《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第5-1話「学院再開」
『見て。あれがウワサの』『ウソ……。《帝国の劫火》ってホントにまだ、学生だったんだ』『けっこうイケてるじゃん。タイプかも』『私、声かけてみようかな?』『やめときなって、先輩だよ』……。
ケリュアル王国と、デラル帝国の戦争は、いまだ続いている。が、いまのところ沈静化しており、学院は再開されることになった。今のところ、順風満帆な学院生活を送っている。
そして、バートリーとフーリンを助け出した功績として、ケネスは正式に《帝国の劫火》の二つ名をもらうことになった。それは、またたく間に学院内に広がって、ケネスのことを見る女子たちの目が変わった。
こうして本校舎の廊下を歩いているだけでも、注目の的だ。
「はぇー。人気ものだなぁ。すこし前までは、Fランクのケネスはチンチクリンの、最弱ポンコツ男って言われておったのになぁ」
と、ヴィルザが感心したように言う。
「そこまで言われてはない」
「おう。そうであったかな。しかし、風体も変わったのぉ。アッという間に、こんなに大きくなりおって」
帝都で冒険者をやっていたころは、たしかにチビだった。そのころに比べると、背丈もずいぶんと大きくなった。正確にはかってはいないが、180近くあるんじゃないかと思われる。ずっと高身長に憧れていたので、ケネス自身はおおいに満足している。
ただ、不便なのはヴィルザと話をするときだ。ヴィルザはケネスの腰よりもさらに低い位置に頭がある。しゃべるときは、ヴィルザが浮かぶか、そうでないときは、ケネスが屈まなければいけない。
「まあ、成長期だしな。オレ」
「すこし遅い気もするがな」
「成長期来るのが遅かったんだよ。だから、あんなにチビだったんだ」
「そう大きくなると、チッと寂しくなるのぉ。時間の流れを実感するというか、なんというか」
ヴィルザはふわっと浮かび上がって、ケネスと顔を並べた。石造りの廊下には、大きな窓がいくつもある。窓からさしこむ陽光が、ヴィルザの紅色の髪を艶やかに輝かせていた。
「いつも上から目線だな。ヴィルザは。まるで子供の成長を見守る親みたいだ」
「当たり前だ。私を誰だと思うておるか。もう何千年と生きておるのだ。ケネスの成長を見守る親――というよりも、婆だからな」
とても婆とは思えぬ、瑞々しい白い頬をゆるませていた。老獪な婆に見えるときもあるし、見た目どおりの無邪気な子供に見えることもある。ヴィルザは不思議な存在だった。
正面から、グラトンが歩いてきた。
グラトン・フォルケット。
魔術実践学の教諭だ。恰幅の良い女の先生で、その白髪はいつも爆発したような形状をしている。インクを一滴だけ垂らしたような小さな目が、マスコット的な愛らしさを発している。お腹が、たゆんたゆん、と揺れている。
「ケネス。カートルドくん。あなたはすでに帝国魔術師と同等の立場にあると見ても良いのですからね。決して油断してはいけませんよー。背中に気をつけておくのです。殺意は常に、近くにあるのですからねー」
ノンビリとした口調で、ゾッとするような忠告をくれる。
「わかってますよ」
と、適当にいなしておいた。
「《帝国の劫火》。その功績は見事なものです。しかしですね、戦はそう甘くはないのですからね。時間があるときは私のもとに来なさいよー。徹底的に魔法について叩きこんであげますから」
「お手柔らかにお願いしますよ」
グラトンは大きなカラダを揺すりながら、生徒の群れを押しのけて行った。生徒たちの中にいても、白い爆発頭が目立つ。
「なんか、ボーッとした小娘じゃな」
どこをどう見たら、小娘になるのか。
もうかなりお年だとは思う。
「もともと帝国軍人だったそうだ。魔術師として前線で活躍してたらしい。まぁ、あくまでウワサなんだけど」
軍人だってなんてチョット信じられない風情ではある。
「軍を辞めたのか」
「どうして、軍人を辞めたのかは知らないけど、ウワサではボーイフレンドを殺されたのが原因とかなんとか……」
生徒たちのウワサなので、根拠はマッタクない。
「まあ、今の様子だとケネスには一目置いているという感じであるな」
「ああ、ずいぶん可愛がられてるよ」
ケネスが《帝国の劫火》の異名をもらうやいなや、グラトンはケネスに個人的に魔法を教えてくれることが多くなった。魔術実践学を受け持っているだけはあって、気にかけてくれているのだろう。魔術実践学のケネスの成績がすこぶる良いということもある。
「さて――と、次の講義は、そのグラトン先生の魔術実践学か」
「おう。魔術実践学か」
「ヴィルザも講義のこと、覚えてるのか」
「バカにするでないわ。ずっと一緒におるのだから、私だって多少なりとも覚えておる。そろそろ期末テストということも知っておるぞ」
ヴィルザは得意気な表情でそう言った。
「よく知ってるじゃないか」
「自信のほどは? これで単位を落としたら卒業が遅れるかもしれんぞ。そうなれば、ガルシアとの約束も守れまい」
ガルシア魔法長官との約束。約束した当時は、「3年後に帝国魔術部隊に入隊する」というものだった。もう、あの1年と少ししかない。
「期末テストねぇ……」
「どうした浮かない顔をして。ケネスはなかなかに優秀な成績をおさめておろう。特待生にもなったのだからな」
「まあ、そうなんだけどさ――。得意不得意はあるから」
単位。
どれか落とすかもしれない。
特に、歴史学だとか、数学にはてこずらされている。そういった講義のさいには、講義をサボって図書室に行ったり、昼寝していたりするので、そのつけが回ってきたとも言える。
「ふははっ。手こずっておるのか。これは愉快じゃな」
「なにが愉快だ。イザというときには、頼むぜ」
ヴィルザはいまだ、学院の誰にもその姿を見つけられていない。ペーパーテストであれば、自由に他人の解答を見ることだって出来るのだ。そして意外にも歴史学は、ヴィルザの得意科目でもある。意外――というか、長く生きているから、実際その目で見てきたことなのだろう。
ヴィルザにチカラを使わせるのは考えものだが、カンニングぐらいは良いんじゃないかな……なんて妥協している。狡いとは、わかっているのだけれど。
「困っておるケネスも、カワユイからなぁ。どうしよっかなぁ」
なんてヴィルザは意地悪く笑っていた。
ケリュアル王国と、デラル帝国の戦争は、いまだ続いている。が、いまのところ沈静化しており、学院は再開されることになった。今のところ、順風満帆な学院生活を送っている。
そして、バートリーとフーリンを助け出した功績として、ケネスは正式に《帝国の劫火》の二つ名をもらうことになった。それは、またたく間に学院内に広がって、ケネスのことを見る女子たちの目が変わった。
こうして本校舎の廊下を歩いているだけでも、注目の的だ。
「はぇー。人気ものだなぁ。すこし前までは、Fランクのケネスはチンチクリンの、最弱ポンコツ男って言われておったのになぁ」
と、ヴィルザが感心したように言う。
「そこまで言われてはない」
「おう。そうであったかな。しかし、風体も変わったのぉ。アッという間に、こんなに大きくなりおって」
帝都で冒険者をやっていたころは、たしかにチビだった。そのころに比べると、背丈もずいぶんと大きくなった。正確にはかってはいないが、180近くあるんじゃないかと思われる。ずっと高身長に憧れていたので、ケネス自身はおおいに満足している。
ただ、不便なのはヴィルザと話をするときだ。ヴィルザはケネスの腰よりもさらに低い位置に頭がある。しゃべるときは、ヴィルザが浮かぶか、そうでないときは、ケネスが屈まなければいけない。
「まあ、成長期だしな。オレ」
「すこし遅い気もするがな」
「成長期来るのが遅かったんだよ。だから、あんなにチビだったんだ」
「そう大きくなると、チッと寂しくなるのぉ。時間の流れを実感するというか、なんというか」
ヴィルザはふわっと浮かび上がって、ケネスと顔を並べた。石造りの廊下には、大きな窓がいくつもある。窓からさしこむ陽光が、ヴィルザの紅色の髪を艶やかに輝かせていた。
「いつも上から目線だな。ヴィルザは。まるで子供の成長を見守る親みたいだ」
「当たり前だ。私を誰だと思うておるか。もう何千年と生きておるのだ。ケネスの成長を見守る親――というよりも、婆だからな」
とても婆とは思えぬ、瑞々しい白い頬をゆるませていた。老獪な婆に見えるときもあるし、見た目どおりの無邪気な子供に見えることもある。ヴィルザは不思議な存在だった。
正面から、グラトンが歩いてきた。
グラトン・フォルケット。
魔術実践学の教諭だ。恰幅の良い女の先生で、その白髪はいつも爆発したような形状をしている。インクを一滴だけ垂らしたような小さな目が、マスコット的な愛らしさを発している。お腹が、たゆんたゆん、と揺れている。
「ケネス。カートルドくん。あなたはすでに帝国魔術師と同等の立場にあると見ても良いのですからね。決して油断してはいけませんよー。背中に気をつけておくのです。殺意は常に、近くにあるのですからねー」
ノンビリとした口調で、ゾッとするような忠告をくれる。
「わかってますよ」
と、適当にいなしておいた。
「《帝国の劫火》。その功績は見事なものです。しかしですね、戦はそう甘くはないのですからね。時間があるときは私のもとに来なさいよー。徹底的に魔法について叩きこんであげますから」
「お手柔らかにお願いしますよ」
グラトンは大きなカラダを揺すりながら、生徒の群れを押しのけて行った。生徒たちの中にいても、白い爆発頭が目立つ。
「なんか、ボーッとした小娘じゃな」
どこをどう見たら、小娘になるのか。
もうかなりお年だとは思う。
「もともと帝国軍人だったそうだ。魔術師として前線で活躍してたらしい。まぁ、あくまでウワサなんだけど」
軍人だってなんてチョット信じられない風情ではある。
「軍を辞めたのか」
「どうして、軍人を辞めたのかは知らないけど、ウワサではボーイフレンドを殺されたのが原因とかなんとか……」
生徒たちのウワサなので、根拠はマッタクない。
「まあ、今の様子だとケネスには一目置いているという感じであるな」
「ああ、ずいぶん可愛がられてるよ」
ケネスが《帝国の劫火》の異名をもらうやいなや、グラトンはケネスに個人的に魔法を教えてくれることが多くなった。魔術実践学を受け持っているだけはあって、気にかけてくれているのだろう。魔術実践学のケネスの成績がすこぶる良いということもある。
「さて――と、次の講義は、そのグラトン先生の魔術実践学か」
「おう。魔術実践学か」
「ヴィルザも講義のこと、覚えてるのか」
「バカにするでないわ。ずっと一緒におるのだから、私だって多少なりとも覚えておる。そろそろ期末テストということも知っておるぞ」
ヴィルザは得意気な表情でそう言った。
「よく知ってるじゃないか」
「自信のほどは? これで単位を落としたら卒業が遅れるかもしれんぞ。そうなれば、ガルシアとの約束も守れまい」
ガルシア魔法長官との約束。約束した当時は、「3年後に帝国魔術部隊に入隊する」というものだった。もう、あの1年と少ししかない。
「期末テストねぇ……」
「どうした浮かない顔をして。ケネスはなかなかに優秀な成績をおさめておろう。特待生にもなったのだからな」
「まあ、そうなんだけどさ――。得意不得意はあるから」
単位。
どれか落とすかもしれない。
特に、歴史学だとか、数学にはてこずらされている。そういった講義のさいには、講義をサボって図書室に行ったり、昼寝していたりするので、そのつけが回ってきたとも言える。
「ふははっ。手こずっておるのか。これは愉快じゃな」
「なにが愉快だ。イザというときには、頼むぜ」
ヴィルザはいまだ、学院の誰にもその姿を見つけられていない。ペーパーテストであれば、自由に他人の解答を見ることだって出来るのだ。そして意外にも歴史学は、ヴィルザの得意科目でもある。意外――というか、長く生きているから、実際その目で見てきたことなのだろう。
ヴィルザにチカラを使わせるのは考えものだが、カンニングぐらいは良いんじゃないかな……なんて妥協している。狡いとは、わかっているのだけれど。
「困っておるケネスも、カワユイからなぁ。どうしよっかなぁ」
なんてヴィルザは意地悪く笑っていた。
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