《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第4-29話「帰還 Ⅱ」
ケネスの持っていた転移石は、必ずハーディアル魔術学院の前にたどり着くように出来ている。ハーディアル魔術学院には巨大な転移術式がほどこされているからだ。
ケネスたちは無事に学院前にたどりついた。目の前には、学院の門があり、その向こうには本校舎がそびえ立っている。石造りの城に、巨大な風車がついていて、今日も元気良く回転していた。壁からは、巨大な樹木が生えている。軟体生物のように、その根っこをウネウネと動かしていた。
「戻って来られたのですね」
と、バートリーはその場にシリモチをついていた。いつもは7・3に分けられている髪が、めずらしく乱れていた。フーリンも疲れ切ったように座り込んでいた。ソルトに捕まってから、この2人は拷問を受けていたのだ。その安心感たるや、生半可なものではないだろう。
ケネスもなんだか、学院が酷くなつかしい場所に思えた。長いような短い旅だった。単身で王国領に忍び込んでいたなんて、冷静になって考えれば、ずいぶんと大胆なことをやったものだ。
「ケネス・カートルドさまでしたね。ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
フーリンは立ち上がって、そう言った。
金髪の縦巻きロールが揺れていた。
「いえ。運が良かっただけですよ。いろいろと」
「凄まじい魔力でした。たしか学院を卒業するころには、帝国魔術部隊に加わっていただけるのでしたね。そのときを、楽しみにしておりますわ」
フーリンは前かがみになり、ケネスの顔を覗き込むようにしてそう言った。顔が近い。照れ臭くて、ケネスは一歩後ろに下がった。
「こちらこそ、そのときは御世話になるかもしれません」
「単身で王国領に潜入して、私たちを救い出した。その功績はただならぬものがあります。ガルシアさまに報告しておきます。きっと皇帝陛下から、爵位か何かいただけると思いますよ」
「楽しみにしておきます」
うふ、とフーリンは小さく笑うと、ケネスの頬に顔を寄せてきた。そしてその唇を、ケネスの頬に押し当てたのだった。金髪の縦巻きロールからは、トテモ甘い香りがした。ヴィルザが何か物言いたげな顔をしていたが、今日のところは何も言わなかった。
しばらくすると帝都から迎えが来て、バートリーとフーリンは馬車に乗って、戻って行った。
ケネスは自室である301号室に戻ることにした。学院は休みだが、寮は開いている。どうせすぐに講義もはじまることだろう。ヨナが消えてからは、1人部屋として使っている。ベッドとテーブルとクローゼットがある程度の簡素な部屋だが、居心地は悪くない。
おおよそあと2年――。
ここでさらに魔法に磨きをかけるつもりだ。
「やっぱり。ケネスとこの部屋におるのが、落ち着くなぁ」
と、ヴィルザが言った。
「ヴィルザ。約束。忘れんなよ」
「わかっておる」
残り6つの封印を解く。世界征服はしないとヴィルザは言った。のみならず、ケネスの両親と幼馴染を生き返らせてくれる。故郷までもとに戻してくれる――。
そういう約束だった。
「それより、あの娘。置いてきて良かったのか?」
「ミファのことか?」
「うむ。魔力覚醒剤はそう簡単にやめられるものではない。あのジャンキー。薬をやめるのに、かなりの精神力を必要とするだろうな」
「でも、両親と仲良くやっていけるなら、その方が良いと思う。心配はかけさせるもんじゃない。後悔するからさ。オレの勝手な考え方かもしんないけど……っていうか、やけに詳しいな。ずっといなかったのに」
ヴィルザはミファとは接点がないはずだ。
「わ、私は、魔神じゃからな。な、なんでも知っておるわ」
ははははっ、とわざとらしく笑っていた。
「そうかい」
と、ケネスは煙草をくわえた。
もしかするとヴィルザはずっと、ケネスのことを、どこかから見守っていたのかもしれない。あのソルトとの決闘のさいにも、都合の良い場面で登場したのだ。見守っていたとしても、不思議ではない。
「なあ。ケネス」
急にマジメくさった口調でそう言ってきた。
「ん?」
「もう、見捨てんでくれ。私は、またケネスを怒らせるようなことをしてしまうかもしれん。でも、見捨てんで欲しい」
哀しげな口調でそう言うと、ケネスの着ていた外套の袖をつまんできた。トテモ魔神とは思えない、チカラの弱さだった。
「それは、ずいぶんワガママだと思うんだがな」
「だって……」
「わかってる。もう絶交なんかは、言ったりしない」
ヴィルザの満面の笑みに、思わずケネスはドキッとしてしまった。
さらに後日。
バートリーとフーリンを単身で助け出した功績をたたえて、ケネスには正式に《帝国の劫火》という異名が授けられることになった。
ケネスたちは無事に学院前にたどりついた。目の前には、学院の門があり、その向こうには本校舎がそびえ立っている。石造りの城に、巨大な風車がついていて、今日も元気良く回転していた。壁からは、巨大な樹木が生えている。軟体生物のように、その根っこをウネウネと動かしていた。
「戻って来られたのですね」
と、バートリーはその場にシリモチをついていた。いつもは7・3に分けられている髪が、めずらしく乱れていた。フーリンも疲れ切ったように座り込んでいた。ソルトに捕まってから、この2人は拷問を受けていたのだ。その安心感たるや、生半可なものではないだろう。
ケネスもなんだか、学院が酷くなつかしい場所に思えた。長いような短い旅だった。単身で王国領に忍び込んでいたなんて、冷静になって考えれば、ずいぶんと大胆なことをやったものだ。
「ケネス・カートルドさまでしたね。ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
フーリンは立ち上がって、そう言った。
金髪の縦巻きロールが揺れていた。
「いえ。運が良かっただけですよ。いろいろと」
「凄まじい魔力でした。たしか学院を卒業するころには、帝国魔術部隊に加わっていただけるのでしたね。そのときを、楽しみにしておりますわ」
フーリンは前かがみになり、ケネスの顔を覗き込むようにしてそう言った。顔が近い。照れ臭くて、ケネスは一歩後ろに下がった。
「こちらこそ、そのときは御世話になるかもしれません」
「単身で王国領に潜入して、私たちを救い出した。その功績はただならぬものがあります。ガルシアさまに報告しておきます。きっと皇帝陛下から、爵位か何かいただけると思いますよ」
「楽しみにしておきます」
うふ、とフーリンは小さく笑うと、ケネスの頬に顔を寄せてきた。そしてその唇を、ケネスの頬に押し当てたのだった。金髪の縦巻きロールからは、トテモ甘い香りがした。ヴィルザが何か物言いたげな顔をしていたが、今日のところは何も言わなかった。
しばらくすると帝都から迎えが来て、バートリーとフーリンは馬車に乗って、戻って行った。
ケネスは自室である301号室に戻ることにした。学院は休みだが、寮は開いている。どうせすぐに講義もはじまることだろう。ヨナが消えてからは、1人部屋として使っている。ベッドとテーブルとクローゼットがある程度の簡素な部屋だが、居心地は悪くない。
おおよそあと2年――。
ここでさらに魔法に磨きをかけるつもりだ。
「やっぱり。ケネスとこの部屋におるのが、落ち着くなぁ」
と、ヴィルザが言った。
「ヴィルザ。約束。忘れんなよ」
「わかっておる」
残り6つの封印を解く。世界征服はしないとヴィルザは言った。のみならず、ケネスの両親と幼馴染を生き返らせてくれる。故郷までもとに戻してくれる――。
そういう約束だった。
「それより、あの娘。置いてきて良かったのか?」
「ミファのことか?」
「うむ。魔力覚醒剤はそう簡単にやめられるものではない。あのジャンキー。薬をやめるのに、かなりの精神力を必要とするだろうな」
「でも、両親と仲良くやっていけるなら、その方が良いと思う。心配はかけさせるもんじゃない。後悔するからさ。オレの勝手な考え方かもしんないけど……っていうか、やけに詳しいな。ずっといなかったのに」
ヴィルザはミファとは接点がないはずだ。
「わ、私は、魔神じゃからな。な、なんでも知っておるわ」
ははははっ、とわざとらしく笑っていた。
「そうかい」
と、ケネスは煙草をくわえた。
もしかするとヴィルザはずっと、ケネスのことを、どこかから見守っていたのかもしれない。あのソルトとの決闘のさいにも、都合の良い場面で登場したのだ。見守っていたとしても、不思議ではない。
「なあ。ケネス」
急にマジメくさった口調でそう言ってきた。
「ん?」
「もう、見捨てんでくれ。私は、またケネスを怒らせるようなことをしてしまうかもしれん。でも、見捨てんで欲しい」
哀しげな口調でそう言うと、ケネスの着ていた外套の袖をつまんできた。トテモ魔神とは思えない、チカラの弱さだった。
「それは、ずいぶんワガママだと思うんだがな」
「だって……」
「わかってる。もう絶交なんかは、言ったりしない」
ヴィルザの満面の笑みに、思わずケネスはドキッとしてしまった。
さらに後日。
バートリーとフーリンを単身で助け出した功績をたたえて、ケネスには正式に《帝国の劫火》という異名が授けられることになった。
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