ダークエルフ姉妹と召喚人間
弔いの闘鬼
闘技塔最上階、天空コロッセオ。
普段は花形剣闘士達がこぞって勇士と技をを観客に魅せる場である。現在は街で暴徒が蹂躙し、天空コロッセオは凍り付く景色のように静かに張り詰めていた。そして、その空気の中に二つの影。
「驚きを超えて呆れたぞ。何故わざわざコロッセオまで上がる必要がある?」
二重影ロウ・クルディーレ。長い黒髪を一本の三つ編みに束ねた壮年の男ロウは全身にかかった砂埃を払いながら、無精ひげを生やした長身の闘鬼に問いかける。
「おめぇは高いとこがぁ好きそうだからなぁ? どうせやるならうってつけの場所があるってんでぇここまで運んでやったんだぁ。おめぇの墓標にしてはちと豪華すぎるけどなぁ」
コロッセオには大穴が一つ空いていた。
ヴェンデは出会い頭に煉脚技”翔煉蹴”をロウに向けて繰り出し、噴出するマグマのごとく上昇する技とともに天井を突き破ってコロッセオまで上がった。技を受けたロウは間一髪のところで魔力による防御によって無傷で立っている。
「神界器無しでこの威力。相も変わらず闘鬼というのは末恐ろしいものよ。だが何より恐ろしいのはお前の洞察力だ。何故私が城ではなく塔にいると分かった?」
「簡単なこったぁ、出会った時からおめぇは見下ろしていた。ただそれだけのことだぁ」
ヴェンデは地面を抉るように強く踏み込み、ロウへと間合いを詰める。
煉脚技”砕波剛脚”を踏み込みの勢いの乗せて脚を振り下ろす。
「―――フン。今となっては取るに足らないことか」
振り下ろされる脚を見切り、横に脚を運ぶ。そしてヴェンデの隙を突き、脇腹へと拳を突き出す。
ヴェンデはロウの動きを読んでいた。自分の脇腹へと突き出せる拳を腕で受け、振り下ろした脚の着地と同時に受けた攻撃の反動を利用してカウンター煉脚技”覇転揉脚”を返す。
ロウは返ってきた脚技を空いている腕で防いだが、自分の渾身の一撃がそのまま返ってきたせいで大きく後ずさってしまう。
ヴェンデが得意とする武術”煉脚技”とは上半身で敵の攻撃を防ぎ、もっとも技術が必要とされる脚技で攻撃する攻防一体の格闘武術。
闘いを探求し、極めた者のみにしか扱えない格闘術で、どんな攻撃が飛んで来ようと即座に判断し最適な防御手段を選択、そして最適な反撃を相手に与える極限までの瞬発的な明察力は未来予知とも言えるほどの超直感によって組み立てられる。経験と技術と才能全てが完全無欠であるヴェンデにしか体得できない技なのである。
「おめぇも持ってんだろぉ? とっとと出せ」
「やはり神界器無しではお前の首は届かぬようだな。いいだろう、”震天の荒鎚”の力を見るがよい!」
鉄紺色の輝きとともにロウの手には身の丈ほどの戦鎚が握られる。鎚頭の片側は槌、もう片側は嘴のように鋭利なピック状となっている片口の鎚。
相対するようにヴェンデは”軍神の武鎧”を身に纏う。赤銅色に輝く騎士甲冑はヴェンデの鍛えられた肉体をより強固なものにする。
「お前のその姿を見るのはこれで二度目か。一度目のときは油断したが今回は全力でいかせてもらう」
「はっ! おめぇが油断? バカいってんじゃぁねぇよ、逃げる手段を最初から用意してたんだろぉが。友の敵討ち、今度は逃さねぇぜ?」
「安心しろ、お前を確実に殺す。故に逃げ道など不要だ。お前の言う敵討ちとやらはお前が死ぬことで完了する。さぁ、その野望諸共打ち砕いてみせようぞ」
ロウの戦鎚は鉄紺色の輝きを発し、空を打った。
(素振りだぁ? いや、攻撃か!?)
防御の姿勢に入ったヴェンデ。
文字通り打たれた空気は打撃の衝撃を直線的に伝える。その軌道の先はヴェンデ。腕をクロスし、戦鎚の衝撃を受ける。
「ぐおおおおおおッ!?」
腕に集中する衝撃は完全な防御態勢のヴェンデの体を後退させるほどの力だった。 このまま衝撃を受け続けても構わなかったが受けきれない時のリスクを考え、煉脚技”流隆反歩”の相手の力を外側へ捻じ曲げる脚運びで衝撃を反らした。
反らされた戦鎚の衝撃はコロッセオの観客席に衝突、巨大なクレーターを作った。
「さすが、とういうところか。だが連続すれば受けきれまい?」
ロウの大きな呼吸の後、”震天の荒鎚”は強く輝く。
「宣言してから攻撃なんざぁ随分と親切じゃあねぇか? 親切ついでによぉ、こっちの質問に答えてくんねぇかなぁ?」
”流隆反歩”の構えを取る。
「おめぇらの目的ってぇなんだ。この星の外の奴らを呼んで何を企んでぇんだ?」
空気を伝う衝撃。
連続し、絶え間なくヴェンデへと襲い掛かる。
煉脚技”流隆反歩”とは螺旋状の円を描くように相手の攻撃に合わせて歩むことで、負担なく力を外側へ逃がすことができる技である。予め構えを取っていれば連続して歩むことが可能である。
撃ち抜かれる空気を次々と歩みに合わせて反らす。
「そこまで調査できているなんて正直な感想で驚いた。いいだろう、私とお前の仲だ、冥途の土産話に聞かせてやろう」
ヴェンデが衝撃を反らすタイミングを見計らったかのように、ロウは戦鎚で地面を打った。
大きな揺れと同時にヴェンデの足元に岩柱が隆起する。
空気を弾くことに集中していたヴェンデは足元からの攻撃に防御を回す時間がなかった。鋭く隆起する岩柱はヴェンデに直撃し、宙へと放り出された肉体は地面に強く打つ。
「我らの目的は人間族が成しえなかった世界の統一だ。古の神共を屠り、新たな神をこの世界に据えることで創り直す。言うなれば、新たな創世神話だ」
「痛ぇ痛ぇ…。体も痛ければおめぇらの目的もかなり痛いときたぁもんだな。創世神話だぁ? くだらねぇ、実にくだらねぇな。そんなことの為に俺の友はぁ死んだのか? そんなことの為にわざわざ国を挙げて神界器集めに乗り出したってぇのか? ますますおめぇらには神界器をやるわけにゃいかんなぁ?」
岩柱による攻撃を受けたのが嘘だったかのようにヴェンデは立ち上がる。
「お前…、一体どこまで神界器のことを…!?」
「友の闘いは俺が引き継いでぇんだ。この世界の有り様ってぇのはそれなりに知ってんぜぇ?」
「ならば尚のことお前を殺さなければならんな」
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