《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第5-13話「職員室で見つけたもの」
本校舎の中――。
ペタラ……ペタラ……とケネスとロレンスの足音が響いた。それは、ほんの小さな足音に過ぎなかったけれども、警戒している状態だと、異様に大きな音に聞こえた。いくつもの階段を上ったり、下りたり――と複雑な本校舎のなかを静かに奔走した。職員室。カンノン開きのトビラになっている。押す。引く。開かない。
「ダメだ。カギがかかってる。しかも、呪術付きだぜ」
職員室のトビラには、魔法陣のような紋様が描かれている。その中央に鍵穴があった。ふと『マディシャンの杖』が封印されていたトビラのことを思い出した。
「心配すんな。ちゃんと用意してきてる」
さすが忍び込もうと言い出しただけはある。
ロレンスが鍵穴をイジっているあいだに、ケネスは周囲の見張りを担当しておくことにした。石造りの通路は左右に伸びている。暗闇がはびこっているせいで、あまり先までは見通せない。《可視化》で遠くまで見る。人の姿はなかった。
「オレたち、とても特待生とは思えないことやってるな」
と、ケネスは自分の行動をかえりみてそう呟いた。
「特待生だからこそ――だろ。他の連中を出し抜かなくちゃな」
ケネスとロレンスの2人が、2年生のなかでは特待生としての座を勝ち取っている。3年になると「首席」という立場が用意されると聞いている。首席になれば、就職のさいにいろいろと有利に働くのだそうだ。いずれは、「首席」の座を、ロレンスと争うことになりそうだった。
「開いたぜ」
と、ロレンスが微笑んだ。
ケネスの指先から出している《#灯__ライト__#》によって、ロレンスの白い歯が光輝いていた。
ロレンスが先に職員室に入る。ケネスもそれに続いた。木造の四脚机が大量に置かれている。机上にはあふれんばかりの書籍やら、紙の束が積み上げられていた。その書籍の山を崩さないように、慎重に進まなければならなかった。
生徒たちが職員室に普段入ることは、あまりない。個人的に呼び出されたりするときぐらいだ。ましてや教員たちのいない職員室なんて、はじめてで新鮮だった。同時に、背徳感もおぼえたのだけれど。
「グラトン先生の机は、たしか右の列の最奥のはずだ」
と、ロレンスは先へ進む。
書籍や洋紙の渓谷でも歩いている気分だった。崩さないように慎重に進んでゆき、ようやくグラトンの机の前にたどり着いた。
「漁ってみるとするか」
「いや、それより……」
ケネスは雷に打たれたような衝撃をおぼえて、その場で立ち尽くした。見えないものが見えてしまう《可視化》の視界には、机やイスは透明となって、書籍やら紙やらインク瓶やら、羽根ペンやら雑多なものが見えていたのだが、ひとつ――不気味に微笑む面を見つけることになった。暗闇のなかで不気味に微笑み、ジッとケネスのことを見つめている。
仮面――。
今日の昼間に、サマルと一騎打ちをしたさいに、教室の中を覗きこんでいた仮面と同じものだった。
グラトン先生の机のなかを探ってみると、その仮面がでてきた。たしかに今日の昼に見たものだ。
「なんだよ、その仮面」
と、ロレンスが眉をひそめて覗きこんできた。
「実はさ……」
男か女かもわからないが、仮面をつけた人物が今日、殺気をもってケネスのことを見ていた。そのことをロレンスに話した。もしかしたら、王国のスパイかもしれないとケネスの考えを述べた。
「じゃあ、その昼間にケネスのことを見ていたのが、グラトン先生だったって言うのか?」
「いや」
グラトン先生は小太りな女性だ。しかし今日の昼間に、ケネスのことを見ていた人物は痩せていた。
でも、じゃあ、どうしてグラトン先生の机に、この仮面があるのか。
「考え過ぎじゃねェか? 生徒から没収したとかだろうぜ。それより、ほら、期末テストのヒント。これかもしれないぜ」
と、ロレンスが、グラトン先生の机から、一枚の絵を引っ張り出してきた。ロレンスが《#灯__ライト__#》で照らしていた。古い羊皮紙に書かれた絵だった。正面から見た城の絵のようだった。城門棟が建っているのが見て取れる。
「どこの城だ?」
「ヴィルザハード城って書かれてる」
と、ロレンスが羊皮紙の右下を指差した。
「げっ」
と、ケネスは小さな悲鳴をあげた。
「世界を恐怖に陥れた魔神ヴィルザハードって知ってるか?」
と、ロレンスがマジメくさった顔で尋ねてきたので、ケネスは思わず笑ってしまいそうになった。知ってるも何も、すぐ隣にいるのだ。
「ヴィルザハードがどうしたんだ?」
と、なんでもないようにケネスは問い返した。
「なんでも8大神がチカラを合わせて、ようやっと封印したってバケモノだ。そのバケモノが居城にしてたって城だぜ。これ」
と、ロレンスが怖ろしいものを見たような顔で言った。
そのロレンスの物言いに、ケネスは違和感をおぼえた。ロレンスからしてみれば、ヴィルザハードというのは、ずっとずっと昔にいた存在で、神話の話をしているようなものなのだろう。だから、ヴィルザハードに親しみがないのだ。
でも、ケネスにとっては、身近な存在だから、そのヴィルザとの距離感の差に戸惑いをおぼえたのだった。……ホントはこんなに近くにいるのにな。
「じゃあ、やっぱり、期末テストはそのヴィルザハード城に行くことになりそうだな」
と、ケネスは煙草をくゆらして言った。
「やっぱり? やっぱり、ってことは、見当をつけてたってことかよ」
「いや。かもしれないって思ってただけだ」
ほれ見ろ、ヤッパリ私の考えた通りではないか――とヴィルザは威張っている。
「神々を憎む支配者の城から、定められし勝者の証を光の世界へ届けたまえ――ってことはつまり、ヴィルザハードの城から、何かを取って来いってことか」
と、ロレンスはうなった。
「定められし勝者の証――か。まぁ、期末テストの合格者に向けて、何か置いてるんだろうさ」
と、ケネスは適当にそう言った。
そこまでわかれば、テストの内容はあらかた判明したも同然だ。
「誰かいるのか?」
と、声がした。
見回りの先生かもしれない。
「おい、さっさと戻るぞ」
と、ロレンスがあわてて羊皮紙を机のなかに仕舞いこんでいた。
ペタラ……ペタラ……とケネスとロレンスの足音が響いた。それは、ほんの小さな足音に過ぎなかったけれども、警戒している状態だと、異様に大きな音に聞こえた。いくつもの階段を上ったり、下りたり――と複雑な本校舎のなかを静かに奔走した。職員室。カンノン開きのトビラになっている。押す。引く。開かない。
「ダメだ。カギがかかってる。しかも、呪術付きだぜ」
職員室のトビラには、魔法陣のような紋様が描かれている。その中央に鍵穴があった。ふと『マディシャンの杖』が封印されていたトビラのことを思い出した。
「心配すんな。ちゃんと用意してきてる」
さすが忍び込もうと言い出しただけはある。
ロレンスが鍵穴をイジっているあいだに、ケネスは周囲の見張りを担当しておくことにした。石造りの通路は左右に伸びている。暗闇がはびこっているせいで、あまり先までは見通せない。《可視化》で遠くまで見る。人の姿はなかった。
「オレたち、とても特待生とは思えないことやってるな」
と、ケネスは自分の行動をかえりみてそう呟いた。
「特待生だからこそ――だろ。他の連中を出し抜かなくちゃな」
ケネスとロレンスの2人が、2年生のなかでは特待生としての座を勝ち取っている。3年になると「首席」という立場が用意されると聞いている。首席になれば、就職のさいにいろいろと有利に働くのだそうだ。いずれは、「首席」の座を、ロレンスと争うことになりそうだった。
「開いたぜ」
と、ロレンスが微笑んだ。
ケネスの指先から出している《#灯__ライト__#》によって、ロレンスの白い歯が光輝いていた。
ロレンスが先に職員室に入る。ケネスもそれに続いた。木造の四脚机が大量に置かれている。机上にはあふれんばかりの書籍やら、紙の束が積み上げられていた。その書籍の山を崩さないように、慎重に進まなければならなかった。
生徒たちが職員室に普段入ることは、あまりない。個人的に呼び出されたりするときぐらいだ。ましてや教員たちのいない職員室なんて、はじめてで新鮮だった。同時に、背徳感もおぼえたのだけれど。
「グラトン先生の机は、たしか右の列の最奥のはずだ」
と、ロレンスは先へ進む。
書籍や洋紙の渓谷でも歩いている気分だった。崩さないように慎重に進んでゆき、ようやくグラトンの机の前にたどり着いた。
「漁ってみるとするか」
「いや、それより……」
ケネスは雷に打たれたような衝撃をおぼえて、その場で立ち尽くした。見えないものが見えてしまう《可視化》の視界には、机やイスは透明となって、書籍やら紙やらインク瓶やら、羽根ペンやら雑多なものが見えていたのだが、ひとつ――不気味に微笑む面を見つけることになった。暗闇のなかで不気味に微笑み、ジッとケネスのことを見つめている。
仮面――。
今日の昼間に、サマルと一騎打ちをしたさいに、教室の中を覗きこんでいた仮面と同じものだった。
グラトン先生の机のなかを探ってみると、その仮面がでてきた。たしかに今日の昼に見たものだ。
「なんだよ、その仮面」
と、ロレンスが眉をひそめて覗きこんできた。
「実はさ……」
男か女かもわからないが、仮面をつけた人物が今日、殺気をもってケネスのことを見ていた。そのことをロレンスに話した。もしかしたら、王国のスパイかもしれないとケネスの考えを述べた。
「じゃあ、その昼間にケネスのことを見ていたのが、グラトン先生だったって言うのか?」
「いや」
グラトン先生は小太りな女性だ。しかし今日の昼間に、ケネスのことを見ていた人物は痩せていた。
でも、じゃあ、どうしてグラトン先生の机に、この仮面があるのか。
「考え過ぎじゃねェか? 生徒から没収したとかだろうぜ。それより、ほら、期末テストのヒント。これかもしれないぜ」
と、ロレンスが、グラトン先生の机から、一枚の絵を引っ張り出してきた。ロレンスが《#灯__ライト__#》で照らしていた。古い羊皮紙に書かれた絵だった。正面から見た城の絵のようだった。城門棟が建っているのが見て取れる。
「どこの城だ?」
「ヴィルザハード城って書かれてる」
と、ロレンスが羊皮紙の右下を指差した。
「げっ」
と、ケネスは小さな悲鳴をあげた。
「世界を恐怖に陥れた魔神ヴィルザハードって知ってるか?」
と、ロレンスがマジメくさった顔で尋ねてきたので、ケネスは思わず笑ってしまいそうになった。知ってるも何も、すぐ隣にいるのだ。
「ヴィルザハードがどうしたんだ?」
と、なんでもないようにケネスは問い返した。
「なんでも8大神がチカラを合わせて、ようやっと封印したってバケモノだ。そのバケモノが居城にしてたって城だぜ。これ」
と、ロレンスが怖ろしいものを見たような顔で言った。
そのロレンスの物言いに、ケネスは違和感をおぼえた。ロレンスからしてみれば、ヴィルザハードというのは、ずっとずっと昔にいた存在で、神話の話をしているようなものなのだろう。だから、ヴィルザハードに親しみがないのだ。
でも、ケネスにとっては、身近な存在だから、そのヴィルザとの距離感の差に戸惑いをおぼえたのだった。……ホントはこんなに近くにいるのにな。
「じゃあ、やっぱり、期末テストはそのヴィルザハード城に行くことになりそうだな」
と、ケネスは煙草をくゆらして言った。
「やっぱり? やっぱり、ってことは、見当をつけてたってことかよ」
「いや。かもしれないって思ってただけだ」
ほれ見ろ、ヤッパリ私の考えた通りではないか――とヴィルザは威張っている。
「神々を憎む支配者の城から、定められし勝者の証を光の世界へ届けたまえ――ってことはつまり、ヴィルザハードの城から、何かを取って来いってことか」
と、ロレンスはうなった。
「定められし勝者の証――か。まぁ、期末テストの合格者に向けて、何か置いてるんだろうさ」
と、ケネスは適当にそう言った。
そこまでわかれば、テストの内容はあらかた判明したも同然だ。
「誰かいるのか?」
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