《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第4-1話「王国領の戦い」
ケリュアル王国――都市ココル。
ミファ・フリードリッヒは顔を隠して逃げていた。まとっている白いドレスが、幽霊(ゴースト)のように、闇夜にはためく。雨粒をかいくぐり、水たまりを蹴散らしてゆく。
『待てッ』
『逃がすなッ』
と、追っ手の声が迫ってくる。
「はぁ……はぁ……」
息が辛い。
いくつもの裏路地を迂回して、通路の深くに潜りこんだ。普段は家々から明かりが漏れているが、もう夜も遅く、グッスリと静まり返っている。
表通りには、呪術をほどこした街灯が建ち並んでおり、それなりの明るさがある。けれど、裏路地にはその明かりも届きはしない。追っ手たちの火の魔法が揺らめくぐらいだ。雨脚が強くなってくる。湿気がカラダにまとわりついてくるようで、やたらとカラダが重く感じた。
(捕まるわけにはいかない……)
走った。
いくつかの曲がり角を曲がったときに、奇妙な人物が目に留まった。
壁にもたれかかかり、気だるげに煙草を吸っていた。黒髪を乱暴に伸ばして、瞳は黒くよどんでいる。何を見ているのか、視点はさだまらずにぼんやりと煙草のケムリを見つめているようだった。落ちぶれた貴族のような優雅さに、しばし見惚れた。全身びしょ濡れになっていた。闇に濡れてるみたいで美しかった。濡れて、雨宿りでもしていたんだろう――と見た。
「あ、あなた……ッ」
と、ミファはその青年に声をかけた。
「あ?」
はじめてミファの存在に気づいたようで、おもむろに顔を向けた。死んだような目には、退廃の輝きがあった。
「私を守りなさい」
「は?」
と、男は唖然とした顔をした。
「あなた、斜陽貴族ですか? それとも、乞食ですか? わかりませんが、あまりお金がないでしょう」
見れば、わかる。
カラダは汚れているし、身なりも汚い。それにすごく臭う。厭な臭いではない。絶望の臭いがした。ミファはこの都市で、いくつもの絶望を嗅いできた。この都市で臭うものとはすこし違うが、似たようなものを嗅ぎ取った。
「オレは、旅人なんですよ」
「この都市の人間ではないのですね」
「ええ」
「なら、チョウド良い。お金は払います。私を守りなさい」
「あんたを守れば、金を恵んでくれるわけか。そりゃ、悪くない」
まるで興味がないような物言いだった。
「じゃあ、ここで足止めしておいて。誰か来ても、知らないって言っておくのよ」
そう言い残して、ミファは立ち去ることにした。お礼をするとは言ったが、ウソだ。守ってもらおうとも考えていない。すこし、追っ手の時間稼ぎをしてくれるだけで良いのだ。逃げようとした。
が、しかし――。
『回りこめ』
『こっちだッ』
と、前方からも声がした。
挟みこまれていた。
「ちッ」
と、ミファは顔を隠すための仮面をつけた。
「我々は、王国治安維持騎士部隊だ。もう逃げられないぞ。小娘。魔力覚醒剤取締により逮捕する」
細い通路だ。
前方に5人。後方に2人。突破するなら後ろの道だが、王国治安維持騎士部隊は、かなりの手練れだ。なんのチカラもないミファには、荷が重い。寄る辺は、この身なりの汚い男しかいない。この男が、どれぐらいのヤリ手なのかはわからないが、ミファの逃げる隙ぐらいは作ってもらわなくては困る。
「なんとかしなさいよ」
と、切羽詰って、男にそう耳打ちした。
「なんで、そう上から目線なんだよ」
と、男が別に不服そうでもなく、尋ねてくる。
「ウルサイわね。礼ははずむから死ぬ気で、私を逃がしなさい」
「そりゃ、ありがたい」
男はそう言うと、煙草を投げつけた。人差し指と中指のあいだから逃げ出した煙草は、宙を舞って騎士たちの足元に転がった。水たまりに落ちたのかして、ジュッ、と火の消える音がした。瞬間。青白い魔法陣が煙草から発せられていた。
「火系基礎魔法《爆発》」
煙草は巨大な爆発を起こした。水しぶきと砂煙が吹き上がる。石畳の地面から、石材が勢いよく跳びだしてきた。壁にも穴が開いている。
「うわぁッ」
と、騎士たちが吹き飛ぶ。
(今のは……魔法? すごいこの人……治安維持騎士部隊をこうもアッサリと……)
「行くぞ」
と、男がミファの手をとった。
「強いのね。私はミファ・フリードリッヒよ」
ミファは仮面をはがしてそう名乗った。
「オレは、ケネス・カートルドだ」
と、男はそう名乗った。
ミファ・フリードリッヒは顔を隠して逃げていた。まとっている白いドレスが、幽霊(ゴースト)のように、闇夜にはためく。雨粒をかいくぐり、水たまりを蹴散らしてゆく。
『待てッ』
『逃がすなッ』
と、追っ手の声が迫ってくる。
「はぁ……はぁ……」
息が辛い。
いくつもの裏路地を迂回して、通路の深くに潜りこんだ。普段は家々から明かりが漏れているが、もう夜も遅く、グッスリと静まり返っている。
表通りには、呪術をほどこした街灯が建ち並んでおり、それなりの明るさがある。けれど、裏路地にはその明かりも届きはしない。追っ手たちの火の魔法が揺らめくぐらいだ。雨脚が強くなってくる。湿気がカラダにまとわりついてくるようで、やたらとカラダが重く感じた。
(捕まるわけにはいかない……)
走った。
いくつかの曲がり角を曲がったときに、奇妙な人物が目に留まった。
壁にもたれかかかり、気だるげに煙草を吸っていた。黒髪を乱暴に伸ばして、瞳は黒くよどんでいる。何を見ているのか、視点はさだまらずにぼんやりと煙草のケムリを見つめているようだった。落ちぶれた貴族のような優雅さに、しばし見惚れた。全身びしょ濡れになっていた。闇に濡れてるみたいで美しかった。濡れて、雨宿りでもしていたんだろう――と見た。
「あ、あなた……ッ」
と、ミファはその青年に声をかけた。
「あ?」
はじめてミファの存在に気づいたようで、おもむろに顔を向けた。死んだような目には、退廃の輝きがあった。
「私を守りなさい」
「は?」
と、男は唖然とした顔をした。
「あなた、斜陽貴族ですか? それとも、乞食ですか? わかりませんが、あまりお金がないでしょう」
見れば、わかる。
カラダは汚れているし、身なりも汚い。それにすごく臭う。厭な臭いではない。絶望の臭いがした。ミファはこの都市で、いくつもの絶望を嗅いできた。この都市で臭うものとはすこし違うが、似たようなものを嗅ぎ取った。
「オレは、旅人なんですよ」
「この都市の人間ではないのですね」
「ええ」
「なら、チョウド良い。お金は払います。私を守りなさい」
「あんたを守れば、金を恵んでくれるわけか。そりゃ、悪くない」
まるで興味がないような物言いだった。
「じゃあ、ここで足止めしておいて。誰か来ても、知らないって言っておくのよ」
そう言い残して、ミファは立ち去ることにした。お礼をするとは言ったが、ウソだ。守ってもらおうとも考えていない。すこし、追っ手の時間稼ぎをしてくれるだけで良いのだ。逃げようとした。
が、しかし――。
『回りこめ』
『こっちだッ』
と、前方からも声がした。
挟みこまれていた。
「ちッ」
と、ミファは顔を隠すための仮面をつけた。
「我々は、王国治安維持騎士部隊だ。もう逃げられないぞ。小娘。魔力覚醒剤取締により逮捕する」
細い通路だ。
前方に5人。後方に2人。突破するなら後ろの道だが、王国治安維持騎士部隊は、かなりの手練れだ。なんのチカラもないミファには、荷が重い。寄る辺は、この身なりの汚い男しかいない。この男が、どれぐらいのヤリ手なのかはわからないが、ミファの逃げる隙ぐらいは作ってもらわなくては困る。
「なんとかしなさいよ」
と、切羽詰って、男にそう耳打ちした。
「なんで、そう上から目線なんだよ」
と、男が別に不服そうでもなく、尋ねてくる。
「ウルサイわね。礼ははずむから死ぬ気で、私を逃がしなさい」
「そりゃ、ありがたい」
男はそう言うと、煙草を投げつけた。人差し指と中指のあいだから逃げ出した煙草は、宙を舞って騎士たちの足元に転がった。水たまりに落ちたのかして、ジュッ、と火の消える音がした。瞬間。青白い魔法陣が煙草から発せられていた。
「火系基礎魔法《爆発》」
煙草は巨大な爆発を起こした。水しぶきと砂煙が吹き上がる。石畳の地面から、石材が勢いよく跳びだしてきた。壁にも穴が開いている。
「うわぁッ」
と、騎士たちが吹き飛ぶ。
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と、男がミファの手をとった。
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