《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第15話「同じベッドで」

「とりあえず、約束を取り付けることは出来たな」
 ヴィルザが言った。



 町の宿屋である。



 あまりお金を持っていないので、窓のない個室をもらった。ベッドは木箱だ。しかもホコリっぽい。ほとんど物置だが、これでも贅沢したほうだ。イチバン安いのは、大広間での雑魚寝となる。



 冒険者とはいえ、旅には慣れていない。
 知らない人たちと寝ることに若干の抵抗を感じて、個室をとったのだ。



「明日の朝は、早いからさっさと寝てしまおう」



 ケネスは木箱に寝転んだ。敷布団のおかげで、そこまで寝心地は悪くない。何かがモゾモゾと入り込んできた。



 やわらかくて、温かい。
 ヴィルザだった。



「な、なにしてるんだよ」



「なにしてるって、ベッドが1つしかないから、私もここで寝るしかないではないか」



 頭部の角をゴツゴツと押し付けてくる。



(しまった)



 ヴィルザのことを数にいれていなかった。周囲から存在を認識されないという、あやふやな存在である。なので、ベッドなど必要ないのかと思っていた。



「ヴィルザもベッドで寝るのか」



「普段は、野宿などしていたが、ベッドがあればベッドのほうが良い」



「でも、この世界のものには干渉できないんだろ」



 ベッドで寝れるはずがない。



「ひとつそのことで気づいたことがある」
「なに?」



「ケネスの魔法陣を通して、この私が魔法を出せるであろう。あれと同じように、ケネスが干渉している者には、触れられるということだ。ケネスが着ている服や、触れている者には、この私も触れられるようだ」



 その理屈で、ベッドにも寝られるということか。



「オレのスキルは《可視化》だ。見えるってだけで、なんでヴィルザの声まで聞こえたりするんだ?」



 見えるだけのはずだ。



「存在は、誰かに認識されなければ、存在ではないからな」



 ベルジュラックには、こういう哲学がある。



 スライムの色は何色なのか――という哲学だ。モンスターのスライムのことだ。ふつうは青い。どのスライムも総じて青い。しかし、それは人間がそう認識しているだけなのだそうだ。エルフが見れば、また違う色に見えたりするらしい。青色は、誰かに認識されなければ青色として機能しないのだ。



 ヴィルザの存在も、それと同じなのかもしれない。



 ケネスが存在を認識しているから、はじめて存在していられる。だから、ケネスが触れている物にも、触れられる。



「そういうことか」
 ケネスはなんとなく、理解できる気がした。



「そういうわけで、おやすみ」



「いや、待て。だからって一緒のベッドで寝ても良いとは言ってないよ」



「なんだ? 何かマズイことでも?」
「マズイだろう!」



 非常にマズイ。
 ケネスは、童貞である。16歳という年齢からかんがみても、決して珍しいことではないだろう。しかも、モテない。女性と会話した回数も――ヴィルザをのぞけば――指折り数えたぐらいしかない。



 そんなケネスのベッドに、あどけない少女のカラダをしたヴィルザが潜り込んでくる。
 心臓が暴れまわっていた。



「ははぁ。さては照れておるな?」
 と、ヴィルザは目を薄くして、揶揄するように問うてきた。



「いや! ぜんぜん!」
 強がってみるものの、声が上ずる。



「私にもかつてそういう感情を持ったことがあった。とはいえ、数千年も生きていれば、何とも思わなくなる。しかも、相手がこんなコゾウではな」



「こ、コゾウで悪かったな」



 自分より小さな生き物に、コゾウと言われるとは思っていなかった。



「別に胸をモむぐらいなら、私のカラダに触れることを許そう。光栄に思え、魔神ヴィルザハードのカラダに触れることが出来た人物なんて、そうそういないのだからな。まぁ、コゾウにはムリであろうが」



 呼び名が「ケネス」から「コゾウ」に降格してしまった。



「明日は早いのであろう。ほれ、気にせず眠れ」



 すぅすぅ――とヴィルザは眠った。



 胸をモんでも良いって言われたよな? どういう意味で言ったのかはわからない。だが、許可はもらったのだ。



 あらためてヴィルザを見つめる。



 ベッドの上に花開いた真紅の髪。凶暴さの秘められた角。うらわかき乙女の結晶とも言える桜色の頬と唇。青白い薄皮の張ったようなうなじ。そして、控えめな胸のふくらみ……。



「ごくっ」
 自分でもわかるぐらいの、生唾の音だった。



 いや。
 ムリだ。
 いくら可愛いからって、魔神に手を出すなんて、ゼッタイやめたほうが良い。深呼吸。気持を落ちつけた。



 ベッドにもぐる。
 ヴィルザの髪の匂いであろう、花の香りに覆われていく。



 ひとつ、厭な考えがケネスの脳裏にたちのぼった。


(オレに干渉できるってことは、ヴィルザはいつでもオレを殺すことは出来るってことだよな)

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