《完結》異世界最強の魔神が見えるのはオレだけのようなので、Fランク冒険者だけど魔神のチカラを借りて無双します。
第8話「帝国闘技大会・決着」
一瞬。
会場が静寂につつまれる。
次の瞬間には歓声がひときわ大きくなった。帝国12騎士の一撃を防いだ。それだけでも賞賛に値することなのだった。
「ははぁ。なかなかやるじゃないか。土系上位魔法か」
ゴーランが感心したように言う。
「そうみたいです」
ゴーランにはケネスが発した魔法に見えているのだろう。だが、ケネスが発現させたわけではない。
「魔術師の中でも、上級魔法を使えるヤツはけっこうレアだ。たいしたヤツじゃないと思っていたが、オレの目が雲っていたらしい」
「いえ、そんなことはないと思います」
ゴーランは正しい。
ケネス自身はたいした人間ではない。冒険者のなかでも最弱の部類に入る。なにせFランだ。
「謙遜することはない。このオレの一撃を防いだのだからな」
「……はい」
なんだか、相手を騙しているような罪悪感におそわれた。
「しかし、次で終わらせる。なぁに心配するな。たとえ重症をおっても、すぐに癒術師たちが治してくれるはずだ」
魔法とは別に、癒術というのが存在する。
これも魔法的なチカラなのだが、魔法学問上ではマッタクの別物と分類されている。癒術は人のケガや病気を治すチカラだ。そして、癒術師とはそれに特化した職業のことだ。
「ヴィルザ」
「ん?」
「何か攻撃魔法を出せるか?」
だいぶ会場の雰囲気にも慣れてきた。ケネスにも心の余裕が出てきた。
「うむ。あやつはこっちに近づいてくるとき、必ず疾走してくるであろう。そのとき、迎え撃つようにして魔法を放ってやろう」
「わかった」
くっくっくっ――と、ヴィルザは不気味に笑った。さすがは魔神。少女には似つかわしくないゾッとする殺気を帯びた笑みだった。
「人間と戦うのも数千年ぶりのことだ。あの程度のザコが相手というのがチッと、物足りんがな」
「ザコって、あの人は帝国12騎士の1人だよ」
「ならば、その帝国12騎士とやらは、ザコの集まりということであろう。ヒト族のなかでも昔はもっと、強い人間がいたものだ」
魔神の言ってることは、とんでもないことだ。
帝国で最強と言われる12人を、ザコと言ったのだ。だが、それもわかる気がする。ヴィルザは大地をめくりあげて、マグマを噴出させるほどの魔法を使うのだから。
さりとて。
今、ゴーランと対峙しているのは、ヴィルザではなくて、ケネスなのだ。
油断は禁物だ。
「さっきから何をゴチャゴチャ言っている? もしや、魔法ではなくて、呪術の類でも行使するつもりか?」
呪術もまた、魔法とは別物だ。
端的に言えば、呪いのようなものだ。
「いえ。そういうつもりでは」
「何でも良い。オレの一撃を受け止めたコゾウに敬意を称して、オレの固有スキルをからめた剣技を見せてやろう」
ゴーランは全身を弛緩させたようだった。スライムのように、だらりと2本の腕が垂れる。しかし、その腕にはグラディウスがしっかりと握られている。ふいにゴーランが地を蹴った。ふたたび疾走してくる。さっきよりも速い。その速度はさらに増して……姿を消した。
「き、消えた?」
「なるほど。これがヤツの固有スキルというわけか。おそらく、姿をくらます類のものであろう」
「でも、それだったらオレのスキルで見えるはずなのに――」
《可視化》
魔神さえも見つけてしまったのに、ゴーランの姿は見当たらない。
「魔法の類で姿を隠しているのではないのか。ならば、人の目に追いつけぬ速度で走っているのだ。そういうスキルなんだろう」
ヴィルザは平然とそう解説した。
「じゃあ、どうやって攻撃すれば?」
右から来るかもしれないし、左から来るかもしれない。それも人の目には捕えられぬ速度を刺突に乗せてくるのだ。
「さすがに闘技会場ごと吹っ飛ばすのは、良くないだろうなぁ」
ヴィルザは困ったように首をかしげた。
「良くないよ!」
そんなことをしたら、賞金どころではなくなってしまう。
観客にだって被害が出る。
「承知しておる。手加減はしているつもりだ。魔法陣を展開しておけ。どれだけ速かろうとも攻撃する際には、姿を見せる」
「わかった」
魔法陣を展開する。
「さきほどと同じ《鉄の皮膚》では防ぎきれんだろうな。チッとばかり、本気を出すとするか」
ケネスのカラダが薄青く発光した。
「な、なんだ?」
「土系最上位魔法。《絶対防御》の魔法だ。貴様の皮膚はどうガンバっても、傷一つつけることは出来ない」
一介のFランク冒険者が、こんなスゴイ魔法を使って、周囲に奇異に思われないだろうか。いちまつの心配があったが、とりあえず今は、ゴーランとの戦いに集中しなければならない。
「これで攻撃されても大丈夫ってわけか」
安心しようとしたが、
「硬くなっただけだからな。刺突は防げるが、衝撃で吹き飛ばされても良いように、身構えておけ」
とのことだ。
ケネスにその実感はないが、ためしに皮膚を押してみた。たしかに、硬くなっていた。鋼のようだ。
観衆は相変わらず、騒ぎ立てている。だが、ケネスの身は静寂のなかにあった。集中していたので、周囲の声が聞こえなかったのだ。いつどこから攻撃されるかわからないため、心臓が緊張で高鳴っている。
ふいに、ワキバラに強い衝撃を感じた。
「うわっ」
またさきほどと同様に、ケネスのカラダは吹き飛ばされる――かと思ったが、しかし今回はそうならなかった。
「風系上位魔法。《蔦の呪縛》」
ヴィルザがそう呟くと、ケネスのカラダからは植物の蔦がスルスルと伸びていく。蔦がゴーランのカラダにまとわりついた。そのおかげで、ケネスも吹き飛ばされなかった。
「このオレの、《暗中刺突》を防ぐかッ」
ゴーランは蔓で巻きつけられたことよりも、今の技を防がれたことにたいして驚愕を覚えたようだった。
「火系上位魔法。《酸の霧》」
魔法陣から白いケムリが吹き上がった。ケムリがゴーランを包んだ。「ぐわぁぁぁッ」というゴーランの凄絶な悲鳴がとどろいた。ゴーランの悲鳴がやむ。
シン――。
場が静まり返った。
濃霧にけぶり、モウロウとゴーランの姿があらわになる。クロスアーマーは溶けている。顔面の肉は溶け落ちて、シャレコウベが露出していた。ゴーランだったものが、その場に崩れ落ちた。
一瞬、何が起こったのか、よくわからなかった。
「あー。チッとばかりやりすぎちまったかな……」
あはは――とヴィルザが気まずそうに笑った。
「もしかして、殺しちゃったのか?」
「まぁ、わかりやすく言うと、そういうことになるな」
闘技大会とはいえ、相手を殺すことは原則禁止されている。しかも、相手はただの人ではない。帝国12騎士の1人である。トンデモナイことをしてしまった――という思いが吹き上げてきた。
とりあえず、逃げよう。
特に考えがあったわけではない。この場にとどまり、弁解すれば何とかなったかもしれない。しかし、そんなことを考える余裕はなかった。ケネスが立ち去った後、会場は暴風のような悲鳴と蛮声に包まれた。
会場が静寂につつまれる。
次の瞬間には歓声がひときわ大きくなった。帝国12騎士の一撃を防いだ。それだけでも賞賛に値することなのだった。
「ははぁ。なかなかやるじゃないか。土系上位魔法か」
ゴーランが感心したように言う。
「そうみたいです」
ゴーランにはケネスが発した魔法に見えているのだろう。だが、ケネスが発現させたわけではない。
「魔術師の中でも、上級魔法を使えるヤツはけっこうレアだ。たいしたヤツじゃないと思っていたが、オレの目が雲っていたらしい」
「いえ、そんなことはないと思います」
ゴーランは正しい。
ケネス自身はたいした人間ではない。冒険者のなかでも最弱の部類に入る。なにせFランだ。
「謙遜することはない。このオレの一撃を防いだのだからな」
「……はい」
なんだか、相手を騙しているような罪悪感におそわれた。
「しかし、次で終わらせる。なぁに心配するな。たとえ重症をおっても、すぐに癒術師たちが治してくれるはずだ」
魔法とは別に、癒術というのが存在する。
これも魔法的なチカラなのだが、魔法学問上ではマッタクの別物と分類されている。癒術は人のケガや病気を治すチカラだ。そして、癒術師とはそれに特化した職業のことだ。
「ヴィルザ」
「ん?」
「何か攻撃魔法を出せるか?」
だいぶ会場の雰囲気にも慣れてきた。ケネスにも心の余裕が出てきた。
「うむ。あやつはこっちに近づいてくるとき、必ず疾走してくるであろう。そのとき、迎え撃つようにして魔法を放ってやろう」
「わかった」
くっくっくっ――と、ヴィルザは不気味に笑った。さすがは魔神。少女には似つかわしくないゾッとする殺気を帯びた笑みだった。
「人間と戦うのも数千年ぶりのことだ。あの程度のザコが相手というのがチッと、物足りんがな」
「ザコって、あの人は帝国12騎士の1人だよ」
「ならば、その帝国12騎士とやらは、ザコの集まりということであろう。ヒト族のなかでも昔はもっと、強い人間がいたものだ」
魔神の言ってることは、とんでもないことだ。
帝国で最強と言われる12人を、ザコと言ったのだ。だが、それもわかる気がする。ヴィルザは大地をめくりあげて、マグマを噴出させるほどの魔法を使うのだから。
さりとて。
今、ゴーランと対峙しているのは、ヴィルザではなくて、ケネスなのだ。
油断は禁物だ。
「さっきから何をゴチャゴチャ言っている? もしや、魔法ではなくて、呪術の類でも行使するつもりか?」
呪術もまた、魔法とは別物だ。
端的に言えば、呪いのようなものだ。
「いえ。そういうつもりでは」
「何でも良い。オレの一撃を受け止めたコゾウに敬意を称して、オレの固有スキルをからめた剣技を見せてやろう」
ゴーランは全身を弛緩させたようだった。スライムのように、だらりと2本の腕が垂れる。しかし、その腕にはグラディウスがしっかりと握られている。ふいにゴーランが地を蹴った。ふたたび疾走してくる。さっきよりも速い。その速度はさらに増して……姿を消した。
「き、消えた?」
「なるほど。これがヤツの固有スキルというわけか。おそらく、姿をくらます類のものであろう」
「でも、それだったらオレのスキルで見えるはずなのに――」
《可視化》
魔神さえも見つけてしまったのに、ゴーランの姿は見当たらない。
「魔法の類で姿を隠しているのではないのか。ならば、人の目に追いつけぬ速度で走っているのだ。そういうスキルなんだろう」
ヴィルザは平然とそう解説した。
「じゃあ、どうやって攻撃すれば?」
右から来るかもしれないし、左から来るかもしれない。それも人の目には捕えられぬ速度を刺突に乗せてくるのだ。
「さすがに闘技会場ごと吹っ飛ばすのは、良くないだろうなぁ」
ヴィルザは困ったように首をかしげた。
「良くないよ!」
そんなことをしたら、賞金どころではなくなってしまう。
観客にだって被害が出る。
「承知しておる。手加減はしているつもりだ。魔法陣を展開しておけ。どれだけ速かろうとも攻撃する際には、姿を見せる」
「わかった」
魔法陣を展開する。
「さきほどと同じ《鉄の皮膚》では防ぎきれんだろうな。チッとばかり、本気を出すとするか」
ケネスのカラダが薄青く発光した。
「な、なんだ?」
「土系最上位魔法。《絶対防御》の魔法だ。貴様の皮膚はどうガンバっても、傷一つつけることは出来ない」
一介のFランク冒険者が、こんなスゴイ魔法を使って、周囲に奇異に思われないだろうか。いちまつの心配があったが、とりあえず今は、ゴーランとの戦いに集中しなければならない。
「これで攻撃されても大丈夫ってわけか」
安心しようとしたが、
「硬くなっただけだからな。刺突は防げるが、衝撃で吹き飛ばされても良いように、身構えておけ」
とのことだ。
ケネスにその実感はないが、ためしに皮膚を押してみた。たしかに、硬くなっていた。鋼のようだ。
観衆は相変わらず、騒ぎ立てている。だが、ケネスの身は静寂のなかにあった。集中していたので、周囲の声が聞こえなかったのだ。いつどこから攻撃されるかわからないため、心臓が緊張で高鳴っている。
ふいに、ワキバラに強い衝撃を感じた。
「うわっ」
またさきほどと同様に、ケネスのカラダは吹き飛ばされる――かと思ったが、しかし今回はそうならなかった。
「風系上位魔法。《蔦の呪縛》」
ヴィルザがそう呟くと、ケネスのカラダからは植物の蔦がスルスルと伸びていく。蔦がゴーランのカラダにまとわりついた。そのおかげで、ケネスも吹き飛ばされなかった。
「このオレの、《暗中刺突》を防ぐかッ」
ゴーランは蔓で巻きつけられたことよりも、今の技を防がれたことにたいして驚愕を覚えたようだった。
「火系上位魔法。《酸の霧》」
魔法陣から白いケムリが吹き上がった。ケムリがゴーランを包んだ。「ぐわぁぁぁッ」というゴーランの凄絶な悲鳴がとどろいた。ゴーランの悲鳴がやむ。
シン――。
場が静まり返った。
濃霧にけぶり、モウロウとゴーランの姿があらわになる。クロスアーマーは溶けている。顔面の肉は溶け落ちて、シャレコウベが露出していた。ゴーランだったものが、その場に崩れ落ちた。
一瞬、何が起こったのか、よくわからなかった。
「あー。チッとばかりやりすぎちまったかな……」
あはは――とヴィルザが気まずそうに笑った。
「もしかして、殺しちゃったのか?」
「まぁ、わかりやすく言うと、そういうことになるな」
闘技大会とはいえ、相手を殺すことは原則禁止されている。しかも、相手はただの人ではない。帝国12騎士の1人である。トンデモナイことをしてしまった――という思いが吹き上げてきた。
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