《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第3-25話「ロールの宝物」

 ケネスの意識は暗闇のなかにあった。



 故郷が壊されていたこと。両親が殺されたことが、意識に緞帳カーテンをおろしていた。



 そしてなにより……。



 どうしてもう1日はやく、家に帰らなかったのか。両親に会おうとしなかったのかという悔恨があった。そんなケネスの傷を癒すように、ヴィルザはずっとケネスのことを抱いてくれていた。そのつつましい乳房で、ケネスの頭を抱き寄せてくれていた。ヴィルザのカラダ。あたたかい。



「私の可愛いケネスよ。もう少し魔法陣を展開したままでいろよ。そうすれば、悲しくなくなるからな」



「うん」
 何も考えずに、ヴィルザにすがっていた。



 そんな意識の暗闇に、注ぎ落ちてくる声があった。



「やっぱり悪い女に騙されてやがったのか」



 周囲を見渡しても、暗闇ばかり。目の前にヴィルザの紅色の髪が揺れるばかりで、何も見えはしなかった。



「トンデモナイ性悪女にとりつかれてやがる。ケネスはヘッピリ腰だから、すぐ女につけ入られるんだよ」



「この声……」
 ロールの声だ。



 もともと楽器を奏でるような声だったのに、煙草を吸うようになったからか、大人になったのか、ちょっとガラガラっとしてる幼馴染の声だ。



「そろそろ目を覚ませよ。いつまで寝てんだ」



 額。
 何か熱いものを押し付けられた。
 煙草の熱だとわかった。



 その感触で、ケネスの意識は現実に戻ってきた。依然として火に包まれたシュネイの村にいた。周囲一帯が死体で埋まっていた。血と肉と骨の大地と化していた。ケネス自身ももはや原形のない肉片の上に立っていた。



 ケネスは魔法陣を展開していた。その魔法陣からは真っ赤な腕が伸びていた。そしてその腕がつかんでいるのは、ロールのカラダだった。



「な……っ」
 言葉を失った。



 真っ赤な巨木のような腕が……ロールを握りこんでいる。見間違いではない。しかもその腕は、ケネスの魔方陣から伸びている。その景色を理解するのに、しばらくの間を要した。



「なんだよ、これッ!」



 あわてて魔法陣をしまう。それに合わせてふしくれだっていた腕は、ずずーっと吸い込まれるようにして、魔法陣のなかに戻って行った。



 ボトッ



 巨大な手がにぎっていたものを、地面に落とした。ロールの肉体だった。腕や足が変な方向に曲がっている。ケネスはチカラの入らないカラダで、ロールにすり寄った。辺り一帯に死肉が散乱しており、ブヨブヨとした感触が、這いずっている際に伝わってきた。



「よォ。やっと目が覚めたのかよ。ッたく、頭がイカれちまったのかと思ったぜ」



 瀕死のロールはかすれる声でそう言った。
 虫の息だ。



「なんだ? いったい何がどうなったんだ?」
「なんにも覚えてねェのかよ?」
「わからない」



 ダンジョンに潜っていて、村に戻ってきた。村は王国軍に襲われていて、大変なことになっていた。両親も殺された。そして、王国軍に殺されそうになって……そのあたりから、ハッキリしない。



「ケネスが、王国軍を追い返したんだ。あいつらケネスの魔法にビビり散らかしてやがったぜ」



「オレの魔法?」
 魔法なんか、使った覚えもない。



「いや。ケネスの魔法じゃねェーな。ありゃ、ケネスの中にいる、変なバケモノの魔法だった」



「ヴィルザのことか」
「ヴィルザってのか。お前に付いてる女の名前」



「ヴィルザが見えるのか?」



「なぁんにも見えやしないよ。けれど、お前が出してた魔法陣から、腕が跳び出してるのは見えてたからな。女だろ。ケネスから臭ってる女の臭いと、同じ臭いがしやがった」



「たしかに、ヴィルザは女だけど」



「その女に騙されんじゃねェぞ。トンデモナイ性悪女だ。王国軍を追い返して、逃げ遅れた王国軍や、村の連中も見境なしに殺しはじめた。私もこのザマだ」



 へっ、とロールは笑った。



「か、回復薬があったはずだ。チョット待ってて」



 ダンジョンに潜るさいに持ち込んだはずだ。どこかで落としたのか、身につけてはいなかった。
すぐに探し出そうと思ったのだが、ロールは生きているほうの腕で、ケネスの手をつかんできた。



「よせ。見りゃわかんだろ。回復薬なんかで、治るかよ」



「でも……」



 冷静に考えればわかることだ。癒術だって治りそうにない。生きているのが不思議なぐらいだ。



「回復薬なんかより、煙草を吸わせろ。最後の一服だ」



「うん」



 失われようとしている命が、目の前にあるのに、ケネスにはどうしようもなかった。混乱とか、悲懐とかがあったけれど、不思議と穏やかなロールの雰囲気に惹きつけられていた。カラダがグチャグチャになっているのにロールの顔は、清々しくて、かつてケネスが村を出て行く前の、清らかな彼女が戻って来ていた。



「私の右のポケットのなかに、シケモクが入ってやがる。それを、くわえさせてくれ」



「吸いがらで良いのか?」



「大事な、吸いがら、なんだよ。私の、宝物」



 探ると、たしかにもう小さくなってしまった、吸いがらがあった。もう短くなってしまった煙草を、ロールは思い出を慈しむように口にくわえた。



「がんばれよ。私の小っちゃい勇者」
「火はいらないのか?」
「……」



 もう、死んでいた。
 穏やかな顔をして、ロールは息をひきとっていた。それを見て、ケネスは頬に涙がつたうのを感じた。



 魔神に食われそうになっているケネスのことを、こっちに連れ戻してくれた。命をかけて連れ戻してくれた。そんなロールのことを殺してしまったのは王国軍なんかじゃなくて、ケネス自身なのだった。



 ロールの懐をあさると、まだ新しい煙草が残っていた。左手の人さし指と中指でつまみあげる。口にくわえる。右手で魔法陣を発して、小さな火を灯す。ポッと命の灯火みたいに、煙草の先端が光る。ケムリがユラユラ悲しそうにたちのぼる。吸う。苦い。悲劇の味がした。



「うわぁぁぁぁぁぁ――ッ」

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