ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

幕間 グレンとアウラ



 これはヴェンデ一行がイルザ達に鍛錬をつけている間に起きた小話である。




 神界器デュ・レザムスに関する情報の擦り合わせを終えたイルザ達は、翌日から能力取得のための鍛錬の日々が始まる。


 戦いの中で身につけた方がいいということでイルザはヴェンデと実戦。今使える能力をそのまま伸ばすことで取得できるからと、エルザは一人で魔術の取得。魔力操作の感覚を掴む必要があるグレンとスミレはアウラとコルテの元、各々の見あった手段で能力を身につけていく。


 その結果どうなったか、それはまた後日語るとしよう。あくまで、今回はイルザ達の些細な日常を語るのだから。




 鍛錬初日、男組は先にお風呂に行ってこいと言われたので浴室へ向かうグレン。ヴェンデはイルザに話があるということなので、後から入ってくるらしい。


 イルザの家にある風呂はとにかく広い。さらに天然の温泉が湧いているという豪華特典付きだ。


 ヴィアーヌ湖が近くにあるので水脈があるのは理解できるが、湖の水は冷たかったはずだ。どういう原理で温泉が湧いているのかイルザに聞きたいところだ。


 などと、頭の中で考えながらいつもの調子でかけ湯をしてから温泉の中へ身体を沈める。


 鍛錬による肉体と精神の疲れが沁みるように湯がグレンの身体を癒していく。


 「あ、お先頂いてるっス」


 疲れとともに吐き出した息が不意に話しかけられたことで悲鳴、もとい雄叫びに変わる。


 「おおおおおまおお、お前!  アウラじゃねぇか!」


 「うぃうぃ!  アウラっスよ!  しっかしイルザさんの家というか、この森は凄いっスね〜。天然の温泉なんて久々でテンション上がりまくりうなぎ登りっスよ〜!」


 「いや、そりゃそうだけど!?  なんで先に入ってんだよ!?」


 グレンは年相応の少年である。予想外のアウラの出現に男としての動揺が隠せない。


 「まぁまぁ、細かいことはいいじゃないっスか〜。毎日温泉に入れるイルザさんの肌のキメ細かさに納得がいったっス。うらやましいっスね〜」


 などと、グレンとは正反対に動揺どころかいつも以上にまったりとリラックスしているアウラ。


 (落ち着け、落ち着くんだ俺。逆に考えろ。イルザ達の風呂を覗いてから女性の裸を見るのはご無沙汰だったが、慌てる様子を見せないアウラ相手なら拝むチャンスでは?  そりゃ、イルザやエルザに比べたら凹凸は無いに等しいが、それはそれこれはこれ。紳士ならどちらも拝見して感謝するのが礼儀ってもんだろ)


 「急に黙り込んでどうかしたっスか?」


 思わず考え耽ってしまった。考えを読まれないように誤魔化すしかない。


 「あ、アア。大丈夫ダ、問題ナイ」


 完全に声が裏返ってしまった。絶対怪しまれてしまう。


 「はははっ!  なんスかその声!  どっから出したらそんな声出るんスか」


 何故か裏声が受けたらしい。アウラの笑いのツボが分からないが、ひとまずの危機は乗り越えた。




 一方、後から風呂に入るつもりのヴェンデはイルザと今日の反省点を指摘していた。


 「・・・っつーわけだ。能力もそれぞれあるように成長スピードも早い遅いそれぞれだ。焦らずじっくりやんな」


 「ええ、そうね。無茶はしないようにするわ。ところでアウラの姿を見ないのだけれど知らないかしら?」


 「ああァ?  男は先に風呂つったのは嬢ちゃんだろ?」


 「ちょっと待って」


 ヴェンデの返した言葉に思考が停止する。むしろその逆で脳がフル回転し察しのいいイルザは気がついてしまった。ある意味で認めたくなかった。


 「つまり・・・アウラは、その・・・」


 「言ってなかったか?  あいつは男だぜ?  まぁ、あの見た目と趣味のせいで誤解されることは多いがな。そうか言ってなかったか。まぁ風呂場で裸になりゃ嫌でも気付くだろうから少年の心配はいらねぇだろ」


 と言い残し、ヴェンデも浴室へ向かった。


 性別というのは案外見た目や振る舞いでわかるものではないと、美少女ではなく美少年の姿を思いながら考えるイルザだった。




 さて、ラッキースケベもどきの真っ只中にいるグレンは未だにアウラを少女と思い込んでいる。


 年下とはいえ女の子と混浴ができるなんてそうそうない。毅然とした態度でいよう。そう言い聞かせていた。


 実際、お湯は濁っている。アウラは先に浸かっていた上に肩までしっかり湯に沈めているのでグレンが気付かないのも当然といえば当然である。


 (しかしあれだ、緊張するとこうも逆上せるのが早くなっちまう。それにヴェンデとアウラに口止めしておかないと後が怖い。それなら一旦風呂場から離脱してアウラが出た後でゆっくり入り直そう)


 「な、なあアウラ。俺と一緒に入ったことは内緒にしておいてくれ。イルザ達にバレるとまずいんだ頼むッ!」


 「なはっはっ、別に誰かに話すことでもないっスから内緒も何もないっスよ〜。でもバレるとまずいって何がまずいんスか?」


 必死のあまり余計なことを言ってしまった。沸騰寸前の頭で必死に考える。


 「ほ、ほら!  アウラ達は客人だろ?  もてなしの心は大事にしてるんだ。それなのにもてなす側が一緒に入るのはおかしいだろ?」


 「なるほど!  さすがイルザさんっスね! 気の利く素晴らしい女性とはこのことっスね」


 無理やり取って付けたような言い訳だがなんとか通じたらしい。


 「という訳だ、俺は一旦戻るからゆっくりくつろいでくれ」


 後はヴェンデに一連の出来事を話してこの危機は無事終わりそうだ。


 「ええ〜!  いいじゃないっスか〜!  一緒に入りましょーよー!」


 温泉から出ようと立ち上がったグレンの腕を引っ張り出すアウラ。腕を絡めるように引っ張るので、グレンの腕は自然とアウラの胸に当たる。


 (っ!!!  見事なぺったんこッ!!!  違う、そうじゃない。このままだとヴェンデに見つかってしまう)


 「お、おい、離せ!  広い風呂を独り占めできるからいいだろ!?」


 「嫌っスよ〜!  一人は退屈っスからボクと何か話しましょーよー!」


 「ならさっさと洗うもん洗って風呂から上がってこい」


 「おもてなしの心はどこいったんスかー!」


 グレンとアウラの激しい引っ張り合いが続く。互いに譲る気はないらしい。


 「こいつァ驚いた。一軒家にしては随分豪華な温泉じゃねぇか。お、少年。アウラと楽しそうだな」


 そこに現れたのは闘鬼オーガであるヴェンデ。服を着ているとひょろっとした印象だったが、その肉体は見事に鍛え上げられており鋼の肉体と呼ぶに相応しい。所々に大小の様々な傷跡がさらに強者の風格を漂わせている。


 「ヴ、ヴェンデ!  いや、これは、違うんだ。不慮の事故というかなんというか」


 グレンの動揺っぷりに察したヴェンデは笑いながら言葉を返す。


 「いいから少年、落ち着いて、アウラの方を向いて下を見ろ」


 「っば!  んなこと出来るわけねぇだろ!?」


 さすがのアウラもヴェンデの言葉で察しが着いた。グレンが慌てて風呂場から出ようとしているのは自分が女だと誤解しているからだと。


 「いいっスよグレンさん。ボクを見てくださいっス」


 掴んでいたグレンの腕を肩に変えて無理やりアウラの正面へ回す。


 「なッ!?」


 無理やり回されたことに驚いたがなんとか目を塞ぐことは出来た。


 「な、何も見てねぇ、見てねぇ・・・見て・・・」


 とはいえ、咄嗟に対応できた訳ではなく、一瞬だが何かが見えた気がした。まさかとは思いつつ、恐る恐る、開くか開かないか微妙な薄目で正面を確認する。


 「・・・」


 それはそれは、グレンと同じモノが付いていたのであった。


 「・・・オマエ、男なのカ?」


 「そうっスよ!  みんなよく間違うんスよね〜。だから一人称をボクにしてるんスがあんまり意味を成してなかったみたいっスね〜」


 そりゃ女の子みたいな顔立ちで、可愛い格好していたら誰だって間違うだろう。


 「誤解も解けたみてぇだな」


 魂が抜けたような真っ白なグレンを見て大笑いするヴェンデ。


 アウラもまた少女のように可愛く笑う。


 この一連の騒動はヴェンデ達が滞在する間、全員からいじられるという黒歴史を生み出してしまったグレンだった。




 「ボクっ娘の美少女だと思っていたら本当に男だった美少年とか酷くない!?」





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