《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第3-22話「悲劇」

 ケネスは、ダンジョンから地上に出てきた。ダンジョンの血なまぐさい空気が、外の清らかな空気によって洗われていく。ダンジョンにもぐり、ちゃんとモンスターを倒して、地上に戻ってくる。それを成し遂げたのは、はじめてのことだった。達成感があった。けれど、その達成感にちゃぷちゃぷ浸っていられる余裕はなかった。ヴィルザが急かしてくるからだ。



「ほれ、急いで村に戻れ。血の匂いがするぞ」
 と、言うのだ。



 ケネスの故郷を心配しているというよりかは、大好物の何かを探し求めてる犬の顔をしていた。クンクン。鼻を鳴らして、死肉を求める。まるでケルベロス。こいつ、ホントはケルベロスなんじゃないかなぁ……なんて思う。老獪になったり、無垢になったり、残忍になったり、顔をいろいろ持っている。ジッとヴィルザの顔を見ていると、ニンマリ笑い返してきた。



「なんじゃ。見惚れておるのか?」
「バカ言うなよ。魔神の正体を見極めてやろうと思ってた」



「なんじゃそりゃ?」
「なんでもない」



「まぁ、私はいつも素顔だぞ。なぁんにも隠してなどおらん。それより、とにかく村へ急いで戻れ」



「うん」



 たとえ何が起こっていようとも、今なら泰然と立ち向かうことができる気がした。火系上位魔法を扱えるようになった。B級相当のジャイアント・ゴブリンを1人で倒したという自信がみなぎっていた。



 しかし――。



 その自信が、たちまち萎れてしまうような事態に直面することになった。小高い丘の上から、シュネイの村を見下ろすと、各家の屋根から炎が吹き上がっていたのだ。それも1軒や2軒だけじゃなくて、いくつも火柱が立ち上っていた。熟成された平和の臭いはどこにもなくて、鼻につくのは血と火の臭いだった。



「何が――どうなってるんだ?」
「ほれ見ろ。王国軍の鎧とか旗が見える」



 フォークみたいな三本柱が縫い込まれた旗が、なびいていた。いったい何の模様なのかわからないが、ケリュアル王国の旗印に違いなかった。



「王国軍が攻めてきたのか?」



「ヘッケラン・バートリーとかいう小娘が、野営を敷いておったじゃろう。私たちがダンジョンに潜ってるあいだに、戦争があった――ということであろう」



 ケネスたちが潜るときには、まだ何もなかった。早期に決着がついた戦争だったということだろう。



「じゃあ、バートリーさんは」
「殺されておるかもな」
「そんな……」



 しかし、バートリーの身を案じている余裕はなかった。村には両親がいる。それに、ロールとロビンが先に村に戻っているはずだ。巻き込まれているかもしれない。村の様子を見下ろして、ケネスは実家の場所を確認した。



 丘のふもとにある家――。



 ちょうど王国軍の騎士が押し入っているところだった。髪の長い女性が、その髪をつかまれて引っ張り出されているところだった。遠目だったから、顔までは確認できなかった。でも直感した。



「母さんッ」
 ケネスの母だ。



 何も考えていなかった。助けなくちゃいけない。そう思って走り寄っていた。全速力で丘を駆け下りる。家に、接近する。家には庭がある。白いペンキで塗られた木造柵に囲まれている。庭には色とりどりの花が咲いていた。母は、花を育てるのが好きだったのだ。その花に囲まれた庭園で、そしてケネスの目の前で、母は斬りつけられていた。一閃。悲鳴。倒れこむ母。



(母さん……ッ)



「おい、やめろォッ」と、家の中から男の叫び声が聞こえた。しかし、それもすぐに悲鳴に変わり、静かになった。父が、殺されたのだとわかった。



「……はぁ……はぁ……」
 呼吸が苦しくなってきた。



「か、母さん?」



 背中を大きく斬られて、地面に血だまりをつくっている母に歩み寄った。その目はもう、どこも見てはいなかった。顔は恐怖にゆがみ、硬直してしまっている。



 なんだ?
 オレは何を見ているんだ?
 これは――悪夢だ。
 ひざまずく。
 母の死体に手を伸ばす。
 冷たい。



 こんなことになるなら、昨日のうちに両親に挨拶をしておくんだった。そう後悔した。親不孝な息子だった。冒険者になるんだと言い張って、両親の反対を押し切って、家を跳び出したのだ。



 怒っただろう。心配もしただろう。死んでいるんじゃないかとも思われていたかもしれない。せめて、連絡ぐらいは寄越すべきだった。いや。連絡じゃなくても、あと1日。あと1日早く、親に顔を見せるべきだった。バートリーの野営地で1日過ごしたことで、遅れてしまった。



 今では魔術学院に通っているんだ。そう一言伝えるだけで、両親ともに安心したことだろう。
でも、死んだ。



 死ぬ直前まで、きっと息子の安否を気にしていたことだろう。ケネスはどこで何をしてるのかしら。そう思っていたかもしれない。



 親不孝な息子だった。



「……ッ。……カリせいッ」
 声が、聞こえる。



「おいッ。シッカリせんかッ」



 意識が悲嘆から釣り上げられた。ヴィルザの声だった。気づくとケネスは、母の死体の前にひざまずいていた。そのケネスのことを、王国騎士が取り囲んでいた。母の血が、広がり続けている。庭園を真っ赤に染め上げていた。夕日が焼けているせいか、それとも、母の血が広がり続けているせいか、わからなかった。



『なんだこのコゾウは?』
『村人じゃないか?』



『村人は皆殺し。そう命令されてるんだ。殺しときゃ良いだろ」



『悪いな。コゾウ。これは戦争なんだ』



 騎士たちの声が遠くに聞こえた。
 剣。
 突き出されようとしているのが見えた。



「魔法陣を展開せいッ!」



 その強い声に、ケネスは無意識のうちに魔法陣を展開していた。地面から巨大な岩の手が生えてきて、王国騎士たちを握りつぶした。



 血が、散る。
 真っ赤な花が咲き乱れて。
 とっても、キレイ。
 母は、花が、好きだった。



「マッタク焦らせよってからに。母の死なんかで絶望している場合ではないわ。ケネスが死ねば、私はまた無限の孤独に落ちるんじゃからな」



「……ああ」
 周囲を見渡す。



 シュネイの村が見えた。否。村だったものが広がっていた。血で真っ赤に染まっている。世界が赤く染まっている。真っ赤な花が咲き乱れている。そこに熟成された平和はどこにもなかった。



「なんだ、これは……なんなんだよ。これ……」



「くひひひッ。なにって戦争だ。争いだ。私の大好きな殺し合いだ。良いか。ケネス。そのまま魔法陣を出しっぱなしにしておれよ。そうすれば私がお前を守る。魔法陣を出しているだけで良い。何も見るな。何も感じるな。魔法陣を出しているだけで良いのだ」



「母さんが……」



「家の中から、男の悲鳴も聞こえた。ケネスの父親も死んでおるのだろうな」



「……ッ」
 感情が遠くに感じた。
 悲しい、のだろう。
 でも、それを素直に受け止めると、とっても痛いから、ケネスの心は遠くに避難していた。



「良い感じに壊れておるな。すこしは私の痛みを知ったか? それが孤独というものだ。でも、案ずることはない。何も悲しむことはない。私がついておる。私は決して裏切らん。だから、すべて私にゆだねれば良い」



「ヴィルザ……」
 ヴィルザの小さな胸に顔をうずめた。



 血の赤と、
 炎の赤と、
 夕日の赤と、
 そして目に映るのはヴィルザの赤だった。



「おう。私に甘えろ。私にすがれ。魔法陣を出しっぱなしにしておけよ。くくくッ。そうそう。出しっぱなしにしておくんだからな。魔法陣を出していれば、こうして抱いていてやる」



 魔法陣を、出しっぱなしに、しておけよ。
 何かの呪いのように、ヴィルザはそう呟き続けていた。



 その呪いを受けたケネスは、魔法陣を出しっぱなしにして、ヴィルザの胸に抱かれていた。



 何も、考えたくない。

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