《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。

執筆用bot E-021番 

第12話「逃避行 後」

 部屋を出た。
 石畳のストリートに足をつける。すこし油断していると、行き交う人に当たってしまいそうだ。



「気を付けて歩けよ。周囲から見えないということは、相手は気を付けてくれないということだ。特に馬には気をつけよ」



「さすが、先人の言葉はためになる」



 冗談のつもりで言ったのだが、ヴィルザはケネスの腰あたりを軽く殴りつけてきた。ヴィルザはこの世界の物体に干渉することは出来ない。けれど、ケネスには触れることが出来るようだった。



 気に障ったのかもしれない。謝っておいた。



 帝都はぐるりを外郭によって囲まれている。城門棟を通って出なければならない。城門棟には騎士たちが見張っている。出入りする人を確認しているのだった。ケネスは姿をくらましている。検査の必要はない。黒いローブをはおり、ミズスマシがごとくスルリスルリと城門棟を抜ける。



 城門棟を抜けた際に、名残惜しさにふりむいた。そのとき、キレイな女性の姿を確認してギョッとした。



 プラチナブロンドの髪をなびかせて歩くその女性は、ガルシア・スプラウド。帝国魔法長官の顔ぐらい、さすがにケネスでも知っている。目つきには若々しい光が宿り、唇はかたく結ばれている。ちまたでは傾国の美姫と言われるだけある。歩くその場から、花弁が吹き荒れるような気品だった。



「ケネス・カートルドはどこへ行った。見つけ出し次第、必ず私のもとに連れて来い。ゼッタイに取り逃がすな」
 と、部下に命じている。



 マジか、と思った。
 帝国魔術師でもっとも偉い人物が出てくる事態なのだ。帝国12騎士が殺されたのだから、騒ぎは大きくてトウゼンだが、そこまでとは思わなかった。



 これはホントウに処刑コースかもしれない。



「ほれ、さっさと逃げるぞ」
 と、ヴィルザがせかしてくる。



「わかってるよ」
 立ちすくんでいたとは言えなかった。



 視線を前に向ける。
 眼前には緑の大地が広がっている。視線を上にあげれば、澄み渡った空が広がっている。そしてその広大な青葉青空を吹く風が、やさしくケネスのことを迎え入れた。



「で、こうして帝都を出たのは良いけど、これからどうやって生活していこうか……」



 途方に暮れるとは、このことだ。
 アパートの引き払い手続きも済ませていない。そんな余裕もなかった。夜逃げと称して語弊はない。



 街道をとぼとぼ歩く。
 その頃にはすでに、《透明化》も切れていた。



「こういうとき昔の人間は、異世界に逃げていたんだがな」
 と、ヴィルザは思い出すように呟いた。



「異世界?」



「かつてこのベルジュラックには、チキュウとつながる門があった。その門を通じて、文化的交流を行ったのだ。今も、多少はチキュウの文化的影響を受けているのではないかな」
 と、ヴィルナは思案気にアゴをさすっていた。


「今はその門は?」



「もう閉じておる。数千年前、私の実態がまだあったころ、ウッカリ壊してしもうた」



「えぇぇ。モッタイナイ」



 チキュウという世界とつながっていれば、もっと文化的な進化を遂げられたかもしれない。



「仕方なかろう。昔はとりあえず、目に入ったものから潰していたんだからな」



 魔神を名乗るだけはある。



 見た目は可憐な少女なのに、その角のせいか獰猛さがひそんでいるように思う。あながち勘違いでもなさそうだ。



「そんな昔のことよりも、これからのことだ」



 夜逃げした末路はロクなものじゃないことぐらいは、わかっている。しかも、ただの夜逃げではない。殺人罪を背負っての夜逃げだ。



「実家に帰るというのはどうだ? ケネスの実家は田舎にあるのであろう」



「却下だ」
 ムリだ。
 帰れるわけがない。



 帝都で冒険者になるのだと、親の反対を振り切って上京したのだ。殺人者になって帰ってきましたなんて、会わせる顔がない。



「ケリュアル王国のほうに亡命するか?」



「亡命って言っても、ある程度のお金かチカラのある人じゃないと、匿ってくれないだろう」



 一介の冒険者――しかもFランクでは到底ムリだ。



「そこは私がついておるから、問題なかろう」



「魔神のチカラを見せれば、受け入れてくれるか?」



「確証はないが――」
 一案としては悪くない。



 しかし、田舎とはいえ帝国に両親がいるのだ。親を残して亡命なんてやろうと思わない。亡命できるかどうかもわからないのだ。



「冒険者組合に頼るというのはどうであろうか?」



 冒険者組合の本部は、ヘリオスという自治都市にある。帝国にも王国にも属していない。中立の都市だ。王国と帝国のどちらとも盛んに交易を行っている。双方にとって有益な都市であるために、攻撃されないのだ。



 それに、戦争に参加していない自治都市に勝手に手を出したりしたら、国際問題にもなる。



 自治都市ゆえに、冒険者組合は自警団的に成長した組織だ。いまや、いろんな貴族がバックについている。本部が交易都市なだけに、巨大なチカラを持っている。冒険者組合は帝国にも存在していたし、王国にも存在していた。まるで宗教のように、あまねく広まっている。 



「いやー。たぶん、それもダメだな」
「ダメか?」



「だって、殺人者だよ。Aランク、Sランクの冒険者ならまだしも、Fランクだからなー」



 冒険者組合にも、アッサリ切り捨てられそうだ。



「ならば、暗黒組合などに入るしかなかろう」



 暗黒組合は、暗殺や窃盗などを請け負っているところだ。そこにいる者は、たいていスネに傷を持つものばかりだ。



「たしかに暗黒組合なら受け入れてくれるかもだけど、個人的に入りたくはないなぁ」



 無闇に罪を犯すのは、どうかと思う。



 頭は悪い。武芸はできない。魔法も使えない。金もなければ、芸術にも疎い。顔が良いわけでもないし、スキルもゴミ。それでも、道徳観念だけは持っているつもりだ。



「あれも厭、これも厭と言ってはおられんであろう。どこか妥協しなければ」



「そう言う、ヴィルザは行きたい場所とか、したいこととかないのかよ?」



 考えても良い案はない。
 ヴィルザに質問を振ってみることにした。ヴィルザはまさか質問を振られるとは思わなかったようで、キョトンとした顔をしていた。



「私か? 私がしたいことは――世界征服?」
「本気で言ってるのか、それ」



「もちろん。私はかつてこの世界を牛耳っておったのだ。人間どもを千切っては投げて、ちぎっては投げて」



「うへぇ」



 魔神の肩書きを持っているからには、比喩でも何でもなく千切って投げていそうだ。



「かつての栄光を取り戻せるのであれば、戻したい」



 ダメだ。
 尋ねたほうがバカだった。



(っていうか)



 これを、そのままにしていて良いのか、と思う。かつて世界を恐怖に陥れた魔神なのだ。魔神のチカラを借りなくては、ケネスの人生が詰んでしまう。詰んでしまうが、一歩間違えると世界に悪影響を及ぼしかねない。



 今回の、ベルモンド・ゴーランに件に関しても、魔神の手違いによって起こったことだ。ケネスにも不注意な点はあったけれど、まさか人を殺してしまうなんて想像だにしていなかった。今後、同じような手違いが起こらないとも限らない。



「はぁ……。困った」
 と、ケネスはつぶやいた。

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