ダークエルフ姉妹と召喚人間
手遅れ
「“五拾狼齩”を抜け出しただと!?  馬鹿な!」
動揺を隠せないブランは頭を抱える。計画は完璧だった。むしろ仕留めるつもりでいた。
「どうやらこの剣、退魔効果もあるみたいね。それに霧なら高温の炎で蒸発させればいいしね」
「相性が悪かったってことだな」
魔法を無効化することはホルグを使って調査済だったが、退魔の能力。亡霊となった魂を浄化したのはこれも予想外だった。
「くそ!  くそ!  くそおおおおお!  何故いつも上手くいかないのだ!  私は!  愛を求めているだけだというのに!」
抑えきれない感情を火山の噴火の如く爆発させる。
「主様・・・。貴方は見えなくなっているだけで、もう既に愛を得ているのですよ」
怒りで我を忘れるブランに静かに語りかけるスミレ。その表情は慈愛に充ちていた。
「既に・・・得ているだと・・・?」
意表を突く言葉にきつく睨み返す。スミレはそれに屈することなく言葉を続ける。
「主様は私を隷属化した後も、人間としてお世話をしてくれたです。微かに残った意識の中、主様が人間について調べ、人間にあった食事や生活空間など用意してくれていたのを見ていたです。確かに私は命令で殺しをするのは嫌だったです。ですが!  その僅かな優しさに私は愛情を感じたです!」
「ち、違う!  あれは愛などではない!  研究の一環だ!」
スミレの言葉がほんの僅かだが届き始めた。激しく動揺し、心の殻に隙間が出来たのだった。スミレはその隙間に入り込もうと更に言葉を重ねる。
「私は、愛に溺れて、見えなくなってしまった主様をお救いしたいのです。愛は身近にあるのです。どうか私と正面から向き合って欲しいのです。それが、主様に私ができる愛なのです・・・」
伝えたいことは全て伝えた。真っ直ぐで純真無垢な言葉を。純白の部屋は刹那の沈黙を迎えた。
「私の・・・スミレが・・・!? 私に、愛・・・を!?」
頭を抱え、混乱するブラン。求め続けたモノがすぐ近くにあったことを認められない、いや認めたくなかったのだ。
小さくも純粋な愛。夜空に浮かぶ小さな星のように手に届きそうで届かないモノ。それが今、手が届く所に。
「私は・・・私は・・・っ!」
スミレに手を伸ばす。
『タタカエ・・・アイナド・・・ナイ・・・』
「なんだ! 誰だ! 私に語りかけるのは!?」
ブランは独りでに見えない何かに声を上げる。
『タタカエ・・・タタカエ・・・』
“極光の月弓”から黄金の光が溢れだし、ブランの全身を包み始めた。
「うがああああああああっ!」
「主様っ!」
完全に光に飲み込まれたブラン。謎の異常事態にイルザ達は息を呑む。
「おいおい! 何が起きてんだ!?」
「分からないわよ! エルザ! スミレ!」
イルザとグレンは動くことのできないエルザの元へ駆け寄る。
「・・・姉さん、嫌な予感がするわ。早く離れた方がいいかもしれない」
「そのようね。グレン、エルザをお願い、私はスミレを連れていくわ」
「あいよ、ほら、肩を貸せ」
グレンはエルザの肩を担ぎ、出口へと進む。
「スミレ、大丈夫? 立てる?」
力なさそうに座り込むスミレ。心が通いかけた寸前で謎の光に飲まれた、しかし生命の反応は消えていない。ブランはまだ光の中で生きている。
「主様は・・・まだあの光の中にいるです。助けないとっ!」
スミレはイルザに必死に懇願する。だが、状況が把握できていない今、迂闊に手を出すのは危険だと感じていた。
「何が起こるか分からないわ、今は一旦退くべきよ」
イルザは焦っていた、森での生活で培った野生の直感が告げていた。この場から逃げないと命に係わる事態になると。
動こうとしないスミレを無理やりおぶさり、先行しているグレンの元へ駆け出した。
「急げイルザ、光が大きくなってるぞ!」
何とかグレンに追いついたイルザ、扉を開こうと手を伸ばす。
「アロン・・ダイ・・・ト、ニガ、サン」
背後にあった黄金の輝きは消えていた。そして、純白の部屋が一瞬のうちに宵闇に包まれた。目前にあったはずの扉がいつの間にか消えていた。
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