《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第2-7話「魔法の出自」
天を貫かんとするランスのような塔の集まりは、本校舎らしかった。本校舎にはほかにも巨大な風車がついていたり、建物の壁から巨大な樹が生えていたりして、面白い構造をしていた。本校舎の裏手に回ると、石造りの大きな屋敷があった。
「ここが学生寮になる」
と、ブルンダが説明してくれる。
「ここに住んでも良いんですか」
「もちろん」
「でも、何も払えるもんないですけど」
「問題はない。君は優秀な生徒だ。ワシの目に狂いはないはず。お金の心配は何も心配しなくとも良い」
「ありがとうございます」
非常に運が良い。
珍しいこともあるものだ。
「これが君の部屋のカギになる」
ブルンダはそう言うと、一本のアンティークキーをケネスに渡してきた。「301号室」と書かれていた。
「それからこれを」
と、続けて布袋を渡してきた。けっこうな重みがあったので、中を開けて確認してみた。金貨が詰まっていた。しかし、帝国金貨ではなさそうだ。
「お、お金ですか」
「この学院の中だけで使える通貨になっておる。学院で生活していくうえで、教科書やらなにやらいろいろと必要になるだろうからな」
受け取っても良いのだろうかと思ったが、もらえるものならもらっておこうという欲望が勝った。
「さあ、ついて来なさい」
ブルンダが玄関のトビラを開けた。黒いトビラだった。闇の中では、真鍮製のドアノブだけが金色に浮きだって見えた。
中に入る。
「うわぁ」
と、思わず感嘆の声を漏らした。
部屋の中央には巨大な石像が置かれていた。石像は聡明そうな男のもので、手に巨大な書的を持ち、天を仰いでいた。
その周囲には無数のトビラがあった。部屋は吹き抜けになっており、そのため、すべての階層のトビラを見上げることができるのだった。トテモ外観から連想できる構造ではなかった。魔術師学校の寮だという先入観があるからか、すでに魔法という得体の知れない世界に没入したような感覚があった。油断していると、足が浮いてしまいそうだった。
「どうだ。すごいだろう」
と、ブルンダは得意気に言った。
「あの。ひとつお尋ねしたいんですけど」
「なんだね」
「どうして、こんなに良くしてくれるんです? ……その、学費も何も払えませんし」
罠かと思えるぐらいだ。
もちろん、ケネスのような小者を罠にかけるような人物も、なかなかいないだろうが。
「魔法、というのは、そもそも、どこからはじまったか知っているかね?」
「いえ」
ブルンダは部屋の中央に歩いて行き、巨大な男の石像を見上げた。ケネスもつられて見上げた。
「これが、魔術の神と言われるマディシャンじゃ」
「これが?」
ハッとしてヴィルザのほうを見ると、案の定、ヴィルザは「ふーっ」と激しい息づかいとともに、その赤毛を逆立てて、マディシャンを睨みつけていた。
「もちろん、その石像じゃがな。魔法というのは、そもそも神々のみが扱うことを許された特殊な能力じゃった。まさしく神の能力というわけじゃ。その恩恵を人間たちにあずけてくれたのが、この魔術の神マディシャンじゃった」
「へえ」
隣で全身に憎悪をみなぎらせている少女がいるので、迂闊なことは言えなかった。
「魔神ヴィルザハード」
と、ブルンダが呟いたので、ケネスは弾かれたようにブルンダを見た。
ヴィルザの存在に気づいたのかと思ったのだ。ヴィルザも自分の名前が出てきたことに、ビックリしたようで、瞠目してブルンダを見つめていた。しかし、ブルンダはヴィルザの存在に気づいたわけではないらしい。
「ヴィルザがどうかしたんですか?」
ヴィルザハードをそんな略し方で呼ぶ者は、はじめてじゃ――とブルンダは笑って続けた。
「ヴィルザハードが世界を恐怖に陥れた。何人もの人間が、無抵抗に殺され、阿鼻叫喚の地獄と化した。そんな人間たちを不憫に思って、マディシャンは人間たちに抵抗する術を与えてくれた。それが魔法の由来じゃと言われておる」
ブルンダはそう言いつつ、己の刈りそろえられた白ヒゲをナでていた。
「じゃあ、ヴィルザは悪い存在なんですね」
「うむ。神話の時代のことじゃからな。その恐怖を知る者は少ないじゃろうが、まさしく残虐非道な魔神じゃった」
ヴィルザはその細い腰に手を当てて、「えっへん」と、胸を張っていた。ホめられているとでも思っているのだろうか。
「魔法が神からの恩恵なら、スキルはなんなんですか?」
「本来、人間は魔法というチカラを持っていなかった。そのチカラに適応することで、人間の遺伝子に変化があった。そうして生まれてきたのが、スキルと言われておる」
「勉強になります」
そのスキル《可視化》によって、ケネスにはヴィルザの姿が見えているのだ。
「魔法とは、神のチカラじゃ。ワシはそれを極めようと思った。しかし、頭打ちというものがある。ワシには最上位魔法を扱うのでやっとじゃ。ここの学校の卒業生にガルシア・スプラウドという人物がいる」
「え! ガルシア帝国魔法長官ですか」
おおっ。知っておるか――とブルンダの頬にシワが刻み込まれた。
「ワシが知っているなかでは、ガルシアくんがもっとも優れた魔術師じゃった。しかし、それでも最上位魔法のA級魔法には及ばなかった。ワシは魔法の究極点を見てみたい。そのためなら、なんだってする」
そして、とブルンダは急にあらたまった表情で、ケネスの顔を見下ろしてきた。こうして並んでみると、ブルンダのほうが背が高い。ケネスの身長が低いというのもあるが、ブルンダはとても老人とは思えぬ精力に満ちていた。
「君、ケネス・カートルドくんには、その魔法の究極点に到達できる気配を感じた。ミノタウロスを迎撃した魔法は、まさに神業。だから、ぜひ君にはここで学んでほしいのだ」
ブルンダの瞳には、青く真摯な輝きがあった。その目をちゃんと見返すことがむずかしかった。
(だってオレは……)
ブルンダがその期待に満ちた目を向けているのは、ケネスではなく、ヴィルザなのだ。その裏切っているような感覚が、ケネスに罪悪感をあたえた。
「そんなに最上位魔法のその上を見たいなら、私が見せてやろうか?」
ヴィルザがノンキに呟いている。
「ここが学生寮になる」
と、ブルンダが説明してくれる。
「ここに住んでも良いんですか」
「もちろん」
「でも、何も払えるもんないですけど」
「問題はない。君は優秀な生徒だ。ワシの目に狂いはないはず。お金の心配は何も心配しなくとも良い」
「ありがとうございます」
非常に運が良い。
珍しいこともあるものだ。
「これが君の部屋のカギになる」
ブルンダはそう言うと、一本のアンティークキーをケネスに渡してきた。「301号室」と書かれていた。
「それからこれを」
と、続けて布袋を渡してきた。けっこうな重みがあったので、中を開けて確認してみた。金貨が詰まっていた。しかし、帝国金貨ではなさそうだ。
「お、お金ですか」
「この学院の中だけで使える通貨になっておる。学院で生活していくうえで、教科書やらなにやらいろいろと必要になるだろうからな」
受け取っても良いのだろうかと思ったが、もらえるものならもらっておこうという欲望が勝った。
「さあ、ついて来なさい」
ブルンダが玄関のトビラを開けた。黒いトビラだった。闇の中では、真鍮製のドアノブだけが金色に浮きだって見えた。
中に入る。
「うわぁ」
と、思わず感嘆の声を漏らした。
部屋の中央には巨大な石像が置かれていた。石像は聡明そうな男のもので、手に巨大な書的を持ち、天を仰いでいた。
その周囲には無数のトビラがあった。部屋は吹き抜けになっており、そのため、すべての階層のトビラを見上げることができるのだった。トテモ外観から連想できる構造ではなかった。魔術師学校の寮だという先入観があるからか、すでに魔法という得体の知れない世界に没入したような感覚があった。油断していると、足が浮いてしまいそうだった。
「どうだ。すごいだろう」
と、ブルンダは得意気に言った。
「あの。ひとつお尋ねしたいんですけど」
「なんだね」
「どうして、こんなに良くしてくれるんです? ……その、学費も何も払えませんし」
罠かと思えるぐらいだ。
もちろん、ケネスのような小者を罠にかけるような人物も、なかなかいないだろうが。
「魔法、というのは、そもそも、どこからはじまったか知っているかね?」
「いえ」
ブルンダは部屋の中央に歩いて行き、巨大な男の石像を見上げた。ケネスもつられて見上げた。
「これが、魔術の神と言われるマディシャンじゃ」
「これが?」
ハッとしてヴィルザのほうを見ると、案の定、ヴィルザは「ふーっ」と激しい息づかいとともに、その赤毛を逆立てて、マディシャンを睨みつけていた。
「もちろん、その石像じゃがな。魔法というのは、そもそも神々のみが扱うことを許された特殊な能力じゃった。まさしく神の能力というわけじゃ。その恩恵を人間たちにあずけてくれたのが、この魔術の神マディシャンじゃった」
「へえ」
隣で全身に憎悪をみなぎらせている少女がいるので、迂闊なことは言えなかった。
「魔神ヴィルザハード」
と、ブルンダが呟いたので、ケネスは弾かれたようにブルンダを見た。
ヴィルザの存在に気づいたのかと思ったのだ。ヴィルザも自分の名前が出てきたことに、ビックリしたようで、瞠目してブルンダを見つめていた。しかし、ブルンダはヴィルザの存在に気づいたわけではないらしい。
「ヴィルザがどうかしたんですか?」
ヴィルザハードをそんな略し方で呼ぶ者は、はじめてじゃ――とブルンダは笑って続けた。
「ヴィルザハードが世界を恐怖に陥れた。何人もの人間が、無抵抗に殺され、阿鼻叫喚の地獄と化した。そんな人間たちを不憫に思って、マディシャンは人間たちに抵抗する術を与えてくれた。それが魔法の由来じゃと言われておる」
ブルンダはそう言いつつ、己の刈りそろえられた白ヒゲをナでていた。
「じゃあ、ヴィルザは悪い存在なんですね」
「うむ。神話の時代のことじゃからな。その恐怖を知る者は少ないじゃろうが、まさしく残虐非道な魔神じゃった」
ヴィルザはその細い腰に手を当てて、「えっへん」と、胸を張っていた。ホめられているとでも思っているのだろうか。
「魔法が神からの恩恵なら、スキルはなんなんですか?」
「本来、人間は魔法というチカラを持っていなかった。そのチカラに適応することで、人間の遺伝子に変化があった。そうして生まれてきたのが、スキルと言われておる」
「勉強になります」
そのスキル《可視化》によって、ケネスにはヴィルザの姿が見えているのだ。
「魔法とは、神のチカラじゃ。ワシはそれを極めようと思った。しかし、頭打ちというものがある。ワシには最上位魔法を扱うのでやっとじゃ。ここの学校の卒業生にガルシア・スプラウドという人物がいる」
「え! ガルシア帝国魔法長官ですか」
おおっ。知っておるか――とブルンダの頬にシワが刻み込まれた。
「ワシが知っているなかでは、ガルシアくんがもっとも優れた魔術師じゃった。しかし、それでも最上位魔法のA級魔法には及ばなかった。ワシは魔法の究極点を見てみたい。そのためなら、なんだってする」
そして、とブルンダは急にあらたまった表情で、ケネスの顔を見下ろしてきた。こうして並んでみると、ブルンダのほうが背が高い。ケネスの身長が低いというのもあるが、ブルンダはとても老人とは思えぬ精力に満ちていた。
「君、ケネス・カートルドくんには、その魔法の究極点に到達できる気配を感じた。ミノタウロスを迎撃した魔法は、まさに神業。だから、ぜひ君にはここで学んでほしいのだ」
ブルンダの瞳には、青く真摯な輝きがあった。その目をちゃんと見返すことがむずかしかった。
(だってオレは……)
ブルンダがその期待に満ちた目を向けているのは、ケネスではなく、ヴィルザなのだ。その裏切っているような感覚が、ケネスに罪悪感をあたえた。
「そんなに最上位魔法のその上を見たいなら、私が見せてやろうか?」
ヴィルザがノンキに呟いている。
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