《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第5-19話「ヴィルザハード城 Ⅳ」

 続けてヴィルザハード城を歩いた。ユリは気絶しているし、ケネスとヴィルザのあいだには、ギクシャクとしたものがあった。頬を叩いたり、愛の告白をしたりしてしまったせいだ。



「しかし、少ない」
 と、ヴィルザが呟いた。



「え?」



「アンデッドが少ない。もっとあふれかえるほど、おったはずなんじゃが」



 言われてみれば、まだ一度もアンデッドに遭遇していない。



「ヴィルザの時代とは、もうだいぶ時間が経過してるんだから、数が減っちゃったんじゃないか?」



「アンデッドどもは、自然増殖しやがる。減るということはないと思うがなぁ。それにこの城の時間は、止まったままのはずじゃ」



「じゃあ、誰かに処理されたとか? もしかすると学院の先生たちが、片付けたのかも。生徒が期末テストに使うから」



「そうであろうな。先に誰かが、城のなかを荒らした気配がある」




 ヴィルザの白いはずの左頬が、真っ赤に腫れているので、ケネスは罪悪感にかられた。



「その……悪かったな。いきなりビンタしてさ」



「なんじゃ、まだ気にしておるのか。私がそれほど小さな器に見えるのか?」



 泰然と振る舞ってはいるが、さっきからときおり頬をさすっている。気にしてるのだろうと思う。



「告白するなら、もっとやり方を考えるべきだった」



「くはははッ。たしかにな。ビンタして告白なんて、聞いたこともないわ。どうせ女を口説いたこともないんじゃろう」



 うりうり、と肘で腰のあたりを小突いてくる。



「わ、悪かったな!」



「チッと大人になったと思うておったが、やはりまだまだ子供。ここは私が立派な男にしてやらんといかんなぁ」



 ヴィルザはそう言うと、ふわりと浮かんで、ケネスの正面に回った。可憐なカンバセが、ケネスの目の前にあらわれた。



 そして――。
 その桜色の唇が、やわらかく、ケネスの唇に押し当てられた。



「ん……」



 心臓がドクンと跳ねる。ずっと忘れていた感覚だった。まるで思春期の少年が、好きな女の子と会話をするときみたいな、青い緊張が心臓をキュと縛り上げた。



 そのとき久しぶりに、ケネスは自分が17歳であることを思い出した。大きな悲劇が、ケネスの心をムリに大人に成長させていた。ヴィルザのキスは魔法みたいに、ケネスのそのムリに大人ぶった心を、子供に戻してしまったかのようだ。



 ヴィルザの甘い唇が軽くケネスの下唇を甘噛みしてきた。ケネスはされるがままだった。酩酊しているあいだに、ヴィルザの唇が離れていった。



「下手くそじゃな」



「仕方ないだろ。はじめてだ。キスなんてしたの」



 あやうく背負っているユリのことを落としてしまいそうだった。ユリを背負っているのに……と思うと、背徳感もあった。



 唇に残っている余韻を、ひそかに舌でなめとった。甘い。蕩けそうな味がした。トテモ血と肉を好む魔神の味とは思えなかった。



「今はまだ、これぐらいでカンベンしておいてやる。もう少し男らしくなったら、大人のキスを教えてやる」



「な、なんだよ、大人のキスって」
「顔が赤いぞ」
「うっ」



「くはははッ。まだまだ私のタナゴコロの上じゃな。安心せい。顔はいつもどおりの間抜け面じゃ」



「ッたく、純情な男心をからかいやがって」



 そう強がってみたけれど、このときはじめて、ケネスは敗北感に襲われていた。ヴィルザにはゼッタイに勝てない。ずっと尻に敷かれ続けるだろうという敗北感だった。



 ふふっ、とヴィルザは艶っぽく笑った。
 大人の女性に見えてドキッとした。



「以前にも一度、私に説教してきた者があったことを思い出したわ。聞く耳など持たんかったがな」



「誰か、良い男がいたのか?」



 わずかな嫉妬心をもって、そう問うた。正直、ヴィルザが処女だとは思っていない。きっと何人かの男との経験があるだろうと感じる。でも、そんなことに嫉妬するのは、筋違いかもしれない。なにせ相手は人ではないのだ。神様なのだ。



「8大神の1人に、アースアースという者がおるじゃろう」



「大地の神か」



「うむ。8大神のなかでは、弱腰なヤツでな。人間を痛めつけるのはダメなことなのだと、最後まで私を説得し続けた。最後というのは、私と8大神が戦い合うことになるまで――な」



「恋仲だったのか?」



「そんなんではないわ。8大神はみんな兄弟姉妹のようなものであるからな」



「それもそうか」



「結局、8大神は私が粉砕して、私自身は封印されることになったわけじゃが、アースアースのことは、ときおり懐かしく思うこともある」
 ヴィルザの表情がめずらしく、寂しげだった。



 こういうときに何か言葉をかけてやるのが男というものなのかもしれないが、ケネスには何も思いつかなかった。「オレがついてる」とか「昔のことなんて、忘れろよ」とか、月並みなセリフが脳裏をよぎった。どれも気障で、ブシツケなような気がした。そんなケネスの内心を、ヴィルザは見透かしたようだった。



「良い男になるには、あと10年はかかりそうじゃな」



「ウルサイ」
 歩みを進めることにした。

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