《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第3-26話「亀裂」

「ヴィルザ」
「なんじゃ」
「どうして、ロールを殺した?」



 ロールは王国軍に殺されたのではない。ケネスの魔法陣を通して、ヴィルザが殺したのだ。それは実質、ケネスが殺したも同然だった。



 ロールの屍のかたわらに座り込んで、ケネスはモクモクと煙草のケムリを吸いこんでいた。龍の葉でできた煙草は、ケネスの肺に活力を注ぎ込んできた。生きろよ――とロールに言われているようだった。



「その女は、ケネスに色目をつかっておった。色目どころか、好きだと言っておったではないか」



「だから、殺したのか」
「なんじゃ、怒っておるのか?」



「怒るだろ。オレの幼馴染なんだぜ」



「だから殺した。ケネスは私のものだ。私だけのものだ。コゾウには私がいれば充分であろう。他の女など、邪魔でしかない」



 悪びれずに言う。
 悪いことをしたという自覚がないのかもしれない。この魔神は、もともと人を殺すことにたいする罪悪感が欠落しているのだ。怒鳴りたいところだが、グッとそれを押し殺した。他にも尋ねたいことがあったのだ。



「もうひとつ尋ねるが」
「なんだ?」



 ヴィルザはケネスの周囲をふわふわと浮かんで、煙草から立ち上るケムリを、無邪気に追いかけまわしていた。



「これは、なんだ?」



 左手は煙草を支えているケネスの手だった。右手はだが、呪いでもかけられたように、赤黒く変色していた。痛くはない。カユくもない。色だけが変わってしまっている。それに、自分のものではない特殊な魔力を感じた。



 はじめてヴィルザの表情に、動揺が見受けられた。



「それは……その、私はケネスのことを守ろうとしてな。ほれ。王国軍がケネスのことを殺そうとしてきたであろう。だから……な?」



「だから、なんだ?」



「……」
 ヴィルザは下唇を噛みしめると、目をそらした。



「オレの肉体を、奪おうとしたな? 絶望に夢中になってるあいだが、チャンスだと思ったか?」



 なんとなく、わかってしまった。
 ヴィルザは、ついにケネスを介しているだけじゃ物足りなくなってきたのだ。肉体を奪おうとしてきたのだ。



 この右手にヴィルザの魔力が宿っているのを感じる。



「ち、違うぞ。奪うとか、そういうのではなくて、チョット肉体を借りようとしただけで」



「はぁ」
 ケムリとともに、ため息を吐きだした。



「わ、悪かった! それに関しては謝るッ。気の迷いがあったんじゃ。コゾウの肉体を奪えば、私は孤独じゃなくなる。そのカラダを使って、自在に動くことができれば、殺戮を楽しむことができる。であろう?」



 その場逃れの謝罪には見えなかった。ホントウに申し訳なさそうに、ヴィルザはケネスの前で土下座していた。



「前から、気になってたんだが」
「うん?」



「現実に出て来られたとしても、人を殺しまくっていたら、孤独じゃないのか?」



「違う。それは違うぞ」
 出会ったヤツを片っ端から殺していたら、孤独と同じことだろうと思う。



「どう違うんだ?」



「恨まれ、憎悪される。憎悪されることで、私は人とつながりを持てる」



 たしかにそうかもしれない。
 だが、それはあまりに哀しい理屈だ。



「そんなにガンバって人を殺すことに、何か理由でもあるのか? 戦う理由が」



 ケネスの心の奥は、いつもサラッとした水のように穏やかだった。貶されたり、笑われたりしても、それはその場かぎりの、疎ましさや恨めしさとなって風化していった。



 でも、今は違う。



 あんなにも澄み切っていた心の奥には、いまや漆黒の炎が燃え上がっていた。その炎の名は、憎悪。触れると思わず、手を引っ込めてしまうような熱を持っている。ケリュアル王国に、故郷を奪われた。両親を殺された。それが、着火物となった。戦う、理由を見つけてしまった。この感情と似たようなものが、ヴィルザのなかにもあるのだろうかと思った。



 しかし。



「ない」
 と、ヴィルザは言いきった。



「り、理由がないのに、人を殺すのか」



「私の名を、言ってみよ」
 急に重々しい、威厳さえ感じられる口調となって、ヴィルザは尋ねてきた。



「は?」
「私の名。言ってみよ」
「ヴィルザだろ。魔神ヴィルザハード」



 もう何度も、聞いた名だ。



「不条理に、理由もなく、人を殺し、殺戮を楽しむからこその、魔神。何か理由があって、人を襲っているのならば、それはただの人じゃ。理由がないから、魔神なのであろうが」



「この大悪党め」
「ありがとう」



 ずっとここまで旅をしてきた情けが、ケネスとヴィルザのあいだには、まとわりついていた。助けてくれた。愛の出来そこないみたいな感情で、仲良くやってきた。



 けれど、これからは――。



「絶交だ」
「え?」
「今日で終わりにしよう。オレと、お前の関係は」
「な、なに? どういう意味だ?」



 ユックリと煙草を吸う。ケムリを肺腑へ送り込み、心臓から吐き出す。心臓で、憎悪の炎が黒く燃えている。これは、その炎があげるケムリだ。



「だからさ。悪いけど、別のヤツのところに行ってくれ。オレはもう、お前と口もききたくないんだよ」



 ケネスはユックリと立ち上がった。



 許せるはずがない。



 幼馴染を殺した。村人だって手にかけた。無邪気だったのかもしれない。でも、ケネスのカラダまで乗っ取ろうとしてきた。



 右手は今も、うずく。赤黒く変色している。でも、この右手は傍からみれば普通なのだろう。《可視化》のスキルで見たときにだけ、変色して見える。ヴィルザの名残だからかもしれない。



 歩みを進める。
 死体を踏みわけてゆく。



「どこへ行く?」
「……」



 ヘッケラン・バートリーを連れて行かれた。それに、故郷を潰された礼をしに行かなくちゃいけない。



 ソルト率いるケリュアル王国軍の、後を追いかけるつもりだった。

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