついたら、爵位授与だってされることだろうさ」
「爵位には興味ないけどな。でも……」
ケネスは外套から銀色の輪をとりだした。指輪だ。気が付くと持っていた。何か、大切なもののような気がして、片時も離さず持っている。ペアになっている指輪。
「またそれか」
「結婚指輪なんだ。でも、誰にあげる予定だったのか、覚えてない。誰にもらったのかも、わからない」
その記憶が、スッポリ抜けているのだ。
「結婚相手を忘れるなんて、そんなことあるわけねェだろ。考えられるとすれば、帝国アイドルのユリ姫ちゃんか」
「ユリか……」
学院にいたときは、生徒会として一緒に活動していた。ユリだけは帝国軍人にならずに、いまだ吟遊詩人を続けているようだ。ときおり《通話》で話すこともある。が、結婚相手とは思えない。ケネスのなかに、ユリにたいする恋愛感情は皆無だった。
「他に考えられるとすれば、バートリー魔法長官かな」
「バートリーさんか」
それもすこし違う気がする。
バートリーからは、たしかに情念のようなものを覚える。しかし、どうもシックリ来ない。
『作戦を説明する』
と、クロノが紙を広げた。
石造りの一室。木造のイスとテーブルとベッドが置かれている。テーブルの上には、いくつものダガーが散乱している。ベッドのシーツはわずかに黄ばんでいる。壁面には呪術が施されており、夏場には冷気が、冬場には熱気が放出される。今は熱気が放出されており、室内を暖めていた。部屋のすみには木樽が置かれてあり、大量の縄が詰め込まれている。
「ケネス・カートルドです」
ケネスは薄っすらを生えているアゴヒゲをナでながら答えた。問いかけているのは、バートリーだ。毎朝、ケネスに同じ質問をブツけてくる。
「経歴をお答えください」
「19歳のときハーディアル魔術学院を卒業。帝国軍人に入隊して6年。現在は25歳。バートリーさんのもと、小隊長クロノのもとで魔術部隊やらせてもらってます」
「けっこうです」
「これ、なんか意味あるんですか?」
「いえ。健康管理のようなものですから、お気になさらず」
「でも、この質問されるのオレだけって聞いたんですけど」
「《帝国の劫火》。それだけ期待しているってことです。余計なことは考えなくて大丈夫ですよ」
「そうですか」
ケネスは自分のことが、よくわからない。ときおり記憶が混濁することがある。毎朝バートリーの質問に答えることで、自分の存在を認識することが出来る。もともとFランク冒険者だったケネスは、帝国軍人に憧れて入隊した――らしい。
軍に入るまでには、ハーディアル魔術学院で魔法の鍛錬を積んで、首席で卒業した――らしい。そして《帝国の劫火》と呼ばれて、目覚ましい活躍をした――らしい。
らしい、らしい、らしい……。たしかにその通りなのだが、どうにもハッキリとしないのだ。いや。記憶は鮮明だ。たしかにその通りの人生を歩んできた。ただ、何か、欠けている気がする。大切な何か……。
「良いですよ。クロノ小隊長が、あなたのことを待っています」
「はい。失礼します」
部屋を出ようとすると、バートリーに止められた。
「外套の襟が服のなかに入り込んでいますよ」
バートリーはそう言うと、ケネスの外套を正してくれる。女性の指先が、ケネスのウナジあたりをくすぐって心地良かった。
「失礼します」
と、今度こそ部屋を出た。
トビラを開けると、外の寒気が押し寄せてくる。雪がちらついている。ケネスを身をぶるっと震わせた。
淡雪のかぶさる練兵場を迂回して、主城門を抜けると、クロノ小隊の隊員たちが待っていた。隊長はクロノ・エヴァグ。かつての生徒会長だ。いまでもケネスはクロノのことを生徒会長と呼んでいる。副隊長はサマル・キード。そして、部隊員はケネスとロレンスの2人だった。都合4名の編成となる。
「また今朝も、バートリー長官とイチャイチャしてたのかよ」
と、ロレンスが揶揄してくる。
「イチャイチャしてるわけじゃない。毎朝毎朝同じ質問ばっかり。どこで生まれたとか、名前は何かとか」
「お前のこと心配してくれてるんだろうさ。なにせ目覚ましい活躍だからな。帝国が落ちついたら、爵位授与だってされることだろうさ」
「爵位には興味ないけどな。でも……」
ケネスは外套から銀色の輪をとりだした。指輪だ。気が付くと持っていた。何か、大切なもののような気がして、片時も離さず持っている。ペアになっている指輪。
「またそれか」
「結婚指輪なんだ。でも、誰にあげる予定だったのか、覚えてない。誰にもらったのかも、わからない」
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「結婚相手を忘れるなんて、そんなことあるわけねェだろ。考えられるとすれば、帝国アイドルのユリ姫ちゃんか」
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