《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-13話「歴史学」
あの憎たらしいロレンスの言葉を、認めなくてはならなかった。歴史学の講義だ。非常に退屈だった。ヴィルザのことを聞けるかもしれないと、選択した講義だったが、ヴィルザの話も出てくる気配がなかった。
ヨナも机に突っ伏して眠っている。艶やかな白い頬に、かすかに朱色がさしこんでいて、桜色の唇がヨダレで濡れていた。こうして見ていると、ホントウに男とは思えなかった。実は女性なんじゃないかと疑っているのだが、意外と確かめるのが難しい。
《可視化》のスキルを使えば下着までは確認できるのだが、友人の下着を見透かすというのも、チョット躊躇われるものがある。
(いかん、いかん……)
と、ケネスはかぶりを振った。
今、考えるべきはロレンスのことだった。
『今晩、消灯後に、男子寮の屋上で待ってる』
そう言われた。
シめられる――ということだろう。
もし魔法でやり合うことになれば、ケネスのほうが不利だ。《灯》は攻撃にはならない。せめて《火球》ぐらいは使えるようになっておきたい。
この退屈な歴史学の講義の最中、机の下で魔法陣をひそかに展開して、そのコツでもつかもうとしているのだが、いっこうに魔法を発現できる気配がない。
「なぁー。退屈じゃー。いつまでこの辛気臭い話を聞いているつもりなんだ?」
ヴィルザが不平を漏らしはじめた。
たしかにヴィルザの言うとおり、歴史学の先生は黒板に向かって呟き続けているだけだ。しかも、声に抑揚がなくて、眠気を誘われる。
「仕方ないだろ。講義中なんだから」
と、ケネスは小声で応じた。
「で、ケネスはひそかに魔法の練習中か」
ケネスはもちろんイスに腰掛けているのだが、ヴィルザは、ケネスの視界をさえぎるように机に座っていた。
白くて幼いフクラハギが目の前で揺れている。マトモに見るのも照れ臭いのだが、目をそらすにもそらせるような場所がない。ヴィルザはそんな、ケネスの男心を弄んでいるようだった。
「欲情しておる」
「してない」
「こんな封印がなければ、私ももうすこしはセクシーな姿だったんだがなぁ」
ヴィルザはそう言うと、寂しそうに胸もとをおさえていた。ブリオーごしに、つつましい乳房の形が見て取れる。
「封印が解けると、成長するってこと?」
「少しな」
セクシーな女性になるのだろうか。それとも、バケモノじみた姿になるのだろうか。女性の形を保ったまま成長してくれたほうが、ケネスとしてはありがたい。が、ヴィルザの封印なんか解いたら大変なことになるので、どちらにも成長することはないだろう。それよりも今は、魔法の練習に集中しようと思った。
「あのロレンスとかいう男の脅しにビビっておるんだろう。ガルシアとかいう小娘の弟だったか」
大人の女性だろうが、老人だろうと、ヴィルザにかかればみんな「小娘」「コゾウ」になってしまう。
「オレもすこしは魔法を使えるようになっておかないと」
「無闇に練習しても上手くはならんぞ」
「コツ。教えてくれよ」
「えー。どうしようかなー」
と、ヴィルザは意地悪そうな笑みを浮かべている。
「ケチ」
「ケチとはなんだ! だいたい、もっと私に頼れば良いであろうが、あんなコワッパ一瞬でブチ殺してやるわ。私のケネスにケンカを売ろうなんて、百万年早い!」
脚をパタパタと暴れさせて、そう吠えていた。そんなこと知る由もなく、先生は講義を続けている。
「だから、それがダメなんだって。殺しは厳禁」
「そこまで手加減するのは難しい。だいたい周囲の建造物を壊さんように気をつかうので、セイイッパイだ」
大言壮語ではないのだろう。実際、帝国地図を書き換える必要があるほどのヴィルザの魔法を、ケネスは何度が目撃している。
「だから、コツのひとつぐらい教えてくれても良いじゃないか」
考えてみれば、ヴィルザはこの学校にいるどの教師よりも、優秀な能力を持っているはずだ。魔法はもともと神のチカラだったという。人間はそれを与えられた側だ。ヴィルザは神さまだから、その原形とも言える。
「ならば、取引じゃ」
グイッと顔を寄せてくる。
鼻先で紅の髪が揺れて、花の香りがくすぐったかった。
「命を差し出せとか言うんじゃないだろうな」
「ンなわけなかろう。ケネスの命は自分の命よりも大切に思うておるわ」
ヴィルザは恥ずかしげもなくそう言った。
チョットうれしい。
ケネスがいなければ、ヴィルザはまだ孤独の深淵に落ちることになる。そのヴィルザのことを崖っぷちでつなぎとめているのは、ケネスの存在だ。もしかするとヴィルザから見たケネスの存在というのは、かなり大きなものなのかもしれない。まさしく命綱にひとしい。
「よく恥ずかしげもなく、そんなこと言えるよな」
「もうこれだけ歳を食っていれば、恥ずかしいなどと思うようなことは滅多にない。それより、コゾウのほうが顔が赤いぞ」
言われて、あわててうつむいた。
ヴィルザはときおり、ケネスのことをコゾウ呼ばわりしてくる。揶揄する意味も込めているのかもしれない。
「ンで、この魔神との取引を受諾するのか?」
「内容にもよるけど」
いったい何を言いだすのかと緊張した。魔神との取引なんて聞くと、人の命でも対価に求めてきそうな気配があったからだ。
「ハンバーガー」
と、ヴィルザはつぶやいた。
「ハン……は?」
聞き間違いかと思って、すぐに意味がのみこめなかった。
「じゃからな。人間たちの食っている、ハンバーガーというシロモノを食ってみたいと言っておる」
「食べ物は食わないって言ってなかったか?」
「うむ。たしかに腹は減らんのじゃが、しかし、味を楽しむという意味では、食っても良いじゃろう」
「でも、ヴィルザはこの世界に接触できないんだから、食べることも出来ないだろ」
「そこで、ふと気づいたんだが」
ヴィルザはジッとケネスのことを見つめてくる。
「本来であれば、こうして机に座ったり、ベッドで眠ることも出来んはずなのだ。しかし、それが出来るのは、おそらくケネスを介しているおかげなのだ。ケネスを仲介すれば、私も物体に触れることができる」
「そうみたいだな」
「だから、ケネスに食べさせてもらえれば、私も食べられるのではないか――と考えたのだが、どうであろうか?」
そんな単純なことで、魔法のコツを魔神が教えてくれるならば、まぁ、食べさせてやっても良いか。
ヨナも机に突っ伏して眠っている。艶やかな白い頬に、かすかに朱色がさしこんでいて、桜色の唇がヨダレで濡れていた。こうして見ていると、ホントウに男とは思えなかった。実は女性なんじゃないかと疑っているのだが、意外と確かめるのが難しい。
《可視化》のスキルを使えば下着までは確認できるのだが、友人の下着を見透かすというのも、チョット躊躇われるものがある。
(いかん、いかん……)
と、ケネスはかぶりを振った。
今、考えるべきはロレンスのことだった。
『今晩、消灯後に、男子寮の屋上で待ってる』
そう言われた。
シめられる――ということだろう。
もし魔法でやり合うことになれば、ケネスのほうが不利だ。《灯》は攻撃にはならない。せめて《火球》ぐらいは使えるようになっておきたい。
この退屈な歴史学の講義の最中、机の下で魔法陣をひそかに展開して、そのコツでもつかもうとしているのだが、いっこうに魔法を発現できる気配がない。
「なぁー。退屈じゃー。いつまでこの辛気臭い話を聞いているつもりなんだ?」
ヴィルザが不平を漏らしはじめた。
たしかにヴィルザの言うとおり、歴史学の先生は黒板に向かって呟き続けているだけだ。しかも、声に抑揚がなくて、眠気を誘われる。
「仕方ないだろ。講義中なんだから」
と、ケネスは小声で応じた。
「で、ケネスはひそかに魔法の練習中か」
ケネスはもちろんイスに腰掛けているのだが、ヴィルザは、ケネスの視界をさえぎるように机に座っていた。
白くて幼いフクラハギが目の前で揺れている。マトモに見るのも照れ臭いのだが、目をそらすにもそらせるような場所がない。ヴィルザはそんな、ケネスの男心を弄んでいるようだった。
「欲情しておる」
「してない」
「こんな封印がなければ、私ももうすこしはセクシーな姿だったんだがなぁ」
ヴィルザはそう言うと、寂しそうに胸もとをおさえていた。ブリオーごしに、つつましい乳房の形が見て取れる。
「封印が解けると、成長するってこと?」
「少しな」
セクシーな女性になるのだろうか。それとも、バケモノじみた姿になるのだろうか。女性の形を保ったまま成長してくれたほうが、ケネスとしてはありがたい。が、ヴィルザの封印なんか解いたら大変なことになるので、どちらにも成長することはないだろう。それよりも今は、魔法の練習に集中しようと思った。
「あのロレンスとかいう男の脅しにビビっておるんだろう。ガルシアとかいう小娘の弟だったか」
大人の女性だろうが、老人だろうと、ヴィルザにかかればみんな「小娘」「コゾウ」になってしまう。
「オレもすこしは魔法を使えるようになっておかないと」
「無闇に練習しても上手くはならんぞ」
「コツ。教えてくれよ」
「えー。どうしようかなー」
と、ヴィルザは意地悪そうな笑みを浮かべている。
「ケチ」
「ケチとはなんだ! だいたい、もっと私に頼れば良いであろうが、あんなコワッパ一瞬でブチ殺してやるわ。私のケネスにケンカを売ろうなんて、百万年早い!」
脚をパタパタと暴れさせて、そう吠えていた。そんなこと知る由もなく、先生は講義を続けている。
「だから、それがダメなんだって。殺しは厳禁」
「そこまで手加減するのは難しい。だいたい周囲の建造物を壊さんように気をつかうので、セイイッパイだ」
大言壮語ではないのだろう。実際、帝国地図を書き換える必要があるほどのヴィルザの魔法を、ケネスは何度が目撃している。
「だから、コツのひとつぐらい教えてくれても良いじゃないか」
考えてみれば、ヴィルザはこの学校にいるどの教師よりも、優秀な能力を持っているはずだ。魔法はもともと神のチカラだったという。人間はそれを与えられた側だ。ヴィルザは神さまだから、その原形とも言える。
「ならば、取引じゃ」
グイッと顔を寄せてくる。
鼻先で紅の髪が揺れて、花の香りがくすぐったかった。
「命を差し出せとか言うんじゃないだろうな」
「ンなわけなかろう。ケネスの命は自分の命よりも大切に思うておるわ」
ヴィルザは恥ずかしげもなくそう言った。
チョットうれしい。
ケネスがいなければ、ヴィルザはまだ孤独の深淵に落ちることになる。そのヴィルザのことを崖っぷちでつなぎとめているのは、ケネスの存在だ。もしかするとヴィルザから見たケネスの存在というのは、かなり大きなものなのかもしれない。まさしく命綱にひとしい。
「よく恥ずかしげもなく、そんなこと言えるよな」
「もうこれだけ歳を食っていれば、恥ずかしいなどと思うようなことは滅多にない。それより、コゾウのほうが顔が赤いぞ」
言われて、あわててうつむいた。
ヴィルザはときおり、ケネスのことをコゾウ呼ばわりしてくる。揶揄する意味も込めているのかもしれない。
「ンで、この魔神との取引を受諾するのか?」
「内容にもよるけど」
いったい何を言いだすのかと緊張した。魔神との取引なんて聞くと、人の命でも対価に求めてきそうな気配があったからだ。
「ハンバーガー」
と、ヴィルザはつぶやいた。
「ハン……は?」
聞き間違いかと思って、すぐに意味がのみこめなかった。
「じゃからな。人間たちの食っている、ハンバーガーというシロモノを食ってみたいと言っておる」
「食べ物は食わないって言ってなかったか?」
「うむ。たしかに腹は減らんのじゃが、しかし、味を楽しむという意味では、食っても良いじゃろう」
「でも、ヴィルザはこの世界に接触できないんだから、食べることも出来ないだろ」
「そこで、ふと気づいたんだが」
ヴィルザはジッとケネスのことを見つめてくる。
「本来であれば、こうして机に座ったり、ベッドで眠ることも出来んはずなのだ。しかし、それが出来るのは、おそらくケネスを介しているおかげなのだ。ケネスを仲介すれば、私も物体に触れることができる」
「そうみたいだな」
「だから、ケネスに食べさせてもらえれば、私も食べられるのではないか――と考えたのだが、どうであろうか?」
そんな単純なことで、魔法のコツを魔神が教えてくれるならば、まぁ、食べさせてやっても良いか。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
2265
-
-
124
-
-
159
-
-
768
-
-
440
-
-
75
-
-
1978
-
-
314
-
-
11128
コメント