《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第3-14話「上位魔法」
「手を貸してやろうか? コゾウ」
ゴブリンたちの死骸が積もるダンジョンにて、ケネスはジャイアント・ゴブリンと相対していた。1対1。否。ケネスにはいつだって、頼もしい小さな保護者がついている。その保護者は面白がるように、そう声をかけてきた。
「いや。いい。ここは1人でやってみたいんだ」
ジャイアント・ゴブリン――。B級相当のモンスターだと聞いているが、勝てない相手ではないと思った。
これも、またひとつ階段だ。一歩ずつ上がって行く。自分の足で届く範囲で良いから、少しずつ上がってゆく。そうやって、ガルシアやバートリー。そしてヴィルザのいる場所まで行くのだ。
いつまでも、甘えてばかりじゃ、いられない。
「良いだろう。私は手を出さずに見守っておこう。しかし、ホントウに危ないときは手を出すからな」
「うん」
ジャイアント・ゴブリンはケネスに向かって猛進してくる。地に積もるゴブリンたちの死骸は、その進行の妨げにはならないようだ。砂塵のように、蹴散らされてゆく。ケネスは魔法陣を展開する。
「火系基礎魔法。《火球》」
火の球が射出された。ヴィルザが放つ《火球》は、それはもう隕石のように大きいのだけれど、ケネスはまだ人の顔ほどの大きさのものしか作れない。魔神にはぜんぜん及ばない。
それでも、魔術学院に入学したころに比べると、手軽に出せるようになった。複数個、射出できるようにもなった。たしかに1歩ずつ成長しているのだ。
火の球が、ジャイアント・ゴブリンの厚ぼったい腹を焼く。怯んだ。が、それだけだった。ふたたび猛進してくる。
「ケネス。かわせッ」
「わかってるッ」
横に跳ぶ。
かろうじて、ジャイアント・ゴブリンの体当たりを避けることができた。蹴散らされたゴブリンの肉片がカラダにかかった。魔術学院の制服。あとでキレイに洗わなくちゃいけない。
「ケネスよ。そろそろもう一つ上の魔法に挑戦してみよ」
「もうひとつ上?」
「上位魔法だ。扱えるようになれば、この時代の魔術師としては、優秀と言える部類になる」
「火の上位魔法って言うと、酸の魔法か」
思い出深い魔法だ。
かつて帝国闘技大会で、帝国12騎士と言われるベルモンド・ゴーランを殺した系統の魔法だ。
「やってみろ」
「でも、魔術学院でもまだそんな上位魔法なんて習ってないし」
「魔術学院にいる者たちより、もっと優秀な先生がここにおるじゃろうが。言っておくが、ケネスには才能がある。使えてもオカシクはない」
「オレに才能なんて……」
そんなものがあるとは思えない。
ずっとFランクだとバカにされてきて、負け犬根性が板についているぐらいだ。
「弱気になってる場合か、あのデカブツは、ヤル気まんまんみたいだぞ」
ヴィルザの言うように、ジャイアント・ゴブリンはその豊満な肉をドラミングするように、手で叩きつけて、カラダ全体から闘気を発していた。ふたたび、猛進してくる。ケネスはそれに合わせて、魔法陣を展開する。
「コツは?」
「イメージせよ。炎を発したときと同じだ。そしてコゾウには、それをイメージできるじだけの経験を積んで来ておる」
この魔神の魔法を、見てきたのだ――とヴィルザはささやいた。
「火系上位魔法。《酸の霧》」
ベルモンド・ゴーランを溶かしたときと同じ、あの帝都の闘技大会を思い出せば良いのだ。
ポポコの群生のなかでたたずむ少女と出会い、すべてがはじまった日。ケネス・カートルドの歯車が動き出した日……。多くの観客の前で、帝国12騎士と謳われた双剣のゴーランを殺した日。
思い出されるのは、ヴィルザの圧倒的なチカラと、帝国闘技大会での狂騒と熱気だった。
「行け。私を視る者よ」
魔法陣から、白いケムリがモウモウと吹き上がる。ケムリがジャイアント・ゴブリンの巨体を包み込む。
「うごぉぉぉぉッ」
ジャイアント・ゴブリンの悲鳴があがった。その声はやがて小さくなってゆく。ケムリも同時に薄れてゆく。白くけぶった酸の霧から出てきたのは、巨大なゴブリンの骨だった。
一瞬、ゴーランを殺したときの罪悪感が波のように押し寄せてきたけれど、すぐに引いていった。
「やった……のか?」
「見事じゃ」
「このオレが、ついに上位魔法を?」
「まだ魔術学院の2年で、上位魔法を扱えるのは、ケネスぐらいであろう。でも、満足するなよ。コゾウはもっと上に行ける。もっと上り詰めろ。もっと私を満足させてくれ」
ヴィルザは歌うように言う。
自分が発した魔法だとは、今でも信じられずに、ケネスはジッと自分の手のひらを見つめていた。
「おや?」
ヴィルザが胡乱な声を出した。
「どうかしたか?」
「いや……。なんだか懐かしい匂いがする」
「懐かしいってどういう?」
ヴィルザの懐かしいは、10年や20年前のことではないだろうとわかった。太古の昔のことを言っているのだろう。
「争いの匂い……。血と悲鳴の匂い……。悲劇の香り」
ヴィルザは何かを探すように、周囲をせわしなく見回していた。頬が紅潮していた。
厭な、予感が、する。
ゴブリンたちの死骸が積もるダンジョンにて、ケネスはジャイアント・ゴブリンと相対していた。1対1。否。ケネスにはいつだって、頼もしい小さな保護者がついている。その保護者は面白がるように、そう声をかけてきた。
「いや。いい。ここは1人でやってみたいんだ」
ジャイアント・ゴブリン――。B級相当のモンスターだと聞いているが、勝てない相手ではないと思った。
これも、またひとつ階段だ。一歩ずつ上がって行く。自分の足で届く範囲で良いから、少しずつ上がってゆく。そうやって、ガルシアやバートリー。そしてヴィルザのいる場所まで行くのだ。
いつまでも、甘えてばかりじゃ、いられない。
「良いだろう。私は手を出さずに見守っておこう。しかし、ホントウに危ないときは手を出すからな」
「うん」
ジャイアント・ゴブリンはケネスに向かって猛進してくる。地に積もるゴブリンたちの死骸は、その進行の妨げにはならないようだ。砂塵のように、蹴散らされてゆく。ケネスは魔法陣を展開する。
「火系基礎魔法。《火球》」
火の球が射出された。ヴィルザが放つ《火球》は、それはもう隕石のように大きいのだけれど、ケネスはまだ人の顔ほどの大きさのものしか作れない。魔神にはぜんぜん及ばない。
それでも、魔術学院に入学したころに比べると、手軽に出せるようになった。複数個、射出できるようにもなった。たしかに1歩ずつ成長しているのだ。
火の球が、ジャイアント・ゴブリンの厚ぼったい腹を焼く。怯んだ。が、それだけだった。ふたたび猛進してくる。
「ケネス。かわせッ」
「わかってるッ」
横に跳ぶ。
かろうじて、ジャイアント・ゴブリンの体当たりを避けることができた。蹴散らされたゴブリンの肉片がカラダにかかった。魔術学院の制服。あとでキレイに洗わなくちゃいけない。
「ケネスよ。そろそろもう一つ上の魔法に挑戦してみよ」
「もうひとつ上?」
「上位魔法だ。扱えるようになれば、この時代の魔術師としては、優秀と言える部類になる」
「火の上位魔法って言うと、酸の魔法か」
思い出深い魔法だ。
かつて帝国闘技大会で、帝国12騎士と言われるベルモンド・ゴーランを殺した系統の魔法だ。
「やってみろ」
「でも、魔術学院でもまだそんな上位魔法なんて習ってないし」
「魔術学院にいる者たちより、もっと優秀な先生がここにおるじゃろうが。言っておくが、ケネスには才能がある。使えてもオカシクはない」
「オレに才能なんて……」
そんなものがあるとは思えない。
ずっとFランクだとバカにされてきて、負け犬根性が板についているぐらいだ。
「弱気になってる場合か、あのデカブツは、ヤル気まんまんみたいだぞ」
ヴィルザの言うように、ジャイアント・ゴブリンはその豊満な肉をドラミングするように、手で叩きつけて、カラダ全体から闘気を発していた。ふたたび、猛進してくる。ケネスはそれに合わせて、魔法陣を展開する。
「コツは?」
「イメージせよ。炎を発したときと同じだ。そしてコゾウには、それをイメージできるじだけの経験を積んで来ておる」
この魔神の魔法を、見てきたのだ――とヴィルザはささやいた。
「火系上位魔法。《酸の霧》」
ベルモンド・ゴーランを溶かしたときと同じ、あの帝都の闘技大会を思い出せば良いのだ。
ポポコの群生のなかでたたずむ少女と出会い、すべてがはじまった日。ケネス・カートルドの歯車が動き出した日……。多くの観客の前で、帝国12騎士と謳われた双剣のゴーランを殺した日。
思い出されるのは、ヴィルザの圧倒的なチカラと、帝国闘技大会での狂騒と熱気だった。
「行け。私を視る者よ」
魔法陣から、白いケムリがモウモウと吹き上がる。ケムリがジャイアント・ゴブリンの巨体を包み込む。
「うごぉぉぉぉッ」
ジャイアント・ゴブリンの悲鳴があがった。その声はやがて小さくなってゆく。ケムリも同時に薄れてゆく。白くけぶった酸の霧から出てきたのは、巨大なゴブリンの骨だった。
一瞬、ゴーランを殺したときの罪悪感が波のように押し寄せてきたけれど、すぐに引いていった。
「やった……のか?」
「見事じゃ」
「このオレが、ついに上位魔法を?」
「まだ魔術学院の2年で、上位魔法を扱えるのは、ケネスぐらいであろう。でも、満足するなよ。コゾウはもっと上に行ける。もっと上り詰めろ。もっと私を満足させてくれ」
ヴィルザは歌うように言う。
自分が発した魔法だとは、今でも信じられずに、ケネスはジッと自分の手のひらを見つめていた。
「おや?」
ヴィルザが胡乱な声を出した。
「どうかしたか?」
「いや……。なんだか懐かしい匂いがする」
「懐かしいってどういう?」
ヴィルザの懐かしいは、10年や20年前のことではないだろうとわかった。太古の昔のことを言っているのだろう。
「争いの匂い……。血と悲鳴の匂い……。悲劇の香り」
ヴィルザは何かを探すように、周囲をせわしなく見回していた。頬が紅潮していた。
厭な、予感が、する。
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