《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-28話「解かれる封印」
夜中。ヨナが部屋を抜け出したのを、ケネスは確認していた。気になったので、後をつけていたのだ。後からロレンスが来たので、身を隠してやり過ごした。闇の中でうずくまってロレンスとヨナの話を聞いて、ショックを受けたり驚いたりしていた。感情を忙しくしているあいだに、ヨナとロレンスの魔法の撃ちあいになるところまで見ていた。
「ヨナを止めないと……」
「チカラを貸してやろうか?」
ヴィルザはニヤニヤ笑いながら提案してくる。
ヨナは実力を隠していた。ロレンスを圧倒している。ケネスの敵う相手ではないと知って、ヴィルザが提案してきたのだとわかった。ケネスの今の実力を、誰よりもよくヴィルザは知っているのだ。
今のケネスにヨナを止めることはできない――。
「でも、オレがヴィルザのチカラを使ったら、不自然に思わるだろ」
ケネスは3年間。ドップリとこの学院に浸かっているつもりだった。不自然に思われるようなことはしたくなかった。
「顔がバレなければ良い」
「顔が?」
「これでもかぶれば良いのではないか?」
ヴィルザが指さしたのは、この封印のトビラの前に来るたびにご対面していた騎士の鎧だった。胸元に剣を構えて、いまにも戦いをはじめそうな気迫がある。
「オレが、これをかぶるのか?」
「そうすれば、ロレンスにもヨナにも正体はバレないだろう」
「たしかに。でも、ずいぶんと協力的だな」
「当たり前じゃ。あのトビラの向こうにはマディシャンの杖があるかもしれん。ヨナに持って行かれたら大変だからな」
ヨナ……。
ケリュアル王国のスパイとして、マディシャンの杖を盗むために潜りこんでいたと、自分の口から発言していた。ショックだ。友達だと思っていたのに……。
「じゃあ、かぶるよ」
「早くせんと、ロレンスが殺されるぞ」
「わかってる」
ヨナはホントウにロレンスを殺すつもりなんだろうか。たしかにロレンスとヨナの仲は良くはなかった。それでも、同じ学院の仲間であることに変わりはない。おそるおそる鎧をかぶった。不気味な鎧は、生気が宿っているような気がした。ヘルムをかぶり、その甲冑などを身に着けていると、鎧に食われているようだった。
「魔法陣を」
「わかってる」
騎士の鎧で全身をおおって、魔法陣を展開した。
水の槍にて今にもロレンスが貫かれんとしていたところに、土系基礎魔法の《土壁》を発生させた。床が盛り上がって、水の槍を弾いた。
「誰だ!」
ヨナが鬼気迫る声を発した。
ケネスは黙って姿を現した。もちろんその姿は漆黒の騎士の皮をかぶっている。サイズが合わなかったのでつけているのはヘルムと胸当てだけだ。脚甲や手甲まではつけられなかった。それでも、この薄暗闇では充分に姿を隠せているはずだ。
「水系D級基礎魔法《水貫槍》」
と、ヨナがふたたび水の槍を放ってきた。闇のなかに光芒を発して、白い龍のようにまっすぐケネスに向かってきた。
「少し遊んでやろう。コワッパ」
ヘルムの隙間から、隣に並んでいるヴィルザの横顔が見える。あの顔だ。凄みすらある笑みを浮かべていた。子供の笑顔ではない。もっと残酷な、快楽殺人者のような微笑みかた。ケネスの足元の床が盛り上がって、水の槍を弾いた。
「クソッ。ボクの邪魔をするな! 水系基礎魔法《水鉄砲》」
ヨナの魔法陣から、いくつもの水の粒が噴出した。水の粒がケネスに向かって飛来してくる。
「ケネスよ」
「なんだよ」
「よぉく見ておけ。私のあつかう魔法を観察して、そして学べば良い。火属性の魔法の使い方というものを教えてやろう」
「うん……」
「火系基礎魔法。《火柱》」
床から巨木のような火炎が吹き上がる。炎の柱にヨナの放った水滴たちは、ジュッ、と蒸発していった。
「火の魔法。それは人に文明を与えた根源。森羅万象を焼き尽くす浄化のチカラ。火系A級基礎魔法《地獄の劫火》」
先日、ガルシアが空から放った同じ、黒き炎がケネスの魔法陣より射出された。
「うわっ」
と、ロレンスがあわてて飛び退いていた。ガルシアに焼かれた恐怖を覚えているのかもしれない。
黒い炎は、ヨナのカラダをナめ回した。
「うぎゃぁぁぁッ」
ヨナが悲鳴をあげる。
胸に響く、悲鳴だった。
また――。
また人を殺してしまう。
「やめろ。ヴィルザ! ヨナが死んじゃうって!」
しかしもはやケネスの言葉など、ヴィルザの耳には入らないようだ。ヴィルザの唇は異様なまでにつりあがり、紅色の瞳は鮮血がごとく爛々と輝いていた。白いポポコ群生のなかにたたずむ、儚げな少女の姿はそこにはなく、ただ1人の魔神だった。
ケネスは魔法陣を閉ざした。
それによって、ヴィルザも我に返ったようだ。
「どうして、止める」
「ヨナが、死んじゃう」
「たかが人の命など」
ヴィルザはホントウに、心の底から人の命をなんとも思っていないようだった。種族が、違うからかもしれない。人が虫の命をプチッと指先で潰してしまうように、ヴィルザも人の命をその程度にしか思っていないのかもしれない。
「友達だから」
「友達? スパイだと言っておったであろうが」「それでも……」
スパイだと知ったからと言って、じゃあアッサリ相手を殺せるかと言うと、そうもいかないのが人の情というものだ。
「まぁ良い。あやつ開きよるぞ」
ヴィルザが顎をしゃくって見せた。黒き炎に身を焼かれたヨナは、封印のトビラを開いていた。あれだけ頑固に口を閉ざしていたトビラは、軽々と口を開いた。ヨナが封印を解いたのだ。
「マディシャンの杖さえあれば、貴様らなんか……」
ヨナがトビラの奥に足を踏み入れた。
魔法陣をしまっていても、いまだに廊下には漆黒の炎が猛っており、その怒涛たるや凄まじい戦場のようだったが、ヨナが立ち入った封印のトビラの向こうは、静謐な青い光に満ちていた。
その青光の中央には、男子寮1階にあるマディシャンの石像と同じものが建っていた。その石像の手には、一本の、木の杖。
「見つけたァ――ッ」
炎に包まれたまま、ヨナはその杖に跳びついていた。ヨナの手に、マディシャンの杖が渡った。
瞬間。
ヨナの全身を水が覆った。
黒き炎が消えて、焼けただれたヨナがそこに立っていた。手にはシッカリとマディシャンの杖がにぎられている。
「ヨナを止めないと……」
「チカラを貸してやろうか?」
ヴィルザはニヤニヤ笑いながら提案してくる。
ヨナは実力を隠していた。ロレンスを圧倒している。ケネスの敵う相手ではないと知って、ヴィルザが提案してきたのだとわかった。ケネスの今の実力を、誰よりもよくヴィルザは知っているのだ。
今のケネスにヨナを止めることはできない――。
「でも、オレがヴィルザのチカラを使ったら、不自然に思わるだろ」
ケネスは3年間。ドップリとこの学院に浸かっているつもりだった。不自然に思われるようなことはしたくなかった。
「顔がバレなければ良い」
「顔が?」
「これでもかぶれば良いのではないか?」
ヴィルザが指さしたのは、この封印のトビラの前に来るたびにご対面していた騎士の鎧だった。胸元に剣を構えて、いまにも戦いをはじめそうな気迫がある。
「オレが、これをかぶるのか?」
「そうすれば、ロレンスにもヨナにも正体はバレないだろう」
「たしかに。でも、ずいぶんと協力的だな」
「当たり前じゃ。あのトビラの向こうにはマディシャンの杖があるかもしれん。ヨナに持って行かれたら大変だからな」
ヨナ……。
ケリュアル王国のスパイとして、マディシャンの杖を盗むために潜りこんでいたと、自分の口から発言していた。ショックだ。友達だと思っていたのに……。
「じゃあ、かぶるよ」
「早くせんと、ロレンスが殺されるぞ」
「わかってる」
ヨナはホントウにロレンスを殺すつもりなんだろうか。たしかにロレンスとヨナの仲は良くはなかった。それでも、同じ学院の仲間であることに変わりはない。おそるおそる鎧をかぶった。不気味な鎧は、生気が宿っているような気がした。ヘルムをかぶり、その甲冑などを身に着けていると、鎧に食われているようだった。
「魔法陣を」
「わかってる」
騎士の鎧で全身をおおって、魔法陣を展開した。
水の槍にて今にもロレンスが貫かれんとしていたところに、土系基礎魔法の《土壁》を発生させた。床が盛り上がって、水の槍を弾いた。
「誰だ!」
ヨナが鬼気迫る声を発した。
ケネスは黙って姿を現した。もちろんその姿は漆黒の騎士の皮をかぶっている。サイズが合わなかったのでつけているのはヘルムと胸当てだけだ。脚甲や手甲まではつけられなかった。それでも、この薄暗闇では充分に姿を隠せているはずだ。
「水系D級基礎魔法《水貫槍》」
と、ヨナがふたたび水の槍を放ってきた。闇のなかに光芒を発して、白い龍のようにまっすぐケネスに向かってきた。
「少し遊んでやろう。コワッパ」
ヘルムの隙間から、隣に並んでいるヴィルザの横顔が見える。あの顔だ。凄みすらある笑みを浮かべていた。子供の笑顔ではない。もっと残酷な、快楽殺人者のような微笑みかた。ケネスの足元の床が盛り上がって、水の槍を弾いた。
「クソッ。ボクの邪魔をするな! 水系基礎魔法《水鉄砲》」
ヨナの魔法陣から、いくつもの水の粒が噴出した。水の粒がケネスに向かって飛来してくる。
「ケネスよ」
「なんだよ」
「よぉく見ておけ。私のあつかう魔法を観察して、そして学べば良い。火属性の魔法の使い方というものを教えてやろう」
「うん……」
「火系基礎魔法。《火柱》」
床から巨木のような火炎が吹き上がる。炎の柱にヨナの放った水滴たちは、ジュッ、と蒸発していった。
「火の魔法。それは人に文明を与えた根源。森羅万象を焼き尽くす浄化のチカラ。火系A級基礎魔法《地獄の劫火》」
先日、ガルシアが空から放った同じ、黒き炎がケネスの魔法陣より射出された。
「うわっ」
と、ロレンスがあわてて飛び退いていた。ガルシアに焼かれた恐怖を覚えているのかもしれない。
黒い炎は、ヨナのカラダをナめ回した。
「うぎゃぁぁぁッ」
ヨナが悲鳴をあげる。
胸に響く、悲鳴だった。
また――。
また人を殺してしまう。
「やめろ。ヴィルザ! ヨナが死んじゃうって!」
しかしもはやケネスの言葉など、ヴィルザの耳には入らないようだ。ヴィルザの唇は異様なまでにつりあがり、紅色の瞳は鮮血がごとく爛々と輝いていた。白いポポコ群生のなかにたたずむ、儚げな少女の姿はそこにはなく、ただ1人の魔神だった。
ケネスは魔法陣を閉ざした。
それによって、ヴィルザも我に返ったようだ。
「どうして、止める」
「ヨナが、死んじゃう」
「たかが人の命など」
ヴィルザはホントウに、心の底から人の命をなんとも思っていないようだった。種族が、違うからかもしれない。人が虫の命をプチッと指先で潰してしまうように、ヴィルザも人の命をその程度にしか思っていないのかもしれない。
「友達だから」
「友達? スパイだと言っておったであろうが」「それでも……」
スパイだと知ったからと言って、じゃあアッサリ相手を殺せるかと言うと、そうもいかないのが人の情というものだ。
「まぁ良い。あやつ開きよるぞ」
ヴィルザが顎をしゃくって見せた。黒き炎に身を焼かれたヨナは、封印のトビラを開いていた。あれだけ頑固に口を閉ざしていたトビラは、軽々と口を開いた。ヨナが封印を解いたのだ。
「マディシャンの杖さえあれば、貴様らなんか……」
ヨナがトビラの奥に足を踏み入れた。
魔法陣をしまっていても、いまだに廊下には漆黒の炎が猛っており、その怒涛たるや凄まじい戦場のようだったが、ヨナが立ち入った封印のトビラの向こうは、静謐な青い光に満ちていた。
その青光の中央には、男子寮1階にあるマディシャンの石像と同じものが建っていた。その石像の手には、一本の、木の杖。
「見つけたァ――ッ」
炎に包まれたまま、ヨナはその杖に跳びついていた。ヨナの手に、マディシャンの杖が渡った。
瞬間。
ヨナの全身を水が覆った。
黒き炎が消えて、焼けただれたヨナがそこに立っていた。手にはシッカリとマディシャンの杖がにぎられている。
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