《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-16話「マディシャンの杖」
図書室の机上に、本を開けていた。そのまま魔法の勉強をしていると、気づけば日が暮れはじめていた。つい魔法の連中に熱中していたらしい。図書室は人気がないのか、結局、あまり人が訪れることはなかった。
「オレたちもそろそろ部屋に戻るか」
暗くなりはじめた図書室には、不気味な空気が漂っていた。幽霊でも出そうな気配だ。
が、考えてみれば、ヴィルザが幽霊みたいなものだ。誰にも存在を認めてもらえず、フワフワと漂っている存在。
「夕食はどうする?」
「寮の食堂で、何か買うことができるはずだけど」
「ハンバーガーか?」
「そんなわけないだろ」
どうやら、ヴィルザはハンバーガーが気に入ったようだ。
見繕ってくれた3冊の書籍は借りておくことにした。勝手に持ち出して良いのかわからなかったが、受付と思わしきテーブルにも誰もいなかったので、無断で持ち出すことにした。なんの変哲もない書籍なのだろうが、何かしらの禁書でも持ち出したような気分だった。
本校舎を出ると、夕日が最後の光を残して退散しようとしているところだった。ベルジュラックの太陽は北から昇り、南に沈む。南の空は、ヴィルザの髪のように赤くなっていたが、学院内はすでに薄暗闇が生まれはじめていた。
『マディシャンの杖はどうするんです?』
という男の声が聞こえた。
声のするほうを見ると、茂みに隠れるようにして3人の男たちがいた。そのシルエットだけで、ハンプティとダンプティだとすぐにわかった。影もブクブクに太ってる。真ん中にいるのが、ロレンスだ。ガルシアに良く似たプラチナブロンドの髪が、微風を受けて揺れているのが見えた。咄嗟にケネスは本校舎の壁に張り付いて、身を隠した。
『しッ。そのことは外ではしゃべるなと言っただろう』
『すみません』
『でも、あの男子寮にあるのは間違いない』
『でも、今日はあのケネスとかいうガキをシめあげるんでしょ。寮内の探索は中止ですか?』
自分の名前が出てきたので、心臓がビクッと跳ねた。
『そうだな。まぁ、そう焦ることはない。卒業までに見つけ出せれば良いんだから』
3人は寮のほうに戻っていった。
「ふーっ。危なかった。変なヤツらに絡まれるところだった」
3人の姿は完全に見えなくなったのを確認してから、安堵の息を吐き落とした。
「ケネスよ。聞いたか?」
と、ヴィルザは深刻な口調でそう言った。
「オレをシめあげるって話をしてたみたいだけど」
「違う。その前だ」
「前?」
「マディシャンの杖――と聞こえたが」
「たしかに、言ってたかもしれない」
「チッと面白いことを聞いたな。あの男子寮にはマディシャンの杖があるそうではないか。間違いないとまで言っておった」
ヴィルザの唇がつりあがって、笑みが深くなっていた。
「マディシャンってたしか、8大神のひとりだよな。マホ教があがめてる魔術の神さまだろ」
「私を封印した1人でもある」
「その神さまの杖ってことか。神さまの杖ってことは、ヤッパリすごいんだろうな」
いったいどんな効果があるのかもわからないし、自分とは関係のないことだと思って、適当にそう言った。が、ケネスのこの淡々とした反応が、ヴィルザには気に入らなかったらしい。ムッとした顔を向けてきた。
「なにを他人事のように言っておるか。私たちも探すぞ」
「さ、探す? どうして?」
「マディシャンの杖は、持主の魔力を何倍にもふくらませる能力を持っておる。あの憎たらしいマディシャンめは、いつもその杖を持っておったわ」
神さまのひとりを、古い友人のことを語るように言う。なんだか、ケネスにとって神さまという存在が、遠いものには感じれなくなっていた。よォ、と神さまの1人が声をかけてきても、ビックリしないでいられる自信がある。
「でも、なんでオレが、それを探さなくちゃいけないんだ」
ヴィルザがどんどん顔を詰めてくる。
ケネスが壁沿いに張り付くようにして立っていたので、これ以上さがることはできなかった。
ヴィルザの紅の瞳のなかに、ケネス自身の姿を認めるほどの距離となった。
「良いか。マディシャンの杖は、この私を封印した、八角封魔術の呪痕の1片である可能性が高い」
「げッ」
と、ケネスは思わず声をあげてしまった。
「約束。忘れておるわけではなかろう」
「約束?」
「あのゲヘナ・デリュリアスが帝都に襲撃してきたさいに、約束したはずじゃ。無効化のポーションを諦める代わりに、ケネスがこの私の封印解除に協力してくれる――と」
たしかに約束した覚えがある。
まさか、そんな機会は来ないだろうと、適当に口約束をかわしたのだ。
「で、でも……」
その封印を解除したら、ヴィルザ解放に一歩近づくということだ。それすなわち、世界崩壊に一歩近づくという意味でもある。
「約束。ウソだったのか?」
ヴィルザは心底悲しそうな顔をした。眉を「八」の字にして、裏切られたような表情をした。その顔を見ていると、あんまりにも胸が痛かった。
「わかった。わかったよ。マディシャンの杖。探し出せば良いんだろ」
情に、気圧された。
「頼む」
ヴィルザは、ケネスの手を握って、祈るように頭を下げた。その姿は魔神のそれではなく、1人の少女の懇願にしか見えなかった。
「オレたちもそろそろ部屋に戻るか」
暗くなりはじめた図書室には、不気味な空気が漂っていた。幽霊でも出そうな気配だ。
が、考えてみれば、ヴィルザが幽霊みたいなものだ。誰にも存在を認めてもらえず、フワフワと漂っている存在。
「夕食はどうする?」
「寮の食堂で、何か買うことができるはずだけど」
「ハンバーガーか?」
「そんなわけないだろ」
どうやら、ヴィルザはハンバーガーが気に入ったようだ。
見繕ってくれた3冊の書籍は借りておくことにした。勝手に持ち出して良いのかわからなかったが、受付と思わしきテーブルにも誰もいなかったので、無断で持ち出すことにした。なんの変哲もない書籍なのだろうが、何かしらの禁書でも持ち出したような気分だった。
本校舎を出ると、夕日が最後の光を残して退散しようとしているところだった。ベルジュラックの太陽は北から昇り、南に沈む。南の空は、ヴィルザの髪のように赤くなっていたが、学院内はすでに薄暗闇が生まれはじめていた。
『マディシャンの杖はどうするんです?』
という男の声が聞こえた。
声のするほうを見ると、茂みに隠れるようにして3人の男たちがいた。そのシルエットだけで、ハンプティとダンプティだとすぐにわかった。影もブクブクに太ってる。真ん中にいるのが、ロレンスだ。ガルシアに良く似たプラチナブロンドの髪が、微風を受けて揺れているのが見えた。咄嗟にケネスは本校舎の壁に張り付いて、身を隠した。
『しッ。そのことは外ではしゃべるなと言っただろう』
『すみません』
『でも、あの男子寮にあるのは間違いない』
『でも、今日はあのケネスとかいうガキをシめあげるんでしょ。寮内の探索は中止ですか?』
自分の名前が出てきたので、心臓がビクッと跳ねた。
『そうだな。まぁ、そう焦ることはない。卒業までに見つけ出せれば良いんだから』
3人は寮のほうに戻っていった。
「ふーっ。危なかった。変なヤツらに絡まれるところだった」
3人の姿は完全に見えなくなったのを確認してから、安堵の息を吐き落とした。
「ケネスよ。聞いたか?」
と、ヴィルザは深刻な口調でそう言った。
「オレをシめあげるって話をしてたみたいだけど」
「違う。その前だ」
「前?」
「マディシャンの杖――と聞こえたが」
「たしかに、言ってたかもしれない」
「チッと面白いことを聞いたな。あの男子寮にはマディシャンの杖があるそうではないか。間違いないとまで言っておった」
ヴィルザの唇がつりあがって、笑みが深くなっていた。
「マディシャンってたしか、8大神のひとりだよな。マホ教があがめてる魔術の神さまだろ」
「私を封印した1人でもある」
「その神さまの杖ってことか。神さまの杖ってことは、ヤッパリすごいんだろうな」
いったいどんな効果があるのかもわからないし、自分とは関係のないことだと思って、適当にそう言った。が、ケネスのこの淡々とした反応が、ヴィルザには気に入らなかったらしい。ムッとした顔を向けてきた。
「なにを他人事のように言っておるか。私たちも探すぞ」
「さ、探す? どうして?」
「マディシャンの杖は、持主の魔力を何倍にもふくらませる能力を持っておる。あの憎たらしいマディシャンめは、いつもその杖を持っておったわ」
神さまのひとりを、古い友人のことを語るように言う。なんだか、ケネスにとって神さまという存在が、遠いものには感じれなくなっていた。よォ、と神さまの1人が声をかけてきても、ビックリしないでいられる自信がある。
「でも、なんでオレが、それを探さなくちゃいけないんだ」
ヴィルザがどんどん顔を詰めてくる。
ケネスが壁沿いに張り付くようにして立っていたので、これ以上さがることはできなかった。
ヴィルザの紅の瞳のなかに、ケネス自身の姿を認めるほどの距離となった。
「良いか。マディシャンの杖は、この私を封印した、八角封魔術の呪痕の1片である可能性が高い」
「げッ」
と、ケネスは思わず声をあげてしまった。
「約束。忘れておるわけではなかろう」
「約束?」
「あのゲヘナ・デリュリアスが帝都に襲撃してきたさいに、約束したはずじゃ。無効化のポーションを諦める代わりに、ケネスがこの私の封印解除に協力してくれる――と」
たしかに約束した覚えがある。
まさか、そんな機会は来ないだろうと、適当に口約束をかわしたのだ。
「で、でも……」
その封印を解除したら、ヴィルザ解放に一歩近づくということだ。それすなわち、世界崩壊に一歩近づくという意味でもある。
「約束。ウソだったのか?」
ヴィルザは心底悲しそうな顔をした。眉を「八」の字にして、裏切られたような表情をした。その顔を見ていると、あんまりにも胸が痛かった。
「わかった。わかったよ。マディシャンの杖。探し出せば良いんだろ」
情に、気圧された。
「頼む」
ヴィルザは、ケネスの手を握って、祈るように頭を下げた。その姿は魔神のそれではなく、1人の少女の懇願にしか見えなかった。
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