《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第5-5話「沈黙の少女」


 ケネスは、本校舎のバルコニーでくつろいでいた。本校舎の5階にあって、人が滅多に来ない。次の講義までに時間が空いているときは、よくここで時間を潰している。



 木のテーブルと四脚イスがいくつか置かれている。すぐ近くに壁から謎の樹木が生えているので、ちょうど日影になっている。寛ぐにはモッテコイの場所だ。



「神々を憎む支配者の城から、定められし勝者の証を光の世界へ届けたまえ――か」



 期末テストのヒントをつぶやいてみた。
 これがわかるか、わからないかでは、期末テストへの対処が違ってくる。



「どうじゃ、コゾウ? 何かわかりそうか?」



 ケネスはイスに腰掛けて、その手にハンバーガーを持っていた。ヴィルザがそのハンバーガーにかぶりついてくる。もぐもぐ、と口いっぱいに頬張っている。毎度毎度、食べるたびに頬にケチャップをつけるので、ケネスが拭いてやらなくてはならない。



「いいや。ぜんぜん。ヴィルザのほうこそ、何かわかるんじゃないのか? 神々を憎むってことは、ヴィルザのこと憎んでるんだろ」



「モグモグ……。私のことではなかろう。……モグモグ。私を憎んでいる者なんて星の数ほどいるであろうからな。……んぐっ」



 ヴィルザは誇らしげに言う。
 それは誇ることではない。



「じゃあ、神々って、誰のことだ」
「この場合は、8大神のことではないか?」
「8大神を憎んでるヤツって誰のことだ」



「私?」
 とヴィルザは己の顔を指差してみせた。



「ンなわけないだろ。なんで期末テストにヴィルザが出てくるんだよ」



「城なら、持っておったがな」
「え?」



 もうすこし詳しくヴィルザの話を聞こうとしたときだった。女子生徒が1人、バルコニーにやって来た。



 ヴィルザと同じぐらいの身長しかなくて、黒髪を地面すれすれまで伸ばしている。黒いローファをはいていて、コツコツと静かに歩み寄ってくる。なんの前置きもなく、ケネスが座っている席の正面に腰かけていた。何か話しかけてくるだろうと思って黙っていたのだが、少女はジーッと眠たげな眼で、こちらを見つめてくるだけだった。気まずい。



「何か用か?」
 視線に耐えかねて、そう尋ねた。



 コクリ。
 うなずくだけだ。
 何か話を切りだすだろうと思ったのだが、やっぱりダンマリのままだった。



「何か用事があるんなら、言ってくれないと、わからないんだが」



「……」



 少女は何もしゃべらず、席を立ちあがった。テラスの出入り口であるガラストビラを開けて、校舎の中に戻っていく。ガラストビラの向こうから、眠たげな半目でジーッとケネスのことを見つめてきた。



「ついて来いってことか?」



 手招きしている。
 ケネスは残っているハンバーガーを自分の口に詰め込んで、少女の後について行ってみることにした。



 少女の身長は小さく、その分、歩幅も小さい。それに着ているのもこの学校の制服である黒い外套ではなくて、ふりふりの黒いドレスだった。



「何か用事があるんなら、教えて欲しいんだけど」
 少女は振り向く。
 だが、何もしゃべらない。



「ふむ。この小娘。もしや、しゃべらないのではなく、しゃべれないのではないか?」
 ヴィルザがそう言った。



 なるほど。
 そうかもしれない。



 それなら仕方がないと思って、大人しくついて行くことにした。

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