《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第4-29話「帰還 Ⅱ」

 ケネスの持っていた転移石は、必ずハーディアル魔術学院の前にたどり着くように出来ている。ハーディアル魔術学院には巨大な転移術式がほどこされているからだ。



 ケネスたちは無事に学院前にたどりついた。目の前には、学院の門があり、その向こうには本校舎がそびえ立っている。石造りの城に、巨大な風車がついていて、今日も元気良く回転していた。壁からは、巨大な樹木が生えている。軟体生物のように、その根っこをウネウネと動かしていた。



「戻って来られたのですね」
 と、バートリーはその場にシリモチをついていた。いつもは7・3に分けられている髪が、めずらしく乱れていた。フーリンも疲れ切ったように座り込んでいた。ソルトに捕まってから、この2人は拷問を受けていたのだ。その安心感たるや、生半可なものではないだろう。



 ケネスもなんだか、学院が酷くなつかしい場所に思えた。長いような短い旅だった。単身で王国領に忍び込んでいたなんて、冷静になって考えれば、ずいぶんと大胆なことをやったものだ。



「ケネス・カートルドさまでしたね。ありがとうございました。このご恩は一生忘れません」
 フーリンは立ち上がって、そう言った。
 金髪の縦巻きロールが揺れていた。



「いえ。運が良かっただけですよ。いろいろと」



「凄まじい魔力でした。たしか学院を卒業するころには、帝国魔術部隊に加わっていただけるのでしたね。そのときを、楽しみにしておりますわ」



 フーリンは前かがみになり、ケネスの顔を覗き込むようにしてそう言った。顔が近い。照れ臭くて、ケネスは一歩後ろに下がった。



「こちらこそ、そのときは御世話になるかもしれません」



「単身で王国領に潜入して、私たちを救い出した。その功績はただならぬものがあります。ガルシアさまに報告しておきます。きっと皇帝陛下から、爵位か何かいただけると思いますよ」



「楽しみにしておきます」



 うふ、とフーリンは小さく笑うと、ケネスの頬に顔を寄せてきた。そしてその唇を、ケネスの頬に押し当てたのだった。金髪の縦巻きロールからは、トテモ甘い香りがした。ヴィルザが何か物言いたげな顔をしていたが、今日のところは何も言わなかった。



 しばらくすると帝都から迎えが来て、バートリーとフーリンは馬車に乗って、戻って行った。


 
 ケネスは自室である301号室に戻ることにした。学院は休みだが、寮は開いている。どうせすぐに講義もはじまることだろう。ヨナが消えてからは、1人部屋として使っている。ベッドとテーブルとクローゼットがある程度の簡素な部屋だが、居心地は悪くない。



 おおよそあと2年――。
 ここでさらに魔法に磨きをかけるつもりだ。



「やっぱり。ケネスとこの部屋におるのが、落ち着くなぁ」
 と、ヴィルザが言った。



「ヴィルザ。約束。忘れんなよ」
「わかっておる」



 残り6つの封印を解く。世界征服はしないとヴィルザは言った。のみならず、ケネスの両親と幼馴染を生き返らせてくれる。故郷までもとに戻してくれる――。
 そういう約束だった。



「それより、あの娘。置いてきて良かったのか?」
「ミファのことか?」



「うむ。魔力覚醒剤はそう簡単にやめられるものではない。あのジャンキー。薬をやめるのに、かなりの精神力を必要とするだろうな」



「でも、両親と仲良くやっていけるなら、その方が良いと思う。心配はかけさせるもんじゃない。後悔するからさ。オレの勝手な考え方かもしんないけど……っていうか、やけに詳しいな。ずっといなかったのに」



 ヴィルザはミファとは接点がないはずだ。



「わ、私は、魔神じゃからな。な、なんでも知っておるわ」
 ははははっ、とわざとらしく笑っていた。



「そうかい」
 と、ケネスは煙草をくわえた。



 もしかするとヴィルザはずっと、ケネスのことを、どこかから見守っていたのかもしれない。あのソルトとの決闘のさいにも、都合の良い場面で登場したのだ。見守っていたとしても、不思議ではない。



「なあ。ケネス」
 急にマジメくさった口調でそう言ってきた。



「ん?」



「もう、見捨てんでくれ。私は、またケネスを怒らせるようなことをしてしまうかもしれん。でも、見捨てんで欲しい」



 哀しげな口調でそう言うと、ケネスの着ていた外套の袖をつまんできた。トテモ魔神とは思えない、チカラの弱さだった。



「それは、ずいぶんワガママだと思うんだがな」
「だって……」
「わかってる。もう絶交なんかは、言ったりしない」



 ヴィルザの満面の笑みに、思わずケネスはドキッとしてしまった。



 さらに後日。
 バートリーとフーリンを単身で助け出した功績をたたえて、ケネスには正式に《帝国の劫火》という異名が授けられることになった。

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