《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第2-25話「杖を狙う者」

「ないな」
 ヴィルザはそう言って、ハンバーガーにかぶりついた。



 男子寮自室。
 今日は休日なので、朝から部屋にいる。休日でも校舎の1階では飲食物が売られているので、ハンバーガーを買って戻ってきたところだ。ヨナも何か買いに行ってるようで、部屋にはいない。



 ヴィルザと二人きりだ。
 それを良いことに、遠慮なくヴィルザはハンバーガーにかぶりつく。



「ないって何が?」



 部屋が暗く感じたので、カーテンを開けた。昼の光が入り込んできた。窓の外には校舎の背中を見ることができる。



 校舎裏と男子寮のあいだは庭園のようになっており、カップルがイチャついていた。小さな羨望とネチッとした嫉妬と、それから少し微笑ましいような、複雑な気持ちになって庭園のカップルから目をそらした。



 ガブッ。
 ケネスの手にあるハンバーガーに、ヴィルザが食いついてくる。



「じゃからな。私は女子寮をくまなく探ってみたが、どうも呪術のカギと思われるようなものはなかった」



「じゃあ、女子寮にカギがあるというのは、考え違いだったのかな」



「あるいは、誰かに先を越されたかじゃな」



 ヴィルザの口の端にケチャップがついていたので、布で拭き取ってやった。ヴィルザは目を固くつむって、顔を突き出している。まるで子供だ。



「先を越されたってことは、ロレンスが持ってるかもしれない――ってことか」



 女子寮からロレンスが出てきたこと。
 印象的だったので、強く覚えている。



「何が先を越されたって?」
 ヨナが戻ってきて、そう尋ねてきた。ハンバーガーを不自然に突き出すようなカッコウをしていたので、あわてて自分の口に詰め込んだ。「あー」とヴィルザが残念そうな顔をする。



「実は、気になることがあってさ」
「なになに?」



 最近、ケネスとヨナは互いに打ち解けあっていた。互いに気性が荒くないので、気が合った。ヨナと話していると、穏やかな波の上に揺られているような心地がした。



 そんなヨナだったから、ケネスは打ち明けることができた。マディシャンの杖を探していること。封印されているであろう部屋を見つけたこと。その部屋を開けるカギを探しているが、見つからないこと。そして、ロレンスが女子寮から出てきたこと。ただ、女子寮の中に入ったことは伏せておいたし、ヴィルザのことももちろん秘密だ。



「へえ。マディシャンの杖が隠されてる部屋を見つけたんだ?」
 と、ヨナは興味深そうに食いついてきた。



 ヨナはどうやら果物類を買ってきたらしく、リンゴやバナナを袋から取り出した。バナナを一本分けてもらった。バーガーばっかり食べてたら太るよ――とヨナから日々注意されているのだが、ケネスが食べているわけではないので、なんとも言えない。



「でも、開かない。押しても引いてもどうにもならない」



「それでカギを探してるんだ?」
「ああ」



「ロレンスが女子寮から出てきたってことは、もうカギを手に入れてるんじゃないかな」



「かもしれない」
「ってことは、ヤバいんじゃない?」



 グイッとヨナが顔を寄せてくる。女性みたいな整った顔が迫ってきたので、ケネスが顔を後ろに下げた。



「ヤバい?」



「だって、ロレンスがカギを手に入れてるなら、もうマディシャンの杖も手に入れてしまってるかも」



「あ……」



 女子寮からロレンスが出てきたのを確認してからは、たしかに封印のトビラを確認していない。もうあのトビラはとっくに開けられていて、マディシャンの杖はロレンスの手に渡ったのかもしれない。



「その封印のトビラがあるところまで、様子を見に行ったほうが良いかも」



「今日は休みだから、ロレンスも寮にいるか」



 開けに行こうと思えば、行けるかもしれない
 ヨナに言われて、急に焦燥感がわいてきた。



 マディシャンの杖――。



 手にすれば持主の魔力を何倍にも増幅することが出来るというが、その代わり、精神に異常をきたすのだという。そんなものを、ロレンスに持たせたら、どうなるかわかったもんじゃない。



「案内してよ」
「わかった」



 ヨナを連れて、封印トビラのある部屋まで急いだ。今日は休日で寮にいる生徒は少なくない。なのに、封印トビラがある部屋まで来ると、ひと気がなくなった。非常に入り組んでいるため、ここまでたどり着ける生徒がいないのだ。トビラまでの道には依然として不気味な騎士の鎧が構えている。



「すごい気味の悪い鎧だね」
 と、ヨナも見入っていた。



 鎧の間を抜けた先は、依然として薄暗くて、トビラも堅牢にその口を閉ざしたままだった。ロレンスが来ているかと思ったが、どうやら早とちりだったようだ。



「よく見つけたね。この部屋を」
 と、トビラを見てヨナが感心したように言った。



「まあ、チョットいろいろあってね」



 スキル《可視化》があれば、簡単にたどりつくことが出来た。逆にこのスキルがなければ、来ることは出来なかったかもしれない。その証拠に、このトビラの前に立っているとき、誰かと居合わせたことはない。



「誰だ!」
 ヨナが急に声をあげて振り向いた。人影がサッと走り去って行くのが見えた。わずかにプラチナブロンドの髪が見えた気がする。



「ロレンスか?」
「わからないけど。つけられてたのかも」



 ロレンスは、まだこの部屋のことを知らなかったのかもしれない。今、この部屋の在り処を教えてしまったのかもしれない。じゃあ、ロレンスはカギを手に入れて、しかも、この部屋のことも知ってしまったことになるんじゃないか?



 ケネスとヨナは、ジッと顔を見合わせていた。



「とりあえず部屋に戻ろう」
 どちらからともなく、そう切り出した。



 振り返る。



 マディシャンの杖が封印されているかもしれない――という巨大な石のトビラ。いつにも増して不気味な禍々しい空気を放っている。黒くけぶって見えた。

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