《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第4-10話「帝国の劫火」

 暗黒組合の支部から出て、最初の裏路地に入ったときだった。さっき薬を受け取っていた男たちが、つけて来ていた。ケネスとミファを挟み込むようにして、正面からも3人の男たちが来た。



「はぁ」
 と、ミファはため息を落とす。



「客人に挟まれてるみたいだが、商談の続きってわけでもなさそうだな」



「こういうことがあるから、護衛が欲しかったのよ」



 男たちが詰め寄ってくる。



「目的はなんだ?」
 と、ケネスはミファを庇うようにして、前に出た。



「その金。置いてっちゃくれませんかね。命だけは見逃してやりますんで」



 そう言ってきたのは、さきほど暗黒組合の支部で、ミファから薬を受け取っていた男だった。目の下にクマがあり、薄気味悪い笑みを浮かべている。たいして強そうには見えないが、腰には冒険者のプレートをたずさえていた。金のプレートということは、Cランクだ。暗黒組合の者でも、冒険者として働いていることは、よくあることだ。ときには暗殺者を、ダンジョン攻略のパーティに加えたりもする。



「これはあんたたちが、薬を買うために払った金だろう」



「オレたちゃ暗黒組合の人間でね。金は自分のチカラで手に入れるもの――って決めてるんですよ」



「ほお」



「オレは、こう見えても魔法を使えましてね。悪いことは言いません。金を置いてっちゃくれませんか。こちらもムダな労力を発揮せずに済みます」



「金を置いてけって言うのが、すでに悪いことだと思うんだがな」



 ケネスは強気に出た。
 セッカク護衛としてミファについているのだから、弱腰にはなれない。それに「あんたは強い」とミファに言われたことが、大きな自信になっていた。



 ケネスはBランク相当の、ジャイアント・ゴブリンを実力で倒したこともある。そのときよりも、さらにチカラは増しているはずだ。Cランク相当の魔術師なんかに負ける気がしない。



「ちッ。残念です」
 男はそう言うと、魔法陣を発生させた。



 それに合わせてケネスも魔法陣を展開する。ケネスが魔法陣を出せることに、男は多少驚いたようだ。



「土系基礎魔法。《岩の手ロック・ハンド
 男がとなえる。



 右手にあった建物の石壁から、岩の手が生えてくる。人間の腕ぐらいの太さだ。この程度、怖れることはない。



「火系基礎魔法。《火球ファイヤー・ボール》」



 ケネスは人差し指と中指で、煙草をはさみこんでいた。指にかすかに熱を感じる。煙草の先端は赤く灯っており、さらにその先から魔法陣を発生させていた。魔法陣から、火球が出てくる。岩の手を粉砕した。砂塵が吹き荒れる。建物と建物のあいだに吊るされている洗濯物が、激しくなびいていた。



「おのれッ。やっちまえ!」
 魔術師ではない、他の男たちが疾駆してくる。



「火系D級基礎魔法。《花火ファイヤーワーク》」



 煙草の先から、火だねがポロポロと落ちる。それらが泣きはじめた赤子のように、パッと爆ぜた。いくつもの爆発が連鎖的に起こり、その爆発に当てられた男たちからは、悲鳴が上がっていた。



 その爆風にあてられて、ケネスの仮面が、脱げ落ちてしまった。



「……ん? その顔……あぁッ」
 魔術師の男が驚愕の声を発した。
 ケネスはあわてて顔を隠したのだが、遅かったようだ。



「ま、まさか、ソルト・ドラグニルの部隊をたった1人で追い返した、《帝国の劫火》かッ。チクショウ。相手が悪かった!」



 ケネスとミファのことを取り囲んでいた男たちは、あわてたように退散していった。ケネスの《花火ファイヤーワーク》をくらって、その場で倒れている男がいた。煙草の先端を突き付けて、「帝国の劫火ってのは、なんだ?」と尋ねた。



「ひっ。そ、そりゃ、あんたのことだろ……」



 焼かれた故郷を背に、たった1人で王国軍5000を撤退させた男――。それがケネス・カートルドであり、《帝国の劫火》と二つ名でウワサされているらしかった。



「い、命だけは……」
 と、異様におびえていたので、逃がしてやることにした。



「なんで、あんなに怯えてるんだ?」



「ふふふっ。そりゃ怯えるでしょ。ソルト・ドラグニルを撤退させた《帝国の劫火》さんなんだから」
 ミファが揶揄するように言った。



 ここが母国から離れた王国だからか、何もかもが夢のように感じた。投げやりになって、王国まで来てしまったことがまずウソみたいだ。それに、他人から怖れられるというのも、ウソみたいだ。Fランクで、最弱で、チンチクリンの、ケネス・カートルドは、もうどこにもいなくなってしまっていた。みんなからバカにされて、ヘラヘラ笑っていた卑屈さが、すこし懐かしく感じられた。



 そう言えばいつだったか、ヴィルザが言っていた。二つ名でもつけられるときが来るだろう――と。



 まさか、こんなに早くその時が来るとは思わなかった。



「カラカうなよ。顔を見られた」



「私は公爵令嬢だから、大問題だけど。ケネスは見られても大丈夫よ。あいつらも人に言えないようなことをしてる連中なんだから、騎士にチクったりは出来ないでしょう」



「だと良いがな」



「でも、見事だったわ。こんなにキレイに、撃退してくれるなんてね」



 ミファのなかで、ケネスの株があがったのかもしれない。
 肩を寄せてきた。



「よせよ。魔法というよりも、顔を見て逃げていったようなもんだ」



「でも、充分よ。またお礼をしなくちゃね。お昼ごはんにしない?」
 と、ミファはケネスの手を引いた。

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