《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第6-4話「学院祭 Ⅳ」

「コゾウ。ハーレムじゃな」



 ケネスは相変わらず、冷めた態度で校舎の壁にもたれかかっていた。隣でプカプカ浮かんでいるヴィルザが揶揄するように言った。



「ハーレム?」



「今のテイラとかいう小娘。ケネスとチョットしゃべっただけで、顔を真っ赤にしていたではないか」



「あれは、照れてたのかな?」



「そうであろう。久しぶりに会ったら、スッカリ良い男になっておって、緊張したんじゃろうな。まぁ、ケネスを他の女にゆずる気など、私には毛頭ないがな」



「オレも、いまさら他の女性と付き合いたいなんて、思わないよ」



 この魔神だけで、手一杯だ。



 ケネスだって男なのだから、異性に好かれると、そりゃうれしい。うれしいけれど、何か物足りないと感じてしまうのだ。ヴィルザと比べると、どんな女性も一時の付き合いでしかない。その点、ヴィルザはケネスの半身のようなものだ。情のつながりかたが違う。



 ぐぬっ、と今度はヴィルザが顔を赤らめていた。無自覚な発言だったが、このセリフがヴィルザにはなかなか効いたらしい。



「なかなか言うようになったではないか」
「でも、ハーレムってほどじゃないだろ」



「コゾウのことを好いている女は、他にもおろう。ガルシア・スプラウドに、ヘッケラン・バートリー。それにあの、フィント・フーリンとかいう女も脈ありじゃと思うがな。ウワサをすれば、ほれ――」
 と、ヴィルザがアゴをしゃくった。



「なんだ?」
 アゴの先に目をやる。



 プラチナブロンドの髪をなびかせて、歩くその場から花弁吹き荒れるような気品あふれる女性が、威風堂々たる態度で歩いている。ガルシア・スプラウドその人だ。さすが魔法長官の顔は周囲に知れ渡っており、チョットした騒ぎになっていた。



『おい、あれって』
『間違いねェ。帝国魔法長官のガルシア・スプラウドさんだ』
『ウソだろ? 学園祭に来てくださったのか?』
『あっちのほうに歩いて行くぞ』



 周囲の視線を惹きつけたまま、ガルシアはケネスのもとに歩いてきた。さすがにガルシアの前で煙草を吸う度胸はない。ケネスはあわててシケモクをポケットに突っ込んだ。背筋を正す。



「久しぶりだな。ケネス」
「ガルシアさんは、また一段とおキレイになりましたね」



 お世辞ではない。素直にそう思ったから、自然と口を吐いたのだった。三十路前のはずだが、年を重ねるたびに若々しくなっているように思われる。凄みすら感じられるその容色に、磨きがかかっている。一時は短くバッサリと切っていた髪も、ふたたび伸びはじめている。ガルシアの白い肌に朱がさしこんだ。



「君にホめてもらえるとは、光栄だ」
「光栄だなんて……」



 大勢の人たちが、ケネスとガルシアたちを見ていた。あからさまに見ている者もいれば、何気なく気にしている人たちもいる。帝国魔法長官と《帝国の劫火》のヤリトリが気になるのだろう。



「ケネスは背が伸びたな。以前に見たときは、私より低かったはずだが」
 と、詰め寄ってくる。



 ホントウだ。
 いつの間にか、ケネスがガルシアを見下ろす背丈になっていた。つい数年前までガルシアのことが猛々しくも美しい女性に見えた。今は、そこにすこし可憐さが加わったように思われる。自分より小さいので、そう見えるのかもしれない。



 顔と、顔が近い。
 気づけば鼻先が触れ合うほどの距離にあった。



 気恥ずかしい沈黙になったので、
「今日は学院祭に?」
 と、ケネスは問いかけて、一歩下がった。



 そのお祭り騒ぎが、ずっと校庭では続いている。ガルシアもチラリとそっちの方向に目をやっていた。



「うむ……いや、それもあるが、君と話をしようと思ってな。ケネスに伝えておきたいことがあったのだ」



「なんです?」



「第一皇女――ルキサ・リ・デラルさまが、ケネスにぜひ会いたいと言っておられるのだ。会ってもらってやれんだろうか?」



「第一皇女さま――ですか」



 ついさきほど、クロノから忠告をいただいたところだ。第一皇子と第一皇女の派閥争いが背景にあるのだろう。そのことを考えていると、まさにガルシアはそのことを口にした。



「あまり公にはされていないが、皇帝陛下の体調が芳しくない。それに合わせたかのように、帝国は二分しはじめている」



「第一皇女派か、第一皇子派か、ってことですか」



「その通りだ。私は第一皇女派についている。もともと帝国魔術師部隊を編制したのは、第一皇女さまの働きが大きいこともあるからな。君にも第一皇女派についてもらいたいのだ」
 と、ガルシアは詰め寄ってきた。



 顔が近い。
 ヴィルザとは正反対の、水晶のような青い瞳に吸い込まれそうになる。



「即決はしかねますよ。オレは政治のことは詳しくないですし、どちらがどういう思想を持っているのかも、わかりません」



「たしかに互いのプロパガンダや、互いの功績をここで語るのは難しい。ただ、ひとつだけ言えることがある」
 と、ガルシアはそこで区切った。



「なんです?」
「第一皇女さまは、ケネスのファンなのだ」
「ファン?」
 すぐには意味を理解しかねた。



「帝都を襲撃してきたゲヘナ・デリュリアスのときから、第一皇女さまは、ケネスのことが気にかかっていたようだ。早くケネス・カートルドを軍に招き入れろ、と私は日々うるさく言われているのだ」
 と、ガルシアは苦笑した。



「第一皇女さまが、どうしてオレのことをご存知なんです?」



「そりゃ、君の戦果は有名じゃないか。ゲヘナ・デリュリアスから帝都を救ったことは、あまり知られていないが、それに関しては、私から第一皇女さまに報告してある。特に、単身で王国領にもぐりこんで、バートリーやフーリンを救い出してくれたことは、有名な話だ」



 一国の皇女。しかも、次期皇位継承権を争うぐらいの人ならば、ケネスの動向が耳に入っていても不思議ではない。しかし、ケネスにとっては、雲の上の人だ。そんな人が自分のことを知っている、あまつさえファンだというのは、現実離れしており、実感がわいてこなかった。



 顔も見たことがないのだ。
 見る機会も、ほとんどない。



「それで第一皇女さまに会うには、帝都に行けば良いですか?」



 ガルシアの表情がやわらいだ。



「いや。君に会いたいと言って、じきじきに来ておられる」



「え! 第一皇女さまが?」



 思わず声を大きくしてしまい、しーっ、とガルシアに注意された。すみません、と謝っておいた。



「もちろんお忍びだ。知られると騒ぎになるからな。第一皇女さまは本校舎のほうにおられる。一緒に来てはくれまいか? その間に話しておきたいこともある」



「わかりました」



 政治のことなんか興味はないし、どちらの側につくのも、そんなに変わりないだろうと思った。



 クロノたちも第一皇子の側についていると言っていたが、わざわざケネスに会いに来てくれているというなら、その第一皇女とやらは、悪い人ではないだろうと思った。

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