《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第5-8話「仮面の人物」

 誰もが忘れてしまったような、古びた無人の教室だった。ずいぶんとホコリっぽくて、窓が白く濁っていた。黒板にはうっすらとチョークの痕跡が残っている。そこでケネスとサマルは対峙していた。あいだには、ユリとクロノがいる。



 どうして、こうなったのか……。



 話は簡単。



 ケネスが生徒会に入ることを、サマルが拒んだ。こんなヤツを入れるわけにはいかないと訴えた。ケネスの実力を、クロノは欲している。ホントウにそんなに強いのか、確かめてやるとサマルが言いだして、こういう運びとなった。



「校内で魔法を撃ちあって大丈夫なのか?」
 と、ケネスはクロノに尋ねた。



 この場所に案内したのはクロノだった。クロノは黒板前に机を運び、その上に立ってからチョークを走らせた。



『本校舎はちゃんと魔力でコーティングされてるから、多少の魔法が衝突しても問題ないように出来てる。そのせいで、植物が変な成長をすることもあるけど』



「ああ。あれか……」



 本校舎5階のテラスからいつも見えていた、ウネウネと軟体生物のように泳ぎ回っている樹木のことだろう。



『ルールは簡単。先に胸元にかかっている木の板を破壊したほうの勝ちにする』



 クロノの言葉通り、ケネスとサマルの胸元には、木造の板がかかっている。



「じゃあ、はじめ!」
 と、ユリが合図を発した。



 サマルが魔法陣を展開する。ケネスも同時に魔法陣を出した。青白い光芒が相対する。1年前にはロレンスともケンカしたことを、ふと思い出した。



「申し訳ないですけど、一瞬で終わりますよ」
「やれるもんなら、やってみろ。コラッ」



 いまさら、こんなザコにてこずるようなケネスではない。くわえていた煙草を、人差し指と中指でつまみあげて、サマルの足元に投げ飛ばした。煙草が魔法陣を発する。



「火系B級基礎魔法。《火炎手フレイム・ハンド》」



 煙草の先端から炎が、人間の腕のようにニュルリと伸びてくる。その炎でできた細腕が、サマルの胸元にかかっている木の板をつかんだ。



「うわっ」
 と、サマルはあわてて後ろに飛びずさっていたが、もう遅い。その木の板は焼け落ちていた。



「そこまでーッ」
 と、ユリが言った。



 ユリは廊下側の窓際に立っていた。ケネスがそちらを見ると、ギョッとした。ユリの背後――窓の向こうに仮面をつけた謎の人物が立っていたのだ。



「あ、おいッ」
 と、ケネスが言うと、仮面の人物は廊下を走り去って行った。



「ん? どうかしたのです? ケネス先輩? はッ、もしかして私が魔法に巻き込まれてないか心配してくれたのですねッ。心配はないのですッ。このユリテリア・トネト。多少の災難には巻き込まれなれているのですよッ」



「あ、いや……」
 クロノは黒板に「?」と書いていたし、サマルはもちろん見ていなかっただろう。



(なんだ今の仮面野郎?)



 こんな人気のないところに、何をしに来ていたのだろうか。ケネスとサマルの見どころのない一騎打ちを見ていたようでもあった。



 もしかすると見られていたのは、オレかもしれないな――とケネスは思った。ヨナと同じ、王国からのスパイかもしれない。だったら、視察するべきは、《帝国の劫火》であるケネスだろう。



「くっそーっ。今のはフイウチだった! 反則だ。もうひと勝負やれッ。コラッ」
 と、サマルがつかみかかってくる。



「いい加減にしてくださいよ」
 これで先輩なのだから、呆れてしまう。



 ヒュッ
 と、空気を割いて、物凄い速度で何かが飛んできた。チョークだ。サマルの額に当たって砕けていた。サマルは額をおさえたまま、うずくまっていた。チョークが飛んできた方向を見る。クロノが今まさに、チョークを投げ飛ばしましたというカッコウで立っていた。



『一騎打ちは終わり。ケネス・カートルドの実力はすでに調べ上げている。これは、サマルの勝てるような相手じゃない』



「くっそーっ」
 よほど悔しかったようで、サマルは床を叩きつけていた。ちょっとは手加減してあげるべきだったかもしれない。



「さすがなのですよ。ケネス先輩! さすが私の将来の夫……」



「はぁ?」
 と、ケネスが驚嘆の声をあげると、またしてもサマルがつかみかかってきた。



「貴様ッ。《帝国の劫火》めッ。帝国アイドルのユリ姫ちゃんを、たぶらかしやがって!」



 またしてもクロノにチョークを投げつけられていた。チョークは砕け散って、サマルは失神していた。



 もはや、憐憫の念すら抱く。

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