《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第4-12話「真夜中の密談 Ⅰ」

 その夜。
 6つ浮かぶ月下にて――。



 ケネスはバルコニーで、煙草を吸いながら、これからのことを考えていた。あんまりノンビリしている時間はないのだ。こうしている間にも、バートリーは何かしらの責めを受けていることだろう。



 しかし。
 ここにきて、すこしは冷静になっている。



 このまま領主館に突っ込んでも、捕縛されるだけだ。多少は強くなったとはいえ、一騎当千というわけにはいかない。そんなことが出来るのはヴィルザだけだ。それを思えば、絶交して切り離してしまったのは惜しいとは思うのだが、いやいや、あいつはオレのカラダを奪い取ろうとしたのだと、思い直した。ヴィルザのことはさておいても、領主館に押し入り、バートリーともう1人捕えられた女性を助け出す算段が思いつかない。



(あと一歩なんだが……)
 と、煙草のケムリを吸いこむ。
 そのとき――。



 バリンッ



 と、隣室のほうから、何か物の割れる音がした。ミファに何かあったんじゃないかと、ケネスはすぐに駆けつけることにした。



「おい、なんかあったか?」
 と、トビラを叩くが、応答がない。



「入るぞ」
 部屋の中に入る。ケネスにあてがわれている部屋と、さして変わらない部屋だった。天蓋つきのベッドがあり。薄いカーテンがかかっているが、その奥にうずくまっている影があった。



「おい、なんかあったか?」
 と、ケネスはカーテンを開けた。ミファはベッドでヒザを抱えてうずくまっていた。小刻みに痙攣している。その手には注射器が握られていた。暗闇のなかで青白く発光するそれが、魔力覚醒剤だとすぐにわかった。



「あ、バカっ」
 と、あわててその薬を奪い取った。



「か、返して……」
 と、腕を伸ばしてくる。ケネスはベッドに押し倒されるカッコウになった。やわらかい女体の感触に押しつぶされたが、情欲をおぼえている余裕はなかった。



「薬なんかやるなって言っただろ」
「いいのよ。あと6日。このカラダが持ってくれれば」



「そう言えば、護衛も1週間契約だったな。6日後に何かあるのか?」



「水……」
「ちょっと待ってろ」
 と、ケネスは圧し掛かっているミファを押しのけた。



 魔法で水を出せるが、ノドの渇きを潤すものにはならない。台所に呪術でつくられた冷蔵庫があったので、そこを漁ってみた。水があった。それをミファの部屋に持ち帰った。ミファはコップに入った水をいっきに飲み干した。あんまりにもあわてて飲むものだから、頬を水がつたいこぼれていた。窓からさしいる月光が、それを艶然と照らし上げていた。



「ありがとう」
「で、6日後に何かあるのか?」
 と、さっきと同じ質問をブツけた。



 ケネスの取りあげた薬に、ミファの視線はいまだ注がれていたので、奪われないように注意を払っていた。



「6日後。この都市で大規模な反乱クーデターが起きるのよ」



「どうして、そんなことがわかる?」



「私がその準備を進めてるもの。薬を売ってるのは、そのための資金集め。このことは秘密にしておこうと思ってたけれど、ケネスは信用できるから、教えてあげる」



 誰もいるはずがないのだが、警戒してケネスは室内を見渡した。いちおう声もひそめておく。



「どうして反乱なんて? 公爵令嬢なんだろ。父親はケリュアル王国のオエライサンなんだろ」



「だからよ」
「どういうことだ」



「今日のお昼にも言ったでしょ。私は魔法を使うことのできない出来そこない。だから、こんな王都から離れた場所に追いやられてるのよ。父には一泡吹かせたいのよ」



「しかし、だいそれたことをする」



 薬を売ってるのも凄まじいけれど、まさか反乱の首謀者でもあるとは思わなかった。この骨みたいにぎゅんぎゅんに痩せ細った少女は、心の内にドス暗い狂気をひそませているらしい。



「それだけじゃないわ」
「まだ、何かあるのか」



「あのソルト・ドラグニルって男。私の母と不倫関係にあるのよ。それも気にくわない。ソルトを殺すのは、私の目的でもある」



「家庭環境ドロドロだな」



 驚きを通り越して、もはや呆れてしまう。
 貴族というのは、表向きは煌びやかに振る舞っているが、内側にはいろいろと暗いものを抱えているようだ。



 そう言えば以前にも、ミファの母は、男と寝ていると言っていた記憶がある。



「ソルトを殺すのは、共通の目的でしょ」
「ああ」



「とにかく、6日後の反乱で、私はこの都市をメチャクチャにしてやるの。父に一泡吹かせてやれるし、ソルト・ドラグニルと不倫してる母にも、痛い目を見せてやれるわ。私をバカにしてるこの都市の民だって」



「その後はどうするんだ」
「え?」
 と、ミファは意表を突かれたような顔をした。



「ここはケリュアル王国領だろ。ソルト・ドラグニルを殺せば、一時的にこの領土はミファのものになるかもしれないが、すぐに王国軍が軍隊を派遣してくるだろうさ」



 それぐらい、考えなくてもわかることだ。



「そのときは、大人しく捕まるわ」
「たぶん、処刑されるぞ」



 王国法に詳しくはないけれど、反乱は重罪だろう。



「いいじゃない。父の目の前で処刑されてやるの。私をこんなにしたのは、あんたの責任よ――って、訴えながら、処刑されてやるわ」



 要するに、父親に構ってもらいたいのだろう。悪いことをして、親の目を引こうとする。まるで子供だ。その心理状態は子供だが、やっていることは立派な悪党だ。

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