《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-14話「ハンバーガーがお好きなようです」
「1時間目はハグル先生の魔術学だろ。ンで、2時間目と3時間目は、グラトン先生の魔術実践学――と。4時間目は、あの糞つまんない歴史学――と。覚えることが多くて大変だなぁ」
本校舎の1階は、大きな石造りの広場になっている。大ホールとでも言うのだろうか。巨大な空間には、食欲をそそられる匂いが満ちている。パンやら果物の店が出ているのだ。
「まるで都市の市場だな」
と、ヴィルザが興味深げに見つめていた。
「都市の市場に出るような店が、学校でも出してるのかもしれないな」
「あの相部屋のナヨッとした男は、どこへ行ったんだ?」
いまさら気づいたようにヴィルザは周囲を見渡していた。
「ヨナは、5時間目の講義があるから、そっちで食事をとるってさ」
「ケネスは?」
「オレは今日はこれで終わり。3つしか取ってないから」
自分から進んで入学したし、自分に合った場所だとは思うが、講義というのはヤッパリ疲れる。終わったと思うと解放感が満ち溢れてきた。
「あれじゃッ」
ヴィルザが指さして怒鳴った。
「なんだよ」
「ほら、入口付近にでている店があるであろう。ハンバーガーと言われる魅惑の嗜好品じゃ」
ブルンダからもらった、学院内だけで使えるという通貨をもらっている。それでハンバーガーを買うことにした。ミンチ肉を固めて焼いたものを、パンで挟みこんでいる。5つ買った。
3つ食べたいというヴィルザの要望を受けてのことだ。残り2つは自分の分だ。
「ほら、早く、私の口に入れてくれ」
と、ヴィルザは口を開けていた。
真珠のような白い歯のなかに、八重歯というにはとがり過ぎているキバが見て取れた。その歯の奥には赤黒いノドが広がっている。なぜかすこし淫靡な印象を受けた。
「ここではダメだ」
「えー」
と、下唇を突き出してみせた。
「こんなところで食べさせたら、オレが変な人に見られるだろ。だいたい、もしホントウにヴィルザが食べれるなら、チョット変な感じに見えちゃうだろうし」
ヴィルザの姿は周囲から見えないので、バーガーだけが減っている光景を見られることになる。
「仕方あるまい」
と、ヴィルザも納得してくれた。
誰にも見られないところと言えば、自分の部屋だ。もうこの後の講義はないので、寮に戻ることにした。
午前中に講義を終えた生徒も、何人かはいるようで、寮に戻っているのはケネス1人だけではなかった。
寮に戻って、魔法樹に乗った。魔法樹はやっぱりどこから生えているのかよくわからなかったけど、気だるげに伸びてきては、生徒たちを上下させるのに忙しそうだった。
301号室。
相部屋ということで、机とベッドが二つずつ置かれている。クローゼットは共同で使うため1つしかない。部屋には風呂とトイレも完備されている。呪術が施されてあり、手をかざすと水が出たり、排泄物を流したりしてくれる仕組みになっている。
「無料でこんなにいい部屋に宿泊できるんだから、まさに至れり尽くせりだな」
無料どころか、学院内だけで使える通貨ももらっている。
「あのブルンダとかいうコゾウが、ケネスに惚れこんでくれて良かったではないか」
「いや。オレに惚れたんじゃなくて、ヴィルザに惚れたんだろ。ヴィルザの魔法を見て誘ってきたんだから」
「同じようなものではないか。どうせ私は、ケネスを介してしか魔法を使えんのだから」
「……」
そう考えるのは、すこし難しい。
ヴィルザはあくまでヴィルザだ。この存在を、自分自身の一部と考えるには、あんまりにも奔放で、あんまりにも凶暴すぎた。
いつかフワッと消えてしまうような、儚い存在でもある。逆に、いつかケネスのことなど必要なくなって、1人でその凶暴を顕現させてしまう時がくるかもしれない。
もし――。
もしもヴィルザが、この世に顕現することになったら、そのとき、ヴィルザを止めなくちゃいけないのは、オレだろうな……と厭な想像をした。
「それよりも、ハンバーガー」
ケネスの思案を断ち切るように、ヴィルザが言った。
「わかってるって」
ハンバーガーの紙包を開けた。肉とソースとチーズの匂いが吹き上げてくる。この匂いはヴィルザにもわかるようで、ケムリを逃すまいと小鼻を花びらみたく広げていた。
「あーん」
と、ヴィルザが口を開ける。
老獪なことを言うかと思ったら、とたんにこうして無垢な子供のような仕草をする。その口に、ハンバーガーを与えてやると、見事にかぶりついてきた。
「もぐっ……もぐっ……くえうくえうおーッ」
「ちゃんと呑み込んでから、しゃべれ」
ごくっ、と白くて細いノドが嚥下していた。
「やっぱり私の考えていた通りじゃった。ケネスを介すれば、私も食事を摂ることができる!」
「最初、会ったときは、食べなくても良い――みたいなこと言ってたはずだが」
これからヴィルザの分の食費も出費にふくまれるのかと思うと、気分が暗くなる。だが、ヴィルザが花を咲かせたように明るい笑顔で、ハンバーガーにかぶりついているところを見ると、それぐらいは何とかなるかと思わせられた。白いコンデンスミルクのような頬に、ケチャップが付着していた。
「腹は空かんが、美味いものは食べたいじゃろうが。それ、もうひとくち」
パクパクとかぶりついてきた。
アッという間に3つとも食べつくしてしまった。見ているとお腹がすいてきたので、ケネスも自分の分のバーガーを開けたのだが、そのバーガーにもヴィルザがかぶりついてきた。
「あッ。これはオレのだろ!」
あわててバーガーを引っ込める。ヴィルザがそれでも食いついて来ようとして、ケネスはヴィルザに押し倒されるカッコウになった。
「良いではないか」
「太るぞ」
「私はこの体型のままなのだ。封印を解いてくれたら、少しは変わるかもしれんがな」
顔が、近い。
ヴィルザの甘い吐息が、ケネスの鼻腔をくすぐった。その吐息のなかには、バーガーの匂いもふくまれていた。
「約束だ。魔法のコツ。教えてくれよ」
良かろう――とヴィルザはケネスの耳元に口を寄せてきた。吐息が今度は耳朶をくすぐり、かすかな刺激をケネスに与えた。
「ここはマホ教の魔術学校なのであろう。マホ教は大きな宗派であるから、それなりに書籍なども蓄えておるはずだ。図書室――とでも言うのかな。そういった部屋を探し出すが良い」
「図書室に行けば、何かわかるのか?」
「魔法について書かれた本があるはずだ。その中から、自分が使えそうな魔法を見つけ出せ」
「オレに合った……魔法……?」
「詳しくは、図書室で話してやる」
不意を突かれた。
手に持っていたバーガーをヴィルザにたいらげられてしまった。
本校舎の1階は、大きな石造りの広場になっている。大ホールとでも言うのだろうか。巨大な空間には、食欲をそそられる匂いが満ちている。パンやら果物の店が出ているのだ。
「まるで都市の市場だな」
と、ヴィルザが興味深げに見つめていた。
「都市の市場に出るような店が、学校でも出してるのかもしれないな」
「あの相部屋のナヨッとした男は、どこへ行ったんだ?」
いまさら気づいたようにヴィルザは周囲を見渡していた。
「ヨナは、5時間目の講義があるから、そっちで食事をとるってさ」
「ケネスは?」
「オレは今日はこれで終わり。3つしか取ってないから」
自分から進んで入学したし、自分に合った場所だとは思うが、講義というのはヤッパリ疲れる。終わったと思うと解放感が満ち溢れてきた。
「あれじゃッ」
ヴィルザが指さして怒鳴った。
「なんだよ」
「ほら、入口付近にでている店があるであろう。ハンバーガーと言われる魅惑の嗜好品じゃ」
ブルンダからもらった、学院内だけで使えるという通貨をもらっている。それでハンバーガーを買うことにした。ミンチ肉を固めて焼いたものを、パンで挟みこんでいる。5つ買った。
3つ食べたいというヴィルザの要望を受けてのことだ。残り2つは自分の分だ。
「ほら、早く、私の口に入れてくれ」
と、ヴィルザは口を開けていた。
真珠のような白い歯のなかに、八重歯というにはとがり過ぎているキバが見て取れた。その歯の奥には赤黒いノドが広がっている。なぜかすこし淫靡な印象を受けた。
「ここではダメだ」
「えー」
と、下唇を突き出してみせた。
「こんなところで食べさせたら、オレが変な人に見られるだろ。だいたい、もしホントウにヴィルザが食べれるなら、チョット変な感じに見えちゃうだろうし」
ヴィルザの姿は周囲から見えないので、バーガーだけが減っている光景を見られることになる。
「仕方あるまい」
と、ヴィルザも納得してくれた。
誰にも見られないところと言えば、自分の部屋だ。もうこの後の講義はないので、寮に戻ることにした。
午前中に講義を終えた生徒も、何人かはいるようで、寮に戻っているのはケネス1人だけではなかった。
寮に戻って、魔法樹に乗った。魔法樹はやっぱりどこから生えているのかよくわからなかったけど、気だるげに伸びてきては、生徒たちを上下させるのに忙しそうだった。
301号室。
相部屋ということで、机とベッドが二つずつ置かれている。クローゼットは共同で使うため1つしかない。部屋には風呂とトイレも完備されている。呪術が施されてあり、手をかざすと水が出たり、排泄物を流したりしてくれる仕組みになっている。
「無料でこんなにいい部屋に宿泊できるんだから、まさに至れり尽くせりだな」
無料どころか、学院内だけで使える通貨ももらっている。
「あのブルンダとかいうコゾウが、ケネスに惚れこんでくれて良かったではないか」
「いや。オレに惚れたんじゃなくて、ヴィルザに惚れたんだろ。ヴィルザの魔法を見て誘ってきたんだから」
「同じようなものではないか。どうせ私は、ケネスを介してしか魔法を使えんのだから」
「……」
そう考えるのは、すこし難しい。
ヴィルザはあくまでヴィルザだ。この存在を、自分自身の一部と考えるには、あんまりにも奔放で、あんまりにも凶暴すぎた。
いつかフワッと消えてしまうような、儚い存在でもある。逆に、いつかケネスのことなど必要なくなって、1人でその凶暴を顕現させてしまう時がくるかもしれない。
もし――。
もしもヴィルザが、この世に顕現することになったら、そのとき、ヴィルザを止めなくちゃいけないのは、オレだろうな……と厭な想像をした。
「それよりも、ハンバーガー」
ケネスの思案を断ち切るように、ヴィルザが言った。
「わかってるって」
ハンバーガーの紙包を開けた。肉とソースとチーズの匂いが吹き上げてくる。この匂いはヴィルザにもわかるようで、ケムリを逃すまいと小鼻を花びらみたく広げていた。
「あーん」
と、ヴィルザが口を開ける。
老獪なことを言うかと思ったら、とたんにこうして無垢な子供のような仕草をする。その口に、ハンバーガーを与えてやると、見事にかぶりついてきた。
「もぐっ……もぐっ……くえうくえうおーッ」
「ちゃんと呑み込んでから、しゃべれ」
ごくっ、と白くて細いノドが嚥下していた。
「やっぱり私の考えていた通りじゃった。ケネスを介すれば、私も食事を摂ることができる!」
「最初、会ったときは、食べなくても良い――みたいなこと言ってたはずだが」
これからヴィルザの分の食費も出費にふくまれるのかと思うと、気分が暗くなる。だが、ヴィルザが花を咲かせたように明るい笑顔で、ハンバーガーにかぶりついているところを見ると、それぐらいは何とかなるかと思わせられた。白いコンデンスミルクのような頬に、ケチャップが付着していた。
「腹は空かんが、美味いものは食べたいじゃろうが。それ、もうひとくち」
パクパクとかぶりついてきた。
アッという間に3つとも食べつくしてしまった。見ているとお腹がすいてきたので、ケネスも自分の分のバーガーを開けたのだが、そのバーガーにもヴィルザがかぶりついてきた。
「あッ。これはオレのだろ!」
あわててバーガーを引っ込める。ヴィルザがそれでも食いついて来ようとして、ケネスはヴィルザに押し倒されるカッコウになった。
「良いではないか」
「太るぞ」
「私はこの体型のままなのだ。封印を解いてくれたら、少しは変わるかもしれんがな」
顔が、近い。
ヴィルザの甘い吐息が、ケネスの鼻腔をくすぐった。その吐息のなかには、バーガーの匂いもふくまれていた。
「約束だ。魔法のコツ。教えてくれよ」
良かろう――とヴィルザはケネスの耳元に口を寄せてきた。吐息が今度は耳朶をくすぐり、かすかな刺激をケネスに与えた。
「ここはマホ教の魔術学校なのであろう。マホ教は大きな宗派であるから、それなりに書籍なども蓄えておるはずだ。図書室――とでも言うのかな。そういった部屋を探し出すが良い」
「図書室に行けば、何かわかるのか?」
「魔法について書かれた本があるはずだ。その中から、自分が使えそうな魔法を見つけ出せ」
「オレに合った……魔法……?」
「詳しくは、図書室で話してやる」
不意を突かれた。
手に持っていたバーガーをヴィルザにたいらげられてしまった。
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