《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-26話「ロレンス・スプラウドの屈辱 Ⅰ」
消灯後――。
ロレンス・スプラウドは、ベッドから抜け出した。うたた寝をしてしまっていた。少しの間だったが、厭な夢を見た。寝汗が酷い。カラダにベットリと張り付いた寮内着の襟を引っ張り、カラダに風をとりいれた。
姉の夢だった。
ガルシア・スプラウド。
仲が悪いわけではない。さりとて良いわけでもない。
ガルシアは、マッタクもって実の弟に興味がなかった。一度だってマトモに話した覚えはない。ガルシアの興味はいつも、純粋なチカラ、に向いた。それは剣技だって良いし、槍術だって良い。とにかく強いことに関心を示す姉であり、弱者にたいしては興味のカケラも示さないのだ。
(でも、なにより――)
姉が興味を示すのは、魔法だった。
だから、ロレンスはこのハーディアル魔術学院に入学した。すこしでも、ほんの少しでも、認められたかったのだ。
一秒でも早く強くなりたい。
チカラが欲しい。
そのためのもっとも近道となるものが、この学院には封印されている。世界に8つしかないと言われている《神の遺物》のひとつ、マディシャンの杖。
欲しい。
相部屋の相手を起こさないように、ヒッソリとトビラを開けて部屋を抜け出した。欄干から跳び下りて、魔法樹に支えてもらう。1階にあるトビラのひとつに入った。
今日の昼間――。
ケネスとヨナを尾行したかいがあって、封印のトビラの場所がわかった。
(ケネス・カートルドめ)
まさか、封印のトビラの位置を入学して早々に見つけ出すとは思っていなかった。
屋上での決闘のことを思い出す。何が起こったのかマッタクわからないのだ。ケネスを屋上に呼び出して、シめ上げようとした。互いに《火球》を撃ちあったところまでは覚えている。
(撃ちあって結局、どうなったんだ?)
気づけばロレンスは朝まで屋上で寝ていたのだ。負けた――のかもしれない。姉を見た気がする。気のせいかもしれない。あれからケネスと接触していない。決闘のことを思い出したくないので避けてきた。
波のようにうねった通路を進む。石でできてるくせに、生き物みたいにうねっている。トビラからトビラへと進んで行く。すると、2体の騎士が構えている部屋がある。その騎士の間を抜けると、薄暗い石造りの真っ直ぐとした廊下に出る。モンスターのハラワタのような暗くけぶった通路の先に、大きな石のトビラがある。
「マディシャンの杖があるとすれば、このトビラの先だろうな」
ロレンスはそう声を発した。
トビラの前に、立っている人影があったのだ。
「ヤッパリ来たんだ?」
ヨナ・フーリガンだった。
振り向いたその目は、暗闇の中で緑色に輝いていた。
「それはこっちのセリフだ。新入生に取り入ってうまく立ち回ったようだな」
ロレンスは魔法陣を展開した。
ヨナも魔法陣を展開する。
「彼は思いの他、役だってくれた。まさかこの封印のトビラの場所を見つけ出してくれるなんて、思っていなかったよ」
そう言うヨナは、いつもの弱腰の態度ではなかった。不敵な笑みを浮かべている。魔法陣もロクに出せなかったはずなのに、今はシッカリとその光を浮かび上がらせている。その態度の豹変にロレンスは気圧された。
「しかし場所がわかっても意味はないぜ。そのトビラ、カギがかかってる」
「カギなら、もう手に入れてある」
ヨナは寮内着である黒いブリオーの懐から、一本のアンティークキーを取り出した。
「やっぱりか……」
ロレンスも気になって女子寮に潜入したが、カギを見つけることは出来なかった。誰かに先を越されたのかもしてないとは懸念していた。
「ロレンスは以前からボクのことを嫌ってたみたいだけど」
「てめェからは、何かウサンクサイ臭いがするんだよ」
ニッとヨナは笑った。
「その勘は当たってるよ。ボクはケリュアル王国のスパイだからね。ボクの任務はマディシャンの杖を手に入れて、ケリュアル王国に持ち帰ること」
つい先日――。
帝都で王国軍の奇襲があったと聞いている。停戦中だって、いつでも水面下では争いが続けられているのだ。
スパイが潜りこんでいたとしても不思議なことではないが、その事実が眼前に現れたことで、驚きを禁じ得なかった。
ヨナがそのスパイだったというのが、意外でもあった。
「カギはどうやって、手に入れた?」
「女子寮にカギがあって、マディシャンの杖に隠されていることは、あらかじめ調べがついていたんだ。だからボクが来た。ボクは女だからね」
「女のくせに、男子寮で生活してやがったのか
「そういうこと」
「たいした度胸だ」
たしかに、どことなく女性らしい風貌をしているとは思っていたのだ。まさかホントウに女性だとは驚いた。
「ロレンス・スプラウド。ボクを怪しんでいたその嗅覚は賞賛に値するけど、君ごときではボクを止めることは出来ないよ」
「へッ。つい先日まで魔法陣すら出せなかったヤツがよく言うぜ」
互いに魔法陣を発したまま向い合う。いつ魔法が射出されても良いように、ロレンスは心身ともに構えていた。
「言っただろ。ボクは王国のスパイだって。本来の実力を隠していたとしても、不思議なことじゃないだろ」
ヨナがつぶやく。
「水系基礎魔法。《水流波》」
水が魔法陣からあふれ出した。
「火系基礎魔法。《火球》」
ロレンスは《火球》で応戦するが、水に火は相性が悪い。水の波に火の球は呑み込まれて、ジュッと音をたてて消え去ってしまった。ロレンスは波に押し流された。壁に背中を叩きつけられる。
「クソッ」
自分より弱いと思っていた相手にやられるのは屈辱だった。
ロレンス・スプラウドは、ベッドから抜け出した。うたた寝をしてしまっていた。少しの間だったが、厭な夢を見た。寝汗が酷い。カラダにベットリと張り付いた寮内着の襟を引っ張り、カラダに風をとりいれた。
姉の夢だった。
ガルシア・スプラウド。
仲が悪いわけではない。さりとて良いわけでもない。
ガルシアは、マッタクもって実の弟に興味がなかった。一度だってマトモに話した覚えはない。ガルシアの興味はいつも、純粋なチカラ、に向いた。それは剣技だって良いし、槍術だって良い。とにかく強いことに関心を示す姉であり、弱者にたいしては興味のカケラも示さないのだ。
(でも、なにより――)
姉が興味を示すのは、魔法だった。
だから、ロレンスはこのハーディアル魔術学院に入学した。すこしでも、ほんの少しでも、認められたかったのだ。
一秒でも早く強くなりたい。
チカラが欲しい。
そのためのもっとも近道となるものが、この学院には封印されている。世界に8つしかないと言われている《神の遺物》のひとつ、マディシャンの杖。
欲しい。
相部屋の相手を起こさないように、ヒッソリとトビラを開けて部屋を抜け出した。欄干から跳び下りて、魔法樹に支えてもらう。1階にあるトビラのひとつに入った。
今日の昼間――。
ケネスとヨナを尾行したかいがあって、封印のトビラの場所がわかった。
(ケネス・カートルドめ)
まさか、封印のトビラの位置を入学して早々に見つけ出すとは思っていなかった。
屋上での決闘のことを思い出す。何が起こったのかマッタクわからないのだ。ケネスを屋上に呼び出して、シめ上げようとした。互いに《火球》を撃ちあったところまでは覚えている。
(撃ちあって結局、どうなったんだ?)
気づけばロレンスは朝まで屋上で寝ていたのだ。負けた――のかもしれない。姉を見た気がする。気のせいかもしれない。あれからケネスと接触していない。決闘のことを思い出したくないので避けてきた。
波のようにうねった通路を進む。石でできてるくせに、生き物みたいにうねっている。トビラからトビラへと進んで行く。すると、2体の騎士が構えている部屋がある。その騎士の間を抜けると、薄暗い石造りの真っ直ぐとした廊下に出る。モンスターのハラワタのような暗くけぶった通路の先に、大きな石のトビラがある。
「マディシャンの杖があるとすれば、このトビラの先だろうな」
ロレンスはそう声を発した。
トビラの前に、立っている人影があったのだ。
「ヤッパリ来たんだ?」
ヨナ・フーリガンだった。
振り向いたその目は、暗闇の中で緑色に輝いていた。
「それはこっちのセリフだ。新入生に取り入ってうまく立ち回ったようだな」
ロレンスは魔法陣を展開した。
ヨナも魔法陣を展開する。
「彼は思いの他、役だってくれた。まさかこの封印のトビラの場所を見つけ出してくれるなんて、思っていなかったよ」
そう言うヨナは、いつもの弱腰の態度ではなかった。不敵な笑みを浮かべている。魔法陣もロクに出せなかったはずなのに、今はシッカリとその光を浮かび上がらせている。その態度の豹変にロレンスは気圧された。
「しかし場所がわかっても意味はないぜ。そのトビラ、カギがかかってる」
「カギなら、もう手に入れてある」
ヨナは寮内着である黒いブリオーの懐から、一本のアンティークキーを取り出した。
「やっぱりか……」
ロレンスも気になって女子寮に潜入したが、カギを見つけることは出来なかった。誰かに先を越されたのかもしてないとは懸念していた。
「ロレンスは以前からボクのことを嫌ってたみたいだけど」
「てめェからは、何かウサンクサイ臭いがするんだよ」
ニッとヨナは笑った。
「その勘は当たってるよ。ボクはケリュアル王国のスパイだからね。ボクの任務はマディシャンの杖を手に入れて、ケリュアル王国に持ち帰ること」
つい先日――。
帝都で王国軍の奇襲があったと聞いている。停戦中だって、いつでも水面下では争いが続けられているのだ。
スパイが潜りこんでいたとしても不思議なことではないが、その事実が眼前に現れたことで、驚きを禁じ得なかった。
ヨナがそのスパイだったというのが、意外でもあった。
「カギはどうやって、手に入れた?」
「女子寮にカギがあって、マディシャンの杖に隠されていることは、あらかじめ調べがついていたんだ。だからボクが来た。ボクは女だからね」
「女のくせに、男子寮で生活してやがったのか
「そういうこと」
「たいした度胸だ」
たしかに、どことなく女性らしい風貌をしているとは思っていたのだ。まさかホントウに女性だとは驚いた。
「ロレンス・スプラウド。ボクを怪しんでいたその嗅覚は賞賛に値するけど、君ごときではボクを止めることは出来ないよ」
「へッ。つい先日まで魔法陣すら出せなかったヤツがよく言うぜ」
互いに魔法陣を発したまま向い合う。いつ魔法が射出されても良いように、ロレンスは心身ともに構えていた。
「言っただろ。ボクは王国のスパイだって。本来の実力を隠していたとしても、不思議なことじゃないだろ」
ヨナがつぶやく。
「水系基礎魔法。《水流波》」
水が魔法陣からあふれ出した。
「火系基礎魔法。《火球》」
ロレンスは《火球》で応戦するが、水に火は相性が悪い。水の波に火の球は呑み込まれて、ジュッと音をたてて消え去ってしまった。ロレンスは波に押し流された。壁に背中を叩きつけられる。
「クソッ」
自分より弱いと思っていた相手にやられるのは屈辱だった。
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