ダークエルフ姉妹と召喚人間
三人組
「さぁて、仕掛けておいた罠はどうなってっかな。手頃な動物だと万々歳だ」
祭壇での出来事から3日経った。玄関の修理も終わり、遺跡への出発の準備が完了するまで各々修行を行っていた。
イルザとエルザは魔術の取得。グレンとスミレは魔力を体内で練る鍛錬と言った具合だ。
今日たまたま食材補充の日であったため、罠の確認を兼ねてグレンは森を散策して食材を集めていた。
「侵入者用の罠は異常なし。っと」
イルザの家を中心にひし形状に張られた魔術結界は魔獣を寄せつけないためにあるが、力のある魔族の場合簡単に抜けられる。それを防ぐためにグレンは侵入者用の罠を魔術結界の中に設置し、侵入があった場合警報と捕縛を行う。
「動物捕獲用は・・・。異常なしか」
肉料理が恋しくなったグレンは動物捕獲用の罠も設置している。しかし、エルザの魔術結界のせいなのか結果は芳しくない。
「仕方ねぇ、次の設置場所に向かうか・・・ん?」
遠くから声が聞こえる。声の数から三人程度と捉えた。
グレンは短剣状の"妖精の輝剣"を逆手に握り、木陰に隠れて警戒する。声の主はグレンの方向へ向かってきている。
「しっかし、見渡す限り木しかないっスね〜。もう見飽きたっスよ〜」
「穏やかでいいじゃねぇか!  食いもんも豊富にあるしよ、辺境の森って割にはなかなか住みやすそうだぜ?」
「主、警戒」
「おっ?  そこにいるのは人間か?」
完全に気配を絶っていたはずがあっさりと見抜かれた。グレンは観念し三人組の前に姿を現す。
「ここから去れ、去るのなら見逃してやる」
短剣を構えて威嚇する。
先頭に立っている無精髭を生やした背の高い男はグレンの右手を見るやいなや、含み笑いを浮かべる。
「なるほどなるほど。森の番人的なアレね。安心してくれ、別に神界器を狙いに来た訳でもなんでもねぇよ。ちょいと行きたい所の通り道だったからここに居るってぇ訳だ。見逃してくんない?」
(こいつ、神界器を知っている!?)
思わぬ言葉を聞き、警戒心を強めるグレン。
「そう簡単に信用できるかよ」
「賢明な判断なこったぁ。困ったねぇ、どうしようか?」
先頭の男が振り返り、後ろに並んで立っている二人組に話しかける。
「ヴェンデはこーゆー交渉事下手くそっスよね〜。ここはボクに任せるっスよ〜」
ニシシと笑いながら前に出てくる。ショートパンツが印象的なつり目の少女は胸を張って自信満々に交渉を始める。
「おほん。え〜、まずは自己紹介が基本っスよね〜。ボクはアウラ!  んで、このだらし無さそうな大男はボク達の主のヴェンデ! んでんで、その後ろにいる根暗そうなメイドがコルテ! それでそれで、君はなんて言う名前っスか?」
突然始まった自己紹介に面食らうグレン。アウラと名乗る少女は相手を警戒させないように話すことに長けているらしい。
さすがのグレンも名乗られたからには名乗り返さなければならないと思った。
「俺はグレンだ。それで、どうしてもここを通るのか?」
名乗り返しはしたものの警戒は解かず、短剣を構える。
「まぁまぁまぁまぁ、ボク達はほんとに通りたいだけなんっスよ〜。あ、なんなら通行料とかいかがっすか?」
アウラは腰に身につけていた麻袋から金貨をチラつかせた。
「金はこの森に住んでたら必要ない」
「そうスか〜。大体の魔族は喜んで受け取るんスよね〜」
大袈裟にがっかりとした仕草を見せる。その時、グレンの後ろに果物などがたくさん入った籠が置いてあるのを見つけた。
「もしかして!  食料集め中っスか?  そんなあなたに何と!  魔界では滅多にお目にかかれないホルホル鶏の二羽セットなんていかがっスか!?」
指を鳴らすと後ろにいるメイド服を着た少女が宙に魔法陣を出現させ、その中に手を入れた。引っ張り出してきたのは、綺麗に処理された鶏肉二羽だった。
「ぬおっ!?」
異様な技よりも食欲が勝り、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまう。
「おっ?  いい反応ッスね〜!」
ニマニマと前屈みになり上目遣いでグレンの表情を読み取るアウラ。少し、可愛いと思ってしまった。
「ほ、本当に通るだけなんだな?」
「そうっスよ!  この森に用事はないっス!」
どうやら本当に通るだけだと悟ったグレン。しかし、神界器を知る魔族とその人間。ブランの一件もありそう簡単に通す訳にもいかない。
「どうするっスか?」
グレンは一つ案が浮かんだ。これならこちらも優位に立てる。
「いや、こちらの条件を受けるなら通す」
「ほうほう、それで?  その条件とはなんスか?」
「お前達が知る神界器の情報を全て教えることだ。もちろん、神界器も見せてもらう」
戦いにおいて情報も武器のひとつだ。手の内を明かすというのはそれだけで不利になりうる。
「いいっスよ〜。ね、ヴェンデ」
まさかの二つ返事に呆気を取られるグレン。
「ああ、構わねぇぜ。その少年の主は己の信念を持っているやつだ。目を見りゃわかる」
ヴェンデはグレンの瞳をみた。見た目こそはだらしないが、強者の風格を漂わせている。本能的に正面からぶつかるのは危険だと察するほどである。
「わかった。とりあえず俺の主のところまで案内する」
「さっすがボク!  やったね!」
「あーちょっと待て、そこを超えたら罠が動くから」
そう言いかけた時には遅かった。
「うわああああああああああああああああ!」
グレンの罠を見事に踏み抜いたアウラは、踏み出した左足を蔦に取られ、空中へ引っ張りあげられる。空中で待っているのは捕縛用の木槍。四方向から同時に突き刺すそれは、身動きの取れない空中で躱すことは出来ない。
「"軍神の武鎧"!!」
そう叫んだアウラの全身が赤銅に輝く。容赦無く突き刺す木槍は弾き返され、身を捩り返して足の拘束を解いたアウラは地面へ着地する。
その姿は赤銅色で出来たフルアーマーの騎士甲冑。目の部分は一筋の黒く光る線が入っている。
「ふぅ〜。危なかったぁ〜」
「か、かっけぇぇぇぇなぁぁぁおい!」
鎧姿のアウラに近づき、まじまじと興奮気味に観察するグレン。
「ボクは可愛くないからあんまり嬉しくないんスけど」
「ほお、少年!  その鎧の良さがわかるか!  なかなか見る目があるじゃあねぇか!」
「おう!  おっさんの鎧も見てみたいぜ!」
「オーケーオーケー!  話ついでに見せてやろうじゃあないか!  んじゃ、早速少年の家に向かいますか」
意気投合したグレンとヴェンデは並んで歩き出した。
「ボクの心配ぐらいしてくれたっていいじゃないっスか〜!」
その場に置いてけぼりにされたアウラは地団駄を踏む。
「アウラ、間抜け」
そんなアウラの真横でコルテは鼻で笑ってヴェンデの後を追いかける。
「ムキィィィィィィィ!  僕を馬鹿にするなっス!!」
アウラの怒りの叫びが森の中を虚しく響かせた。
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