《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

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第2-27話「ロレンス・スプラウドの屈辱 Ⅱ」

 ヨナの背中が見える。マディシャンの杖が封じられたトビラを、開けようとしている。あれを開けさせてはならない。ロレンスは打ちつけた背中の痛みをこらえて、立ち上がった。



水流波ウェーブ》の水を吸って、寮内着である黒のブリオーが重くなっていた。



「マディシャンの杖は、オレがもらう」



 ヨナが振り向く。



「ロレンス・スプラウド。君の姉のガルシア・スプラウドはこの年にはもう、先生たちから一目置かれるほどの魔術師だったそうだね」



「姉さんの……姉さんの話をするなァ……ッ」



 ガルシア・スプラウド。
 わずか25歳にして、帝国魔法長官についた女。あんなのに勝てるわけがない。あれは人間ではない。バケモノだ。だからこそ、自分が矮小な存在に思えてくる。光が強ければ強いほど、闇が濃くなる。



「火系基礎魔法《火球ファイヤー・ボール》」



 火の球が薄暗闇の石の通路を光らせて、一直線にヨナへと走る。



「水系基礎魔法。《水盾ウォーター・シールド》」



 ヨナの前に水の盾が発生した。炎がまたしてもムナシク消されてしまう。



「オレは強くなる。強くなって、認めさせてやるんだ」



「君は弱いよ。ロレンス。残念ながらね」
「黙れ!」



「ケリュアル王国ではボクぐらいの歳になると、実戦向きの魔法を叩きこまれる。こんな魔術学校でやってるお遊びとは違うんだ」



「遊びだと……」
 遊びなんかではない。
 ロレンスも命をかけているのだ。



 いずれは帝国魔術師として軍に入隊しようと決めている。命をかける覚悟はできている。常に姉が優秀に光り続けていた。両親ももちろん、姉に愛情を注いだ。出来そこないの弟。そう言われていた。だから、たとえ命を賭してでも、一瞬でも良いから輝いてやろうと決めていた。燃え散る火花のごとく……。



「火系D級基礎魔法。《花火ファイヤーワーク》!」



 小さな炎のカタマリが魔法陣からチカラなく出てくる。急にパチンと爆ぜた。パチパチパチといくつもの火種がいっきに爆発してゆく。ロレンスが隠し持っていたトッテオキの魔法だった。ケネスとの決闘で使わなかったのは、殺してしまう恐れがあったからだ。



 連鎖的に爆ぜる火の粉と、モウモウと吹き上がる黒煙のなかに、ヨナの姿はけぶり見えなくなった。



「やったか……」
「甘いよ」



 黒煙が渦を巻くようにして吸い取られてゆく。ヨナが魔法陣を展開していた。魔法陣の中心には水のカタマリが出来ていた。



「水系D級基礎魔法。《水貫槍ウォーター・ランス》」



 水が一本の槍となってロレンスに向かって伸びてきた。避けようとは思わなかった。避けるという考えがなかった。トッテオキだった《花火ファイヤーワーク》。こんなに簡単にいなされるとは思っていなかった。



 水の槍が、胸元まで迫ってくるのが見えた。それは一直線にロレンス目指して疾駆してきたが、不思議とユックリと見えた。闇を貫く水の槍には、明確な殺意すらこもっており、その術者であるヨナの瞳も冷徹に光っていた。



 死ぬ――かもしれない。
 やっぱりオレは、弱者なのか。



 姉の目にも留まらない、こんな小さな輝きしか発することが出来ないのか。薄暗闇で、誰にも気づかれずに、散る花火……。ロレンスは絶望に打ちひしがれていた。



 あぁ……死ぬ。
 刹那――。



 ロレンスの胸元と水の槍とのあいだにて、通路の床が盛り上がり、水の槍を弾く盾となった。



「誰だ!」
 と、ヨナが鬼気迫る声で叫んだ。その声はロレンスを通過してゆき、その後ろの人物へと投げられていた。声をたどり、ロレンスも振り向いた。



 そこには――。
 ヘルムをかぶった漆黒の騎士が立ちはだかっていた。

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