《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第5-18話「ヴィルザハード城 Ⅲ」

 巨大な城だが、道に迷うことはなかった。ヴィルザが案内してくれるからだ。城主が案内してくれるのだから、迷うはずがない。



 石造りなのはハーディアル魔術学院と同じだが、内装は大きく違っている。ところどころに、人間のシャレコウベを飾っていたり、髪の毛と思われるものが、天井から吊るされたりしていた。なにより、光量がすくない。外が雨だからというのもあるが、極端に窓がすくないのだ。あったとしても、小さな窓で、しかも外側に鉄格子がついている。



「なんで内側に鉄格子がついてるんだ? 防衛のためか?」



 さあ、どうしてでしょう――とユリが首をかしげている。ユリには聞こえぬ声で、ヴィルザが説明してくれる。



「そりゃ、捕えた人間どもを逃さぬためじゃ」
 なんでもないことのようにヴィルザが言った。



「あー。はいはい。そういうヤツね」
 と、ケネスは納得した。



 この城は外からの襲撃に備えているようなものは、ひとつもない。内側の獲物を逃がさぬように、そして痛めつけるものばかり置かれている。ヴィルザの残酷な色に染め上げられている。ヴィルザの臓物のなかに入っている気分だった。あながち、間違いでもない。ここはヴィルザハード城。まさしくヴィルザの腹の内なのだ。



「まさに、恐怖の魔王城ってわけか」



「おう、ここに人間どもを閉じ込めておったのを、よく覚えておる」



 広間に入った。
 左右に甲冑が建ち並んでいる。みんな一様にロングソードを天に掲げるようにしていた。右にいる甲冑と左にいる甲冑が、剣を交わらせて、アーチ状の道をつくっている。



 その部屋のかたすみに巨大な牢獄があった。もうかなり古いものなのだろうが、異様に生臭かった。思わず息を止めたほどだ。死の臭いだ。血と肉の臭いだ。



「あー。懐かしい……。またあの頃に戻りたくなってきたわ」
 と、ヴィルザは恍惚と呟いていた。



 甲冑たちの剣がつくるアーチ状の道を進んだ。まるで王様にでもなった気分だ。さしずめ死者の国の王といったところか。その道の先には、巨大なイスが置かれていた。フジツボがごとくビッシリとシャレコウベを張りつけている。それが限界だったのか、「あぅ」とユリが気絶してしまった。刺激が強すぎたのかもしれない。ケネスはユリのことを背負うことにした。



「これが玉座。私の席じゃ。こうして座っておった」



「ここに座って、檻にいれた人間たちを見てたわけか」



「よくわかったな。人間どもの口をな、糸で縫いつけて、ここで拷問して楽しんでおった。悲鳴を聞くのもそれはそれで楽しいが、口を縫い付けるのも一興であったぞ」



「ヴィルザ」
「なんじゃ?」



「ちょっとこっち来い」
「だから、なんじゃ?」



 ヴィルザは胡乱な表情で、ケネスのすぐ近くまで歩いてきた。その無防備な白い頬を、ケネスは思い切り引っぱたいた。



 バシンッ。と痛々しい音が響いた。はたしてその音は、ケネスにしか聞こえないものなのか、それとも、他の者にも聞こえる音だったのかは、わからない。



「う、うぇ?」
 と、ヴィルザは間の抜けた声を出した。そういうあどけない顔をしているときは、ホントウに愛らしい。



「痛いだろ」



「う、うむ。痛いに決まっておるだろうが、急に叩くからビックリしたではないか」
 ヴィルザは頬を手でおさえていた。



「拷問もな。されるほうは痛いんだ。だから、人を痛めつけるのはもうやめろよ」



「なんじゃ、一人前に私に説教するつもりか? あのヘッピリ腰のケネスが、ずいぶんと偉くなったものではないか」



 叩かれてビックリした顔をしていたが、すぐに不敵な笑みを取り戻していた。



「オレは、ヴィルザの封印を解くつもりだ。残り6つだろ。そんなに遠い話じゃない」



「うむ」



「でも、そんなに人を痛めつけるのが好きなら、封印を解くことは出来ない。オレだって、世界をメチャクチャにして、人間を痛めつけるようなヤツの封印を解くことは憚られるものがある」



「私にどうしろと言うのだ」



「人が困るようなことをするのはやめろ。拷問とか、世界征服とか」



「……」



 ヴィルザは下唇を噛みしめて、軽くうつむいていた。紅蓮に光る双眸だけが、ケネスのことをジッと見つめていた。いや。睨みあげていた。



 薄暗闇の中で光るその瞳には、本気の殺意がたぎっていた。叩かれたことで、怒ったのだろう。殺してやろうと思っているのかもしれない。でも、ヴィルザにはケネスは殺せない。ケネスを殺せば、ヴィルザは孤独になる。封印を解くことも出来なくなる。



「ハッキリ言うがな。ヴィルザ」
「なんじゃ。まだ何かあるのか」
「オレはお前が好きだ」



 ケネスの言葉を受けたヴィルザからは、殺意がいっきに流れ落ちていった。口をポカンと開けて、目をぱちぱちと瞬かせている。



「な、なんと?」



「だからな。オレはお前が好きだ。二度も言わせるなよ」



 人生経験をいろいろと積んできたケネスだが、さすがに愛の告白には、こっ恥ずかしいものがある。



「冗談か?」
「そんなわけないだろ」



 不思議な恋愛の仕方だとは思う。恋愛ってのは、もっとしゃべることすら苦労するほど、ドキドキするものだと思っていた。実際、子供のころ、幼馴染のロールと接していたときは、そうだった。



 でも、ヴィルザとは、もっと情のようなものが植え付けられて、恋愛という形で萌芽したようだった。



「もう一回言ってみよ」
「なんでだよ」



「ちょっと気持ちが良かった。私の頬を叩いた詫びじゃ。さ、もう一回」



 頬を叩いた詫びだと言われると、断れない。
 意を決してもう一度続けた。



「オレはヴィルザが好きだ。たぶん恋してるんだと思う。だからこそ、もう少しマトモな神経をもって欲しい。世界征服だの拷問だのを楽しむようなヤツを、好きになることは出来ない」



「今のビンタは、愛のムチというわけか。このバイオレンス男め」



「どっちがバイオレンスだ」



 魔神とはいえ、風貌は少女のそれだ。さすがに頬を叩くのは、やり過ぎだったかと後悔していた。でも、ヴィルザにはもっとマトモな考え方を身につけて欲しい。多少ズレてるぐらいなら、文句は言わない。けれど、さすがに嬉々として拷問を語るような存在ではあって欲しくはない。



「男としての器が小さいんじゃな。好きな女の個性も大切にできん」
 ヴィルザは揶揄するようにそう言ってきた。



「拷問好きは、個性とかそういう問題じゃないだろ」



「言っておくがな。誰かに痛い思いをさせられたのは、私の経験でははじめてのことじゃ。なかなか効いたぞ」
 ヴィルザはそう言うと、ニヤリと笑った。



「悪い」



「許す。それにケネスがそう言うのであれば、拷問のことは忘れることにしよう。ビンタされたからではなく、愛の告白をされたからな」



 ヴィルザはそう言うと、フワリと浮かび上がってケネスの鼻先を指で弾いたのだった。



 ヴィルザは性格にやや難があるが、決して聞き分けが悪いわけではない。むしろ、頭は良いほうだと思う。知識も豊富だ。ケネスの気持ちも、曲解なく理解してくれたことを願った。

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