《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第4-3話「公爵令嬢」

 大雨に打ちたたかれて、漆黒の邸宅はそびえ建っていた。周囲は鉄柵で囲まれており、入るには門をくぐる必要があった。門の向こうには、庭園が広がっていた。ケネスはふと実家の庭を幻覚して、振り払うようにかぶりを振った。



「えらく、大きい家だな。家……なのか?」



 庭の中央に、邸宅がある。
 窓の配列から見て、おそらく3階建てだろうということがわかった。ハーディアル魔術学院の寮ぐらいの大きさがある。



「別宅なんだけどね。今は私とメイドたちだけで暮らしてる」



「こ、これで別宅?」
「そ。私、いちおう公爵令嬢だから」



 ミファはそう言うと、クルッと振りかえって、薄く笑った。白いドレスが濡れてカラダにピッタリと張り付いていた。浮き出ているカラダのラインは、女性にしてはあまりに肉がなかった。ダンジョンにスケルトンという、骨だけのモンスターがいるけれど、それにソックリだ。失礼だけど。



「トテモ公爵令嬢には見えないな」
 正直にそう言った。



 帝国では、公爵令嬢だからどうということはない。爵位はあくまで実力ある個人に授与されるものだからだ。けれど、王国では爵位は家で継ぐものだと聞いたことがある。父が公爵なら、娘も貴族になるわけだ。



 怒るかと思ったが、意外とミファは不気味に笑うだけだった。



「くくくっ。そうね。私も自分でそう思うわ。公爵令嬢にしては、悲劇をたしなみすぎたのよ」



「悲劇――ねぇ」



「付いてらっしゃい。礼金をあげるし、場合によっては泊めてあげても良いわよ。風呂も付いてるし」



「いいのか?」
「空き部屋だけは、腐るほどあるの」



 玄関。
 黒い屋敷の黒いトビラには、真鍮製のトビラが金色に光っていた。それだけヤケに目立っている。ミファが慣れた手つきで、部屋を開けた。トビラの向こうには暗闇が待ち構えていた。



 信用しても良いのか?
 躊躇があった。



 公爵令嬢と名乗った怪しげな女性。成り行きで助けたとはいえ、異様に親切にしてくれる。何か裏がありそうな気がしないでもない。その公爵令嬢というのも、真実かどうか定かではない。



「どうしたの? 濡れるわよ」



「失礼する」
 と、結局、屋敷にお邪魔することにした。



 この公爵令嬢は、魔力覚醒剤取締法の罪で追いかけられていた。脛に傷を持っているなら、王国に忠誠的というわけでもないだろう。今は、こういった無法者アウトローのほうが信用できる。



「濡れるけど、良いのか?」



 ミファはびしょびしょに濡れたドレスのまま、部屋のなかを進んでゆく。高価そうな絨毯が床に敷いているだけに、ケネスには遠慮があった。



「いいのよ。翌日にはメイドたちが掃除するから」



「そう――か」
「ここに」



 3階のとある一室のトビラを、ミファは開けた。入れということらしい。誘われるがままに入った。部屋は暗い。暗闇のなかでもミファの白い髪だけは、浮かび上がって見えた。艶やかなのだ。庶民の髪ではない。



 ミファが天井に手をかかげる。呪術がほどこされていたようで、反応して光の球を出現させた。暗闇に慣れた目には、まぶしかった。目をしばたかせて明かりに慣らした。



「最近じゃ、どこにでも呪術がほどこされてるな」




 そのうち火打金やロウソクなんか、必要なくなるときが来るかもしれない。そんなことを思いながら、ケネスは周囲を見渡した。ベッド。クローゼット。ドレッサー。整然と置かれている。生活感のない部屋だ。



「普段使わない部屋なのよ。客間ってわけでもないけどね」



「なるほど」



「奥にあるトビラから、浴室に行けるから、好きに使ってくれて構わないわよ」



「礼金」



「わかってる。でも、今日は休みなさい。私も疲れたし。お金も用意しなくちゃいけないから」



「わかった」



「じゃあね」
 ミファは、気怠そうに微笑んだ。幽霊ゴーストみたいな微笑み方だな、と思った。どうあがいても、アンデット系統のモンスターに結び付けて考えてしまう。それだけ、死に近いのかもしれない。ふと、その細腕に目を奪われた。濡れたドレスから透けて見える。青白い腕に、いくつものアザが見て取れた。暴行を受けてできたようなものではない。たぶん、注射の、痕跡だ。



(やっぱり、薬か……)
 魔力覚醒剤をやっているのだろう。



 部屋に残されたケネスは、さっそく浴場に行くことにした。ミファは気にしていなかったが、部屋を濡らすのは抵抗がある。



「オレ。風呂に入るから、入ってくるなよ」
 ケネスはそう呟いた。



 呟いて、ヴィルザの返事がないことで、絶交したことを思い出した。胸がチクリと痛む。同時に、これで良かったのだとも思う。ヴィルザは世界を滅ぼそうとする魔神だ。あれは関わっちゃいけない存在なのだ。



 浴室でシャワーを浴びて出てきた。黒い外套と衣服は、炎の魔法で乾かした。ベッドに沈み込んだ。ベッドで眠るのは久しぶりだ。罠かもしれない――という疑念がありながらも、ベッドの心地には抗うことはできなかった。

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