《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第3-24話「撤退」
騎士たちは下がらせた。魔術師だけ残して、ソルトの援護に当たらせた。そのソルトはケネスと対峙している。
「たしか、ケネス――くんだったよな。ケネス・カートルドくんだ。ゲヘナ・デリュリアスを倒したって聞いたけど、どうやらウソではなさそうだな」
「……お母さん、お父さん」
「聞いちゃいねェな。戦火に巻き込まれて、オカシクなっちまうなんて珍しくもないけど、その野蛮なヤツは、どうにかしてくれねェかねェ」
相変わらず、魔法陣から腕だけ生えている。
見ているだけで五臓六腑に鳥肌が立つような心地になる。たしかに見た目もグロテスクだが、それより帯びている魔力の質が、半端なくドス黒い。吐き気さえ感じる。新しいオモチャを求めるように腕が伸びて来る。
「ひぃぃッ」
と、騎士たちが後ずさりしている。
「近づくなよッ。この腕はどうやらあの魔法陣からは出られないらしい。それ以上は、出て来られないはずだ」
ソルトが注意喚起をした。
しかし――。
「な、なんだぁ?」
ケネスが出している魔法陣が、押し広げられていた。魔法陣がゴムのように伸びてゆく。新たに作り出された隙間分だけ、腕が伸びてきた。ソルトに迫ってきた。
「オレに来るか。面白れェ」
剣で、受け流した。
特注のロングソードだ。オリハルコンでつくられており、刀身は金色の輝きを帯びている。アダマンタイトまではいかなくとも、かなりの硬度をほこり、切れ味が落ちることも、ほとんどない。
人間のカラダよりひとまわりほど大きいコブシを、2度、3度、刀身で受け止めた。たったのそれだけで、腕がジンとしびれた。そしてオリハルコンの刀身が、粉々に砕け散ることになった。
「な、なんだァ、メチャクチャ強ぇな。おい。やっぱりあのスキルを使うしかねェか」
スキル。《龍化》。
みずからの肉体を、ドラゴンへと変貌させるスキルだ。1日に3度も使うことになるとは思わなかった。このスキルはたしかに強力だが、長時間は使えない。
「しかも、スキル使うたんびに、服が破けちまってよー。オレは部下たちに何度裸を見られちまってるのやら。しかし、戦神カヌスの再来なんて言われちまってるからねー。そんな大層な存在じゃねェんだけども。負けるわけにゃいかねーのよ」
カラダがメリメリと音をたてて、大きくなる。骨が肉を突き破るような感覚に襲われる。全身の血が沸騰して熱くなっていく。やわらかい人間の肉が、硬直してく。皮膚が黒ずんでゆく。漆黒の鎧が全身を覆う。肩甲骨が引き伸ばされてゆき、巨大な翼になる。尾てい骨のあたりから、尻尾がぐいーっと伸びてくる。歯が伸びる。顔が大きくなる。すべてが変わる。
「ショータイムだ。悪く思うなよ。コゾウ」
ソルトは漆黒のドラゴンと化した。地を蹴り、ケネスへと疾駆する。ケネスを守るようにして、紅の腕がソルトの体当たりを受け止めた。鉱山すら削り落とすドラゴンのカギ爪で、その腕を引っ掻いた。が、傷一つつかない。腕はむしろ生き生きしているように見える。引っ掻いたソルトの足のほうが痺れた。
「バカみてェに、硬い腕してやがる」
腕はソルトを捕えようと右へ左へと、宙をさまよい追いかけてくる。強く、すばやく、凶悪な腕だ。が、届く範囲はかぎられている。捕まりそうになれば、空に飛びあがり距離をとれば良い。
やっぱり魔法陣の狭さが問題らしい。窮屈そうにしている。
「もしかして、チカラを抑えてんのか? それでチカラを抑えてんなら、たいした魔力だぜ」
ん?
空へ逃げたソルトを捕えようと、腕が伸びてきた。腕は限界まで伸びきっているようで、ヤッパリそれ以上は追いかけて来なかった。だが、不思議なことが起こった。
魔法陣を展開しているのはケネスだ。その魔法陣から、不気味な腕が伸びて来ている。さらに、その腕が、マッタク別の魔法陣を展開しはじめたのだ。
「な、なんじゃ、そりゃ?」
魔法陣から出てるくせに、さらに魔法陣を展開するなんて、聞いたこともない。もっとも、魔法陣から生えてくる腕なんてのも、聞いたことはないけれど。
その魔法陣から、真っ赤な光線が放たれた。
もはやなんの魔法かさえもわからない。
「おおっと」
あわててかわした。光線はソルトの翼をかすめて空へと撃ち放たれた。空にまばらに広がっていた雲が、光線からあわてるように逃げ出していった。空は、雲ひとつない快晴になり、そして巨大な爆発を起こした。まるでもうひとつ太陽が昇ったかのように、輝きだった。
「冗談じゃねぇぜ。半端ねぇ……」
あんまりにメチャクチャな強さだ。
あの魔法を地上に撃たれていたら、このあたり一帯が消滅していたかもしれない。
ソルトは地上に降り立って《龍化》のスキルを解いた。人間の姿に戻る。このとき、どうしても全裸になるので、カッコウがつかない。もう風貌を気にするような歳でもなくなってきたが。
「ソルトさま」
と、部下たちが、すぐに服を持って来てくれた。
「撤退だ」
「は?」
「全軍、撤退する。引き上げるぞ」
「撤退……ですか? しかし、すでにシュネイの村の制圧は終わっておりますし、このあたりに帝国軍は」
「目の前に、半端ないバケモノがいるだろうが。あんなの、どうやって倒せって言うんだよ。戦争なんかで死にたかァねェんだよ。オレは。余生は女の子と遊びまくって、腹上死するって決めてんだから」
解せないだろう。
ソルトだって解せない。
バートリーの率いていた王国軍は倒したのだ。王国軍を倒したのに、たった1人の子どもを前に撤退せざるを得ないのだ。
「収穫がなかったわけじゃない。あのバートリーとかいう嬢ちゃんは、いくらでも使い道がある。情報だって持ってるだろうし、帝国との交渉にも使える。なによりベッピンさんだ」
「了解です」
全軍、撤退――ッ。
「たしか、ケネス――くんだったよな。ケネス・カートルドくんだ。ゲヘナ・デリュリアスを倒したって聞いたけど、どうやらウソではなさそうだな」
「……お母さん、お父さん」
「聞いちゃいねェな。戦火に巻き込まれて、オカシクなっちまうなんて珍しくもないけど、その野蛮なヤツは、どうにかしてくれねェかねェ」
相変わらず、魔法陣から腕だけ生えている。
見ているだけで五臓六腑に鳥肌が立つような心地になる。たしかに見た目もグロテスクだが、それより帯びている魔力の質が、半端なくドス黒い。吐き気さえ感じる。新しいオモチャを求めるように腕が伸びて来る。
「ひぃぃッ」
と、騎士たちが後ずさりしている。
「近づくなよッ。この腕はどうやらあの魔法陣からは出られないらしい。それ以上は、出て来られないはずだ」
ソルトが注意喚起をした。
しかし――。
「な、なんだぁ?」
ケネスが出している魔法陣が、押し広げられていた。魔法陣がゴムのように伸びてゆく。新たに作り出された隙間分だけ、腕が伸びてきた。ソルトに迫ってきた。
「オレに来るか。面白れェ」
剣で、受け流した。
特注のロングソードだ。オリハルコンでつくられており、刀身は金色の輝きを帯びている。アダマンタイトまではいかなくとも、かなりの硬度をほこり、切れ味が落ちることも、ほとんどない。
人間のカラダよりひとまわりほど大きいコブシを、2度、3度、刀身で受け止めた。たったのそれだけで、腕がジンとしびれた。そしてオリハルコンの刀身が、粉々に砕け散ることになった。
「な、なんだァ、メチャクチャ強ぇな。おい。やっぱりあのスキルを使うしかねェか」
スキル。《龍化》。
みずからの肉体を、ドラゴンへと変貌させるスキルだ。1日に3度も使うことになるとは思わなかった。このスキルはたしかに強力だが、長時間は使えない。
「しかも、スキル使うたんびに、服が破けちまってよー。オレは部下たちに何度裸を見られちまってるのやら。しかし、戦神カヌスの再来なんて言われちまってるからねー。そんな大層な存在じゃねェんだけども。負けるわけにゃいかねーのよ」
カラダがメリメリと音をたてて、大きくなる。骨が肉を突き破るような感覚に襲われる。全身の血が沸騰して熱くなっていく。やわらかい人間の肉が、硬直してく。皮膚が黒ずんでゆく。漆黒の鎧が全身を覆う。肩甲骨が引き伸ばされてゆき、巨大な翼になる。尾てい骨のあたりから、尻尾がぐいーっと伸びてくる。歯が伸びる。顔が大きくなる。すべてが変わる。
「ショータイムだ。悪く思うなよ。コゾウ」
ソルトは漆黒のドラゴンと化した。地を蹴り、ケネスへと疾駆する。ケネスを守るようにして、紅の腕がソルトの体当たりを受け止めた。鉱山すら削り落とすドラゴンのカギ爪で、その腕を引っ掻いた。が、傷一つつかない。腕はむしろ生き生きしているように見える。引っ掻いたソルトの足のほうが痺れた。
「バカみてェに、硬い腕してやがる」
腕はソルトを捕えようと右へ左へと、宙をさまよい追いかけてくる。強く、すばやく、凶悪な腕だ。が、届く範囲はかぎられている。捕まりそうになれば、空に飛びあがり距離をとれば良い。
やっぱり魔法陣の狭さが問題らしい。窮屈そうにしている。
「もしかして、チカラを抑えてんのか? それでチカラを抑えてんなら、たいした魔力だぜ」
ん?
空へ逃げたソルトを捕えようと、腕が伸びてきた。腕は限界まで伸びきっているようで、ヤッパリそれ以上は追いかけて来なかった。だが、不思議なことが起こった。
魔法陣を展開しているのはケネスだ。その魔法陣から、不気味な腕が伸びて来ている。さらに、その腕が、マッタク別の魔法陣を展開しはじめたのだ。
「な、なんじゃ、そりゃ?」
魔法陣から出てるくせに、さらに魔法陣を展開するなんて、聞いたこともない。もっとも、魔法陣から生えてくる腕なんてのも、聞いたことはないけれど。
その魔法陣から、真っ赤な光線が放たれた。
もはやなんの魔法かさえもわからない。
「おおっと」
あわててかわした。光線はソルトの翼をかすめて空へと撃ち放たれた。空にまばらに広がっていた雲が、光線からあわてるように逃げ出していった。空は、雲ひとつない快晴になり、そして巨大な爆発を起こした。まるでもうひとつ太陽が昇ったかのように、輝きだった。
「冗談じゃねぇぜ。半端ねぇ……」
あんまりにメチャクチャな強さだ。
あの魔法を地上に撃たれていたら、このあたり一帯が消滅していたかもしれない。
ソルトは地上に降り立って《龍化》のスキルを解いた。人間の姿に戻る。このとき、どうしても全裸になるので、カッコウがつかない。もう風貌を気にするような歳でもなくなってきたが。
「ソルトさま」
と、部下たちが、すぐに服を持って来てくれた。
「撤退だ」
「は?」
「全軍、撤退する。引き上げるぞ」
「撤退……ですか? しかし、すでにシュネイの村の制圧は終わっておりますし、このあたりに帝国軍は」
「目の前に、半端ないバケモノがいるだろうが。あんなの、どうやって倒せって言うんだよ。戦争なんかで死にたかァねェんだよ。オレは。余生は女の子と遊びまくって、腹上死するって決めてんだから」
解せないだろう。
ソルトだって解せない。
バートリーの率いていた王国軍は倒したのだ。王国軍を倒したのに、たった1人の子どもを前に撤退せざるを得ないのだ。
「収穫がなかったわけじゃない。あのバートリーとかいう嬢ちゃんは、いくらでも使い道がある。情報だって持ってるだろうし、帝国との交渉にも使える。なによりベッピンさんだ」
「了解です」
全軍、撤退――ッ。
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