《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第28話「無効化のポーション」
『孤独の放浪者』
ガル、ケネス、テイラの3人だ。3人で並んで歩いていると、「山」といった案配になる。真ん中を歩くのはガル。右側にマスク。左側にテイラという形だ。マスクよりも、テイラのほうが若干背は低い。
帝都を歩いていると、いろんな冒険者や魔術師とすれ違う。以前は、周囲の冒険者がみんなツワモノのように思えた。今は違う。どの冒険者や魔術師を見ても、物足りなく感じる。
ケネスと出会ったせいだ。
「ケネスさんの魔力。すごかったですよね」
テイラが呟く。
「またかよ。口を開いたらケネスさん、だ」
ガルが呆れたように返した。
「うっ……。ごめんなさい」
テイラは赤面をおぼえた。たしかにシツコかったかもしれない。ケネスと別れてから、彼のことばかり考えている。思い出せば思い出すほどの、意識は心地よく陶然としてゆくのだった。
「別に謝ることないけどさ。すごかったのは確かだから」
「うん」
「見えてきましたよぉ」
マスクが指差した。
帝都には石畳の敷かれたストリートがある。その並びの一軒に、薬屋がある。小瓶の絵が描かれた木製の看板を出している。冒険者たちが、薬を買いに立ち寄ることも多い。薬はいろいろと種類がある。でも、イチバン売れるのは「傷薬」と「精神刺激薬」の2つだろう。
傷薬は書いて字のごとく、傷を治癒するために使われる。「精神刺激薬」はおもに魔術師が使う。魔力を使いすぎて疲弊しているときに、よく効く。テイラも癒術を多用したときなどには、使うことがある。
「はぁ。また、あそこに行くんですね」
と、テイラはヘキエキした。
無効化のキノコはすでに渡してあった。今日は、完成した薬を取りに来たのだ。それは良いのだが、テイラは薬屋の主人が苦手だった。若い男で、容姿もそんなに悪くないのだが、「タラシ」なのだ。見境なく女性に声をかけている。何度断っても、誘いをかけてくる。
(私まだ、14なんですけど)
薬屋の主人はもう30手前だから、ロリコンと言っても語弊はないだろう。
「まぁ、そう言うなよ。女性が支払ったほうが安くしてくれるんだから、そっちのほうが良いだろう」
薬の代金は、『孤独の放浪者』で持つことになっている。そのかわりに人食いスライムの素材をもらっている。あれはけっこう良い値で売れた。
「うん」
「この薬をケネスさんに渡すときには、もう一度ケネスさんに会えるんだから」
「うん」
そういう算段ではあった。
一度一緒に仕事をしてオサラバでは、あまりにも寂しい。薬をこちらで用意して、ケネスに渡す。もう一度会えるから、そうしたのだ。
「まぁ、オレはケネスさんと、いつでも連絡できるんですけどねぇ」
と、マスクは誇らしげに言う。
風系基礎魔法の《通話》。
マスクはケネスと連絡を取れることが、よほど嬉しいらしく、何かと自慢してくる。半分は冗談も含まれているのだろう。だが、本気で羨ましいから、冗談に聞こえない。殴りたいのはヤマヤマだが、嫉妬してると思われるのも厭だ。
「はいはい」
と、テイラは流しておいた。
「入るぞ」
と、ガルが薬屋のトビラを開けた。
カウンターテーブルがある、感じの良い好青年が立っている。この好青年がマンチェスター・マバランタ。薬屋の主人であり、タラシ男である。
「やァ。いらっしゃい。テイラちゃん」
「あの――。注文していた薬を」
「無効化のポーションだったね。無効化のキノコがたくさんあったから、けっこうな量が出来たよ」
人の顔ほどもある瓶に、紫色の水がたっぷりと溜まっていた。それが5つ。ケネスは、可能なかぎりポーションにしてくれと言っていたから、これで問題ないのだろう。でも、あきらかに作りすぎの感がある。
「使いかたは簡単。飲むだけで良い」
マンチェスターが得意気に言った。
「どれぐらい飲めば良いんでしょうか?」
「1滴。それで充分だ」
マンチェスターは人差し指をたててそう言った。
「1滴ですか……」
なら、この量はあきらかにつくりすぎだ。
帝都全員に飲ませられるだけあるかもしれない。
「呪いを解いたり、魔法におる継続ダメージを受けたり、不必要なスキルを消したりといったときに使われる。まぁ、無闇に使って良いものではないよ」
「スキルを消すようなことあるんですか?」
スキルというのは、恩恵だ。
プラスに働いても、マイナスになることはないだろうと思う。
「なかには不幸なスキルを持って生まれてくる者もいるからね。たとえば、オレが見てきたなかでは《不幸》というスキルだ。あらゆる災難が身にふりかかるらしい」
「うわぁ」
さすがにそれは悲惨だ。
そんなスキルを持って生まれて来なくて良かった、とテイラは安堵した。
「お題のほうは3万ダリアになるけど……」
マンチェスターは目配せを送ってくる。こいつめ、はじまりやがったなと思った。女性として媚びてくれれば、値下げするぞという目だ。こういうところが、好きになれないのだ。
3万ダリアというと、帝国金貨3枚分だ。
かなり高額だが、払えないことはない。
人食いスライムの素材を売って、金貨5枚を得ていた。だが、値引きしてくれるなら、してくれるほうが良い。余ったお金は、帝都の孤児院に寄付する予定だ。
「もう少し安くなりませんか」
テイラは、甘えるように上目使いを送った。マンチェスターの顔がどんどんゆるんでくる。
「どうしようかなー。2万8000ダリアぐらいまでなら安くできるけど」
「2万ダリアでどうでしょうか?」
帝国金貨2枚を、マンチェスターの手ににぎらせた。マンチェスターが、やんわりとテイラの手をつかんでくる。寒気が立ちのぼってくるのをこらえて、笑顔を返す。
「よし。2万ダリアにマけてやろう」
帝国金貨2枚を渡して、ポーションを買い取った。実際にポーションを受け取ってみると、けっこう重たかった。
薬屋を出る。
あとはこの薬を、ケネスに届けるだけだ。
「じゃあ、ケネスさんに連絡を取って、どこかで待ち合わせましょうかねぇ」
マスクがそう言った。
「待って。その前に家に寄って行きましょうよ
家。
デラル孤児院のことを、家、を呼んでいるのだった。
「そうだな。実入りもあったし、パンでも買って行ってやるか」
と、ガルの声が朗らかになった。
ガル、ケネス、テイラの3人だ。3人で並んで歩いていると、「山」といった案配になる。真ん中を歩くのはガル。右側にマスク。左側にテイラという形だ。マスクよりも、テイラのほうが若干背は低い。
帝都を歩いていると、いろんな冒険者や魔術師とすれ違う。以前は、周囲の冒険者がみんなツワモノのように思えた。今は違う。どの冒険者や魔術師を見ても、物足りなく感じる。
ケネスと出会ったせいだ。
「ケネスさんの魔力。すごかったですよね」
テイラが呟く。
「またかよ。口を開いたらケネスさん、だ」
ガルが呆れたように返した。
「うっ……。ごめんなさい」
テイラは赤面をおぼえた。たしかにシツコかったかもしれない。ケネスと別れてから、彼のことばかり考えている。思い出せば思い出すほどの、意識は心地よく陶然としてゆくのだった。
「別に謝ることないけどさ。すごかったのは確かだから」
「うん」
「見えてきましたよぉ」
マスクが指差した。
帝都には石畳の敷かれたストリートがある。その並びの一軒に、薬屋がある。小瓶の絵が描かれた木製の看板を出している。冒険者たちが、薬を買いに立ち寄ることも多い。薬はいろいろと種類がある。でも、イチバン売れるのは「傷薬」と「精神刺激薬」の2つだろう。
傷薬は書いて字のごとく、傷を治癒するために使われる。「精神刺激薬」はおもに魔術師が使う。魔力を使いすぎて疲弊しているときに、よく効く。テイラも癒術を多用したときなどには、使うことがある。
「はぁ。また、あそこに行くんですね」
と、テイラはヘキエキした。
無効化のキノコはすでに渡してあった。今日は、完成した薬を取りに来たのだ。それは良いのだが、テイラは薬屋の主人が苦手だった。若い男で、容姿もそんなに悪くないのだが、「タラシ」なのだ。見境なく女性に声をかけている。何度断っても、誘いをかけてくる。
(私まだ、14なんですけど)
薬屋の主人はもう30手前だから、ロリコンと言っても語弊はないだろう。
「まぁ、そう言うなよ。女性が支払ったほうが安くしてくれるんだから、そっちのほうが良いだろう」
薬の代金は、『孤独の放浪者』で持つことになっている。そのかわりに人食いスライムの素材をもらっている。あれはけっこう良い値で売れた。
「うん」
「この薬をケネスさんに渡すときには、もう一度ケネスさんに会えるんだから」
「うん」
そういう算段ではあった。
一度一緒に仕事をしてオサラバでは、あまりにも寂しい。薬をこちらで用意して、ケネスに渡す。もう一度会えるから、そうしたのだ。
「まぁ、オレはケネスさんと、いつでも連絡できるんですけどねぇ」
と、マスクは誇らしげに言う。
風系基礎魔法の《通話》。
マスクはケネスと連絡を取れることが、よほど嬉しいらしく、何かと自慢してくる。半分は冗談も含まれているのだろう。だが、本気で羨ましいから、冗談に聞こえない。殴りたいのはヤマヤマだが、嫉妬してると思われるのも厭だ。
「はいはい」
と、テイラは流しておいた。
「入るぞ」
と、ガルが薬屋のトビラを開けた。
カウンターテーブルがある、感じの良い好青年が立っている。この好青年がマンチェスター・マバランタ。薬屋の主人であり、タラシ男である。
「やァ。いらっしゃい。テイラちゃん」
「あの――。注文していた薬を」
「無効化のポーションだったね。無効化のキノコがたくさんあったから、けっこうな量が出来たよ」
人の顔ほどもある瓶に、紫色の水がたっぷりと溜まっていた。それが5つ。ケネスは、可能なかぎりポーションにしてくれと言っていたから、これで問題ないのだろう。でも、あきらかに作りすぎの感がある。
「使いかたは簡単。飲むだけで良い」
マンチェスターが得意気に言った。
「どれぐらい飲めば良いんでしょうか?」
「1滴。それで充分だ」
マンチェスターは人差し指をたててそう言った。
「1滴ですか……」
なら、この量はあきらかにつくりすぎだ。
帝都全員に飲ませられるだけあるかもしれない。
「呪いを解いたり、魔法におる継続ダメージを受けたり、不必要なスキルを消したりといったときに使われる。まぁ、無闇に使って良いものではないよ」
「スキルを消すようなことあるんですか?」
スキルというのは、恩恵だ。
プラスに働いても、マイナスになることはないだろうと思う。
「なかには不幸なスキルを持って生まれてくる者もいるからね。たとえば、オレが見てきたなかでは《不幸》というスキルだ。あらゆる災難が身にふりかかるらしい」
「うわぁ」
さすがにそれは悲惨だ。
そんなスキルを持って生まれて来なくて良かった、とテイラは安堵した。
「お題のほうは3万ダリアになるけど……」
マンチェスターは目配せを送ってくる。こいつめ、はじまりやがったなと思った。女性として媚びてくれれば、値下げするぞという目だ。こういうところが、好きになれないのだ。
3万ダリアというと、帝国金貨3枚分だ。
かなり高額だが、払えないことはない。
人食いスライムの素材を売って、金貨5枚を得ていた。だが、値引きしてくれるなら、してくれるほうが良い。余ったお金は、帝都の孤児院に寄付する予定だ。
「もう少し安くなりませんか」
テイラは、甘えるように上目使いを送った。マンチェスターの顔がどんどんゆるんでくる。
「どうしようかなー。2万8000ダリアぐらいまでなら安くできるけど」
「2万ダリアでどうでしょうか?」
帝国金貨2枚を、マンチェスターの手ににぎらせた。マンチェスターが、やんわりとテイラの手をつかんでくる。寒気が立ちのぼってくるのをこらえて、笑顔を返す。
「よし。2万ダリアにマけてやろう」
帝国金貨2枚を渡して、ポーションを買い取った。実際にポーションを受け取ってみると、けっこう重たかった。
薬屋を出る。
あとはこの薬を、ケネスに届けるだけだ。
「じゃあ、ケネスさんに連絡を取って、どこかで待ち合わせましょうかねぇ」
マスクがそう言った。
「待って。その前に家に寄って行きましょうよ
家。
デラル孤児院のことを、家、を呼んでいるのだった。
「そうだな。実入りもあったし、パンでも買って行ってやるか」
と、ガルの声が朗らかになった。
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