《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第13話「酒場」
酒場。
酒場といっても、酒を飲みに来たわけではない。酒は20歳からと決まっている。酒を飲んでいる男たちの喧騒を見ていると、はやく大人になりたいものだという思いがこみ上げてくる。
木造の円卓を囲んで、やたらと楽しげにビールジョッキを叩き合わせている。冒険者たちらしい。どうやら、何か難度の高いダンジョンを攻略してきたようだ。聞き耳から入ってくる情報によって、それがわかった。
「で、これからどうする?」
と、ヴィルザが尋ねてくる。ヴィルザは飲み物を必要としないので、テーブルの前には何も置かれていない。
「うん……」
と、ケネスは水を飲む。
ここは帝都の酒場ではない。帝都の隣町にあった酒場だ。お酒だけでなくて、一般的な飲料も出している。
冒険者組合はあったが、たいした規模の町ではなかった。そのため城壁はなかった。都市ではないということだ。殺人者の身では、もう都市を行き来するのも難しそうであった。ただ、この町は農作物や家畜を多く育てており、寒の季節に入る前には、多くの麦を実らせる。それらの物産を帝都と交易しているそうだ。
こんな町に、何をしに来たのかというと――。
ただの休憩である。
ノドが乾いたから酒場に来ただけだ。
ずっと歩き続けているわけにもいかない。今はもう日が暮れている。夜になれば、平原にはモンスターが出たりもする。宿が必要だった。
ケネスは、すこし冷静になっていた。
人を殺してしまったと思って、あわてて逃げてきた。しかし、このまま逃げ切れるとも思えない。何かしらの方法で逃げ切ったとしても、ロクな運命が待ち受けていなさそうだ。
「やっぱり帝都に戻って、自首しようかな」
それがイチバン現実的だと思う。
このまま逃げていたら、帝国騎士は実家の親のもとまで行くだろう。
「もし、それで処刑ということになったら、どうする?」
問題は、これだ。
ケネスは可憐なる魔神を見つめた。
自首するにしても、これを、このままにしておいて良いとも思えない。魔神なのだ。もともとケネスが見つけてしまったのが悪い。だが、なんとかもう一度、封印されていてもらえないだろうか――と思う。このまま魔神に頼り続けていたら、きっとまた災厄が起こる。そんな不吉な胸騒ぎがあった。
「ヴィルザは、どうやって封印されたんだ?」
封印についての情報を聞き出そうと思った。
「これは、呪術――つまり呪いの類だ」
癒術、魔法、呪術。
癒術は癒術師などが行使するもので、魔法は魔術師が行使するものだ。呪術は呪術師が使う。
「オレは呪術については、あんまり詳しくないんだけど」
「魔法とはまた別の、ジャンルであるからな。呪術というのは、図式や言葉を使って行うものが多い」
「絵を描くのか?」
「うむ。だからまぁ、個人戦に向いた技術ではない。術式を描いている間、相手に待ってもらうわけにもいかんしな」
「たしかに」
そんなもとを描いてたら、その前に倒されるだろう。
ケネスでも倒せそうだ。
「たとえば我の封印は、八角封魔術と言われるものだ。これはかつての8大神が行ったもので、人間に扱うことの出来ぬ最強の呪術であるがな」
ヴィルザは苦笑のようなものを浮かべた。
「具体的には、どういう感じになってるんだ?」
「世界の8箇所に、私を封印するための呪痕というものがあるはず。それは、常人の目には見えぬし、この私にも見つけ出すことは出来ない。だから、どういう形をしているかは不明だが、まぁ、その呪痕がこの私を永遠に封印しているというわけだ」
そこまで言うと、ヴィルザはハッとしたように目を開いていた。
「どうかしたか?」
「いや。私にはその呪痕は見えんが、もしやケネスには見えるのではないか? もし、良ければ壊してくれるとありがたいんだが……」
年端もいかぬ幼子が、親に物をねだるような目を向けてくる。
「そんなことをしたら、ヴィルザの封印が解けるんじゃないのか?」
「解ける」
「実体を取り戻すってことだろう? だったら、何するかわからないじゃないか」
「世界征服」
「却下だ」
「そんなぁ……」
「当たり前だろ。世界征服とかさせるつもりはないから」
「世界を征服したアカツキには、ケネスは私の婿として迎え入れてやっても良い。それで、どうであろうか?」
まばゆい宝石のような眼光だ。
さすがにこんな美少女に、婿と言われるとドキッとするが、それで懐柔されるわけがない。
「どうであろうか――じゃない。ダメだ。断固却下だ」
「うぅ……ケチ」
ヴィルザは頬をふくらませた。
ケチもへったくれもない。
指をパチンと鳴らすだけで、地面をめくりあげて、マグマを吹きださせるようなヤツを解き放つわけにはいかない。
ものの数秒で世界が潰れてしまいそうだ。
「だいたい、その呪痕とやらがどんな形をしてるのか、オレにもわからないよ」
「うむ。それもそうか」
名残惜しそうにしていたが、それ以上は執拗に頼んではこなかった。
酒場といっても、酒を飲みに来たわけではない。酒は20歳からと決まっている。酒を飲んでいる男たちの喧騒を見ていると、はやく大人になりたいものだという思いがこみ上げてくる。
木造の円卓を囲んで、やたらと楽しげにビールジョッキを叩き合わせている。冒険者たちらしい。どうやら、何か難度の高いダンジョンを攻略してきたようだ。聞き耳から入ってくる情報によって、それがわかった。
「で、これからどうする?」
と、ヴィルザが尋ねてくる。ヴィルザは飲み物を必要としないので、テーブルの前には何も置かれていない。
「うん……」
と、ケネスは水を飲む。
ここは帝都の酒場ではない。帝都の隣町にあった酒場だ。お酒だけでなくて、一般的な飲料も出している。
冒険者組合はあったが、たいした規模の町ではなかった。そのため城壁はなかった。都市ではないということだ。殺人者の身では、もう都市を行き来するのも難しそうであった。ただ、この町は農作物や家畜を多く育てており、寒の季節に入る前には、多くの麦を実らせる。それらの物産を帝都と交易しているそうだ。
こんな町に、何をしに来たのかというと――。
ただの休憩である。
ノドが乾いたから酒場に来ただけだ。
ずっと歩き続けているわけにもいかない。今はもう日が暮れている。夜になれば、平原にはモンスターが出たりもする。宿が必要だった。
ケネスは、すこし冷静になっていた。
人を殺してしまったと思って、あわてて逃げてきた。しかし、このまま逃げ切れるとも思えない。何かしらの方法で逃げ切ったとしても、ロクな運命が待ち受けていなさそうだ。
「やっぱり帝都に戻って、自首しようかな」
それがイチバン現実的だと思う。
このまま逃げていたら、帝国騎士は実家の親のもとまで行くだろう。
「もし、それで処刑ということになったら、どうする?」
問題は、これだ。
ケネスは可憐なる魔神を見つめた。
自首するにしても、これを、このままにしておいて良いとも思えない。魔神なのだ。もともとケネスが見つけてしまったのが悪い。だが、なんとかもう一度、封印されていてもらえないだろうか――と思う。このまま魔神に頼り続けていたら、きっとまた災厄が起こる。そんな不吉な胸騒ぎがあった。
「ヴィルザは、どうやって封印されたんだ?」
封印についての情報を聞き出そうと思った。
「これは、呪術――つまり呪いの類だ」
癒術、魔法、呪術。
癒術は癒術師などが行使するもので、魔法は魔術師が行使するものだ。呪術は呪術師が使う。
「オレは呪術については、あんまり詳しくないんだけど」
「魔法とはまた別の、ジャンルであるからな。呪術というのは、図式や言葉を使って行うものが多い」
「絵を描くのか?」
「うむ。だからまぁ、個人戦に向いた技術ではない。術式を描いている間、相手に待ってもらうわけにもいかんしな」
「たしかに」
そんなもとを描いてたら、その前に倒されるだろう。
ケネスでも倒せそうだ。
「たとえば我の封印は、八角封魔術と言われるものだ。これはかつての8大神が行ったもので、人間に扱うことの出来ぬ最強の呪術であるがな」
ヴィルザは苦笑のようなものを浮かべた。
「具体的には、どういう感じになってるんだ?」
「世界の8箇所に、私を封印するための呪痕というものがあるはず。それは、常人の目には見えぬし、この私にも見つけ出すことは出来ない。だから、どういう形をしているかは不明だが、まぁ、その呪痕がこの私を永遠に封印しているというわけだ」
そこまで言うと、ヴィルザはハッとしたように目を開いていた。
「どうかしたか?」
「いや。私にはその呪痕は見えんが、もしやケネスには見えるのではないか? もし、良ければ壊してくれるとありがたいんだが……」
年端もいかぬ幼子が、親に物をねだるような目を向けてくる。
「そんなことをしたら、ヴィルザの封印が解けるんじゃないのか?」
「解ける」
「実体を取り戻すってことだろう? だったら、何するかわからないじゃないか」
「世界征服」
「却下だ」
「そんなぁ……」
「当たり前だろ。世界征服とかさせるつもりはないから」
「世界を征服したアカツキには、ケネスは私の婿として迎え入れてやっても良い。それで、どうであろうか?」
まばゆい宝石のような眼光だ。
さすがにこんな美少女に、婿と言われるとドキッとするが、それで懐柔されるわけがない。
「どうであろうか――じゃない。ダメだ。断固却下だ」
「うぅ……ケチ」
ヴィルザは頬をふくらませた。
ケチもへったくれもない。
指をパチンと鳴らすだけで、地面をめくりあげて、マグマを吹きださせるようなヤツを解き放つわけにはいかない。
ものの数秒で世界が潰れてしまいそうだ。
「だいたい、その呪痕とやらがどんな形をしてるのか、オレにもわからないよ」
「うむ。それもそうか」
名残惜しそうにしていたが、それ以上は執拗に頼んではこなかった。
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