《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第15話「同じベッドで」
「とりあえず、約束を取り付けることは出来たな」
ヴィルザが言った。
町の宿屋である。
あまりお金を持っていないので、窓のない個室をもらった。ベッドは木箱だ。しかもホコリっぽい。ほとんど物置だが、これでも贅沢したほうだ。イチバン安いのは、大広間での雑魚寝となる。
冒険者とはいえ、旅には慣れていない。
知らない人たちと寝ることに若干の抵抗を感じて、個室をとったのだ。
「明日の朝は、早いからさっさと寝てしまおう」
ケネスは木箱に寝転んだ。敷布団のおかげで、そこまで寝心地は悪くない。何かがモゾモゾと入り込んできた。
やわらかくて、温かい。
ヴィルザだった。
「な、なにしてるんだよ」
「なにしてるって、ベッドが1つしかないから、私もここで寝るしかないではないか」
頭部の角をゴツゴツと押し付けてくる。
(しまった)
ヴィルザのことを数にいれていなかった。周囲から存在を認識されないという、あやふやな存在である。なので、ベッドなど必要ないのかと思っていた。
「ヴィルザもベッドで寝るのか」
「普段は、野宿などしていたが、ベッドがあればベッドのほうが良い」
「でも、この世界のものには干渉できないんだろ」
ベッドで寝れるはずがない。
「ひとつそのことで気づいたことがある」
「なに?」
「ケネスの魔法陣を通して、この私が魔法を出せるであろう。あれと同じように、ケネスが干渉している者には、触れられるということだ。ケネスが着ている服や、触れている者には、この私も触れられるようだ」
その理屈で、ベッドにも寝られるということか。
「オレのスキルは《可視化》だ。見えるってだけで、なんでヴィルザの声まで聞こえたりするんだ?」
見えるだけのはずだ。
「存在は、誰かに認識されなければ、存在ではないからな」
ベルジュラックには、こういう哲学がある。
スライムの色は何色なのか――という哲学だ。モンスターのスライムのことだ。ふつうは青い。どのスライムも総じて青い。しかし、それは人間がそう認識しているだけなのだそうだ。エルフが見れば、また違う色に見えたりするらしい。青色は、誰かに認識されなければ青色として機能しないのだ。
ヴィルザの存在も、それと同じなのかもしれない。
ケネスが存在を認識しているから、はじめて存在していられる。だから、ケネスが触れている物にも、触れられる。
「そういうことか」
ケネスはなんとなく、理解できる気がした。
「そういうわけで、おやすみ」
「いや、待て。だからって一緒のベッドで寝ても良いとは言ってないよ」
「なんだ? 何かマズイことでも?」
「マズイだろう!」
非常にマズイ。
ケネスは、童貞である。16歳という年齢からかんがみても、決して珍しいことではないだろう。しかも、モテない。女性と会話した回数も――ヴィルザをのぞけば――指折り数えたぐらいしかない。
そんなケネスのベッドに、あどけない少女のカラダをしたヴィルザが潜り込んでくる。
心臓が暴れまわっていた。
「ははぁ。さては照れておるな?」
と、ヴィルザは目を薄くして、揶揄するように問うてきた。
「いや! ぜんぜん!」
強がってみるものの、声が上ずる。
「私にもかつてそういう感情を持ったことがあった。とはいえ、数千年も生きていれば、何とも思わなくなる。しかも、相手がこんなコゾウではな」
「こ、コゾウで悪かったな」
自分より小さな生き物に、コゾウと言われるとは思っていなかった。
「別に胸をモむぐらいなら、私のカラダに触れることを許そう。光栄に思え、魔神ヴィルザハードのカラダに触れることが出来た人物なんて、そうそういないのだからな。まぁ、コゾウにはムリであろうが」
呼び名が「ケネス」から「コゾウ」に降格してしまった。
「明日は早いのであろう。ほれ、気にせず眠れ」
すぅすぅ――とヴィルザは眠った。
胸をモんでも良いって言われたよな? どういう意味で言ったのかはわからない。だが、許可はもらったのだ。
あらためてヴィルザを見つめる。
ベッドの上に花開いた真紅の髪。凶暴さの秘められた角。うらわかき乙女の結晶とも言える桜色の頬と唇。青白い薄皮の張ったようなうなじ。そして、控えめな胸のふくらみ……。
「ごくっ」
自分でもわかるぐらいの、生唾の音だった。
いや。
ムリだ。
いくら可愛いからって、魔神に手を出すなんて、ゼッタイやめたほうが良い。深呼吸。気持を落ちつけた。
ベッドにもぐる。
ヴィルザの髪の匂いであろう、花の香りに覆われていく。
ひとつ、厭な考えがケネスの脳裏にたちのぼった。
(オレに干渉できるってことは、ヴィルザはいつでもオレを殺すことは出来るってことだよな)
ヴィルザが言った。
町の宿屋である。
あまりお金を持っていないので、窓のない個室をもらった。ベッドは木箱だ。しかもホコリっぽい。ほとんど物置だが、これでも贅沢したほうだ。イチバン安いのは、大広間での雑魚寝となる。
冒険者とはいえ、旅には慣れていない。
知らない人たちと寝ることに若干の抵抗を感じて、個室をとったのだ。
「明日の朝は、早いからさっさと寝てしまおう」
ケネスは木箱に寝転んだ。敷布団のおかげで、そこまで寝心地は悪くない。何かがモゾモゾと入り込んできた。
やわらかくて、温かい。
ヴィルザだった。
「な、なにしてるんだよ」
「なにしてるって、ベッドが1つしかないから、私もここで寝るしかないではないか」
頭部の角をゴツゴツと押し付けてくる。
(しまった)
ヴィルザのことを数にいれていなかった。周囲から存在を認識されないという、あやふやな存在である。なので、ベッドなど必要ないのかと思っていた。
「ヴィルザもベッドで寝るのか」
「普段は、野宿などしていたが、ベッドがあればベッドのほうが良い」
「でも、この世界のものには干渉できないんだろ」
ベッドで寝れるはずがない。
「ひとつそのことで気づいたことがある」
「なに?」
「ケネスの魔法陣を通して、この私が魔法を出せるであろう。あれと同じように、ケネスが干渉している者には、触れられるということだ。ケネスが着ている服や、触れている者には、この私も触れられるようだ」
その理屈で、ベッドにも寝られるということか。
「オレのスキルは《可視化》だ。見えるってだけで、なんでヴィルザの声まで聞こえたりするんだ?」
見えるだけのはずだ。
「存在は、誰かに認識されなければ、存在ではないからな」
ベルジュラックには、こういう哲学がある。
スライムの色は何色なのか――という哲学だ。モンスターのスライムのことだ。ふつうは青い。どのスライムも総じて青い。しかし、それは人間がそう認識しているだけなのだそうだ。エルフが見れば、また違う色に見えたりするらしい。青色は、誰かに認識されなければ青色として機能しないのだ。
ヴィルザの存在も、それと同じなのかもしれない。
ケネスが存在を認識しているから、はじめて存在していられる。だから、ケネスが触れている物にも、触れられる。
「そういうことか」
ケネスはなんとなく、理解できる気がした。
「そういうわけで、おやすみ」
「いや、待て。だからって一緒のベッドで寝ても良いとは言ってないよ」
「なんだ? 何かマズイことでも?」
「マズイだろう!」
非常にマズイ。
ケネスは、童貞である。16歳という年齢からかんがみても、決して珍しいことではないだろう。しかも、モテない。女性と会話した回数も――ヴィルザをのぞけば――指折り数えたぐらいしかない。
そんなケネスのベッドに、あどけない少女のカラダをしたヴィルザが潜り込んでくる。
心臓が暴れまわっていた。
「ははぁ。さては照れておるな?」
と、ヴィルザは目を薄くして、揶揄するように問うてきた。
「いや! ぜんぜん!」
強がってみるものの、声が上ずる。
「私にもかつてそういう感情を持ったことがあった。とはいえ、数千年も生きていれば、何とも思わなくなる。しかも、相手がこんなコゾウではな」
「こ、コゾウで悪かったな」
自分より小さな生き物に、コゾウと言われるとは思っていなかった。
「別に胸をモむぐらいなら、私のカラダに触れることを許そう。光栄に思え、魔神ヴィルザハードのカラダに触れることが出来た人物なんて、そうそういないのだからな。まぁ、コゾウにはムリであろうが」
呼び名が「ケネス」から「コゾウ」に降格してしまった。
「明日は早いのであろう。ほれ、気にせず眠れ」
すぅすぅ――とヴィルザは眠った。
胸をモんでも良いって言われたよな? どういう意味で言ったのかはわからない。だが、許可はもらったのだ。
あらためてヴィルザを見つめる。
ベッドの上に花開いた真紅の髪。凶暴さの秘められた角。うらわかき乙女の結晶とも言える桜色の頬と唇。青白い薄皮の張ったようなうなじ。そして、控えめな胸のふくらみ……。
「ごくっ」
自分でもわかるぐらいの、生唾の音だった。
いや。
ムリだ。
いくら可愛いからって、魔神に手を出すなんて、ゼッタイやめたほうが良い。深呼吸。気持を落ちつけた。
ベッドにもぐる。
ヴィルザの髪の匂いであろう、花の香りに覆われていく。
ひとつ、厭な考えがケネスの脳裏にたちのぼった。
(オレに干渉できるってことは、ヴィルザはいつでもオレを殺すことは出来るってことだよな)
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