《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第2-24話「女子寮から出てきた3人」

 消灯後――。寮内全体が完全に暗闇につつまれて、ヨナもすぅすぅと寝息をたてた頃。ケネスはヒッソリとベッドから抜け出した。



 消灯後は基本的に部屋から抜け出してはいけないことになっており、寮から抜け出すなんてモッテノホカだ。ましてや、今から女子寮に潜入しようというのだから、ケネスは背徳と緊張の動悸におそわれていた。



「よし。《透明化トランスパレント》の魔法を使うぞ」



「頼む」



透明化トランスパレント》の魔法は風系最上位魔法だ。トテモじゃないが、ケネスに扱えるような魔法ではない。最近、多用しているから忘れがちだが、これも充分スゴイことなのだ。透明になった自分のカラダを確認する。本来、自分の肉体があるべき場所が透けているので、変な感じがする。



 その分、安心感は大きい。



 透明になっていれば、見つかることはない。この魔法を使って国境警備を欺き、抜けてきた男がいたぐらいだ。



 魔法樹に乗って1階へと着地する。1階の出口付近には寮監室がある。物音をたてないように慎重に外に出た。玄関のトビラを開けると、夜風がケネスを迎え入れてくれた。いつもより風が冷たく感じた。夜が冷えているのかと思ったけれど、そうではなくて、ケネスのカラダが火照っているのだった。熱くなっている自分の頬に手の甲を当てると、冷たくて心地良かった。



「女子寮に潜入するから興奮しておるんじゃろう」



「……」
 その揶揄は無視しておいた。
 誰かに聞かれては困るので、迂闊に返事はできない。



 コウモリが羽ばたくように、駆け足で女子寮に忍び寄った。男子寮は本校舎の裏手にあったが、女子寮は男子寮のさらに裏手にあった。



 男子は本校舎と寮を行き来するだけなので、基本的に女子寮のある土地にすら足を踏み入れることはなかった。



 間近で見るのはケネスもはじめてだったが、外観は男子寮と大差なかった。見た目に騙されてはいけない。男子寮だって単純な顔をしてるくせに、ひとたび中に入れば迷宮なのだ。女子寮に入ろうとしたのだが、人影が出てくるところだったので、あわてて跳び退いた。



『やっぱり間違いないですよ』
『誰にも言うなよ』
『もちろんです』



 などと小声をかわしている3人を見て、あっ、と声をあげそうになった。



 ロレンス
 ハンプティ
 ダンプティ



 その3人だった。



 3人は周囲に気を配りながら、男子寮のほうへと戻って行くところだった。ケネスのすぐ近くを通過していったが、気づかれはしなかった。



「まさか女子寮から出てくるとはな。私もさすがにビックリした」



「もしかして、ロレンスもオレたちと同じことを考えてるのかも」



「封印のカギ。先を越されたか?」
「わからないけど」



「まあ良い、私たちもいちおう確かめに行ってみようではないか」



「うん」



 セッカクここまで来たのだ。いまさら引き返そうとは思わなかった。女子寮に足を踏み入れる。女子寮も消灯しているようで、寮内は暗闇になっていた。



 《可視化》のスキルで寮内を見渡す。



 眠っている女子の姿が透き通る壁越しに見えた。かつて帝都でコソコソと女性の下着を盗み見ていた時代があったことを思い出した。今はもっと別の用事があるので、女体を堪能する余裕はなかった。なにより距離が遠いためか、壁をはさんでいるためか、下着まで見透かすことができなかった。




「どうだ? 封印のカギはありそうか?」
「いや、わからない」



 その封印のカギとやらが、どんな形状をしているのかわからないので、《可視化》のスキルをもってしても見つけ出すことは難しかった。



「ただのカギではない。呪術のカギだ。何か術式が描かれているはずじゃが」



「そう言われても……」



 カギというからには、小さいのだろう。この大きな寮の中から、そんな小さなものを見つけ出すのは難しい。



「はぁ。仕方ない。今日のところは引き返すとするか」



「今日のところは――って、もう女子寮に潜入するのは厭だよ」



「案ずるな。あまりやりたくはないが、私が探し出してみよう。私ならば、ほれ、壁も透き通る」



 ヴィルザはそう言うと、女子寮の壁に手を突っ込んでいた。まるで水面に手を突っ込むかのようにスルリと手がのめり込んでいる。



「そ、そうだよ。探すんだったら、最初からヴィルザが探せば良いじゃないか」



 余計な手間をかけさせられた気がする。



「それは最終手段じゃ」
「なんで?」



「だって、私が探しに行っているあいだ、ケネスと離ればなれになってしまうではないか! もし、再会できんかったら、私はまた1人になってしまう」



 ヴィルザは1人になることを極度に恐れている。



 考えてみれば、ヴィルザがケネスから離れている時間はほとんどない。風呂とトイレのあいだぐらいだ。



「心配するなよ。放って行かないから」
「ホントウか?」



「ホントウだって。だいたいオレはここ数日、ずっと学校内にいるし、はぐれても部屋に戻れば会えるだろ」



 厄介な存在ではあるが、ヴィルザなしではやっていける自信がない。呪いのようにつながれているのだ。



「おい、誰かいるのか?」



 声が飛んできた。女子寮の見回りのようだ。見つかる前に男子寮に引き返すことにした。

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